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女官見習いな日々 ~尚服局~
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春麗や明蘭と一緒にあっちこちで仕事をして、見習いと過ごし始めるとあっという間に1か月がたった。
とにかく下級の宮仕えなんて、暇はほんとにない。
「貧乏暇なし」ってこのことかも・・・。
なによりも、この世界についての知識のない私は覚えることが彼女たちの何倍もある。
ほんと、同じ組が彼女たちでよかった・・・。
まず、見習いとして働くときに覚えさせられたのが各尚と、妃嬪について。
まぁ、妃嬪については当然だよね。
基本は多分、わたしの世界でいう中国の後宮と同じだと思う。
まず後宮で最高位にいるのが、当然皇后。いまはまだ空席になっているらしい。
んで、次が四夫人。妃の称号をあたえられる人で、今はこのうち2席が埋まっている。
その下に九嬪。このうち半数以上の6席が埋まっている。
二十七世婦、八十一御妻と続くらしいけど、上にあげた嬪までがほぼ権力者。
世婦の方々は、皇帝のお気に入りとか上の位のお姉さまがいれば有利だけど、ある意味妃としては真ん中。
まいて宝林以下のお妃は、とりあえずお妃という身分をもつ女官と変わらないらしい。
身の回りのお世話をする女官はついてひとり。4人ほどで一つの房を分けて使い、お仕事もされるって。
だけど一応お妃さま。
私たち女官とはまったく別、らしい。
それで私たちは、6の部署に最終的に振り分けられるらしいんだ。
総務・衣・食事・礼節・工芸・住居にわかれるらしい。ほんとはもっと専門的な言葉を使われたけど、私の頭の中ではそう変換。
見習いの間はこの各部署の雑用を手伝いにいく。
真客が現れたかもってことで、その宮に仕えるべく人を割いたのと、各部署がそれぞれ移動に伴って妃嬪たちからも女官を配属させてほしいというお願いなどが重なった結果、下位の女官を位上げしてやることを再振り分けした。
で、そうすると下位の女官が足りなくなる、ということで今回の大量募集になったという筋書きだって明蘭が教えてくれた。
大量募集とはいえ、皇帝が変わったりしたときの大規模なものよりは全然すくない。
けど、一応私たちの房のほかにあとみっつ。ぜんぶで48人が集められている。
見習いのうちは3人ひとくみだけど、女官として割り振られるときには同じ組のひとと別れた場所へ希望してもいいらしい。
わたしはできればこのまま明蘭と春麗といっしょがいいんだけど。
「あんたが、よけなことするから!!」
「なによ。先に頼まれたのはこの仕事でしょう!?」
ああ。また始まった・・・。
はぁっとため息をつきならが私は、後ろを振り返る。同じ仕事をしていた明蘭と春麗も同じようにため息をつく。
いま私たちがいるのは、尚服の仕事場。
刺繍をする糸を延々同じ色だけを集めたり、束にしたりという地味なお仕事。
私たちが集めて、籠にのせたそれぞれの糸で問題なければ女官さんたちが、衣装や壁掛け、ハンカチなどを縫うのだ。
その仕事中に、同じ房で暮らすほかの組が言い争いを始めていた。
最近多いんだよね。
「昭容(ショウヨウ)さまの女官さまから、頼まれた糸が先よ!」
「これはその前に頼まれていたわ」
「そんな仕事より、妃嬪のかたの仕事がさきでしょう!」
簡単にいえば、先着順できちんと仕事をしようとしているもの対権力による便宜をはかろうとするもの。
ここはほんとに尚服のなかでも末端の場所だけど、だからこそかな?
