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ピリオド 3
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廊下が妙に騒がしいな。
教室の窓際にあるデスクにいた響は、ちらりと廊下のほうへ目をやった。
響の周りには男子生徒が数人集まって、話題のゲームだったり虚実混在したネット情報だったり、他愛ない話を熱心に語っていた。
愛想のかけらもない担任を笑わせたら勝ち、みたいな賭けでもやっているのだろうか?
そう疑うほどに生徒たちは代わる代わる響のもとを訪れるが、そもそも人づきあいが苦手なこの男は、興味のない話にすっかり退屈していた。
授業の内容かホッケーのことでも聞いてくれれば答えてあげるのに。
そう思いながら右から左へ聞き流していたとき、外の異変に気づいたのだった。
午前の授業の終わりを告げるチャイムが鳴ったばかりで、生徒たちは思い思いにくつろいでいた。すでに弁当を広げている者もいる。
廊下にも生徒たちがわっと繰り出していたが、明らかにいつもより騒々しく、女子生徒の黄色い歓声まで聴こえた。
まるで、人気アイドルでも現れたかのようだ。
「ーーーーーーぼくスケートできないんですけど、ホッケー部入れますか?」
男子生徒のひとりが言った。
ぼんやりしていた響は、「ホッケー」という言葉に反応して、生徒たちに顔を戻した。
「先生、教えてくれます?」
「おれも、先生が教えてくれるならやってみたいな」
「もちろん、おれも教えるし、コーチと先輩が」
やっと積極的に答えたい話題になった矢先、響はまた、そばにいた女子生徒の会話に気を取られた。
「ねえ、外に赤城先輩来てるらしいよ」
「え、2年の?うそ、なんで?」
響は思わず首を引っ込め、男子生徒の陰に身を隠した。
ちょうどそこへ、背の高い少年が姿を現した。
赤城夏海。響の甥であり、アイスホッケー部の教え子であり、いまもっともかれの頭を悩ませている張本人だ。
夏海は、自身にまとわりつく下級生たちに「すみません、通してください」と紳士的な態度を見せつつ、まっすぐ響のもとへやって来ると、周りにいた男子生徒たちをぎろりと睨みつけた。
「ちょっと、先生から離れてもらえますか」
男子生徒たちは縮み上がり、すごすごと去っていった。
隠れる場所を失ってすっかり無防備になった響に、夏海はぐっと迫った。
響はキャスターつきの椅子ごと後退りし、がちゃんと派手な音を立てて壁にぶつかった。
「先生、いま、いいですか」
夏海は椅子の肘置きに手を置き、身を乗り出した。
顔の前で両手を広げてガードしていた響は、目の前にある夏海の顔を指の隙間から覗き見た。
「なに、どうした?」
「今夜は、まっすぐ家に帰りますか?」
「どうしてわざわざ」響はうっかり大きくなりかけた声を抑え、「教室まで来て聞く必要があるのか?」
「だって、メッセージ送っても《用事があるから来るな》しか帰ってこないし」
「事実だからしかたない」
「用事って、蒼井さんですか?」
「赤城くん、いい加減にしなさい。ほかに用がないなら自分の教室に戻ってください」
夏海はさっと教室内に目線を走らせた。
遠巻きで生徒たちがこちらの様子を伺いながらひそひそと話している。
夏海が響の親戚であることは、すでに学校中に知れ渡っていた。
“元レッドスターの名ディフェンス・黒川響の甥が聖クラスナに編入し、しかもアイスホッケー部に入部する”
これはレッドスター内で大きな話題となり、自然、アイスホッケー部を通じてクラスナ中に広まった。
それが、夏海には不満だった。“甥”だと知られてしまったせいで、響を堂々と口説けなくなってしまった。
夏海はより響に顔を近づけ、声をひそめた。
「少しでいいんです、おれとの時間をください。居候がだめなら、たまに泊まるのは?それもだめですか?」
「泊まる目的がわからない」
「そばにいたいだけです」
響は困り果て、逃げ場を求めるように視線をそらした。
「……じゃあ、ひとつ条件を出す」
「条件?」
「おれの出す課題をやること。塚田先生に聞いたぞ、きみは体育以外は補習が必要なのに、なにかと理由をつけて逃げてるって。担任を困らせないであげてほしいな」
夏海は、まるでイタズラが見つかってしまったように顔をしかめた。
