あのエピローグのつづきから 〜勇者殺しの勇者は如何に勇者を殺すのか〜

shirose

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第二章 蹉跌の涙と君の体温

第38話 明日、また君と逢えたなら

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「よっし、着いたぁ~~」

「相変わらずさっみぃ……」

 ナナセ達はなんとか銀嶺の都ロークラントへと辿り着けた。方法は単純だ。まずはノウトとナナセが翼でリアとアイナを持ち上げて、あとはアイナの《瞬空メメント》で飛ぶだけ。あれから五分も経たずにロークラントへと着くことが出来た。本当に便利な神技スキルだ。羨ましい、なんてことは決して思わない。ナナセは自らの神技スキルに満足している。ナナセにとってこれ以上ないくらいの能力だ。
 ふと、アザレアの顔が脳裏によぎった。元気にしてるかな、なんて見当違いの心配かもしれないけど。心配しないわけがない。彼女が隣にいてくれたらいいのに。なんて叶わない願いを、ただ密かに想う。

「戻ってこれたね」

「ああ、みんなのおかげだ」

 ノウトが微笑む。その儚い笑顔にどうしてか、頭の奥が痛む。なんでだろ。分からない。

「ここから、だよな」

「うん。まずはエヴァを探さないとだよね」アイナはそう言ったのち、彼女はノウトの顔を覗き込むように見た。

「ていうかノウトあんた、ここにいる他のパーティの人達に命狙われてるんじゃなかった?」

「そうなんだよな……」

 ノウトが肩を落とした。そして顔を上げて、ナナセ達の顔をもう一度見渡した。

「あのさ、二手に分かれていいか? 俺らは隠れながらお前らを追うことにするよ。堂々と道のど真ん中を歩ける気がしないし」

「もちろんいいけど、隠れるって言ったってはすぐバレるんじゃないか?」

 ナナセがそう言うと、ノウトは唇に人差し指を当てた。ナナセはその行動の意味が分からず、首を傾げる。そして、無意識にまばたきをした、その直後だった。

「なっ……!?」「えっ──!?」

 ノウトが、。なんの予兆もなく、なんの誇張もなく、ただ消えた。その場からいなくなった。次に瞬きをすると、ノウトがいた場所のとなりに立っていたリアが消えた。神隠しにでもあってしまったように、突然消える。

「これは………」

「ノウトの神技スキルってこと、だよね」

「───そうだ」

 アイナの声に応えるようにノウトの声がして、それと同時にノウトの姿がそこに現れた。リアもさっきと同じ場所に立っている。なるほど。今朝、ナナセの隣に突然ノウトが現れたのはこの神技スキルの仕業だったということか。

「まぁ、この通り俺はいつでも気配を消せるから大丈夫」

「分かった。背中は任せるよ」

「了解。じゃあリア。隠れながら着いてこう」

「おっけ。行こうかノウトくん」

 リアはノウトの肩に手を置いた。その直後、ノウト共々姿を消す。

「ノウトはなんの勇者なんだろな……」

「全然分かんないや。もはや魔法とかそんな類のやつでしょ。あれ」

「言えてる」

 ナナセはアイナと一緒に小さく笑った。こうしていつまでも笑うために、今は気張らないと。

「さて、じゃあアイナ。《瞬空メメント》で街区の中央に行こう」

「別にいいけど。リア達ついてこれるの?」

「大丈夫だろ。ノウトは空飛べるんだし」

「それもそっか」

 アイナは少しだけ口角を上げた。

「じゃあ、行くよ」

 ナナセがアイナの肩に手を置く。その瞬間に景色が、変わった。ぱっ、ぱっ、と景色が移り変わっていく。そして、気付いた時はロークラントの中央街区、時計塔のすぐ近くへと辿り着いていた。