尚服に頼まれるお仕事のほかに、各妃嬪の方の女官さんたちが糸をもらいにきたりする。
そうすると今みたいに順番が入れ替わるときがあるんだ。
変な話、ここは尚服に属する場所だけどそこで働く女官さんの多くは、この下っぱな仕事を経験しているからよほど納期に期限が間に合わなそうなものに使う糸じゃなければ、少しくらい遅くても笑って許してくれる。
だけど、各妃嬪のお付きの方は、ほんとその方次第なんだよねー。
だから早く用意したほうがいいのもほんと。でも、なー。
「あなたは、あの女官さまに媚売りたいだけでしょ」
あーあ、言っちゃった。
そう。問題は、この優先的に仕事をすることによる見返りを求めているひとが少なからずいること。
でも悪い事じゃないとは思うんだけどさ。
それがまじめちゃんとおなじ組みってのが問題で、毎回彼女たちの組は大騒ぎしてる。
正直に言えば、間に挟まれちゃってるおとなしめなもうひとりの子がかわいそうなんだよね。
かーっとしたのか媚売ってる言われたほうが、手を振り上げる。
「やめなって。叩いてもいいことないよ」
思わず立ち上がって、叩こうとしていたほうの手をつかむ。
「邪魔しないでよ!」
「おちつきなって。ここで大喧嘩したら、衣尚服が来ちゃうよ?」
私の言葉に、怒鳴ろうとしていた言葉をぐっと飲み込む彼女。
仕事中、私語を禁じられているわけじゃない。適度なおしゃべりは見逃してもらえる。
けど、喧嘩したりして作業を中断させれば、残業や食事の時間にまでやるようにいわれることもあり得るのだ。
その辺は、さすがに見習いとはいえきっちりとされている。
「女官さまはいつ取りに来るの?メイファン?」
「・・・・お昼よ」
「そっちの籠は?いつ?」
「これもお昼よ。茉莉」
女官がとりにくるという籠も、尚服局の籠もおなじお昼。
尚服の籠はすでに数種類はいっているけど、女官の籠はカラ。ってことは、また朝頼みにきて、昼に持ってこい、かな。
「私たちの籠はいつまで?」
「衣装用の糸だから種類が多いわ。それがふた籠が2組よ」
ふむ。たしか、側近の女官さまのものと、妃嬪の方のものでどちらも豪華だから糸がたくさんいるのよね。
「わかったわ。やり方を変えましょう、みんな」
「どうするの?茉莉」
「一つの籠に、ひとりかふたりついてあっちこち歩き回るから、時間がかかるの。探すのに、どうしても何度も見返したり、戻ったりするから」
「そうね。同じ赤でも何種類もあるもの」
明蘭がそう言って刺繍糸の並ぶ棚をみてため息をつく。
そう、何度も同じ棚にいくことがあるのだ。
刺繍している女官さんは、自分が縫うところで使う糸を上から順に書いていく。
だから、花の刺繍で赤系を使う、そのしたの茎や模様の色のあとに、蝶などでまた赤系が出てきたときはまたそこに書き足す。
探すほうは、赤の棚へいき、茎の緑にいき、また他の色をまわってから赤に行くことになるのだ。
「まず、この4つの籠の付箋から、色ごとに書き出しましょう」
「そんなことするより探すほうが早いわ!」
「こんなに種類があるうえに、順番はばらばらよ。まとめたほうがいいわ」
「そんな必要ないわ!私ひとりでやる!!」
そう言って籠とメモをもって棚に向かうメイファン。
おろおろとする同じ組のリンリ―と、アイランが呆れたようにメイファンの背中をみる。
「放っておきなさいよ、茉莉。それで?色ごとに書き出すのね」
「そう。赤系、青系、緑系、黄色系、あとはあっちの雑多な棚に入っている分ね」
春麗の言葉に頷いて、それぞれにその辺に放ってあるいらない紙と筆を渡す。
お昼までにそろえてと言われた私たちの組みの4籠と、リンリ―たちの組の2つを合わせた6籠をそろえたい。
そのなかでも、私たちの持っていた籠は衣装用のもので、手巾などの刺繍より種類が多い。
私たちだけでやる時は、レ点チェックをいれながらその日最初に担当した籠の一番上の色で棚を決めて分けている。
それぞれが、最初についた棚の分が終わったら隣の系統の棚にいるどっちかに渡していくって感じ。
まあ、そこに人がいればでみんなして同じ棚スタートのときは笑って、話しながらそれぞれの籠をやるんだけど。
今回は数が多いし、それよりは先に系統ごとにぜんぶ分けたほうがいい。
明蘭も、春麗もこの尚服に配属されてから数日、私が提案した色ごとで担当するやり方に慣れてくれているから拾うのが早い。
けど、リンリ―がとまりがち。色を分けるのが苦手かしら?
