あのエピローグのつづきから 〜勇者殺しの勇者は如何に勇者を殺すのか〜

shirose

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第一章 勇者殺しの勇者

第40話 骨の恋折り損

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「あ、あの、勇者様!」

「な、なんでしょうか」

 料理店から出た直後、そこにいた他の客がノウトたちを追いかけるように店から出てきた。二人組の若い女性だ。どっちも20代とかそんな感じ。急に来たので返事がたじたじになってしまった。
 そのうちの一人がノウトに向かって、

「応援してるので、あの……絶対魔皇を倒して下さいね」

 と言ってから両手でノウトの手を取る。強制的に握手みたいなポーズになってしまう。
 ノウトは自分なりに考えたセリフを吐き出す。思ってもいないことだ。でも目の前の彼女をがっかりさせるわけにはいかない。

「はい。お気持ちに添えられるように頑張りますね」

「勇者様に女神様の御加護があらんことを……。では、おやすみなさい。勇者様」

 彼女は手を離して、笑顔で手を振って去っていった。

「マシロのこと見えてなかったみたいだな」

「うん」

 マシロはただその一言だけしか言わなかった。
 しかし、しばらく歩いているとマシロが口を開いた。

「あっ、さっきの魔皇を殺さないでってやつ、ミカ達には私から言っておくから大丈夫」

「それは助かる。マシロの口から語ってくれた方が信憑性あるしな」

「まぁ、私のことが見えてればの話だけどね」

「それは、なんというか………頑張ってくれ」

 ノウトとマシロはただ宿への帰路を歩いていた。
 さっきここを通った時よりも明らかに人通りが減っている。ハンターケースの懐中時計をポケットから出して時間を確認すると既に20時を回っていた。もうそんな時間か。

 いやしかしこれでスクードやカンナ、エヴァ、ミカエルのいるパーティがヴェロアを襲うという可能性は限りなくゼロに近付いた。

 確実に一歩ずつ進んでる。大丈夫だ。大丈夫。

 次の懸念としては、やはり『瞬間移動能力』持ちのアイナを説得しなければいけない。
 いきなりヴェロアのとこに飛んで殺しに行かれては非常に困る。というか終わる。
 そして何より〈運命〉の勇者フェイも危険だ。正直、あの様子じゃあ説得出来そうにない。このままじゃ、殺るしかないかもしれない。あの時に殺せなかったことを今更ながら悔いる。

「それにしても、本当に美味しかったなぁ」

「ああ、ほんと。マシロがいなかったら食べられなかったな。ありがとう、店を教えてくれて」

「私が行きたいって思ってたから。アヤこそ付き合ってくれてありがとう」

「いえいえ」

 ノウトは微笑むんでみせてから、聞きたかったこと疑問を口にする。単純な疑問だ。

「そのアヤってやつさ、なんでアヤなんだ? 茶化さないで教えてくれよ」

「なんで、だろうね。私にも分からないんだ、これが。ただあなたを見ているとその名前がすっと降りてくる、というか。その名前で呼ばずにはいられないんだよね」

「なんだそりゃ」

「だから私にも分からないんだって」

「まぁ、いいか。適当に好きに呼んでくれ」

「もう。こっちはこっちで大変なんだから」

 マシロは一瞬、いつかカンナがそうしたように頬をぷくっと膨らませた。

 あくまで一瞬だ。すぐにそれはしぼんでしまう。その決定的瞬間を逃さなかった自分を褒め殺す。
 なんて言ったってその表情がめちゃくちゃ可愛かったんだ。

 心臓がどくん、と高鳴った。

 それはリアに正体がバレた時や奇妙な男が魔皇の協力者がいると言った時、それにフェイが魔皇の協力者が誰か分かったと言った時の胸の高鳴りとは違うだった。

 やばい。

 これ俺、もしかしたら、マシロが好きなのかもしれない。

 だって、彼女ったら凄い可愛らしくて、マシロを見ているとなんかもう、胸が締め付けられる感じなんだ。俺は思わず胸を抑える。なんだこれ。

 おかしい。
 あまりに突然だ。今の今まではめちゃくちゃ可愛らしい女の子程度にしか感じていなかったのに今はなんかもう愛おしくて仕方がない。いつまでも守ってあげたくて仕方がない。