「アイナの《瞬空メメント》にもだいぶ慣れてきたかもな」

「そう? 私の方が慣れてないかも」

「本人がかよ」

「まだちょっと怖くってさ。変なところ飛んだらって思うと、ね」

「あぁ、そういう……。ま、心配すんなよ。アイナなら大丈夫だから」

「根拠がぜろ~~」

「精神論だよ。根拠なんかぶっ飛ばせ」

「そんなあてにならない励まし方ある?」

 アイナと流れでだべっていると、とんとんと肩を叩かれ振り向く。そこにはノウトとリアが立っていた。

「あれ、どした?」

「なんかあっちの方、騒がしくないか?」

 ノウトが指をさす。その方向を見ると、確かに人だかりがあって何やら喧騒も聞こえる。

「何か、あったのか……?」

「……ね」

 あれは、なんだろう。前ここに来た時、あんなことあったかな。何故だろうか。何か不穏なものを感じる。

「俺達は後ろから着いてくから、探ってみてくれ」

「分かった」

 ナナセは静かに頷いて、アイナと目を合わせてから、その人だかりへと足を運んだ。近づくにつれて環境音のような喧騒が言葉になって耳に届いた。

「ああ……ああっ……──そんな……!!」「勇者様ぁ………」「なんでこんな惨いことを……」「魔人の仕業だ、これは!!!」

 なんだ。何が起こっている。心拍数が徐々に上がっていく。心臓が早鐘を打つ。道を埋めるような人を除けて道を進んでいく。
 臭いだ。臭い。
 それは、焼ける臭い。焼けた、臭い。ああ、これは臭いだ。
 ナナセが何千回と嗅いだ、あの最悪な、臭い。
 エヴァとスクードがそれのそばで泣き叫んでる。

「……な、んだ………これ」

 それは、黒い、何かだった。
 黒くて、ところどころ穴が空いていて、───。

 何かが凄い勢いで隣を通り過ぎた。リアだ。彼女が黒い何かに手を伸ばした。

軌跡イデア…………ッ!!!」

 叫んだ。でも、何も起こらない。なにを、してるんだろう。そうか、この黒い何かを回復させようとしたんだ。でも、駄目だった。ということは。ああ。これは人だ。人だったものだ。

軌跡イデア………っ!! 軌跡イデア!!! 軌跡イデア軌跡イデアイデアいであいでぁ!!!!」

 リアは何度も叫んだ。でも、黒い何かは回復されない。リアは喉が裂けるくらい叫んだ。でも、───でも。

「……イデ……アぁ…………」

 それが、───いや、彼が生き返ることは無い。
 ミカエル。ミカエルだ。
 スクードとエヴァがしきりに彼の名前を叫んでいる。ああ。あああ。なんで。こんなこと。前はなかったのに。どうしてだよ。どうして。くそ。なんだよ。

「なん、なんだよ……これ……」

「何があったんですか!?」

 誰かの声がして、その声主に肩を叩かれた。
 振り向くと、そいつはカミルだった。

「これ、は……!!」

 カミルは目を見張った。彼は咄嗟に手をミカエルだったものに翳した。すると、地面から細長いつたが生えてきた。それがミカエルの上で円を描くように形作り、

医柩デンドロ……!!」

 叫んだ。しかし、それも功を奏することは無かった。つまり、もうだめなんだ。ミカエルは、死んでしまったんだ。ああ、くそ。
 とんっとナナセの肩に軽くぶつかった。小柄な何かがアイナとナナセの間を通ったのだ。

「ちょっとカミルっち! 勝手に行かないでよ……って……」

 ニコだった。彼女はミカエルの死体を見ると動転して、口を抑えて、千鳥足で、そして膝から倒れ込むように前に倒れて、嘔吐した。そんな彼女を見たジルが彼女の背中をさすった。

「これは………ミカエルか………」

 ダーシュが低い声で唸る。その声にはとてつもない怒りが含まれていた。

「いやだ………こんなの………なんで………なんで…………」

 隣に立つアイナが震える声を絞り出した。
 ナナセは、震えた手でアイナの肩を抱こうとして手の伸ばして、その途中でやめた。伸ばした手を握る。
 ああ、これは。多分、いや絶対。
 この場を解決できるのは、時を戻すことのできるナナセだけだ。
 《克刻リヴァイス》を使えば、ミカエルは助けられる。
 でも、それにはアイナが命を落とす必要がある。つまり、ナナセがアイナを自らの手で殺さなければいけない。ナナセがアイナを殺せば、ミカエルは助けられる。

 ────アイナを、殺す………?

 無理だ。そんなの。無理に決まっている。
 俺はアイナを愛してる。
 独りよがりの愛かもしれない。
 一方的な、ほんとうにどうしようもない愛なのかもしれない。
 でも、この想いは、───どうにもできない。好きだから、そんなの、無理だろ。好きな人をこの手で殺めるとか、そんなこと。俺には、できない。むり。無理だ。くそ。でも、ミカエルが死んで、みんなが悲しんでる。殺すしかない? ころ、すしか。

「………はぁ……っ…………ぁ……ッ………………っ………………ぅ…………………ぁ…………」

 息が、苦しい。ミカエルを助けられるのは、俺だけなのに。───そうだ。アイナを、殺しても、また逢える。《克刻リヴァイス》は時を戻せるんだ。殺したアイナにも逢える。そう、俺の手で殺さなくても、誰かに頼めばいいんだ。まだ間に合う。《克刻リヴァイス》はどれだけ戻れるか、それは分からない。アザレアのせいじゃない。俺の《異扉オスティア》が小さいからだ。ミカエルを救けられるのは俺だけなんだ。

