まるで無意味な召喚者~女神特典ってどこに申請すればもらえるんですか?~

廉志

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第四章 まるで茶番なお付き合い

CASE21 ジュリアス・フロイライン④ その2

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長蛇の列に並んで早一時間。少しずつ列は消化されていくものの、未だ先頭は見えてこない。
ジュリアスの言う所の「すぐに巡ってくる」とはなんだったのだろうかとうなだれる。
ちょうどベンチの隣に差し掛かった所で一休み。一時間立ちっぱなしだった足を存分に伸ばしつつ、俺のせいで気絶してしまったパプカを背中から降ろす。
ジュリアスの膝枕が非常に気持ちが良さそうだ。やっぱり、胸と同じようにフッカフカなのだろうか。
ジュリアスは帽子と眼鏡を外して顔を扇いだ。コスプレ用で着心地が最悪らしく、被りっぱなしではすごく蒸れるという。

「で、いつになったら帰れるって?」
「ま、まあまあ。多分、店の人が在庫を倉庫から出しに行っているのだろう。補充されれば、列もすぐ無くなるさ」
「本の直前まで来て「完売しました!」なんてオチはゴメンだぞ?」
「その心配はない。在庫切れと同時に、完売の札が立てられるからな。少なくとも、並んでいる人の分は確保されているはずだ」

だと良いが。最終的に悲惨な結果が待っていないことを祈ろう。

「そう言えば、ミナス・ハルバンの大冒険って、この間新刊が出たばかりじゃなかったか? えらく刊行ペースが早い気がするけど」
「うん、ファンの間でもそれが噂になってるんだ。また、新しい作者が見つかったんじゃないかって」
「新しい作者?」
「このシリーズの初刊は、もう千年以上前に出たんだが、それ以来休みを挟みつつ完結したことがないんだ。エルフでもそこまでの寿命は無いからな。作者が大勢居ると言われているんだ」

ファンタジーであるこの世界でも、寿命がない種族などはそうは居ない。特に、王国で見られる人種。人族、獣人、ドワーフ、エルフ等には普通に寿命がある。
例えば、人族や獣人は平均寿命が七十から八十程度。長寿なドワーフやエルフでも五百がせいぜいと入ったところだろう。
すなわち、千年もの間小説を書き続けることが出来る人間など居ないのである。

「ああ、設定がコロコロ変わるのはそれが原因か」
「む、コロコロ変わってなどいないぞ。キチンと考察と伏線を元にして、新たな設定が加わっているだけだ」

頬を膨らませて俺を睨みつける。これ以上は藪蛇だろう。

「ま、まあそれはともかく。お前、金の方は大丈夫なのか? 二十五冊なんて買ってたら、財布も空っぽになるだろう」
「確かに苦しいが、これもファンならば当然の出費だ。それに、生活費を除いたお金は、全てミナス・ハルバンの小説やグッズに費やしているからな! それ以外に使うこともない!」

そんな清々しい顔で親指を立てられてもなぁ。仕事もまともに達成できてないんだから、恐らく生活費の方を削っているのだろうな。
まあ、俺に被害が及ばなければそれで良いのだが、相談窓口に連日押しかけているのだから、すでに被害は被っている。ろくなもんじゃねよ。

「う……ん?」

どうやらパプカが目を覚ましたようだ。首をさすりながら起き上がった。

「何が起きたんですか?」
「よぉパプカ。災難だったな。すっ転んで頭をぶつけて気絶してたんだよ。覚えてないか?」
「さ、サトー……それは」
「頭? と言う割には、首がすごく痛いのですが……」
「そうか、なら念のために首の方にも回復魔法をかけておいたらどうだ? 養生しろよ」

すごく不審な目を俺に向けるパプカ。どうやら俺が首をひねったことは覚えていないようだ。それならそのまま忘れてもらっておこう。
うろたえるジュリアスの口元を抑えて、余計なことを言うなと釘を刺す。


