26 / 96
第一章 OBEY
第二十六話 路傍の猫
しおりを挟む
出自も気質も何もかも違うふたりが、互いの体温だけを拠り所にして 路傍で寄り添い、健気に生きる野良猫に見える。
堤は牢屋奉行が開けた木戸をくぐって座敷に入りるなり、ふいに胸を詰まらせる。
藍染の蚊遣りの中。
布団はふたつ延べてあるのに、ひとつの布団で額をあわせ、千尋と佑輔は丸くなって眠っている。
佑輔は千尋の肩に腕を回し、千尋もそれを許している。
安心しきった寝顔のふたりを今から修羅へと引き戻す。
それが自分の務めなのだと思っても、やはり心は痛むのだ。
「千尋」
堤は小声で名を呼んだ。
と、同時に跳ね起きて、枕元をまさぐった千尋は彼の脇差を掴み取る。
鞘から抜いて身構える。
けれども庭に面した障子から差し込む朝日を顔に受け、あどけなく双眸を瞬かせた。
「……堤さん」
「よくもまぁ。……呑気に朝寝しやがって」
「こっちもてっきり、見捨てられたかと思いましたよ。あんまり迎えが遅いから」
堤は苦虫を噛みつぶしたように、精悍な顔を歪めさせたが、千尋は堤と分かるなり、脇差を手近に置いて伸びをした。
そうして畳の上であぐらをかき、脇やら腹やら掻いて言う。
「出迎えですか? それとも何かの差し入れですか?」
このまま放免されるのか、まだ逗留が続くのか。
千尋は堤を上目に見ながら、ほくそ笑む。
堤は牢屋奉行が開けた木戸をくぐって座敷に入りるなり、ふいに胸を詰まらせる。
藍染の蚊遣りの中。
布団はふたつ延べてあるのに、ひとつの布団で額をあわせ、千尋と佑輔は丸くなって眠っている。
佑輔は千尋の肩に腕を回し、千尋もそれを許している。
安心しきった寝顔のふたりを今から修羅へと引き戻す。
それが自分の務めなのだと思っても、やはり心は痛むのだ。
「千尋」
堤は小声で名を呼んだ。
と、同時に跳ね起きて、枕元をまさぐった千尋は彼の脇差を掴み取る。
鞘から抜いて身構える。
けれども庭に面した障子から差し込む朝日を顔に受け、あどけなく双眸を瞬かせた。
「……堤さん」
「よくもまぁ。……呑気に朝寝しやがって」
「こっちもてっきり、見捨てられたかと思いましたよ。あんまり迎えが遅いから」
堤は苦虫を噛みつぶしたように、精悍な顔を歪めさせたが、千尋は堤と分かるなり、脇差を手近に置いて伸びをした。
そうして畳の上であぐらをかき、脇やら腹やら掻いて言う。
「出迎えですか? それとも何かの差し入れですか?」
このまま放免されるのか、まだ逗留が続くのか。
千尋は堤を上目に見ながら、ほくそ笑む。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
20
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる