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パパ
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アルマーズはほうきを床に投げ捨てると、身体についた雪を散らしながらマリオンのもとへ駆け寄った。
その姿を見たとたん、マリオンは気が遠くなって後ろへひっくり返った。それをアルマーズが抱き止める。
「マリオン、しっかりしろ!」
「……学長、どうして」
「マロースが侵入者を知らせたんだ、まさかまた殺し屋相手に無茶を……」
マリオンの姿を改めて確認し、アルマーズの顔は曇った。
ワイシャツのボタンはほとんどなくなり、前がはだけて肌が顕になっている。手首や頬は赤く腫れ、首筋には小さな赤い痕が点々と残っていた。
「……なにがあったんだ?」
「これは……知らない男が……でも、もう逃げました」
「おいマロース!」アルマーズは猫に向かって怒鳴った。「こんなことになるまで気づかなかったとは、どういうことだ!」
〈原因不明のスリープ状態にありました。まだ複数のエリアが復帰できていません〉
「居眠りしてたのか、役立たずめ!マリオン、悪かった……」
アルマーズはマリオンを抱きしめた。
「学長……」
「おれを狙ったやつに違いない。おれのせいだ。犯人は絶対に許さない、必ず捕まえる!」
「やめてください、警察には誤報だと言って!」
「なぜだ?」
「おれは一度ひどい目に遭ってるんです、もう大ごとになるのはいやなんです」
「もうひとりで闘わせたりしない!」
アルマーズの身体は、怒りでぶるぶると震えた。
「また間に合わなかった。おれは口ばかりで、なにも守れやしない。二度と失いたくないのに、おれのせいで……」
「おれはそんなに弱くない」
マリオンはアルマーズの背中をさすり、宥める。
「油断したおれのミスです。こうなる可能性はあったのに……学長、この始末は自分でつけるから、お願い、そばにいてください、それだけでいい、それ以上なんて望まない」
「マリオン……」
「しっ……だれか来る」
「え?」
またひとり、床を踏み鳴らして歩く足音が近づいている。
アルマーズもその音に気づき、ほうきを自分のほうへ引き寄せた。
扉を開け放してあった入口に、黒い大きな人影が現れた。
アルマーズとマリオンはごくりと息を呑み、身構えた。
「なんだ、まだふたりで仕事してたんですか?」
入口に現れたのは、イアリートだった。
寸足らずなレザージャケットにチノパンというラフな格好で、両手に大きな紙袋を抱えている。
「床に座って、なにしてるんです、掃除ですか?」
「イアリート」アルマーズは構えたまま、「休みだろ、どうしてここにいるんだ?」
それは、と答えようとしたイアリートは、マリオンがこっそりワイシャツの前を合わせるのを見て、思わず紙袋を落とした。
なかで、がしゃんとガラスの割れる音がした。
まるでその音がなにかのスイッチだったかのように、イアリートはかっと目を見開くと、獣のようにアルマーズに飛びかかった。
「職権乱用だ!このゲス野郎!」
「わ、なに言ってんだ、こいつは、く、苦しい……!」
「このばか、やめろ!」
マリオンはイアリートの襟を掴むと、これでもかと引っ張った。
我を忘れた巨体に首を絞められ(さすがのアイヴァも敵わない)、今度こそアルマーズは気を失いかけた。
その寸前でマリオンはイアリートを引き剥がし、勢い余って尻もちをついた。そのまま床に仰向けになると、怒りでまた目頭が熱くなった。
この力を、どうしてパパに対して発揮できなかったんだ!
