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第3章

129. 馬車をヒッチハイク

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出発してから僕が考えたことは先ずこの1週間程の冒険をどういう日程で過ごすかということだ。

「(先ずはロザリーナ姉様の家を目指して婚約の報告、それで間に街で休憩、それから母様のお兄様…僕にとっては叔父様になるのか…その人の家を目指す、と。それにしても僕、野営とかしたことないから野宿は無理…魔獣とか出てこない世界ならやろうと思うけど、寝てる時とか一番無防備だもんね、絶対狙われる…。それに魔獣が近付いてきた時の気配を感じるスキルとかないから余計無理だし。せめて何処か安い宿屋でもいいから泊まらないと。あとは食事だな、少しだけ非常食を持ってきたけど、緊急事態以外は食べたらダメだしね。とにかく頑張って街を目指さないと!)」

僕は一心不乱に歩き出した。




歩き出して2時間…

「(ヤバイ…もう疲れた…。足の裏は痛いしふくらはぎも張ってるし。我ながら軟弱な身体だ…。母様、馬車はダメって言ってたけど、ヒッチハイクみたいなのはダメなのかな?このままじゃ暗くなる前に街に着かないよ…。)」

僕はなんとか疲れた脚を引きずって再び歩き出した。

「(農作物でも乗せた馬車が通りますように…貴族の馬車は滅多に止まってくれないけど、とりあえず通りますように。)」と思いながら歩き続けた。

それから30分程して、後ろから車輪のガタガタする音が聞こえた。

パッと振り返ると貴族の馬車が近付いてくる。

流石に馬車に立ち塞がる勇気はなかったので日本スタイルのグッと親指を上げるヒッチハイクポーズをとってみた。

するとたまたま外を見ていた少女と目が合う。お互い「アッ!」となり、目を見開いた。

その時「馬車を止めて!」と声がし、慌てて止められた馬車内からはタジェット兄様のことで色々あったミモザ様が現れた。

「…フェンネル・ローランド、何をなさっているの?」

とミモザ様から冷めた目で睨まれる。

「こんにちは、ミモザ様。実は夏休みの思い出にこの先の街を目指していたんですが思いの外、遠くて途方に暮れていたところです。」

「そんなの馬車を使えば良いでしょう?」

「そうなんですが、母に馬車を使ってはいけないと言われているのでこうやって歩いているんです。」

「…そう。まぁせいぜい頑張りなさい。では、行きましょう。」

ミモザ様はそう言うと馬車の運転手に指示を出そうとする。

「あぁー!ちょっと待って下さい!お願いがあります!隣町まで乗せてください!」と頭を下げた。

「なんで、私がそんなことを…。それに馬車を使ってはいけないんでしょう?」

「たしかに馬車は使ってはいけないと言われましたが、自発的ではないですから!」と本来はダメなのだが必死にお願いした。

「…まぁあなたにはタジェット様のことで借りがありますから…仕方ありませんわね、乗りなさい。」

と扉を開けてくれた。

僕はいそいそと馬車に乗り込み、ミモザ様の対面に座った。

「助かりました、ミモザ様。ありがとうございます。」

「私に感謝することね、私が通らなかったらあなたは明るい内に街まで辿り着けなかったのだから。」

「はい、その通りです。」

とミモザ様を怒らせないように細心の注意を払いながら言葉を選んだ。





それからしばらく馬車に乗っていたが無言の時間が流れる。

「(気まずいなぁ…僕、こういう雰囲気苦手なんだけど、なんて声かけたらいいかもわからないし。)」と悩んでいると

「ちょっとフェンネル・ローランド。ここはあなたが話をして場を盛り上げるものでしょう?なんで黙っているのかしら?」

と怒られる。

「あっ、申し訳ありません…。そうですね…何をお話しましょうか…あっ!この前、友人とお泊まり会をしたお話は如何でしょうか?」

「…お泊まり会?それはどんなことをするの?」

「大したことはしないのですが、お互いの家に行って食事をしたり遊んだり、夜遅くまで起きて話したり、といったことをします。」

「…そうなのですか。男性はそんなことをされるのですね。」

「ミモザ様はされたことないのですか?」

「そうね、女性はお茶会はしょっちゅう行うけれどお泊まり会というものはしないわね。女性は色々と準備が大変だから…。」

「…そうですか。でもミモザは元々美しいからそんなに着飾らなくてもありのままでもお綺麗ですよ。」

とお世辞を言ってみたが、

「…そうですわね。私、元がいいから綺麗にしたらもっと華やかになりますのよ。」

と返された。

「(否定せんのかーい!)」と内心、突っ込んだが表情に出ないようにするのに必死だった。
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