あのエピローグのつづきから 〜勇者殺しの勇者は如何に勇者を殺すのか〜

shirose

文字の大きさ
12 / 182
第一章 勇者殺しの勇者

第11話 さぁ、話をしようか

しおりを挟む
 時刻は午前2時20分を回っていた。
 夜は更け、二つの月が俺らを照らしていた。
 金属のテーブルを間に置いた反対側に漆黒の角を生やした真っ白な少女が座っている。

 ヴェロアと名乗る彼女は自らを魔皇と称し、俺に『勇者の全滅』を命令した。

『こっちも月が綺麗なのは同じだな、ノウト』

「同じ空の下に居るから当然だよ。……このタイミングで現れたってことは姿は見えなくとも、こっちの様子は確認出来てるってことなのか?」

 ヴェロアが俺以外の人間に見えていないと知りつつも周りに誰も居ないので口頭で会話する。
 見られた場合、完全に頭がおかしい人になるが、小声で話してれば大して目立たないだろう。
 これは一対一で面と向かって話してくれる魔皇であるヴェロアに敬意を払うが故の行為だ。

『まぁ、そういうことになるな。……あっ、えっと。にゅ、入浴中は見てないから安心してくれ』

「そ、そう」

 どうでもいいような、どうでもよくないような微妙な情報だ。

「色々と質問したい。こっちから質問攻めになると思うがいいか?」

『ああ。もちろん。何にでも答えるぞ』

 俺はまず一つ気になっていたことを彼女に問うことにした。

「ヴェロアが死ぬと俺も死ぬっていうのはどういう意味なんだ」

『そのまんまの意味だな。こうやってお前の目の前に顕現できているのもそれと関係がある。これは眷属魔術と言うんだが……』

 彼女は少し間を置いて、話し出す。

『要するにお前は私の眷属なんだ』

「眷属……。……俺らって、どんな間柄だったんだ?」

『わ、私の口からそれを言わせるのか、ノウト。お前も随分図々しくなったな。そんなお前が珍しいから咎めはしないが』

「なになになに。単純に部下だったとかじゃないのか?」

『まぁ、そうなんだが』

「そうなのかよ」

『私とお前は特別だったんだ。契りを交わした仲だからな。その契りを交わした間柄を魔眷属と呼ぶ。魔眷属の親となるものにはこうやって監視したり意思を通じ合ったり出来るわけだ』

「それでその副作用、というか代償に命の共有があるんだな」

『その通りだ。尤も、お前が死んでも私は死なないからその点、共有とは違うがな』

「それは分かってる。……信じるよ、ヴェロア。君のことを」

『やっとスタートラインに立てたな。また宜しく、ノウト』

 屈託のない笑顔で笑う彼女と握手をする。その言葉使いからは想像出来ないほど小さく華奢な手だ。

「宜しく」

 ヴェロアは幽霊みたいな認識だと思っていたが俺だけには触れられる様だ。それも眷属魔術とやらの効果だろう。

「えっと、敬語とかで話した方が話した方がいいのでしょうか、魔皇様」

『うっ……。そ、それじゃつまらないだろうが。今まで通り普通に話せ』

「わ、分かったよ、ヴェロア」

『う、うむ。それじゃ、勇者全滅を目指して、勇者の情報共有といくか』

「分かった。……いや、ちょっと待って」

『なんだ?』

「まだ聞きたいことが山ほどあるんだ」

『いいぞ。面倒くさくないこと以外何でも答える』

「さっきと変わってないか……? 聞きたいのは、どうして俺らは記憶を失ってるんだってことなんだけど」

『それは知らんな。私はもちろん、メフィも分からないだろう。何せこうやって人間領に訪れるのも初めてだからな』

「なるほど。その時々出てくるそのメフィってのは誰のことなんだ?」

『それをメフィが聞いたら凄く悲しむな』

「えっ!?」

『メフィは魔帝国マギカ魔術研究所所長で私の直属護衛兵、つまりお前と同じ魔皇軍四天王の一角だ』

「…んん!? 何それ初耳なんだけど俺、魔皇軍の四天王だったの!?」

 魔術研究所やらなんやら気になることもあるがそれよりも四天王ってなんだか、痛々しいというか。

『そういえば言ってなかったな。四天王と自称しろ、と私は言っていたのだがお前含めて誰一人として四天王という単語を口頭で使わなかったな。四天王と言いつつも五人居たのが間違いだったか』

「そりゃそうだろ。五人なのに四天王って。しかもなんか、それ言うの恥ずいし」

『そ、そうか? めちゃくちゃかっこいいと思ってたんだが』

「感性が凄まじいな。その、メフィは魔術に長けてるって感じなのか」

『そうだ。というよりも魔術を解読、開発するのが彼女の専門だな。火力だったらかつての私の方が上だ』

「かつてのってことは今は違うのか?」

『今は、そうだな。一般魔人兵にも本気で来られたら対処出来ないだろう』

「そんなだったらすぐに勇者に殺されちゃうじゃないか!」

『その為にお前がいるんだろう』

「な、なるほど」

『かつての私だったらお前の仲間にいる勇者四人も一瞬で消し炭にすることが出来るんだが、前回はなんと目視しただけで私の魔術を封じて、自分のものにするというトンデモ勇者がいたのでな。そいつにあろう事か遁走を余儀なくされてしまった。だが今回はお前の手柄により早々に殺すことが出来た。もう勝ちは見えたも同然だな』

