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第3章

137. 署名

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変装道具を買いに街へ出るとすぐに声を掛けられる。

「おぉ!ベイローレル!戻って来てたんだな!コレ、食ってけよ。」
「まぁ、ベイローレルさん。ウチの店も見てっておくれ。前まで無かったもの置いてるよ。」
「ベイローレルさん、帰って来てたんなら顔出して下さいよ~!」

色んな人から声を掛けられたベイローレルさんは「また今度な!」と返事をすると目的の衣料品店に向かって真っ直ぐに歩き出した。

「良かったんですか?」と僕が気になり声を掛けると「いいんだよ、アイツらのは。この依頼が終わってからでもまた顔を出すし。それにフェンネルの方が俺にとっては優先事項だ。」と笑いながら答える。その男前な態度に僕は純粋に"カッコいい"と思った。最初に比べると印象が全く違っていて、少しドキッとした。

「(こっ…これがギャップ萌えか…!)」と1人ドキドキしていると「おい、着いたぞ。」と止められた。

「おーい、アンバー!」

とベイローレルさんが大声で店主を呼ぶ。

すると奥から「そんな大声で呼ばなくたって聞こえてるわよ!」と20代後半くらいの女性が出てきた。

「なぁフェンネル、カチッとした服を用意したらいいんだよな?」

「はい、せめてジャケットは着てもらいたいです。」

「わかった。アンバー、俺でも着れるジャケットあるか?」

そうベイローレルさんに親しげに話された女性は

「アンタはいっつも急なんだから!あるにはあるけど種類は少ないわよ?」

「いいさ、あるだけ見せてくれ。」

そう言って奥から3着程出してきた。

「黒、紺、茶色ね。フェンネル、何色がいいんだ?」

「じゃあ紺で。」

そんなやり取りを見ていたアンバーさんが

「何アンタ、恋人でもできたのかい?あの面食いのベイローレル様のお眼鏡に叶ったとなればお相手は相当整ってるんだろうね?」

と僕のローブの中を興味津々で見つめる。

「あっ…いや…。」と否定していると、

「ちげーよ。フェンネルは"まだ"俺の恋人じゃない。ゆくゆくはそうなるがな。」と肩を抱かれた。

「ちょっと!ベイローレルさん!」と注意したが「はぁ~…イチャつくのは宿に帰ってからにしてよ。」と呆れられ、更にはシッシッと手を振られた。




衣料品店の帰り道、僕がさっきのことで不貞腐れていると

「悪い、悪いフェンネル、急にあんなこと言って。さっきのは冗談っぽく聞こえたかもしれんが俺がフェンネルを想う気持ちは嘘じゃねぇから。将来、恋人になれたらっていうのも俺の願望だったんだ、しかしお前の気持ちも無下にしちまった、不快にして悪かったよ。」

と手を合わせて謝られた。

僕はそれに目を丸くし「(この人があんなに皆に好かれる理由がわかった気がする…。どんなことでも自分の非を認めてすぐに謝る潔いところが好かれるんだろう。こんな高位ランクの人だったら自分の強さからプライドが高い人が多いけど、この人は違う。最初はどうなることかと思ったけど、この人なら安心出来るかも。)
いや…もう大丈夫です…コッチも怒ってすみませんでした。」

と謝った。

「いや、フェンネルは悪くない。俺が調子乗ったからダメなんだ。」

と再び謝ってきたので「もう、僕は気にしてないので、この話はやめにしましょう!」と話を区切った。

そして、飲食店で少し食事を済ませた後、ギルドに戻った。

「おーい!例のやつ、集まってるか?」とベイローレルさんが言うと誰かが「集めてきたぜ。」と紙の束を差し出してきた。「じゃあこれ、依頼料な。」とベイローレルさんはお金を渡している。

一連の流れを見ていた僕はそのやり取りが全く分からず無言で見つめていた。

ベイローレルさんと奥の個室に入ると僕の目の前にドンッと紙の束を置き「コレを見てくれ。」と言われる。静かにその紙1枚を取り内容を確認すると、なんと"立ち退きに同意する"と書かれていた。

「えっ!?なんですかコレ!?」

「この辺の店の奴らに署名してもらった。これをアイツらに見せれば本物だと思って証拠を出してくれるかもしれねぇだろ?」

「いや、でも万が一失敗したら…皆、お店を失っちゃうのに…。」

「その時はその時だ。皆、覚悟の上で署名してくれた。前々からアイツらの存在は目に余るもんがあったが、騎士団でどうにかできないもんを一般人がどうにかできるもんじゃない。それに俺だってアイツらのことは気にしてはいたが、忙しさにかまけて対処してなかったしな。万が一、失敗してもこの辺の土地はまた俺が買い取るから安心しろ。」

「ベイローレルさん…なんでそこまで…。」

「この街が好きだからだ。俺の故郷はもう無いが今はここが故郷みたいなもんだからな。この街になんかあったら助けたくなるんだよ。ちょうどいいタイミングでフェンネルがアイツらを退治してくれるっていうんなら協力したくてな。」

「そうだったんですね…ありがとうございます。出来る限りサポートしますので宜しくお願いします。」

「ああ、この街を救おうぜ。」

と僕達は改めて握手をした。
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