 だめだ。

 何か、違う。


 頭を振ってそんな考えを忘れようとする。今はそんなこと考えてる場合じゃないだろ。
 それに俺にはリアが─────
 リアが、なんだ? リアがなんなんだよ、おい、俺。くそ。心の奥深く、深層に沈みこんだもう一人のの自分をぶん殴る。ボコボコにして正気に戻させる。

「ねえ」

 マシロがノウトの顔を覗きこむ。

「な、なに?」

 あまりにも近くにその顔があったので思わず目を逸らしてしまう。近いよ。近いって。

「あなたは何の勇者なの? ほら、私教えたからさ。見せてよ」

「ああ~……俺の? 披露できるもんじゃあないんだけど」

「そうなの?」

「ああ。俺、〈殺〉の勇者なんだよね」

「ころし……」

「触れたものを殺すことが出来る能力なんだ」

「へぇ」

「へぇ、って」

「いや、なんか。反応に困る能力持ってるね」

「う、うるさいな。俺だって好きでこんな力持ってるわけじゃ」

「私も、同じ」

 マシロは足を止めてノウトの前に立つ。必然的にノウトも足を止める。

「私もこんな能力なければ、って思ってる」

「………」

「でもどこか、自分にはこの能力を望んでるところもあって、ね」

「そんなに大変な思いをしてるのにか?」

「う~ん。制御出来てないのは私のせいでもある気がするしなぁ。まぁ、この〈神技スキル〉の全部が嫌いじゃないってこと。さんざんこの子には弄ばれてるけどね」

 マシロが自らの〈神技スキル〉のことをこの子と言ったのはもちろん便宜的にそう表現しただけだろう。
 マシロは手を後ろで組んで、後ろ向きに歩き始めた。従ってノウトもまた歩を進める。

「……俺はこんな能力、大嫌いだけどな」

「なんで?」

「なんでって……。そりゃ、人を殺すためだけの能力なんて、使いたくないに決まってるだろ」

「そうかな」

 マシロはくるっとターンして前を向く。

「私はそれに理由があったら別にいいと思うけど」

「……理由があったって、他人ひとの命をとるのはいけないことだろ」

「なんでいけないと思うの?」

「それは………俺が駄目だと思ってるからだ」

 マシロは一瞬呆気に取られたように口をぽかーんと開けてから、

「ぷっ。………くふふふふふ」

 吹き出した。いつかと同じように変な笑い方をしている。ひとしきり笑い終わってから、

「それ理由になってないじゃん」

「なってるだろ。俺がダメだと思うからしない。それだけだろ」

「面白いね、アヤ」

「そりゃどうも」

 そもそもそんな質問をしてくるマシロの方が面白いだろ、と心の中で思ったが口には出さなかった。

「私は別にいいと思うよ、人を殺しても」

「その考えの方が圧倒的少数派だと思うけど……」

「例えばさ」

 マシロが右手の人差し指をぴんと立てる。

「あなたが誰かを殺したいって思ったとするでしょ?」

「……いきなり物騒だな」

 彼女はノウトが口を挟んだことをスルーして話し続ける。

「でもアヤが殺したいって思われる相手側はそれ相応のことをしてるわけだよね。なんせアヤが殺したいって思った相手なんだから」

「確かに俺がこの能力を使うのには何かしら理由がなけりゃいけないのは本当だけどさ」

「正当防衛で人を殺すのも、誰かを守る為に殺すのも、そいつが嫌いだから殺すのも、復讐のために殺すのも。アヤがそうしたいと思うんなら、人なんて殺しちゃっていいんじゃない?」

「……極論すぎるな」

「私も、あなたになら」

 マシロは一呼吸置いてから、

「殺されてもいいかも…………なんてね」

 そう言って、霞の如く消えていった。
 これは〈幻〉の勇者の〈神技スキル〉だ。すぐに分かった。

「お、おい! マシロ!?」

 あまりにも急に居なくなったので流石に驚きを隠せない。見えもしないし、彼女の物音一つしない。

「マシロっ! いるんだろ! 急にいなくなるなよ!」

 周りの目なんか一切気にせずにノウトは叫び、彼女の名を呼ぶ。

「………〈神技スキル〉を制御出来てないなんて、嘘じゃないか」

 ノウトは虚空に向かってそう呟いた。
 だってこんなタイミングで消えることが出来るなんて、能力をちゃんと使えないと無理な話だろ。
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