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見習い女官の日々~尚儀局~
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尚服局でメイファンとちょっともめてしまったけど、そこでの仕事は楽しかった。
リンリ―とアイランとはそのかわりというように、仲良くなった。
なんだかんだと仕事を一緒にするうちに、彼女たちとは仲良くなったけどその分メイファンがひとりでいることも増えてしまったのは、まずいなぁっと思った。
ハブにされる人がいるとそれがいじめの標的にされたりするからなぁ・・・。
なるべく話しかけたりしてたんだけど、彼女のほうはそれが気に入らないのか嫌われてしまったみたい。
明蘭たちは私をお人よし、っていうけど・・・。
そういうのとはちょっと違うんだよなぁ。
まあ、5人で尚服局の仕事をメインでやって、メイファンは宮の女官たちの仕事をやるってことで分担、でなんとか尚服局では仕事をこなしていたんだ。
その結果、なんだかんだで尚服局の女官さんたちには気に入ってもらえたからよかったのかも。
メイファンのほうはどうだかわからないけど・・・。
そして、昨日から新しい局へ移動したんだ。
そこは、尚儀局。
礼節というか、宮中の儀式や儀礼を司るところ。
総じて工芸以外の芸能も扱っているから、ここでの仕事期間は長く取られている。
いくつも細かく分けられた担当箇所があって、私たちの班はいま音楽を扱う房の担当している。
書き散らかされた譜面を片づけたり、簡単な楽器の手入れなんかをする。
まぁ、楽器に触ったりしている時間よりほうきで床を履いてる時間のほうが断然長いんだけど。
ちなみにこの音楽を扱う房を「楽房(がくぼう)」というのだけど、すごい人気があるんだよね。
なぜかというと、音楽を扱う官吏、つまり男性がいる都合、後宮と官吏たちの働く前宮との間に会って、男性と知り合う機会が他の局よりずっと多いから。
お妃としては後宮に入った御妻以上の女官は別にして、普通の女官たちは結婚ができる。
皇帝からの褒美として臣下に下げ渡されることもあるし、願い出て許可がでることもあるらしい。
だからか、後宮でお妃としての地位を期待できないと思ってる人は、こういう男性と知り合う機会のある房を希望するって、春麗がいってた。
まぁ、妥当だよね。
たったひとりの男性をとりあう後宮のお妃より、稼ぎは少なくてもよくて数人の奥さんと、うまくすれば唯一の妻になれる官吏。
どっちがなりやすいかって言えば、後者だもんなぁ。
「茉莉は、そういうのないの?」
とくとくと解説してくれた春麗が、笑って私に聞いてきた。
明蘭も暇なのか楽しげに、笑ってわたしの返事を待っている。
まぁ、女の子が集まるとこうなるよね。
「んー?いまは、そういうのはいいかなぁ」
「あら、見習いの間から目を付けておくといいわよー?いい人は結構さっさと売れちゃうもんよ?」
「春麗たち、忘れてるだろうけど・・・。そのまえに、私自分のことどうにかしないと・・・」
私がそう苦笑を浮かべて言うと、ふたりしてはっと言う顔をした。
そういえばそうだったと、二人は苦笑しながら頷いたあと私の肩をたたいて、気にしないように言う。
う・・・、ごめんね。嘘ついてて。
記憶がないんじゃないんだよー。身分を偽ってるんだよー、この世界の人間じゃないんだよー。
そう言えればいいんだけど、まだいう勇気がない。
明蘭も、春麗もいい人だと思うけれど、もし私が渡客だとわかって態度を変えたりしないかは、どうしてもまだ確信がもてない。
態度が変わってしまうのが、怖いんだ。
渡客だからってなにがと言えるだけの、確認がない。
この世界のひとたちが、異界人につらくあたるわけではないというのは渡客の話を聞いたときからわかってる。
けど、渡客が富をもたらすと信じているこの世界のひとが、もし私がそうだとわかったときに、いままでの関係をまるでなかったかのようにして、態度を変えるかどうかがわからないのが、怖い。
まぁ、どうせ小心者、ってことなんだけど。
まだこの国には、現代の日本でおなじみの五線譜はないみたい。
漢字で書かれている譜面は、正直まったくわからないんだけど、おもしろいよね。
カラオケとか好きだったし、子どもの頃は母さんの趣味でピアノを習わされていたけど、あんまり上達しなかったんだよなぁ。
床をはいたりと単調な作業をしていると、思わず鼻歌がでるなぁ。
右から左へ動かす作業に合わせて小さくうたっていると、おもしろがって春麗たちが続きを促す。
そうやって次から次へ周りからせがまれて、いろいろ口ずさむ。
うろ覚えのものもあるけど、楽しくって周りの反応も面白くてうたっていると、気づけば尚儀や上級女官たちが寄って来ていた。
やばっ、仕事さぼってるのばれた?!