「もしかしてそれって……」

『ああ、お前が始まりの場所で殺した男だ』

「やっぱり……」

『あそこで殺すのはかなりハイリスクだったのだが、あの場で殺さなければ前回と同じ悲劇を繰り返すと思ったのでな』

「ずっと気になっていたんだけど、前回ってのは?」

『ああ。それも言ってなかったな。単刀直入に言うと、実は今回の第七次人魔大戦は二回目なんだよ』

「つまり……どういうことなんだ? まさか、過去に戻ったてことか?」

『そのまさかだ。魔皇城の地下に先祖代々から伝わってきたという神機、《輪廻六芒星魔術陣リセットグラム》というものがある。前回、第七次人魔大戦で窮地に追い込まれた私達はこれを使って大戦の起こる二日前に戻ったんだ。《輪廻六芒星魔術陣リセットグラム》は魔皇だけが使える代物で膨大な量の魔力と引き換えに勇者が召喚された二日前に戻ることが出来る、という神機だ』

「ふむふむ。……神機ってのは?」

『数千年前に魔神が造り出したという人智を超えた道具のことだ。ただの賢人が作ったという諸説もあるが。何を目的に作り出されたかは分かっていないんだ』

「なるほど。戻ったってことに関しては大体分かった。ありがとう、ヴェロア」

『お安い御用だ』

 ヴェロアがニカッと笑う。
 毎度思うが、こんな純情そうな笑顔で笑う少女が魔皇なんて厳つい名称で呼ばれているなんてそうそう信じられない。

「それで二日前に戻ったあとに何があったんだ?」

『その後、お前を始まりの場所、あの暗闇の部屋に瞬間転移魔術で飛ばした』

「内側から勇者を全滅させるために、か」

『そうだ。私がこう無力になって勇者を真っ向から迎え撃てば前回よりも悲惨な結果になるのは目に見えているからな』

「俺の重大度やばいな……」

 他の勇者が魔皇の所に辿り着くまでに俺が何とかしないといけないのか。

「でも俺の《神技スキル》、言っちゃなんだけど弱い、というか20人弱いる勇者たちを皆殺しに出来るほどの派手な能力じゃないんだけど。それに〈ステイタス〉もなんか表示がおかしいし』

『ふーむ。推測だが、それは記憶が消されたことに関係しているな』

「……そうなのか。こんなに弱いのに魔皇直属護衛兵なのか、とも思ったけど」

『いや、お前は強かったよ。お前が本気になったらかつての私も手こずっただろうな』

「それはなんだか……凄いな」

『他人事みたいに言うな。お前のことだ。自信を持て』

「ありがとう。でも記憶が無くなって弱くなったんだろ? どうしたらいいんだ?」

『ああ、それなら問題ない。メフィがお前の記憶を戻せる筈だ』

「って、えぇ!? そんなこと可能なのか!?」

『私は余り詳しくはないが一応、事前にお前とメフィで手筈を整えていたようだからな。封魔結界を越えたらメフィと落ち合え。場所はそうだな……』

 ヴェロアが腕を組んで考える。

『うーん……。後々伝えよう。あいつらと相談して決めておく。お前には伝えられるわけだしな』

「分かった」

『今回はノウトがいるから封魔結界付近のトラップは解除しておかないといけないな……』

 ヴェロア何やらぶつぶつと独り言を言っていた。

「魔皇様も大変だな」

『ノウトも頑張ってくれよ。お前にかかってるんだからな』

「分かってる。そう言えばメフィや他の魔皇直属護衛兵、四天王のみんなで勇者を迎え撃てないのか?」

『可能ではあるな。ただ出来るだけ封魔結界を通ってこっち側に来る前に母体数を減らしておいて欲しいってのが正直な所だ』

「ふむふむ。……了解した」

『状況を整理したところ、前回の大戦では私が10人、ロストガンが5人、ノウトが4人、ラウラが1人の勇者を殺したってところだったな。メフィとユークが殺した数は正確ではないが、おそらく1~3人くらいだろう』

「なるほど。つまり、前回ヴェロアが担当した10人と俺が殺したっていう4人、合わせて合計14人の勇者を殺せれば安泰ってわけか」

『極端な話だが、そういう事だな。すでに一人を殺しているから単純計算であと13人だな』

「そう聞くと案外いけそうかも……」

『そうか! そう言って貰えて嬉しいぞ』

 ───ただ一つだけ問題がある。これが最大の難所だ。これを越えずに勇者全滅の命令を達成することは出来ない。

『お前が懸念してるのは、殺すことへの罪悪感。良心の呵責。そうだろう?』

 そんな俺をヴェロアは厳粛な表情で見つめてくるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。 時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま! 「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」 ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは―― 公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!? おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。 「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」 精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約

Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。 腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。 地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。 彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。 「死んで、私の影になれ」 彼女は知っていた。 この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。 そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。 これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。

お子ちゃま勇者に「美味しくないから追放!」された薬師、田舎でバフ飯屋を開く

ファンタジー
現代日本から転生した味覚オタクの薬師ユージンは、幼い勇者パーティの“保護者枠”として命を守るため口うるさくしていたが、「薬が苦い」「うるさい」と追放される。 田舎ミズナ村で薬膳小料理屋「くすり香」を開いた彼の“バフ飯”は冒険者を覚醒させ、村を救い、王都の薬利権すら揺らす。 一方、追放した子どもたちはユージンの真意を知って大泣きするが、彼は戻らない──自分の人生を取り戻すために。

処理中です...