「レッドスター目指すなら、確かに生半可な練習じゃ無理だけど、勉強も疎かにしちゃだめだ。日本で、ホッケーだけで食べていくのは難しい。現に壮平だって普段は会社員だし、現役でいられるのはせいぜい40まで。その先の人生のほうが長い」
「先生みたいに、引退してもホッケーに関われる道、ありますか」
「コーチとか審判の道だってある。おれはプロで生き残れるほどの実力も努力も足りなかったから、勉強しておいてよかったいい例だよ」
「聖クラスナを選んだのは、やっぱりレッドスターがあるから?」
「知ってると思うけど、あそこは一度潰れかけてる。一時期、不祥事が続いて、表に出ていない事件もたくさんあった。レッドスターの根っこは聖クラスナだ。そこから改善しないと……なんてのは、後づけの理由。たんに、ほかに行ける場所が見つからなかっただけ。赤城くんは、どうしてそんなにレッドスターがいいの?」
「響さんがいたから」
夏海は響の目をまっすぐ見つめ、言った。
「アイスホッケーはじめたのも、響さんのプレーを観たからです」
「……おれの責任、重すぎない?」
「だって、事実だし。おれの全部をあげてもいいくらいに思ってます」
「いらないよ。捧げる相手、間違えてるから」
「好きなのは間違いじゃない」
「……」
「響さん、おれ、課題やります。だから、おれとの時間をください」
「課題をやるだけじゃダメだぞ、結果を出さないと意味がない」
「じゃあ、次のテストで100点取ります」
「へえ、言ったな、撤回はなしだぞ」
「はい。響さんと過ごせるなら、絶対に100点取ります」
「意気込みだけは認める。100点取っても、この間みたいなことは絶対にするなよ。あと、学校では名前で呼ばないでくれ。黒川先生だ、いいな?」
「はい、黒川先生」
「よし。とびきり難しいやつ用意しといてやるよ」
「全科目じゃないですよね?」
「得意な科目一個でいい。それで自信がつけば、ほかの科目も必ずレベルアップできる。あとは全部ホッケーに集中すればいいから、頑張って。きみが人一倍努力してるのは、知ってるから」
響は手を伸ばし、夏海の頭をぽんと撫でた。
嬉しそうなその表情は、やはりまだ幼かった。
✳︎
「んっ……こら、遊ぶな」
響は泡でまみれた両手で、蒼井の胸を撫でた。
乳首が指に引っかかり、弾ける。
その度、蒼井は小さく声を上げたーーーーーー
この日、蒼井はいつものように会社を定時で退勤し、クラブが契約しているスポーツジムでトレーニングに汗を流した。
現役時代には響もこなしたメニューを、かれの場合はさらに負荷をかけて行うのが常だった。
響も、部活はコーチに任せて翌日の授業の準備を手早く終えると、蒼井がいるジムへ行った。
かれがジムへ顔を出すのは引退してからはじめてのことで、蒼井と同じく黙々とトレーニングに励んでいたチームメイトは色めき立った。
ふたりの関係を知るのは、クラスナの同級生、それも親友と呼べるほどの限られた者しかいない。レッドスター内では、アイスホッケー界全体が同性の親密な関係をタブーとしているように、話題にすることも嫌悪された。
その不自然な毛嫌いっぷりに拍車をかけたのは、間違いなく過去の忌まわしい“事件”のせいだ。
例を挙げればキリがない。餌食になったのは響だけではなかった。
無言を貫き、なにもなかったことにしたおれの罪も重い。
響はそう考えるたび自己嫌悪に陥った。
鬼の佐田ヘッドコーチがクラブを率いた5年間、選手たちをプライベートも含めこれでもかと引き締めてくれたおかげで、歪んだ上下関係や同期間の嫉妬による事件はなくなった。しかし、組織に根づいた風潮はそう易々と変わるものではない。
おれが育てた生徒のなかからいずれレッドスターの選手が生まれるだろう。それに期待しているが、あまりに時間がかかる……。
響がジムに現れたときには蒼井も大いに驚いたが、かれはそれ以上に喜んだ。響の現役復帰を望んでいるのは、だれよりも蒼井だった。
とはいえ、響にそんな意図はなかった。一刻も早く蒼井に会いたくて落ち着かなかったのだ。
ふいに胸に込み上げる強い不安。
それを一瞬で吹き飛ばす力を持つのが蒼井壮平という男。そして、響が蒼井に会うためにジムを訪れたことでクラブ内で妙な噂が流れたとしても、それを一蹴できるのは、かれだからこそなのだ。
蒼井のトレーニングメニューにつき合わされた響は、すっかりくたびれた状態でかれの部屋に来た。
確実に明日は筋肉痛だ。翌日に症状が出ればまだいいほうだろう。
そんなことを思いながら、響は蒼井と一緒にバスルームに入ったのだった。
どちらも、互いに競うように泡立てたもこもこの泡に包まれていた。
「乳首、狙ってるだろ。身体洗ってやるとか言って、響はほんとエッチだな」
「だって、気持ちよさそうだから」
響は両手をするすると下へ滑らせた。くっきりと割れた腹筋が波打つようにひくつく。
蒼井は響の顎を引き、唇を重ねた。
舌が絡み合う水気を帯びた音が、バスルームでは一際鼓膜を刺激する。
「ん……ねえ壮平、勃ってる」
「まだ我慢、ゴム向こうだし、今夜は一晩中おまえを抱くから」
「あれだけトレーニングして、どこにそんな元気が残ってるんだよ?」
「おまえが鈍りすぎ。そんなんじゃ現役に戻れないぞ」
「戻る気ないよ」
「今日のは絶対噂になるぞ、あの黒川響がトレーニングしてた、復帰は近いってーーーーーー風呂、浸かろう」
「わ、ちょっと!」
身体中に泡が残ったまま、蒼井は響を抱いて一緒に湯船に入った。
「そういや」と蒼井。「今週はおれたち、ずっと一緒にいるな」
「ああ、そうだね」
「おまえがこんなにうちに泊まりに来ること、いままでなかったよな」
「嫌なのかよ」
「嬉しいから言ってるんだよ」
蒼井は響の首筋にキスをした。
「夏海くんはどう、練習に励んでるか?」
「ああ……うん、それはもう感心するくらい。最近は、おれが作った課題もやってる。ホッケーばっかりで勉強が疎かになってるもんだから」
「へえ。前みたいに、家に押しかけてこなくなったのか?」
「……うん」
「なら、よかった。やっぱりいい気はしないよ。おまえを好きだと言ってる男とふたりきりになるなんて」
「身体がでかいだけで、中身はまだ子どもだよ」
「来年で高3だよな、卒業したらきっとレッドスターに入るだろう、そうなればおれとチームメイトになる。あと2年も立たないうちに、おれと肩を並べるんだ」
「壮平、やめろよ。あの子は甥っ子、姉貴の息子なんだよ」
「おまえ、昔言ったよな。“血の繋がってない甥っ子なんか、家族とは思えない”って」
✳︎
『おれの響にいちゃんから離れろ!このクマ!』
10年前。
夢中で口づけを交わしている最中、その少年は恐ろしい剣幕で食ってかかってきた。
武器にするつもりか、おそらく手近にそれしかなかったのだろう、コードレスの掃除機を抱えていた。
『びびった……あの子、だれ?』
響に手を引かれて2階へ上がりながら、蒼井は少年を振り返り、尋ねた。
『甥っ子だよ、姉貴の息子。何回かしか会ったことないのに、なにわけわかんないこと言ってんだろ、変なやつ』
『響から離れろ、クマって言ってるように聞こえたけど、クマっておれのこと?』
『だろうね』
『ひでえ、おれそんな太ってないよな?……あれ、でも甥っ子って、でかすぎない?』
『姉貴がもう32だから』
『へえ、姉ちゃん、すごい年上だな!』
『うん、まあ、本当の姉貴じゃないから』
『どういうこと?』
『おれ、養子なんだ。本当の親は事故で死んだんだって。5歳くらいのときって聞いたかな、あんまり覚えてないけど』
『まじで?はじめて知った』
『だれにも言ったことないもん』
『おれには話してくれるんだ?』
『それは……蒼井先輩だから』
その言葉が嬉しくてたまらなかったのを、蒼井はいまでも覚えている。
おれたちは本当に恋人なのだと確信した瞬間でもあった。
✳︎
「おまえと血が繋がってないことを知ったら、かれ、遠慮しなくなるぞ」
知らなくても遠慮なしだ、と響は思うが、口にはしない。
「おれが心配する気持ちはわかるだろ?」
「……わかってる。けど、邪険にはできないよ、母さんや姉貴が心配する」
「優しくしてるとつけ込まれるぞ」
「優しくなんか……イケメンでモテるくせに、どうしてあんな必死なのか理解できないよ。学校じゃまるでアイドルなんだよ。ホッケーに興味のなかった女子生徒が試合を観に来るようになったくらい」
「へえ、それでも女の子には目もくれず、響一筋か」
「どう言えば諦めてくれるのかわからないんだ。普段は大人しいけど、実はとんでもない自信家でわがまま。おれの言うことなんかなにも聞いてない。姉貴もお義兄さんものんびりしてるのに、だれに似たんだか」