「申し訳ありません」
あわてて床に膝をつく私たち。
私たち見習いだけじゃなくって、一緒にしゃべっていた下級女官たちも一緒に膝をついている。
ひゃー。こう考えると、後宮に入り込むために尚儀に助けてもらったけど、それってかなりすごいことなんだよね?
これって新入社員が、いきなり専務とかに助けてもらったみたいなもんか?
「お立ちなさい。楽しそうな歌だったわね」
そう言って、笑ってくれる尚儀はほんとうにいい人だ。
優しいおねえさんって感じで、この尚儀局の女官たちにもすごく慕われている。
わたしの顔をみて、覚えていてくれたのかちょっと驚いた顔をしたあとに笑って、まわりにいる女官に声をかける。
「あなたたちが作った歌、だったのかしら」
「いいえ、李尚儀。見習いの茉莉が作った歌です」
「あなたが・・・?」
意外そうにこちらをみる尚儀の視線に、ますます顔を伏せてやり過ごそうとするけど、無理だった。
にっこりと笑った尚儀は、私の手を握って顔をあげさせるとこともなげにいってのけたのだ。
「あなたが考えた歌は、ちょっと変わっているけど興味深いわ。ぜひ、みんなに教えてあげてね」
お願いのような言葉を使ってるけど、それ命令ですよね。
リンリ―とアイランとはそのかわりというように、仲良くなった。
なんだかんだと仕事を一緒にするうちに、彼女たちとは仲良くなったけどその分メイファンがひとりでいることも増えてしまったのは、まずいなぁっと思った。
ハブにされる人がいるとそれがいじめの標的にされたりするからなぁ・・・。
なるべく話しかけたりしてたんだけど、彼女のほうはそれが気に入らないのか嫌われてしまったみたい。
明蘭たちは私をお人よし、っていうけど・・・。
そういうのとはちょっと違うんだよなぁ。
まあ、5人で尚服局の仕事をメインでやって、メイファンは宮の女官たちの仕事をやるってことで分担、でなんとか尚服局では仕事をこなしていたんだ。
その結果、なんだかんだで尚服局の女官さんたちには気に入ってもらえたからよかったのかも。
メイファンのほうはどうだかわからないけど・・・。
そして、昨日から新しい局へ移動したんだ。
そこは、尚儀局。
礼節というか、宮中の儀式や儀礼を司るところ。
総じて工芸以外の芸能も扱っているから、ここでの仕事期間は長く取られている。
いくつも細かく分けられた担当箇所があって、私たちの班はいま音楽を扱う房の担当している。
書き散らかされた譜面を片づけたり、簡単な楽器の手入れなんかをする。
まぁ、楽器に触ったりしている時間よりほうきで床を履いてる時間のほうが断然長いんだけど。
ちなみにこの音楽を扱う房を「楽房(がくぼう)」というのだけど、すごい人気があるんだよね。
なぜかというと、音楽を扱う官吏、つまり男性がいる都合、後宮と官吏たちの働く前宮との間に会って、男性と知り合う機会が他の局よりずっと多いから。
お妃としては後宮に入った御妻以上の女官は別にして、普通の女官たちは結婚ができる。
皇帝からの褒美として臣下に下げ渡されることもあるし、願い出て許可がでることもあるらしい。
だからか、後宮でお妃としての地位を期待できないと思ってる人は、こういう男性と知り合う機会のある房を希望するって、春麗がいってた。
まぁ、妥当だよね。
たったひとりの男性をとりあう後宮のお妃より、稼ぎは少なくてもよくて数人の奥さんと、うまくすれば唯一の妻になれる官吏。
どっちがなりやすいかって言えば、後者だもんなぁ。
「茉莉は、そういうのないの?」
