あのエピローグのつづきから 〜勇者殺しの勇者は如何に勇者を殺すのか〜

shirose

文字の大きさ
62 / 182
第二章 蹉跌の涙と君の体温

第9話 血塗シュプレヒコール

しおりを挟む



「これで……全部か?」

 ゴブリンの死体が散らばるその中心で彼は呟いた。

「……そうみたいだな」

 シメオンが答える。
 先程の二体の寡兵との戦闘で気付かれたのか、その後合計六体のゴブリンと戦闘になった。フョードル達は圧倒的なパワーでゴブリン達を葬った。
 燻煙の上がるものに、四肢が分散されたもの。心臓だけが貫かれたもの。ゴブリンの死因は多種多様だった。フョードルは彼自身が殺めたゴブリンのもとに歩み寄り、その死体を漁った。
 ゴブリンの血は人間と同じく赤かった。
 同じ生き物だから当然か。……いや、当然なのか? 分かんねぇ。死体を漁っていると一瞬のうちに両手は血塗ちみどろになった。

「勇者の所業とは思えんな」

 フョードルがゴブリンの懐に手を忍ばせて、戦利品を手に取ると、ジークが苦笑いした。

「しょうがねぇだろ。生きるってこういうことだ」

「分かってるさ。冗談だ」

 ジークはハッ、と笑い飛ばして俺と同じようにゴブリンの死体を漁った。ジークも最初の頃と比べたら大分柔軟になってきた。まだカタブツなとこはあんま治ってねーけどな。

 オレらは、力は十分だ。

 しかし、知識と技術が足りない。地理が分からなければどこに向かえばいいのか分からない。〈神技スキル〉の使い方も大雑把だ。もっと丁寧に使わないと、この静謐な森の中では騒ぎを聞きつけて他の魔物が現れてしまう。
 いくら強力な〈神技スキル〉を持った勇者であるフョードルたちでも大勢に狙われたら、命を落とす可能性がある。
 知識を得るには、こいつらのことをもっと知る必要がある。
 そして、ゴブリンの腰についた小さい麻袋から出てきたのは────

「……カネか?」

「…銅貨、かな」

「いやでもやけにばっちぃわね」

 レティシアが言う通りその3センチ大の金属質の円盤はめちゃくちゃに汚かった。泥まみれで、表面がどうなってるか全く分からないレベルだが、形や質感から辛うじて銅貨っぽいということは分かった。

「こっちもあったぞ」

 ジークが他のゴブリンからフョードルが手にするものと同じような銅貨を見つけ、手に取る。

「ジーク、ちょっとそれ貸してくれ。洗うから」

 シメオンがジークの手から銅貨を受け取り、〈水〉の勇者の神技スキルでばしゃん、とそれを洗浄する。

「銅貨っぽいが……表面には何も刻まれていないな」

 錆びているため、つるぴかとは言い難いがそのコインの表面には何も描かれていなかった。ただの円い銅板だ。

「ま、とりあえず貰っとくか。ほっといても意味ねェしよ」

 フョードルは漁り尽くしたゴブリンの死体全てに《王命クエスト》で「土を掘って埋まれ」と命令した。
 ゴブリンの死体は生きてないにも関わらず、ひとりでに動いて手で地面を掘り出した。

「……なに引いてんだよ」

「いやフョードル、これはさすがに引くわよ……」

 レティシアは眉を顰めて、自らを埋めようとするゴブリンの死体の様子を眺めた。

「死体が散らばってたら不自然だろうが。他の魔物にも気付かれたら面倒だしな」

「それは、分かってるけど……」

「とりあえず、ずらかろうぜ。ここにずっと居るのもまずい」

 フョードルの言葉を最後に彼らはその場を去った。

 向かうは西だ。西。
 森の中は非常に方角を見失いやすい。間違えて来た道を戻ったりなんかしたら最悪だ。行く宛のない俺らは西に向かうしかない、フョードルはそう考えている。
 方位磁針を片手に道なき道を進む。ここはゴブリンの縄張りなのか、気を抜いているとすぐ奴らに見つかる。というか現に見つかってしまった。

「ウギャア!!」

「……くっそまたか!!」

 上から矢が降ってくる。進行方向じゃなく、後ろから来ていた。
 やはり、騒動を聞き付けて追ってきたのだ。どこに奴らの住処があるのか。皆目見当もつかない。フョードルが咄嗟に《王命クエスト》を使う。

「守れ!!」

 すると、地面が盛り上がり、矢を守るようにして、壁が出来た。

「もういい」というフョードルの言葉で地面が元に戻る。ジークが手を前に突き出し、《黎明の光ブレイザブリク》で狙い撃つ。木々の隙間を縫って、光の線が一直線に伸びていく。しかし──

「くっ、外したか」

 ジークの《黎明の光ブレイザブリク》はゴブリンのいる横を通り過ぎていく。

「身を守りながら距離を詰めるぞ! 離れてたらこっちが不利だ!! ……貫けっ!!」

 指示の合間に拾った石に《王命クエスト》を発動させる。5センチ大の石が一直線に飛んで行き、

「ウギャギャアアア゛アァァ!!!」

 ゴブリンを一匹仕留める。

「おらッ!!」

 前方を走るシメオンが水を展開して矢を守る。フョードルが石に命令し続け、ゴブリンを次々と殺す。
 がさっ、という草木の揺れる音のあとにゴブリンが棍棒を掲げてこちらに向かってきた。

「ウギャアギャアァアア!!」

「うるっさいのよ!!」

 レティシアがゴブリンに業火を浴びせて、一瞬で焼き殺す。肉の焼ける臭いが辺りに漂う。正直かなり臭い。もしかしてこの臭いがゴブリンを引き付けてたりするのかもしれない。

