あのエピローグのつづきから 〜勇者殺しの勇者は如何に勇者を殺すのか〜

shirose

文字の大きさ
24 / 182
第一章 勇者殺しの勇者

第23話 追憶の夢

しおりを挟む
 一度手に掛けた、いや何度も殺してしまった彼女がこうして本当の意味で仲間になるなんてあの時は思ってもいなかった。
 手を握りあった後しばらく続いた夜の静寂。
 それを破るようにノウトが話を切り出す。

「──リア、ごめんな」

「え? 何が?」

「こっちの事情に巻き込んで」

「いやいやいや~。わたしが勝手に首突っ込んで勝手に巻き込まれただけだから」

「それもあるけど、昨日の晩、リアを何度も殺して、本当に、ごめん」

「いいよ、わたし不死身だし。何よりあの状況だったら誰だってそうするよ。そうするように仕向けた節はあるしね」

「……リアには敵わないな。俺より何手も上手だったとか、なんか恥ずいよ」

「ふふっ。頼りにしてるぜ、〈殺〉の勇者くん」

 リアは少し笑って、この平和的作戦に全く役に立たないであろうノウトの能力を茶化してみせる。ノウトは反論する気もなんだが起きなくて自然と笑ってしまった。

 彼女の神技スキルとその知恵。
 それを借りることが出来るなんて今後の展開は想像していたよりも容易くなるかもしれない。──なんて慢心していたら足元を掬われそうだ。
 絶望的なのは変わらない。
 勇者も殺さずに魔皇も殺させない。
 これを実現させるなんて言葉にするのは簡単だが完璧に実行するのは不可能かもしれない。

 それでも、やるしかないんだ。

「そう言えばさ、ヴェロアさんに相談しなくて良かったの?」

「そもそもお前が存在する時点で勇者を全員殺すなんて不可能だって分かるから、その先は自ずと察してくれるよ。ヴェロアも良い奴だし、大丈夫だと思う」

「それもそうだね。私が魔皇さんを倒そうと思う側じゃないことに感謝してよね」

「いやぁありがとうございますリアさん感謝ここに極まれりって感じです」

「ふふふっ。その調子で精進したまえよ、ノウトくん」

「任せてくれ」

 リアがノウトの肩に手を置いて、ぐっ、と親指を立てる。
 ノウトは精一杯の笑顔で答えてみせた。
 しかし、リアはノウトの表情を見て何処か悲しげな面持ちになる。

「でも、無理はしないでいいからね」

「分かってるよ」

「いつでも私を頼っていいから」

「……おう」

 またしても数秒の間、その場を静寂が支配する。

「……リア、服乾いた?」

「いや~、それが全然。少し寒いや」

「着替えた方が早いな」

 ノウトはポケットから懐中時計を取り出して微かな朝焼けの光を頼りにそれを見る。
 時刻は午前3時強。
 既にフウカが見張りをする時間になっていた。

「そろそろ見張り交換しに戻りに行こう」

「そうだね」

 リアはそう言って立ち上がった直後徐ろに服を脱ぎ始めた。
 彼女は一瞬で下着姿になる。薄暗くても見えるもんは見えてしまう。
 俺は自分の手で自分の目を隠して、

「っておい!」

「なに?」

「俺の目の前で着替えるなよ!」

「えぇ~。君の服、羽織ってるからいいでしょ~?」

 リアは俺が渡した外套を両手で掴んでひらひらと動かす。

「良くないわ! 前から丸見えなんだよ!」

「いや下着着てるからいいじゃん」

「いやそれでいいって言うならお前の感性を疑うんだが」

「一緒にベッドに入った仲でしょ?」

「言い方おかしいだろお前!」

「ふふふっ。やっぱ面白いなぁ、ノウトくんは」

「くっそ……」

「ほいっ」

 リアが脱いだ服をこちらに投げてくる。避ける訳にも行かないのでそれを仕方なくキャッチする。

「ごめん、干しといて」

「仕方ねぇな。やっとくよ」

「ありがとう、ノウトくん。おやすみ!」

 リアはレンたちの寝ている焚き火のある所に走っていって、彼女の荷物を漁り着替える。

「ったく……」

 リアは屈託のない笑顔で手を振ってから横になった。
 ノウトは今度は無視せずにちゃんと手を振って答えてみせた。
 ノウトはリアの服を竜車の窓枠に掛けてからフウカが寝ている所に歩いていく。
 彼女の肩を揺すりながら、