「リンリ―。悪いけどカラの籠を8個用意してもらってもいい?」
「いいわ。でも、これがまだ・・・」
「それは、私が書いちゃうわ」
そう言って笑って手を差し出すと、リンリ―はほっとした様子で付箋を私に渡して籠を取りに行く。
「書いたわ」
アイランが書いた四枚の紙を見せてくる。
「うん、じゃぁその紙の右上に1って数字振ってくれる?付箋のほうも目立たない隅っこに同じく1を書いて」
「わかった」
アイランは何するのか分かっていないながらも、従ってくれる。
それだけメイファンの女官さまびいきがいやだったのかな?
「こっちもかけたわ」
「私も」
「明蘭のは2と3。春麗のは4と5を振って。書き写した紙と、もとの付箋の紙の番号が同じになるように」
自分のものにも6を振って、今度は色ごとに分ける。
「籠、持ってきたわ」
「ありがとう、リンリ―」
さて、準備はできた。
なにをするかって?分業ですよ、分業。
「それで?どうするの」
アイランが付箋と、書き写した紙。カラの籠をみて首をかしげる。
付箋はもとの籠に戻して、付箋が飛ばないように重ねておく。そして持ってきてもらった籠に、色ごとに書き写した紙を入れる。
「いつもは付箋ごとに籠に入れるでしょう?そうじゃなくて、系統ごとに一回このカラ籠にあつめてきて、ここで再度割り振るの」
「?」
首を傾げるリンリ―に、笑ってもう少し詳しく説明する。
「一つずつとりにいくから時間がかかる。
だから、たとえば、赤系のなかの蘇芳なら、・・・1で5本、2で15本、4で20本、6で4本だから、全部で46本をとりあえず、籠にいれるでしょ?そのあと、同じ赤の棚にある緋色で2で10本、6で7本の17本を入れる。
それで集め終わったら、今度はその籠の中らそれぞれの籠に必要な本数だけいれるの」
そう言えば、納得したように頷くアイランとリンリ―。
先に似たようなことをしていたからか、春麗たちのほうはあまり驚くこともなく、手元の籠を持つ。
「じゃあ、リンリ―とアイランは最初ふたりで組んでやってくれる?緑・・が少なそうだから、どっちかが読みあげて二人で探せばいいわ」
「そうね。じゃあ、このめんどい棚を引き受けておくわ。終わった人からてつだって」
そう言って明蘭が一番色の種類がぐちゃぐちゃな棚の分を持って行ってくれる。
彼女はおしゃれで、色のことも詳しい。私たち三人のなかでも、一番色がわかるからいいだしてくれたのかな。
ほんと助かる!!
「じゃあ、茉莉が赤。私が黄色。終わったほうが青を先にやってから、明蘭の手伝いでどう?」
「いいよ。あ、リンリ―たちができそうなら、どっちかに手伝いにきて」
「「わかった」」
さあ、分業です!
正直に言おう。
めっちゃ、楽だった!
普段にひと手間書き直しっての入れただけでこうも違うのか。
まあ、数が多かったからで逆にいつもの3籠くらいなら、レ点チェックで籠を直で渡し会ったほうがはやいだろうけど。
あと、色が苦手そうだったリンリ―は探し物が得意みたいだった。
量の少ない緑のあと、アイランが先に青に手を付けてくれてリンリ―は明蘭の手伝いに行ったんだけど。
あの雑多な棚から欲しい色の場所をすぐに指差すらしい。
聞いたら普段は膨大すぎて探せないし、何系統って言われるとこまるけど、棚の場所を限定されて探すのは難しくないって。
つまり集中力とか注意力は高いんだろうな。だけど、どの色が何色の種類の名前かってまでは覚えてない。
箱には一応ラベルがついているから、その同じ名前がこの中にあると言われれば探せるってことみたい。
アイランのほうはまじめなだけあって、最後の籠にいれるときに本数を数えて検品してくるのがさすがだった。
ダブルチェックは納品の基本だよね、うん。
私たちもやってるけど、アイランがやってくれたのは早くて助かった。
