あのエピローグのつづきから 〜勇者殺しの勇者は如何に勇者を殺すのか〜

shirose

文字の大きさ
58 / 182
第二章 蹉跌の涙と君の体温

第5話 息をすることさえ億劫で

しおりを挟む




「…っ……ぅ………ぁ……だ、……く、そ……」

「テオ!! 行くなよ、行かないでくれ!」

「……そ、こに、……だ……れか……ぃる……か……」

「いるよ、テオ! ここにいるから! おい、テオ!! なんで………!! なんでだよ……!!」

「………ぉ……ナナ、セ………ごめ……、な……」

「おい……!! テオ……何がごめんだよ……!! 謝ることなんて、なにも……!!」

「………な、……見え、な、………、きこえ、………よ……」

「行かないでくれ……頼むから………テオ………っ!!!」


 彼に手を伸ばすように俺は飛び起きた。右手は空虚にも、虚空を握り締めていた。
 頭を起こして、周りを見渡す。
 瓦礫、そして何かの残骸。それのみが風景を為して俺の視界をかたどっている。
 起きたら全て夢だったら、なんて思わずにいられない。この光景は目に毒だ。本当にぞっとしない。

「あっ、ナナセ」

「……うっす」

 後ろからした声に振り向き、彼女の顔を見る。
 彼女はアイナ。ツーサイドアップの髪が特徴的な少女だ。その隣にいる寡黙な少女はヴェッタ。愛称はヴェティ。彼女が喋ってるところは一度や二度くらいしか見たことがない。
 アイナはすたすたと歩いて俺の隣に座った。

「……俺、もしかして結構寝てた感じ?」

「寝てたって言うか、倒れたってカンジ? ずっとフェイ探しててその途中でバタって倒れちゃったんだもん、ナナセ」

 ヴェティがアイナの隣に座った。ヴェティの目は常に虚ろだ。まるで見えない何かを探しているような瞳をしている。

「………結局、見つかんなかったね、フェイ」

「……な」

 あいつは昨日の大災害が起きてから姿を消してしまった。あいつを見たってやつはいないし、勿論、死体を見たやつもいない。

「この〈エムブレム〉の形も……やっぱり、そういう事なの、かな」

 アイナが呟く。
 俺達、勇者全員がその左手の甲に淡く光り輝く紋章を持っている。
 五芒星とそれを囲む二つの同心円。それが〈エムブレム〉だ。
 しかし、今の俺らのそれは今までと様相が変わっていた。五芒星の角二つが暗く沈んでいる。歪な形となった〈エムブレム〉が俺らにあるひとつの可能性を示唆していた。
 その可能性は既に事実となって俺らの心を蝕んでいく。
 テオとフェイは死んでしまったのだ。
 俺らのパーティは俺とアイナ、それにヴェティだけ。
 何がなんだか分からないうちにそれは訪れて、気がついたら心の痛みだけが残っていた。
 なんなんだよ、これは。
 おかしいだろ。
 目覚めてまだ五日と経っていない。仲間がこんなにも早く居なくなってしまうなんて。

 心が、軋む音がする。

 早くここから逃げ出したい。

 俺は。俺だけは知っていたんだ。こうなる事実を。この結末を。この大災害が起きてしまうことを。
 俺なら………止められたのかもしれない。

「……テオとフェイ、まだ居なくなったって信じられないや」

 アイナが呟く。

「二人とも、何考えてんのかわかんない奴だったけど、死ぬと……悲しいもんだね……」

 彼女の目の下は赤みがかっており、それが今まで泣きじゃくっていたことを語っていた。

 昨日の夜更け、須臾しゅゆの間に巻き起こった大災害。
 俺はその時、寝付けなくて宿のテラスで本を読んでいた。勇者の歴史についての伝記だ。俺は記憶が失くなる前、本を全く読まない人間だったのだろう。目が滑りまくって全然内容が入ってこなかった。
 突然、地鳴りと共に大きな揺れが起きた。
 そこから先はあまり覚えていない。
 俺は咄嗟に《永劫アイオーン》を使って降ってくる瓦礫を防いで、なんとか今生きのびているが、室内でぐっすり眠っていたテオは瓦礫で潰されていて────

「……ダーシュのとことか他のパーティみんなだいぶ前に先行っちゃったけど、どうする?」

「…………どうする……って言ったって」

 俺はこの大災害の犯人を知っている。否、知っていた。ただの夢だと思っていた。ふざけた俺の夢だと。しかし、実際に起こってしまった。
 俺が夢のことをきちんと皆に話していたら────
 違う。それは単なる結果論だ。起きてしまったことはもう戻らない。時が戻るなんてことは有り得ないんだ。

