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第一章 OBEY

第二十一 入獄

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れっきとした、水戸藩附家老久藤家みとはんふかろうくどうけの若君は……」

 
 千尋は、京都町奉行所の敷地の中に建てられた、獄舎ごくしゃの壁にもたれながら、うたうように言い足した。


「蔦屋を兄とも師とも慕う者だそうだな。初耳だ」
「千尋さん」
 

 すぐ側の文机ふづくえに向かい、硯で墨を擦っていた佑輔は、咎めるような声を出す。

「嘘も方便というものです。本気にしてもらっては困ります」
 

 眉根を寄せて睨みを利かせた佑輔に、千尋はクッと喉を鳴らして嘲笑した。
 そのまま畳に仰向けに寝転ぶと、腕枕をして横になる。


 本来ならば町人は、板敷きの大牢たいろうに大人数で押し込められ、横になることすらも叶わないまま、
膝を抱えて眠らなければならない身分だ。
 扱いだ。

 にも関わらず、佑輔が自分も町人と同じ大牢に入獄させろと、奉行所の与力の本間に、ごね出した。


 奉行所には大牢とは別格の、武士や僧侶を留置させる揚屋あげやがあるのだ。

 佑輔は、大牢に自分も入所をさせるか、自分と同じく千尋も揚屋に逗留とうりゅうさせるか、どちらか選べと本間に迫った。冷然と。


 選んでいいと言われたところで選びようがないことは、承知の上でのごり押しだ。

 結局、二人して揚屋に入牢した。

 揚屋の八畳の間は青々とした畳敷き。絹の夜具も書も文机も揃っている。
 もちろん相部屋ではなく、二人の他に先客もない。

 見廻り役が監視を行う物々しい格子すらなく、廊下に面した木戸にのみ、錠が掛かっているだけだ。


 生まれながらに宿命づけをされる身分が、死の瞬間まで待遇を分かち、徹底的に選別する。
 千尋は胸の中で反吐へどを吐く。


 そんな身分の頂点に近い階層に、類する佑輔にまで反目したくなった千尋は、背を向けるために寝返りをうつ。

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