うちらの場合、春麗は得意だけど根が大雑把な私と明蘭は向かないんだ。
量が量だけに、おひるぎりぎりになったけど尚服の女官さまが取りに来た時にはきっちり6籠終わりました。
正直、私たちの籠は量が多かっただけに難しければ午後になってからでも、って言うつもりだったって女官のお姉さんが笑って褒めてくれました。
メイファンのほうは・・・。
8割くらいだったのかな?女官様がきて、終わってないことに嫌味をいわれてたみたい。
お昼にも遅れてきて、私たちをめちゃくちゃにらんでた・・・。
一緒にやろうって、断ったの。自分じゃん。
とにかく下級の宮仕えなんて、暇はほんとにない。
「貧乏暇なし」ってこのことかも・・・。
なによりも、この世界についての知識のない私は覚えることが彼女たちの何倍もある。
ほんと、同じ組が彼女たちでよかった・・・。
まず、見習いとして働くときに覚えさせられたのが各尚と、妃嬪について。
まぁ、妃嬪については当然だよね。
基本は多分、わたしの世界でいう中国の後宮と同じだと思う。
まず後宮で最高位にいるのが、当然皇后。いまはまだ空席になっているらしい。
んで、次が四夫人。妃の称号をあたえられる人で、今はこのうち2席が埋まっている。
その下に九嬪。このうち半数以上の6席が埋まっている。
二十七世婦、八十一御妻と続くらしいけど、上にあげた嬪までがほぼ権力者。
世婦の方々は、皇帝のお気に入りとか上の位のお姉さまがいれば有利だけど、ある意味妃としては真ん中。
まいて宝林以下のお妃は、とりあえずお妃という身分をもつ女官と変わらないらしい。
身の回りのお世話をする女官はついてひとり。4人ほどで一つの房を分けて使い、お仕事もされるって。
だけど一応お妃さま。
私たち女官とはまったく別、らしい。
それで私たちは、6の部署に最終的に振り分けられるらしいんだ。
総務・衣・食事・礼節・工芸・住居にわかれるらしい。ほんとはもっと専門的な言葉を使われたけど、私の頭の中ではそう変換。
見習いの間はこの各部署の雑用を手伝いにいく。
真客が現れたかもってことで、その宮に仕えるべく人を割いたのと、各部署がそれぞれ移動に伴って妃嬪たちからも女官を配属させてほしいというお願いなどが重なった結果、下位の女官を位上げしてやることを再振り分けした。
で、そうすると下位の女官が足りなくなる、ということで今回の大量募集になったという筋書きだって明蘭が教えてくれた。
大量募集とはいえ、皇帝が変わったりしたときの大規模なものよりは全然すくない。
けど、一応私たちの房のほかにあとみっつ。ぜんぶで48人が集められている。
見習いのうちは3人ひとくみだけど、女官として割り振られるときには同じ組のひとと別れた場所へ希望してもいいらしい。
わたしはできればこのまま明蘭と春麗といっしょがいいんだけど。
「あんたが、よけなことするから!!」
「なによ。先に頼まれたのはこの仕事でしょう!?」
ああ。また始まった・・・。
はぁっとため息をつきならが私は、後ろを振り返る。同じ仕事をしていた明蘭と春麗も同じようにため息をつく。
いま私たちがいるのは、尚服の仕事場。
刺繍をする糸を延々同じ色だけを集めたり、束にしたりという地味なお仕事。
私たちが集めて、籠にのせたそれぞれの糸で問題なければ女官さんたちが、衣装や壁掛け、ハンカチなどを縫うのだ。
その仕事中に、同じ房で暮らすほかの組が言い争いを始めていた。
最近多いんだよね。
「昭容(ショウヨウ)さまの女官さまから、頼まれた糸が先よ!」
「これはその前に頼まれていたわ」
「そんな仕事より、妃嬪のかたの仕事がさきでしょう!」
簡単にいえば、先着順できちんと仕事をしようとしているもの対権力による便宜をはかろうとするもの。
ここはほんとに尚服のなかでも末端の場所だけど、だからこそかな?
