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第三章 まるで混沌な運動会
CASE11 リンシュ・ハーケンソード その3
しおりを挟む午前中に中央入りしたはずなのに、休憩に地上に出ればすでに月が真上にやってきていた。
地下室にあった書類の山は、上澄みを少し処理できただけで、一向に終わりの気配を見せていない
そもそもの話、やはりあの部屋は曰く付きのものだったらしい。そりゃ、アレだけ魔除けの札を貼り付けていたのだから、なにもないはずがない。
地下室に保管されていた書類の山は、その殆どが通常の手続きでは処理できない厄介なものだった
と言うか、呪いの類が施された書類すら多くある。おそらくは……いや、間違いなく、処理しきれずに溜め込まれた中央の暗部である。
「こんなの一月やっても処理できるわけ無いじゃん」
コーヒーを片手に地下室に戻った俺は、俺は半ばやけっぱちに書類を投げた。
ほぼ一日かかっても作業は進んでいないのだ。今日を含めて2日で半分減らせなど、どれほどの超人であっても不可能である。
「ぶっ?」
投げた書類の一枚が俺の顔面に着地した。
書類を手に取り、軽く目を通した。
『ダークプリーストとネクロマンサーによる多重契約。保証人である黒魔道士が失踪したため契約不履行』
なんでこんな怪しい奴らの契約をギルドが許してるんだよ。止めろよそこは。
…………あれ? でもこれなら……
俺は自分が持ってきた契約破棄の説明書を読んだ。
相も変わらず、こっ恥ずかしいセリフと振り付けが書かれているが、別の項目に目を移すと、書類の山への突破口が見いだせた。
俺がエクスカリバーの解呪をするために行っていた恥ずかしい詠唱。これは当事者がいる状態で行うことらしい。
今のような状況。つまり当事者がおらず、契約自体が事実上向こうとなっている状況では、別の方法があるようだ。
「し、しかしこれは…………恥ずかしい」
誰もいない地下室で助かったと言えば助かったが、一人でこの新しい詠唱をやるのにだって当然抵抗がある。
何なんだこれを作ったやつは。絶対嫌がらせ目的で作ったに違いない。
俺は一度深く息を吸い込んで、俺は新しい詠唱を行う。
「美味しくなーれ、美味しくなーれ。萌え萌えキューン。魔法の言葉、契約破棄!」
…………もうこれ契約破棄とか関係なくね? 美味しくなれって何に対してだよ。最後に申し訳ない程度に付け加えてるだけじゃねぇか。
けれどしっかり手続きは出来たようで、紙は燃えてなくなった……全然嬉しくねぇ!
「あ、アンタ……」
「はっ!?」
いつの間にか地下室の出入り口に、半身だけ覗かせるリンシュの姿があった。
「ま、まあ……アンタも年頃だし、しょうがないと思うけれど……」
「あああああああああああああああああああああああああ!! やめろォ!!」
絶対に見られたくない奴に、絶対に見られたくない言動を見られてしまった。死にたい。と言うか誰か殺してくれ。
気の毒な人を見る目で俺を見る。実際、今の俺はかなり気の毒な人だろう。否定はしない。
「つーか俺悪くねーし! こんなアホな量の仕事押し付けたアンタが悪いし! そもそもこんな頭のおかしい魔道具を作った技術者が悪いし!!」
「あら、開き直り? そもそもソレ、契約破棄の呪文じゃないし。と言うか呪文なんて必要ないし」
「何!? 呪文が必要な魔法もあるってパプカに聞いたぞ!?」
「そりゃあるわよ。契約破棄の魔法には必要ないってだけで」
そ、そんな馬鹿な……いや? でも呪文なしではこの判子はうんともすんとも言わなかったはず。
だからこそ俺はこんな恥ずかしい呪文を唱えることになっているのだ。
「ちょっとその判子見せてみてくれる? 報告の時から何かおかしいと思ってたのよ」
リンシュは判子を受け取ると、その印をまじまじと見つめた。
「……! あー、なるほどね」
「? 何がなるほどなんだ?」
「いえ、こっちの話。これはこれでちゃんと効力あるし、別に問題ないわ。でもそうね……ちょっと手を出してくれる?」
「手?」
俺は言われるままに右手を差し出した。
「とりゃ」
リンシュはその手に向かって、自分の万年筆の尖った方を突き刺した。
「痛い!? 何すんじゃコラァ!!」
「何よ男のくせに情けないわね。すぐ終わるからギャアギャア叫ぶんじゃないわよ。契約!」
リンシュが魔法を唱えた。
契約。俺でも使える、様々な契約を結ぶときに使う魔法である。簡易的な魔法ではあるがその効力は強く、外すためにはギルドで面倒くさい手続きを踏まなければならない。
…………なんでこのタイミングでこの魔法?