「勝ち気で喧嘩腰なのはおまえに似てる」
「そうかも。ガキの頃からずっとおれの試合を観てたせい?」
「身近にとんでもない見本がいるもんな。背番号81、黒川響。抜群の守備力で敵方のオフェンスがもっとも恐れた男。ロングシュートを確実に決める天才。またの名を、“血まみれ王子”。自分がボディチェックする側のくせに、体当たりでよく鼻血出してたよなあ」
「やめてくれ、恥ずかしい」
「あの子が必死になる気持ちは、おれには理解できるよ……なあ響、おまえをおれのものにしたいと思うのは、思い上がりか?」
「もしかして、この間の話?」
「おまえの自由を奪う気はない。だから、ちょっと考えてみてくれないか」
「壮平、おれとじゃ無理だよ。家族なんか作れないんだ、きみの理想は叶えられない」
「そんなことはわかってる。理想なんかより、おまえと一緒にいる現実のほうがいいんだーーーーそんな困った顔するか?」
蒼井は深いシワを寄せた響の眉間を指で小突いた。
「……なんか、腹へってきた」
「そうやって話を逸らす……上がったらラーメンでも食おうか、インスタントだけど」
「うん」
分厚い胸板に背を預けた響は、蒼井の手を取り、指を絡めた。
蒼井はなにも言わず、少し曲がった左手の人差し指を撫でてくれる。
おれと一緒に暮らしたい。
そう言ってくれるのは心底嬉しい。おれだって壮平とずっと一緒にいたい。
でも、後悔させたくないんだ。おれのために自分の家族をつくる夢を諦めたのは間違いだった、なんて。
響は目を閉じた。いまこの瞬間の幸せに浸りたかった。
教室の窓際にあるデスクにいた響は、ちらりと廊下のほうへ目をやった。
響の周りには男子生徒が数人集まって、話題のゲームだったり虚実混在したネット情報だったり、他愛ない話を熱心に語っていた。
愛想のかけらもない担任を笑わせたら勝ち、みたいな賭けでもやっているのだろうか?
そう疑うほどに生徒たちは代わる代わる響のもとを訪れるが、そもそも人づきあいが苦手なこの男は、興味のない話にすっかり退屈していた。
授業の内容かホッケーのことでも聞いてくれれば答えてあげるのに。
そう思いながら右から左へ聞き流していたとき、外の異変に気づいたのだった。
午前の授業の終わりを告げるチャイムが鳴ったばかりで、生徒たちは思い思いにくつろいでいた。すでに弁当を広げている者もいる。
廊下にも生徒たちがわっと繰り出していたが、明らかにいつもより騒々しく、女子生徒の黄色い歓声まで聴こえた。
まるで、人気アイドルでも現れたかのようだ。
「ーーーーーーぼくスケートできないんですけど、ホッケー部入れますか?」
男子生徒のひとりが言った。
ぼんやりしていた響は、「ホッケー」という言葉に反応して、生徒たちに顔を戻した。
「先生、教えてくれます?」
「おれも、先生が教えてくれるならやってみたいな」
「もちろん、おれも教えるし、コーチと先輩が」
やっと積極的に答えたい話題になった矢先、響はまた、そばにいた女子生徒の会話に気を取られた。
「ねえ、外に赤城先輩来てるらしいよ」
「え、2年の?うそ、なんで?」
響は思わず首を引っ込め、男子生徒の陰に身を隠した。
ちょうどそこへ、背の高い少年が姿を現した。
赤城夏海。響の甥であり、アイスホッケー部の教え子であり、いまもっともかれの頭を悩ませている張本人だ。
夏海は、自身にまとわりつく下級生たちに「すみません、通してください」と紳士的な態度を見せつつ、まっすぐ響のもとへやって来ると、周りにいた男子生徒たちをぎろりと睨みつけた。
「ちょっと、先生から離れてもらえますか」
男子生徒たちは縮み上がり、すごすごと去っていった。
隠れる場所を失ってすっかり無防備になった響に、夏海はぐっと迫った。
響はキャスターつきの椅子ごと後退りし、がちゃんと派手な音を立てて壁にぶつかった。
「先生、いま、いいですか」
夏海は椅子の肘置きに手を置き、身を乗り出した。
顔の前で両手を広げてガードしていた響は、目の前にある夏海の顔を指の隙間から覗き見た。
「なに、どうした?」
「今夜は、まっすぐ家に帰りますか?」
「どうしてわざわざ」響はうっかり大きくなりかけた声を抑え、「教室まで来て聞く必要があるのか?」
「だって、メッセージ送っても《用事があるから来るな》しか帰ってこないし」