尚服に頼まれるお仕事のほかに、各妃嬪の方の女官さんたちが糸をもらいにきたりする。
そうすると今みたいに順番が入れ替わるときがあるんだ。
変な話、ここは尚服に属する場所だけどそこで働く女官さんの多くは、この下っぱな仕事を経験しているからよほど納期に期限が間に合わなそうなものに使う糸じゃなければ、少しくらい遅くても笑って許してくれる。
だけど、各妃嬪のお付きの方は、ほんとその方次第なんだよねー。
だから早く用意したほうがいいのもほんと。でも、なー。
「あなたは、あの女官さまに媚売りたいだけでしょ」
あーあ、言っちゃった。
そう。問題は、この優先的に仕事をすることによる見返りを求めているひとが少なからずいること。
でも悪い事じゃないとは思うんだけどさ。
それがまじめちゃんとおなじ組みってのが問題で、毎回彼女たちの組は大騒ぎしてる。
正直に言えば、間に挟まれちゃってるおとなしめなもうひとりの子がかわいそうなんだよね。
かーっとしたのか媚売ってる言われたほうが、手を振り上げる。
「やめなって。叩いてもいいことないよ」
思わず立ち上がって、叩こうとしていたほうの手をつかむ。
「邪魔しないでよ!」
「おちつきなって。ここで大喧嘩したら、衣尚服が来ちゃうよ?」
私の言葉に、怒鳴ろうとしていた言葉をぐっと飲み込む彼女。
仕事中、私語を禁じられているわけじゃない。適度なおしゃべりは見逃してもらえる。
けど、喧嘩したりして作業を中断させれば、残業や食事の時間にまでやるようにいわれることもあり得るのだ。
その辺は、さすがに見習いとはいえきっちりとされている。
「女官さまはいつ取りに来るの?メイファン?」
「・・・・お昼よ」
「そっちの籠は?いつ?」
「これもお昼よ。茉莉」
女官がとりにくるという籠も、尚服局の籠もおなじお昼。
尚服の籠はすでに数種類はいっているけど、女官の籠はカラ。ってことは、また朝頼みにきて、昼に持ってこい、かな。
「私たちの籠はいつまで?」
「衣装用の糸だから種類が多いわ。それがふた籠が2組よ」
ふむ。たしか、側近の女官さまのものと、妃嬪の方のものでどちらも豪華だから糸がたくさんいるのよね。
「わかったわ。やり方を変えましょう、みんな」
「どうするの?茉莉」
「一つの籠に、ひとりかふたりついてあっちこち歩き回るから、時間がかかるの。探すのに、どうしても何度も見返したり、戻ったりするから」
「そうね。同じ赤でも何種類もあるもの」
明蘭がそう言って刺繍糸の並ぶ棚をみてため息をつく。
そう、何度も同じ棚にいくことがあるのだ。
刺繍している女官さんは、自分が縫うところで使う糸を上から順に書いていく。
だから、花の刺繍で赤系を使う、そのしたの茎や模様の色のあとに、蝶などでまた赤系が出てきたときはまたそこに書き足す。
探すほうは、赤の棚へいき、茎の緑にいき、また他の色をまわってから赤に行くことになるのだ。
「まず、この4つの籠の付箋から、色ごとに書き出しましょう」
「そんなことするより探すほうが早いわ!」
「こんなに種類があるうえに、順番はばらばらよ。まとめたほうがいいわ」
「そんな必要ないわ!私ひとりでやる!!」
そう言って籠とメモをもって棚に向かうメイファン。
おろおろとする同じ組のリンリ―と、アイランが呆れたようにメイファンの背中をみる。
「放っておきなさいよ、茉莉。それで?色ごとに書き出すのね」
「そう。赤系、青系、緑系、黄色系、あとはあっちの雑多な棚に入っている分ね」
春麗の言葉に頷いて、それぞれにその辺に放ってあるいらない紙と筆を渡す。
お昼までにそろえてと言われた私たちの組みの4籠と、リンリ―たちの組の2つを合わせた6籠をそろえたい。
そのなかでも、私たちの持っていた籠は衣装用のもので、手巾などの刺繍より種類が多い。
私たちだけでやる時は、レ点チェックをいれながらその日最初に担当した籠の一番上の色で棚を決めて分けている。
それぞれが、最初についた棚の分が終わったら隣の系統の棚にいるどっちかに渡していくって感じ。
まあ、そこに人がいればでみんなして同じ棚スタートのときは笑って、話しながらそれぞれの籠をやるんだけど。
今回は数が多いし、それよりは先に系統ごとにぜんぶ分けたほうがいい。
明蘭も、春麗もこの尚服に配属されてから数日、私が提案した色ごとで担当するやり方に慣れてくれているから拾うのが早い。
けど、リンリ―がとまりがち。色を分けるのが苦手かしら?