「…………ア……………………………………」

 アイナを殺すように頼もう。
 ノウトに、頼むんだ。彼は強い。アイナが苦しまないように一瞬で殺してくれるだろう。

「……………ア………………アっ……………………ア……イ………………」

 さあ、言え。アイナを殺してくれと言え。頼め。ミカエルを救えるのは、俺だけだ。言えよ。言え。苦しむのは、アイナだけだ。ミカエルを救ければ、もっとたくさんの人を幸せにできる。言え。頼め。早く。早く。

「………………アイ、ナ………………………」

「……ナナセ………?」

 アイナと目を合わせる。その瞳は宝石のように煌めいて見えた。涙が、その瞳から流れ、流れる。涙は雫となって、地面へと零れ落ちた。
 ああ。そんなの、できるわけないよな。人に頼むことすら、できるはずがない。俺はアイナが好きだ。大好きだ。アイナの全てが愛おしい。こんなにも愛おしいなんて。アイナには、コンマ一秒たりとも苦しみを与えたくない。ずっと、ずっと幸せでいて欲しい。
 俺のことはどう思おうと構わない。俺がどうなろうとも構わない。俺は、ミカエルを見捨てた。救けられたのに。時を戻すことができたのに。俺は最低だ。最悪だ。俺のことを、ミカエルを見捨てた最悪なやつだって貶してくれても構わない。
 俺は君だけを。
 君だけが。
 幸せでいてくれれば。
 生きていてくれれば。
 それで。
 それだけで。

「これは………誰の仕業だ……?」

 ダーシュがわなわなと言った。
 そうだ、自分たちはそれを突き止めるために、ここに来たんだ。
 でも、みんな放心状態で、そんな場合じゃないって感じだ。エヴァとスクードに至っては我を忘れて泣き喚いている。

「こんなこと出来るの……あの災害を起こしたノウトくらいじゃない……?」

 ニコが口を拭いながら言った。

「ノウトじゃ、ない………」

「え……」

 ナナセの言葉に皆が目を丸くした。

「ノウトなわけ、ないだろ……!! これを、やったのは………!! お前らのうちの誰かだ………ッッ!!」

「で、でも、………ノウト以外、こんな真似………」

「ノウトは……俺らを救けてくれたんだ。あいつがこんなこと出来るわけない……! お前ら、目先の事実をなんでもあいつにぶつけて、……誣妄でノウトを謗るやつさ、いい加減やめろよ。ノウトは俺らの中で、一番いいやつなんだ……」

 ナナセのその言葉に皆が口を噤んで、息を呑んだ。

「〈熱〉の勇者ッッ!! いるんだろ!? 出てこい!! この卑怯者!! いつも隠れて殺してきやがって!!! !! なぁ!! 出てこいよ!!」

 叫ぶ。誰に向かってでもない。その場にいる全員に向かって、ナナセは声の限り、怒鳴った。
 ナナセは自分でも何を言っているのか、理解出来ていなかった。ナナセの頭を支配していたのは、ノウトが侮辱されたこと、そしてミカエルを殺した犯人への怒り。それと自分自身がミカエルを見殺しにしたことへの罪悪感。その二つのみだった。憤怒と罪とが混ざり合ってナナセを、深い絶望へと叩き込む。胸が熱い。怒りで胸が焼けるようだ。怒り、それに怒り。
 全身を真っ黒な、漆黒の怒りの炎が侵していく。

「そうだよ、ノウトくんじゃない」

 リアが震える声を絞り出すように言った。

「リア、あなたどうしてここに……? ノウトが連れ去ったんじゃ……」

「そんなの、どうだっていいよ。誰がこんな、ひどいことしたの? ねえ。こんなの、………こんなのって、ひどいよ……」

 リアは地に座り込むように項垂れている。
 ナナセのうちを燻る漆黒の炎がさらに燃え広がった。俺は、ミカエルを見捨てて、それで、犯人を突き止めようとしている。最低だな、俺。
 自分自身に対しての怒りが身体を焼き尽くしていく。
 焼いて、焼いて、焼い、て………?


「………………………………………な………………」


 ────違う。
 これは、怒りの炎なんかじゃない。
 これはだ。
 熱が身体の中を蠢いている。
 嘘、だろ。どうしてこんなこと。熱い。徐々に。熱くなっていく。臓物が熱を帯びていく。身体の内側を何かが。ああ。痛い。これは。なんだ。なんで。

「ナナセっっ!? ど、どうしたの!? お腹痛いの!?」

 アイナ、だめだ。おまえまで、傷付けてしまう。

「………く、るな……」

 アイナの手を払い退ける。
 俺に、今、何が出来る。
 永劫アイオーン。そうだ、永劫アイオーンで時を止めて考えよう。世界を、止めた。皆が静止して、自らの身体も、静止する。痛みは。治まらない。持続的な痛みが。ただ襲ってくる。アイナはこんな痛さを毎回───