「事実だからしかたない」
「用事って、蒼井さんですか?」
「赤城くん、いい加減にしなさい。ほかに用がないなら自分の教室に戻ってください」
夏海はさっと教室内に目線を走らせた。
遠巻きで生徒たちがこちらの様子を伺いながらひそひそと話している。
夏海が響の親戚であることは、すでに学校中に知れ渡っていた。
“元レッドスターの名ディフェンス・黒川響の甥が聖クラスナに編入し、しかもアイスホッケー部に入部する”
これはレッドスター内で大きな話題となり、自然、アイスホッケー部を通じてクラスナ中に広まった。
それが、夏海には不満だった。“甥”だと知られてしまったせいで、響を堂々と口説けなくなってしまった。
夏海はより響に顔を近づけ、声をひそめた。
「少しでいいんです、おれとの時間をください。居候がだめなら、たまに泊まるのは?それもだめですか?」
「泊まる目的がわからない」
「そばにいたいだけです」
響は困り果て、逃げ場を求めるように視線をそらした。
「……じゃあ、ひとつ条件を出す」
「条件?」
「おれの出す課題をやること。塚田先生に聞いたぞ、きみは体育以外は補習が必要なのに、なにかと理由をつけて逃げてるって。担任を困らせないであげてほしいな」
夏海は、まるでイタズラが見つかってしまったように顔をしかめた。
「レッドスター目指すなら、確かに生半可な練習じゃ無理だけど、勉強も疎かにしちゃだめだ。日本で、ホッケーだけで食べていくのは難しい。現に壮平だって普段は会社員だし、現役でいられるのはせいぜい40まで。その先の人生のほうが長い」
「先生みたいに、引退してもホッケーに関われる道、ありますか」
「コーチとか審判の道だってある。おれはプロで生き残れるほどの実力も努力も足りなかったから、勉強しておいてよかったいい例だよ」
「聖クラスナを選んだのは、やっぱりレッドスターがあるから?」
「知ってると思うけど、あそこは一度潰れかけてる。一時期、不祥事が続いて、表に出ていない事件もたくさんあった。レッドスターの根っこは聖クラスナだ。そこから改善しないと……なんてのは、後づけの理由。たんに、ほかに行ける場所が見つからなかっただけ。赤城くんは、どうしてそんなにレッドスターがいいの?」
「響さんがいたから」
夏海は響の目をまっすぐ見つめ、言った。
「アイスホッケーはじめたのも、響さんのプレーを観たからです」
「……おれの責任、重すぎない?」
「だって、事実だし。おれの全部をあげてもいいくらいに思ってます」
「いらないよ。捧げる相手、間違えてるから」
「好きなのは間違いじゃない」
「……」
「響さん、おれ、課題やります。だから、おれとの時間をください」
「課題をやるだけじゃダメだぞ、結果を出さないと意味がない」
「じゃあ、次のテストで100点取ります」
「へえ、言ったな、撤回はなしだぞ」
「はい。響さんと過ごせるなら、絶対に100点取ります」
「意気込みだけは認める。100点取っても、この間みたいなことは絶対にするなよ。あと、学校では名前で呼ばないでくれ。黒川先生だ、いいな?」
「はい、黒川先生」
「よし。とびきり難しいやつ用意しといてやるよ」
「全科目じゃないですよね?」
「得意な科目一個でいい。それで自信がつけば、ほかの科目も必ずレベルアップできる。あとは全部ホッケーに集中すればいいから、頑張って。きみが人一倍努力してるのは、知ってるから」
響は手を伸ばし、夏海の頭をぽんと撫でた。
嬉しそうなその表情は、やはりまだ幼かった。
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「んっ……こら、遊ぶな」
響は泡でまみれた両手で、蒼井の胸を撫でた。
乳首が指に引っかかり、弾ける。
その度、蒼井は小さく声を上げたーーーーーー
この日、蒼井はいつものように会社を定時で退勤し、クラブが契約しているスポーツジムでトレーニングに汗を流した。
現役時代には響もこなしたメニューを、かれの場合はさらに負荷をかけて行うのが常だった。
響も、部活はコーチに任せて翌日の授業の準備を手早く終えると、蒼井がいるジムへ行った。
かれがジムへ顔を出すのは引退してからはじめてのことで、蒼井と同じく黙々とトレーニングに励んでいたチームメイトは色めき立った。