「リンリ―。悪いけどカラの籠を8個用意してもらってもいい?」
「いいわ。でも、これがまだ・・・」
「それは、私が書いちゃうわ」
そう言って笑って手を差し出すと、リンリ―はほっとした様子で付箋を私に渡して籠を取りに行く。
「書いたわ」
アイランが書いた四枚の紙を見せてくる。
「うん、じゃぁその紙の右上に1って数字振ってくれる?付箋のほうも目立たない隅っこに同じく1を書いて」
「わかった」
アイランは何するのか分かっていないながらも、従ってくれる。
それだけメイファンの女官さまびいきがいやだったのかな?
「こっちもかけたわ」
「私も」
「明蘭のは2と3。春麗のは4と5を振って。書き写した紙と、もとの付箋の紙の番号が同じになるように」
自分のものにも6を振って、今度は色ごとに分ける。
「籠、持ってきたわ」
「ありがとう、リンリ―」
さて、準備はできた。
なにをするかって?分業ですよ、分業。
「それで?どうするの」
アイランが付箋と、書き写した紙。カラの籠をみて首をかしげる。
付箋はもとの籠に戻して、付箋が飛ばないように重ねておく。そして持ってきてもらった籠に、色ごとに書き写した紙を入れる。
「いつもは付箋ごとに籠に入れるでしょう?そうじゃなくて、系統ごとに一回このカラ籠にあつめてきて、ここで再度割り振るの」
「?」
首を傾げるリンリ―に、笑ってもう少し詳しく説明する。
「一つずつとりにいくから時間がかかる。
だから、たとえば、赤系のなかの蘇芳なら、・・・1で5本、2で15本、4で20本、6で4本だから、全部で46本をとりあえず、籠にいれるでしょ?そのあと、同じ赤の棚にある緋色で2で10本、6で7本の17本を入れる。
それで集め終わったら、今度はその籠の中らそれぞれの籠に必要な本数だけいれるの」
そう言えば、納得したように頷くアイランとリンリ―。
先に似たようなことをしていたからか、春麗たちのほうはあまり驚くこともなく、手元の籠を持つ。
「じゃあ、リンリ―とアイランは最初ふたりで組んでやってくれる?緑・・が少なそうだから、どっちかが読みあげて二人で探せばいいわ」
「そうね。じゃあ、このめんどい棚を引き受けておくわ。終わった人からてつだって」
そう言って明蘭が一番色の種類がぐちゃぐちゃな棚の分を持って行ってくれる。
彼女はおしゃれで、色のことも詳しい。私たち三人のなかでも、一番色がわかるからいいだしてくれたのかな。
ほんと助かる!!
「じゃあ、茉莉が赤。私が黄色。終わったほうが青を先にやってから、明蘭の手伝いでどう?」
「いいよ。あ、リンリ―たちができそうなら、どっちかに手伝いにきて」
「「わかった」」
さあ、分業です!
正直に言おう。
めっちゃ、楽だった!
普段にひと手間書き直しっての入れただけでこうも違うのか。
まあ、数が多かったからで逆にいつもの3籠くらいなら、レ点チェックで籠を直で渡し会ったほうがはやいだろうけど。
あと、色が苦手そうだったリンリ―は探し物が得意みたいだった。
量の少ない緑のあと、アイランが先に青に手を付けてくれてリンリ―は明蘭の手伝いに行ったんだけど。
あの雑多な棚から欲しい色の場所をすぐに指差すらしい。
聞いたら普段は膨大すぎて探せないし、何系統って言われるとこまるけど、棚の場所を限定されて探すのは難しくないって。
つまり集中力とか注意力は高いんだろうな。だけど、どの色が何色の種類の名前かってまでは覚えてない。
箱には一応ラベルがついているから、その同じ名前がこの中にあると言われれば探せるってことみたい。
アイランのほうはまじめなだけあって、最後の籠にいれるときに本数を数えて検品してくるのがさすがだった。
ダブルチェックは納品の基本だよね、うん。
私たちもやってるけど、アイランがやってくれたのは早くて助かった。
うちらの場合、春麗は得意だけど根が大雑把な私と明蘭は向かないんだ。
量が量だけに、おひるぎりぎりになったけど尚服の女官さまが取りに来た時にはきっちり6籠終わりました。
正直、私たちの籠は量が多かっただけに難しければ午後になってからでも、って言うつもりだったって女官のお姉さんが笑って褒めてくれました。
メイファンのほうは・・・。
8割くらいだったのかな?女官様がきて、終わってないことに嫌味をいわれてたみたい。
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