 不意に、ピュウウウと高音の笛のような音が聴こえた。ゴブリンのいる、その向こう側から音がしている。すると突然、ゴブリン達は急にこちらに背を向けて、走り去って行った。

「……なんだ、あいつら」シメオンが呟く。

「追うぞ! 巣穴があるのかもしれねえ!!」

 フョードルの声に皆が続く。追いながらもジーク達は総攻撃を仕掛けていた。光線で焼き、水の槍で穿つ。フョードルはゴブリンの死体に手を触れて、それをにした。

 ゴブリンの死体には「あいつらを殺せ」と命令している。ゴブリンの死体を用いてゴブリンを殺すなんて悪魔的所業は俺にしか出来ない、フョードルはそう思っている。
 ゴブリンは身体が基本小さく、身軽なのでフョードル達よりは機敏に、そして俊敏に動ける。身体能力は一般人かそれ以下のフョードル達にとって、俊敏なゴブリンに足で追いつくなど有り得るわけがなかった。せいぜい視界に捉えるので手一杯だ。

「ったく、あいつらどこ向かってんだよっ」

 フョードルの愚痴は息切れでほぼ聞き取れるものではなかった。
 しばらく逃げ続けるゴブリンを追っていると、視界にが映った。

「家……?」とレティシアが呟く。

「家ってより、砦じゃないか?」

 シメオンがそれを見ながら答えた。
 目の前にそびえ立っているのは切り石を積み立てて作り上げたような、砦としか言い様のないものだった。塔というには些か高くなさすぎる。外から見た限り、あっても一、二階くらいしかない。
 森の中にぽつんとそびえる石の砦。
 逃げ延びた、というより逃げさせたゴブリン数匹がその砦の中へと入っていく。

「罠、だろうな……」

 ジークがその様子を見ながら、口を強く結んだ。その言葉を聞いてシメオンが視線を砦に向けながら、

「あの砦に入った瞬間にトラップが発動するとかそんな類のやつだろ、これ……」

「ど、どうするの?」

 セルカが震えた声を絞り出す。

「そんなの、入るしかねぇだろ」

「火攻めにする?」

「ヴァーカ、んなことやったら中に入る意味なくなるだろ。あん中にある貯蓄やらなんやらを奪いにここまで来てんだよ」

「じゃあ水攻めにするか?」

「じゃあってなんだ、話聞いてたかお前」

「冗談だ」

 シメオンがフッと笑う。人の事はあまり言えないが、いまいち掴みどころがわからないやつだ。

「ま、取り敢えず様子見してみるか」

 フョードルはゴブリンの動く屍に命令した。

「あの中入って暴れて来い」

 ゴブリンの屍は頷くことも無く、生きているが如く動き、砦の方へ向かっていった。
 フョードルの《王命クエスト》は基本どんなことでも命令出来る。ただし、ざっくり過ぎる命令だとその内容を正しく遂行できない場合がある。
 例えば、石ころに「魔皇を殺せ」と命令してもそれを成し遂げることは出来ないだろう。この《王命クエスト》は命令したものが無生物であった場合、自分が知り得ることしか実行出来ない。魔皇の居場所も顔も何もかもが分からない。だからそこらに落ちている石ころにその命令は下せない。
 だが、死体の場合は別だ。まるでそいつが生き返ったかのように手取り足取り動いてくれる。
 砦の中からゴブリンの甲高い悲鳴が聞こえる。

「やってんな~……」

 送り込んだゴブリンの屍二十体が砦の中で他のゴブリンたちを襲っているのだろう。砦にいた奴らにとっては意味不明なことが巻き起こっていると思わざるを得ないはずだ。
 勇者の〈神技スキル〉は強力だが、細かい技術に関する点には目を瞑らなければいけない。
 レティシアは火加減を調節することは未だ出来ていないし、シメオンやジークもその限りだ。
 その点、フョードルの《王命クエスト》は非常にテクニカルで応用力の利く能力だと言えるだろう。それこそ、思考を怠るならば使うことは許されないほどだ。

「そろそろ、乗り込むか」

「い、行くの……?」

「十分暴れてくれただろ。罠とかも大体は発動させられたんじゃねぇか? あとは残党を狩ってけばいい話だ」

「〈神技スキル〉の調節も兼ねて、いい練習になりそうだ」

「そうだぜ、シメオン。なるべく抑え目でな。レティとか、お前特に」

「分かってるって」

「よし。陣形は前からシメオン、レティ、オレ、セルカ、ジークで行くぞ」

「了解」

 緩やかな勾配の斜面を下って砦の前に立つ。
 このパーティの〈神技スキル〉は火力、防御力、索敵力、応用力。全て申し分ない。
 だが、非常に強力な徒党であるフョードル達のパーティには大きな穴があった。この穴を突かれない限り、オレらのパーティはほぼ無敵だ、フョードルはそう思っている。
 意気軒昂とした気持ちで拳をぎゅっ、と握る。
 そして、肩を上下させて大きく深呼吸すると、砦の中へと足を踏み入れた。





────────────────────────
〈光〉の勇者

名前:ジークヴァルト・アルフォンス=ブライト=シュナイト
年齢:18歳
【〈神技スキル〉一覧】
黎明の光ブレイザブリク》:光の線を撃ち出す能力。
暁光に至るグリトニル》:光の速さで移動する能力。
────────────────────────
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。 時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま! 「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」 ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは―― 公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!? おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。 「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」 精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約

Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。 腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。 地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。 彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。 「死んで、私の影になれ」 彼女は知っていた。 この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。 そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。 これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。

処理中です...