ふたりの関係を知るのは、クラスナの同級生、それも親友と呼べるほどの限られた者しかいない。レッドスター内では、アイスホッケー界全体が同性の親密な関係をタブーとしているように、話題にすることも嫌悪された。
その不自然な毛嫌いっぷりに拍車をかけたのは、間違いなく過去の忌まわしい“事件”のせいだ。
例を挙げればキリがない。餌食になったのは響だけではなかった。
無言を貫き、なにもなかったことにしたおれの罪も重い。
響はそう考えるたび自己嫌悪に陥った。
鬼の佐田ヘッドコーチがクラブを率いた5年間、選手たちをプライベートも含めこれでもかと引き締めてくれたおかげで、歪んだ上下関係や同期間の嫉妬による事件はなくなった。しかし、組織に根づいた風潮はそう易々と変わるものではない。
おれが育てた生徒のなかからいずれレッドスターの選手が生まれるだろう。それに期待しているが、あまりに時間がかかる……。
響がジムに現れたときには蒼井も大いに驚いたが、かれはそれ以上に喜んだ。響の現役復帰を望んでいるのは、だれよりも蒼井だった。
とはいえ、響にそんな意図はなかった。一刻も早く蒼井に会いたくて落ち着かなかったのだ。
ふいに胸に込み上げる強い不安。
それを一瞬で吹き飛ばす力を持つのが蒼井壮平という男。そして、響が蒼井に会うためにジムを訪れたことでクラブ内で妙な噂が流れたとしても、それを一蹴できるのは、かれだからこそなのだ。
蒼井のトレーニングメニューにつき合わされた響は、すっかりくたびれた状態でかれの部屋に来た。
確実に明日は筋肉痛だ。翌日に症状が出ればまだいいほうだろう。
そんなことを思いながら、響は蒼井と一緒にバスルームに入ったのだった。
どちらも、互いに競うように泡立てたもこもこの泡に包まれていた。
「乳首、狙ってるだろ。身体洗ってやるとか言って、響はほんとエッチだな」
「だって、気持ちよさそうだから」
響は両手をするすると下へ滑らせた。くっきりと割れた腹筋が波打つようにひくつく。
蒼井は響の顎を引き、唇を重ねた。
舌が絡み合う水気を帯びた音が、バスルームでは一際鼓膜を刺激する。
「ん……ねえ壮平、勃ってる」
「まだ我慢、ゴム向こうだし、今夜は一晩中おまえを抱くから」
「あれだけトレーニングして、どこにそんな元気が残ってるんだよ?」
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「わ、ちょっと!」
身体中に泡が残ったまま、蒼井は響を抱いて一緒に湯船に入った。
「そういや」と蒼井。「今週はおれたち、ずっと一緒にいるな」
「ああ、そうだね」
「おまえがこんなにうちに泊まりに来ること、いままでなかったよな」
「嫌なのかよ」
「嬉しいから言ってるんだよ」
蒼井は響の首筋にキスをした。
「夏海くんはどう、練習に励んでるか?」
「ああ……うん、それはもう感心するくらい。最近は、おれが作った課題もやってる。ホッケーばっかりで勉強が疎かになってるもんだから」
「へえ。前みたいに、家に押しかけてこなくなったのか?」
「……うん」
「なら、よかった。やっぱりいい気はしないよ。おまえを好きだと言ってる男とふたりきりになるなんて」
「身体がでかいだけで、中身はまだ子どもだよ」
「来年で高3だよな、卒業したらきっとレッドスターに入るだろう、そうなればおれとチームメイトになる。あと2年も立たないうちに、おれと肩を並べるんだ」
「壮平、やめろよ。あの子は甥っ子、姉貴の息子なんだよ」
「おまえ、昔言ったよな。“血の繋がってない甥っ子なんか、家族とは思えない”って」
✳︎
『おれの響にいちゃんから離れろ!このクマ!』
10年前。
夢中で口づけを交わしている最中、その少年は恐ろしい剣幕で食ってかかってきた。
武器にするつもりか、おそらく手近にそれしかなかったのだろう、コードレスの掃除機を抱えていた。
『びびった……あの子、だれ?』
響に手を引かれて2階へ上がりながら、蒼井は少年を振り返り、尋ねた。
『甥っ子だよ、姉貴の息子。何回かしか会ったことないのに、なにわけわかんないこと言ってんだろ、変なやつ』
『響から離れろ、クマって言ってるように聞こえたけど、クマっておれのこと?』
『だろうね』
『ひでえ、おれそんな太ってないよな?……あれ、でも甥っ子って、でかすぎない?』