「……アイナはどうしたい?」

「私は…………」

 彼女は膝に顔を埋めて、小声で呟いた。

「なんだろ………どうしたいんだろ……もう、わかんないや……」

 俺たち三人は一晩で二人の仲間を失った。パーティの五分の二を失ったのだ。
 もう、こうなってくると魔皇討伐とやらもどうでも良くなってくる。三人じゃ、無理だ。魔人領に行ったところで直ぐに命を落としてしまうのが関の山。
 ヴェティを、アイナを。
 俺は死なせたくない。これ以上仲間を失いたくない。傷付けさせたくない。

「ヴェティは……どうしたいの?」

「…………」

 彼女は口を固く結んで開かない。その目には生気がない。虚ろな瞳でただ地面を見つめていた。
 記憶もなしに目覚めて、魔皇を倒せと言われて、仲間が二人も死んで。
 それで落ち込まないわけがない。ヴェティが口を開かないのも頷ける。

「…………俺らは、もうさ。魔皇討伐とか無理だと思うんだ」

 俺は重い唇をなんとか動かして話す。

「三人だし、他のパーティには絶対に勝てない。そうなると魔皇討伐に参加するメリットも完全に無くなる」

 魔皇討伐は宗主国アトルの国王曰く、早い者勝ちだ。一番早く魔皇を倒したパーティ以外に恩恵は一切ない。

「そう、だね……」

 アイナは複雑そうな顔で頷いた。

「………俺らさ、もう逃げない?」

 俺は心に潜むざわつきを無視して、俺はその言葉を口に出す。

「……逃げるって、どこに?」

「ほら、人間領は広いだろ? 来た道を戻ってもいいし、なんなら北レーグ大陸に行ってもいい」

「逃げて、生活はどうするの?」

「………」

「私たちは勇者の恩恵で宿代も食費もなしに生活出来てる。服だってそう。魔皇討伐に向かわないで戻ってきた勇者にそんな慈悲あると思う?」

「……じゃあ、働いて稼ごう。ほら、〈神技スキル〉を活かせばなんとか───」

「勇者を雇ってくれるところなんて、……ない」

 アイナは俺の目を見て静かに言った。

「私達は魔皇討伐に向かうからこそ今生かされてるんだよ。魔皇を倒しに行かない勇者なんて、勇者じゃない」

 彼女の言うことは尤もだ。でも、……だからってどうすりゃいい?
 俺は彼女らを傷付けたくない。魔人領に向かえば彼女たちを傷付けることになる。

「……ナナセ、あんたそれ本心じゃないでしょ」

「えっ?」

 アイナはその整った顔で俺の顔をみつめた。

「逃げようってやつ。もっと他にしたいことあるんじゃない?」

「そ、そんなこと……。俺は………………」

 言わないように。気を遣われないように。
 そんな心の城塞が、何かの切っ掛けで崩壊した。

「…………お前らを傷付けたくないんだよ」

 心からそれが溢れて───

「もう、誰も失いたくないんだ……………」

 気付いた時には全てを口に出していた。
 ハッ、と我に返り、自分が何を言ってしまったのかを頭の中で反芻する。やばい、何から何まで言い過ぎた─────

「………私も同じだから」

 アイナが口を開き、

「私も、ヴェティと……ナナセを失いたくないから」

 消え入るような声音で話す。

「だから」

 彼女は視線を地面から俺に移して、

「本心で話して欲しい。思うところがあるんでしょ? 私達でよかったら話して。だってずっとナナセの様子、おかしいもん」

「………俺、そんなに変だった?」

「うん。とゆーか、思い詰めてるカンジ? テオとフェイがいなくなったこと以外にもなんか思い悩んでるって顔してる」

 なんでもお見通しかよ。っていうか俺が顔に出やすいタイプなのか? そうに違いない。うわあ恥っず。マジか。
 こいつらに失望されたくないと思い、口に出さなかったことがある。大災害が起きてから俺はずっと頭の片隅でこのことについて思い悩んでいた。
 アイナとヴェティなら、いいかな。
 もう俺らは三人だけのパーティになった。今更隠し事なんて無用だろう。

「…………お前らなら話していっかな……。落ち着いて聞いて欲しいんだけど」

「う、うん」

「─────この世界は、」

 俺はヴェティとアイナの顔をそれぞれ見てから、言葉を紡いだ。





「─────二周目なんだ」





────────────────────────
〈時〉の勇者

名前:ナナセ・トキムネ
年齢:17歳
【〈神技スキル〉一覧】
永劫アイオーン》:触れたものの時を止める能力。
────────────────────────
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...