「おまたせ致しました! ミナス・ハルバンの大冒険~番外編~の搬入が完了したため、只今から販売を再会いたします!」


本屋の店員さんが、メガホンを手に行列へと叫んだ。並ぶ人たちは歓喜の声を上げて、どんどん前へと進んでゆく。
もうすでに二十冊以上同じ本を保有しているはずのジュリアスも、同じような表情を浮かべて目を輝かせていた。何がそんなに嬉しいのだろうか。
本屋の中に入る。正面には山と積まれる大量の書物。分厚さは百科事典並だろうか。
恐るべきスピードでその山が崩れてゆく。一人一冊までらしいが、それでも列の長さを見るに、売り切れるのも時間の問題だろう。

「あ、そう言えばパプカ。雑誌の方も一緒に買っておいたほうが良いんじゃないか? レジに並び直すのも大変だろ」
「そうですね。ではちょっと行ってきま……」
「待ったぁ!」
「うぎゃっ!?」

本来の目的であるデートスポットが書かれた雑誌を探しに、パプカがその場を離れようとすると、今度はジュリアスがパプカの首を掴んでひねり、自分へと顔を向けさせた。
俺が言うのもなんだが、二度目の災難な目にあったパプカは再び白目をむいて気絶した。

「お、おい! 何してんだ!」
「行っては駄目だパプカ! 一度列を離れては、また並び直さなければならなくなるだろう! 列への入り直しは厳禁なんだ!」
「いや、ジュリアス。パプカ気絶して……」
「あと少しだけ辛抱してくれ! 雑誌なら後で新刊が置いていない本屋に買いに行けばいい! なんならその代金は私が出す! だから今はここにいてくれ!」

どんだけ必死なんだこの女。気絶しているというのに、パプカの両肩を掴んで体を思い切り揺らしている。


「次の方どうぞ!」


店員さんの声がする。どうやら俺達の順番が回ってきたようだ。
気絶したパプカを俺へと任して、ジュリアスは跳ねるようにレジに向かう。嬉しそうに本を店員さんに渡した。
……だが、俺は何かを見落としている気がした。かなり致命的で、後戻りできないような特大のミス。ジュリアスが店員さんに金を渡す瞬間、俺はようやくその致命的なミスに気がついた。

「あ!? ジュリアス! 変装!」

と言う俺の言葉がジュリアスの耳に届くよりも早く、店員さんの目がキラリと光った。
新刊をすぐさまカウンターの下へと隠し、かわりに一枚の紙をジュリアスの眼前へと突きつける。
変装をしていたという理由とは、つまり購入制限をかいくぐって、目的の冊数を獲得すると言う目的のためだ。わざわざコスプレをしてまで買う冊数ではないが、本人にとっては重要なことなのだろう。
しかしそんなジュリアスに突きつけられた紙の内容はこうだ。

『要注意人物! 赤毛の癖っ毛を持つ二十代の女。ミナス・ハルバンの大冒険シリーズの買い占め常習犯です。一冊以上買おうとした場合、必ずお断りすること』

うわぁ……指名手配みたいな内容じゃないか。どんだけ警戒されてるんだこの女。
口をあんぐりと空けて青ざめるジュリアスに、追い打ちのごとく店員さんが口を開く。

「申し訳ありませんが、貴女はすでに購入されているはずです。これ以上は販売をご遠慮させていただきます」
「そ、そんな! 後三冊だけ買わせて欲しい! それでやっとノルマ達成なんだ! ほら、後ろの二人と私で三冊だ! たくさんあるんだから良いだろう!?」
「あ、馬鹿! 俺達のことは……」
「後ろの二人はお知り合いなんですか?」

店員さんの瞳が更にギラリと光る。ジュリアスよ、今お前は致命的な墓穴を掘ったぞ。

「ではあなた達にもお売りできません。転売をされているのか何かは知りませんが、これは図書街の店すべての決定です。お引き取りください」

そんな感じで、俺達は店を追い出された。まあこれは仕方がないだろう。自業自得と言うやつだ。そもそも二十冊も同じ本を持っていれば十分過ぎる。
俺はパプカを背負いながら、うなだれるジュリアスの肩を掴んで諦めようと説得した。…………したのだが、

「…………す」
「あ?」
「新しい変装で並び直す! 行くぞサトー!」
「はぁ!?」

この女、全然懲りていなかった。いつものクエストも、これぐらいの気構えで挑んでくれればいいのに。


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