『姉貴がもう32だから』
『へえ、姉ちゃん、すごい年上だな!』
『うん、まあ、本当の姉貴じゃないから』
『どういうこと?』
『おれ、養子なんだ。本当の親は事故で死んだんだって。5歳くらいのときって聞いたかな、あんまり覚えてないけど』
『まじで?はじめて知った』
『だれにも言ったことないもん』
『おれには話してくれるんだ?』
『それは……蒼井先輩だから』
その言葉が嬉しくてたまらなかったのを、蒼井はいまでも覚えている。
おれたちは本当に恋人なのだと確信した瞬間でもあった。
✳︎
「おまえと血が繋がってないことを知ったら、かれ、遠慮しなくなるぞ」
知らなくても遠慮なしだ、と響は思うが、口にはしない。
「おれが心配する気持ちはわかるだろ?」
「……わかってる。けど、邪険にはできないよ、母さんや姉貴が心配する」
「優しくしてるとつけ込まれるぞ」
「優しくなんか……イケメンでモテるくせに、どうしてあんな必死なのか理解できないよ。学校じゃまるでアイドルなんだよ。ホッケーに興味のなかった女子生徒が試合を観に来るようになったくらい」
「へえ、それでも女の子には目もくれず、響一筋か」
「どう言えば諦めてくれるのかわからないんだ。普段は大人しいけど、実はとんでもない自信家でわがまま。おれの言うことなんかなにも聞いてない。姉貴もお義兄さんものんびりしてるのに、だれに似たんだか」
「勝ち気で喧嘩腰なのはおまえに似てる」
「そうかも。ガキの頃からずっとおれの試合を観てたせい?」
「身近にとんでもない見本がいるもんな。背番号81、黒川響。抜群の守備力で敵方のオフェンスがもっとも恐れた男。ロングシュートを確実に決める天才。またの名を、“血まみれ王子”。自分がボディチェックする側のくせに、体当たりでよく鼻血出してたよなあ」
「やめてくれ、恥ずかしい」
「あの子が必死になる気持ちは、おれには理解できるよ……なあ響、おまえをおれのものにしたいと思うのは、思い上がりか?」
「もしかして、この間の話?」
「おまえの自由を奪う気はない。だから、ちょっと考えてみてくれないか」
「壮平、おれとじゃ無理だよ。家族なんか作れないんだ、きみの理想は叶えられない」
「そんなことはわかってる。理想なんかより、おまえと一緒にいる現実のほうがいいんだーーーーそんな困った顔するか?」
蒼井は深いシワを寄せた響の眉間を指で小突いた。
「……なんか、腹へってきた」
「そうやって話を逸らす……上がったらラーメンでも食おうか、インスタントだけど」
「うん」
分厚い胸板に背を預けた響は、蒼井の手を取り、指を絡めた。
蒼井はなにも言わず、少し曲がった左手の人差し指を撫でてくれる。
おれと一緒に暮らしたい。
そう言ってくれるのは心底嬉しい。おれだって壮平とずっと一緒にいたい。
でも、後悔させたくないんだ。おれのために自分の家族をつくる夢を諦めたのは間違いだった、なんて。
響は目を閉じた。いまこの瞬間の幸せに浸りたかった。
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「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
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久しぶりに始めてみました
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■表紙お借りしました
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
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※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
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その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
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