万年筆で刺されて流れた血の一部が判子へと付着。残りの血は俺の手へと戻って傷も元通りに直った。この魔法はこんな流血を伴う物じゃなかったはずなんだが……
「何がしたいんだよアンタは!」
「だってこんな面白そう……ゲフンゲフン! こんな珍しい判子、他の職員に渡すのは面白くな……ゲフンゲフン! もったいないじゃない? だからアンタ専用装備にしておいてあげたわ。血の契約だからちょっとやそっとじゃ解呪出来ないわよ」
素晴らしい笑顔でサムズアップ。
「今面白いって二回言ったろ! やめろよ! これが珍しいもんなら中央で引き取ってくれていいから! そして珍しくない判子をよこせ!」
「それじゃ私が面白くないじゃない」
「だから言い切るなよ! 濁せよ!!」
オブラートに包めとは言わないが、せめてもうちょっと遠回りに言ってほしい。
契約を終えたリンシュは、近くにあった椅子を持ってきて埃を払い、ハンカチを置いて座った。
「……あ? 何?」
「あら、私のことは気にせず続けてちょうだい。多分、ここの書類ならその判子で大抵は処理できるはずだから」
「誰がやるか! いや、やるけども……アンタがいる間はあの呪文は絶対に詠唱しない!」
「えー! あの素っ頓狂な呪文ならもう見たんだから良いじゃない! 一回も二回も変わんないわよ!」
「変わるんだよ! どうせその姿を見て大爆笑する気なんだろ! 俺は羞恥に喜ぶMじゃねぇんだよ!」
「えっ、違うの!?」
「違うよ!! アンタどんな目で俺を見てんだ!」
まさかと思うが、普段のSっ気は俺の性癖(思い込み)を基準にやってるんじゃないだろうな。
俺は給料を減らされて喜ぶような変態じゃないんだが。
「ちぇー。じゃあしょうがないから、さっきのアンタの恥ずかしい映像資料をミントにでも見せに行こーっと」
「えっ!? ちょ、おま! いつから撮ってやがった!」
リンシュが取り出した魔石には、たしかに先程の俺の恥ずかしいシーンがバッチリと映し出されていた。
俺が詠唱している途中で不意に見てしまったような反応だったはずだが、映像を取るための道具をバッチリ用意していたようだ……一体いつから見ていたのだろう。
「それを同僚に見せるのは勘弁してください。あと、仕事を進めたいので一人にしてください」
「えい」
パシャリ
土下座で懇願する俺の姿を念写機で写し取った。
「ふふーん。また新しい素材ゲット。アンタの恥ずかしいシーンアルバムがまた増えたわね」
「もうなんでも良いから出てってくれ」
俺の頬に温かい液体が流れたのを感じた。なんでこんなのが上司なのだろう。
パワハラで訴えられないかな…………いや、そんなことをすれば何倍になって返ってくるかわからない。恐ろしすぎる。
だが、俺の言葉が届いたのかどうかは分からないが、リンシュは腰を上げて出口へと向かった。
「とは言え、そろそろ戻らないとね。休憩時間もそろそろ終わっちゃうし」
「休憩時間削ってまで俺をからかいたいのか」
「私にとってはそれが心の清涼剤よ」
ホント最低だなこいつ。
「あ、そうだ。運動会についての訂正書類ってもう読んだ?」
「訂正書類? いや、まだもらってないけど」
「あらそう。じゃあアンタのところの宿に送っといてあげるわね。競技種目にちょっと変更があったのよ」
「こんな直前に? 参加選手の登録はもう終わってるのに大丈夫なのか?」
「種目が多少増えただけだから、その追加分だけ参加者を選んでおいて。後はソレまで通りで大丈夫」
そう言ってリンシュは地下室を後にした。
なんだろう…………なぜか嫌な予感がする。
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