とくとくと解説してくれた春麗が、笑って私に聞いてきた。
明蘭も暇なのか楽しげに、笑ってわたしの返事を待っている。
まぁ、女の子が集まるとこうなるよね。
「んー?いまは、そういうのはいいかなぁ」
「あら、見習いの間から目を付けておくといいわよー?いい人は結構さっさと売れちゃうもんよ?」
「春麗たち、忘れてるだろうけど・・・。そのまえに、私自分のことどうにかしないと・・・」
私がそう苦笑を浮かべて言うと、ふたりしてはっと言う顔をした。
そういえばそうだったと、二人は苦笑しながら頷いたあと私の肩をたたいて、気にしないように言う。
う・・・、ごめんね。嘘ついてて。
記憶がないんじゃないんだよー。身分を偽ってるんだよー、この世界の人間じゃないんだよー。
そう言えればいいんだけど、まだいう勇気がない。
明蘭も、春麗もいい人だと思うけれど、もし私が渡客だとわかって態度を変えたりしないかは、どうしてもまだ確信がもてない。
態度が変わってしまうのが、怖いんだ。
渡客だからってなにがと言えるだけの、確認がない。
この世界のひとたちが、異界人につらくあたるわけではないというのは渡客の話を聞いたときからわかってる。
けど、渡客が富をもたらすと信じているこの世界のひとが、もし私がそうだとわかったときに、いままでの関係をまるでなかったかのようにして、態度を変えるかどうかがわからないのが、怖い。
まぁ、どうせ小心者、ってことなんだけど。
まだこの国には、現代の日本でおなじみの五線譜はないみたい。
漢字で書かれている譜面は、正直まったくわからないんだけど、おもしろいよね。
カラオケとか好きだったし、子どもの頃は母さんの趣味でピアノを習わされていたけど、あんまり上達しなかったんだよなぁ。
床をはいたりと単調な作業をしていると、思わず鼻歌がでるなぁ。
右から左へ動かす作業に合わせて小さくうたっていると、おもしろがって春麗たちが続きを促す。
そうやって次から次へ周りからせがまれて、いろいろ口ずさむ。
うろ覚えのものもあるけど、楽しくって周りの反応も面白くてうたっていると、気づけば尚儀や上級女官たちが寄って来ていた。
やばっ、仕事さぼってるのばれた?!
「申し訳ありません」
あわてて床に膝をつく私たち。
私たち見習いだけじゃなくって、一緒にしゃべっていた下級女官たちも一緒に膝をついている。
ひゃー。こう考えると、後宮に入り込むために尚儀に助けてもらったけど、それってかなりすごいことなんだよね?
これって新入社員が、いきなり専務とかに助けてもらったみたいなもんか?
「お立ちなさい。楽しそうな歌だったわね」
そう言って、笑ってくれる尚儀はほんとうにいい人だ。
優しいおねえさんって感じで、この尚儀局の女官たちにもすごく慕われている。
わたしの顔をみて、覚えていてくれたのかちょっと驚いた顔をしたあとに笑って、まわりにいる女官に声をかける。
「あなたたちが作った歌、だったのかしら」
「いいえ、李尚儀。見習いの茉莉が作った歌です」
「あなたが・・・?」
意外そうにこちらをみる尚儀の視線に、ますます顔を伏せてやり過ごそうとするけど、無理だった。
にっこりと笑った尚儀は、私の手を握って顔をあげさせるとこともなげにいってのけたのだ。
「あなたが考えた歌は、ちょっと変わっているけど興味深いわ。ぜひ、みんなに教えてあげてね」
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