アルマーズも床にひっくり返った。イアリートに頭を振られ、軽く脳震盪を起こしていた。
イアリートはというと、床に突っ伏して、おいおいと泣きだした。
「泣きたいのはこっちだ!」
仰向けのままアルマーズが怒鳴った。
「おれを殺す気か!」
「だって、だって、マリオンを無理やり……」
「そんなわけないだろ」とマリオン。
イアリートは鼻垂れ顔を上げ、
「違うの?」
「当たり前だ!」とアルマーズ。「きみのほうこそ怪しい。休日だぞ、なにしに来た?」
「それは、その……マリオンにメールしてみたけど返信がなくて、もう仕事は終わってるかなあと思って寮に行ってみたけどいなかったんで、じゃあここかなあと」
「ほら見ろ、やってることは立派なストーカーじゃないか!どいつもこいつも……頭にきた!」
アルマーズは床に手をついてどうにか立ち上がると、呆然としている巨体の前に仁王立ちした。
「今日を限りにマリオンへの未練はきっぱり捨てろ」
「な、そんな、横暴ですよ!いくら学長でも人の気持ちに口出しする権利はない!」
「黙れ!こんなもん捨ててやるわ!」
アルマーズは上着の襟の校章を乱暴にむしり取り、床へ投げ捨てた。
「学長としてではなく、アルマーズ・リースチヤとして忠告する。おれのマリオンに、近づくな」
イアリートは口をぽっかり開けたまま固まってしまった。
マリオンもまた、呆気にとられて言葉が出なかった。
その姿を見たとたん、マリオンは気が遠くなって後ろへひっくり返った。それをアルマーズが抱き止める。
「マリオン、しっかりしろ!」
「……学長、どうして」
「マロースが侵入者を知らせたんだ、まさかまた殺し屋相手に無茶を……」
マリオンの姿を改めて確認し、アルマーズの顔は曇った。
ワイシャツのボタンはほとんどなくなり、前がはだけて肌が顕になっている。手首や頬は赤く腫れ、首筋には小さな赤い痕が点々と残っていた。
「……なにがあったんだ?」
「これは……知らない男が……でも、もう逃げました」
「おいマロース!」アルマーズは猫に向かって怒鳴った。「こんなことになるまで気づかなかったとは、どういうことだ!」
〈原因不明のスリープ状態にありました。まだ複数のエリアが復帰できていません〉
「居眠りしてたのか、役立たずめ!マリオン、悪かった……」
アルマーズはマリオンを抱きしめた。
「学長……」
「おれを狙ったやつに違いない。おれのせいだ。犯人は絶対に許さない、必ず捕まえる!」
「やめてください、警察には誤報だと言って!」
「なぜだ?」
「おれは一度ひどい目に遭ってるんです、もう大ごとになるのはいやなんです」
「もうひとりで闘わせたりしない!」
アルマーズの身体は、怒りでぶるぶると震えた。
「また間に合わなかった。おれは口ばかりで、なにも守れやしない。二度と失いたくないのに、おれのせいで……」
「おれはそんなに弱くない」
マリオンはアルマーズの背中をさすり、宥める。
「油断したおれのミスです。こうなる可能性はあったのに……学長、この始末は自分でつけるから、お願い、そばにいてください、それだけでいい、それ以上なんて望まない」
「マリオン……」
「しっ……だれか来る」
「え?」
またひとり、床を踏み鳴らして歩く足音が近づいている。
アルマーズもその音に気づき、ほうきを自分のほうへ引き寄せた。
扉を開け放してあった入口に、黒い大きな人影が現れた。
アルマーズとマリオンはごくりと息を呑み、身構えた。
「なんだ、まだふたりで仕事してたんですか?」
入口に現れたのは、イアリートだった。
寸足らずなレザージャケットにチノパンというラフな格好で、両手に大きな紙袋を抱えている。
「床に座って、なにしてるんです、掃除ですか?」
「イアリート」アルマーズは構えたまま、「休みだろ、どうしてここにいるんだ?」
それは、と答えようとしたイアリートは、マリオンがこっそりワイシャツの前を合わせるのを見て、思わず紙袋を落とした。
なかで、がしゃんとガラスの割れる音がした。
まるでその音がなにかのスイッチだったかのように、イアリートはかっと目を見開くと、獣のようにアルマーズに飛びかかった。
「職権乱用だ!このゲス野郎!」
「わ、なに言ってんだ、こいつは、く、苦しい……!」
「このばか、やめろ!」
マリオンはイアリートの襟を掴むと、これでもかと引っ張った。
我を忘れた巨体に首を絞められ(さすがのアイヴァも敵わない)、今度こそアルマーズは気を失いかけた。
その寸前でマリオンはイアリートを引き剥がし、勢い余って尻もちをついた。そのまま床に仰向けになると、怒りでまた目頭が熱くなった。
この力を、どうしてパパに対して発揮できなかったんだ!
アルマーズも床にひっくり返った。イアリートに頭を振られ、軽く脳震盪を起こしていた。
イアリートはというと、床に突っ伏して、おいおいと泣きだした。
「泣きたいのはこっちだ!」
仰向けのままアルマーズが怒鳴った。
「おれを殺す気か!」
「だって、だって、マリオンを無理やり……」
「そんなわけないだろ」とマリオン。
イアリートは鼻垂れ顔を上げ、
「違うの?」
「当たり前だ!」とアルマーズ。「きみのほうこそ怪しい。休日だぞ、なにしに来た?」
「それは、その……マリオンにメールしてみたけど返信がなくて、もう仕事は終わってるかなあと思って寮に行ってみたけどいなかったんで、じゃあここかなあと」
「ほら見ろ、やってることは立派なストーカーじゃないか!どいつもこいつも……頭にきた!」
アルマーズは床に手をついてどうにか立ち上がると、呆然としている巨体の前に仁王立ちした。
「今日を限りにマリオンへの未練はきっぱり捨てろ」
「な、そんな、横暴ですよ!いくら学長でも人の気持ちに口出しする権利はない!」
「黙れ!こんなもん捨ててやるわ!」
アルマーズは上着の襟の校章を乱暴にむしり取り、床へ投げ捨てた。
「学長としてではなく、アルマーズ・リースチヤとして忠告する。おれのマリオンに、近づくな」
イアリートは口をぽっかり開けたまま固まってしまった。
マリオンもまた、呆気にとられて言葉が出なかった。
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