「フウカ、見張り交換だ。起きてくれ」

「……う、うにゃ………は、はい。了解です……」

 フウカは案外すんなり起きた。昨日は四時には起きてたって言ってたっけ。早起きなんだな。

「じゃあノウト、おやすみなさい。ゆっくり休んで下さいね」

「おう。フウカも無理しないで。おやすみ」

 フウカに手を振ってからノウトは自分の寝ていた場所にもう一度、横になる。
 地面と身体の間に一枚布を挟んでいるとはいえ、やはり寝心地は良くない。
 しかし目を閉じると、疲れていたからか直ぐに眠りに落ちることが出来た。



          ◇◇◇



 夢を見た。

 見渡す限りの草原。

 草いきれとそれを乗せて吹き続ける心地よい風。

 俺は猫耳の生えた少女と手を合わせていた。

 彼女の目にも止まらない殴打を俺はあろう事か全て受け止め、受け流す。

 彼女はやっとの思いで俺に攻撃を当てて俺は2、3メートル吹っ飛ぶ。彼女は疲れ果てて息切れを起こし、そして笑う。

 直後、彼女の左腕と両足を残してそれ以外がぱっ、と文字通り消える。
 残された腕と脚の断面から血が吹き出る。

 その血で視界は真紅に染まる。


 落涙と鮮血。



 暗転。



 薄暗い場所だ。

 鼻に来る刺激的な臭い。

 足元に散らばる紙を大股で跨いで、毛布に包まれた彼女の身体を揺する。

 彼女に何度も呼びかけるとやっと彼女は起きた。

 大きな角に小さい体躯。

 真っ白で雪のような肌。まるで人形のようだ。

 突如彼女は俺の左手を掴んでそれを舐める。

 舐められたその左手を引っ込めると彼女は急にその服を脱ぎ始めた。




「いや、なんで脱ぐんだよ!」

 俺はツッコミながら、ばっと飛び起きた。
 夢を見ていたようだ。
 漠然とだが内容は覚えてる。猫耳の少女と大きな角の生えた女の子。
 意味不明な夢だった。なんだったんだろう。

「ノ、ノウト? どうしたんだ?」

 目の前でレンが目を見開いて驚いていた。
 どうやら朝支度をしているようだ。

「い、いやなんでもない」

「びっくりしたよ。てっきり誰かが目の前で脱ぎだす夢を見たのかと」

「いやに察しいいなお前」

 レンは、ははっと笑った後、荷物を持って竜車に向かって歩いていった。
 リアやフウカがいないのを見ると俺が起きるのが一番最後だったようだ。ただ誰にも起こされなかったことからそんなに遅く起床した訳でもないことが分かる。出発は朝7時。懐中時計を確認したところあと20分くらい余裕がある。
 俺は軽く身支度を済ませて、野営用の寝具を畳んでからそれを方に担いで竜車へと向かう。ウルバンが走竜に丁度餌を与えていた。

「ウルバンさん、おはようございます。今日も宜しくお願いします」

「ノウト様おはようございます。はい、勅令全うさせていただきます」

 彼に挨拶をしてから客車の後ろに荷台に寝具を他の寝具と同じようにしまう。
 そこで他のパーティーの竜車に目を配る。
 ミカエルが丁度竜車に乗ろうと足を掛けている所で目が合っておはようと手を振り合う。
 竜車の数を数えると自分たちのを合わせてその数、四台。……………四台?

「なんだって……」

 思わず心の中で思ったことを口に出していた。

 竜車が、一台足りない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。 時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま! 「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」 ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは―― 公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!? おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。 「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」 精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約

Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。 腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。 地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。 彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。 「死んで、私の影になれ」 彼女は知っていた。 この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。 そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。 これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。

処理中です...