 落ち着け。



 俺はいつだって。どんな時だって。冷静に対処してきたじゃないか。アイナを救ける為にも俺は、生きなければいけないんだ。

 まず、何が起きたか。
 順序だてて考えよう。
 まず、ミカエルが殺された。
 恐らく、俺達がここにくる直前だ。その辺りで殺された。なぜ、ミカエルだけなのか。
 それが分からない。今まで正午ぴったりに皆が焼かれていたのに。今回はおかしい。前回との相違点はないはず。同じ時間を進んで、同じ行動をするはずなのに。今回はミカエルが死んだ。何故かは、分からない。それは今は置いておこう。そして、今は皆を置いて、俺だけが攻撃されている。
 なぜだ、なぜ。

 瞬間、俺の頭の中でとある答えが導き出された。そうか。これは、もしかして────

 俺を殺すために………?

 ───ああ、やばい。やべえ。永劫アイオーンの制限時間が来てる。まずい。まずい。このままじゃ。死ぬ。止まれ。止まれ。だめだ、やば────

「ああっづ………ッ!!」

 内臓が焼ける。痛い。
 皆が自分の名を呼ぶ声がする。アイナ、ああ。君を護らなきゃ。俺はもう一度、永劫アイオーンで世界を止めた。痛さは先ほどより増している。俺に出来るのは、なんだ。どうすれば。死にたくない。そうだ。そういえば、俺は《克刻リヴァイス》ともうひとつ、《契送テンプス》という『時間を早める神技スキル』を手に入れていた。使い所が分からなかったから今の今まで頭の片隅に置いているだけだったが、………もしかしたら────

 出来た。

 動ける。

 止まった時の中で俺だけが。

 《永劫アイオーン》で世界を止めて、《契送テンプス》で自らの身体を早める。

 動けるぞ。

 動ける。

 ただ────

「ああアアア゛あぁッッッッ!!!」

 疼痛が増していく。俺の中の熱もまた、早くなっている。くそ。くそッッ!!! 《契送テンプス》を解除して、止まった世界に、自分も固定される。

 止まった世界の中を動けるのは分かった。
 でも、動いたところで、熱もまた痛みを増していく。
 それに、動けたところで、俺が出来ることなんか。いや、そうか。犯人の《異扉オスティア》の時を止めればいいんだ。《異扉オスティア》に《永劫アイオーン》を使えば、この熱も、収まるかもしれない。いや、確実に収まるはずだ。《契送テンプス》を、自らに使う。

「ぐぁぁあッッッ!!」

 駄目だ。無理。無理無理無理。時を動かせば。これ以上は、もう。死んでしまう。痛い痛い痛い。死にたくない。死にたくない。死にたく────


 ────バカなんですかねぇ。〈空間〉の勇者を殺しちゃえばいいのにぃ。


 声が聞こえた。誰だ。分からない。
 でも。そうか。アイナを、……殺せば、助かる。この窮地を脱することが、できる。《克刻リヴァイス》を発動させることさえできれば。
 一瞬だけ契送テンプスを使って、頭をアイナの方へと向ける。
 その瞳は潤んでいて、その手はナナセに向かって伸ばされていた。
 ───ああ、くそ。好きだ。やっぱり。好きなんだ。愛する人を殺せるなんて無理だろ。
 出来るわけない。
 アイナを殺すなんて。
 死んでもごめんだ。
 俺はアイナが好きだって、再三言ってるのに。分かんねえのか。馬鹿。

 俺は、

 ループを。
 巻き戻りを。
 時間の遡行を。

 ───否定する。

 そんな理に反したこと、やってはいけない。今、分かった。アザレアが、俺の覚悟を聞いた理由。これが。こうなることが。アザレアには分かっていたんだ。俺が、俺自身がアイナを手にかけられないことを。俺がアイナの死よりも自分の死を選ぶことを。くそ。ああ、死にたくねえ。でも。アイナを手にかけるよりは、マシだ。全然。ああ。次、永劫アイオーンを解除したら。死ぬな。これ。死ぬって、なんだろ。どこに行くんだろ。やだな。いや、まだ。いけるか。痛みが。そこそこ。きついけど。まだ、いける。生きられる。一回。座ろうかな。そうしよう。そうすれば、少しは。永劫アイオーンを解除して。

「……うグぅ…………っ……」

 いてえ。いてえ。熱い。痛いけど、座ろう。座れば、何とか。

「ナナセ………っ!!! ねえ、ななせ……!!」

 アイナがいる。近いな。近い。あれ。もしかして。抱きしめ、られてる? アイナから、俺に、そんなことをして、くるのって。はじめてじゃないかな。瞼が。開かない。いや瞼を。開けても。見えない。

 ────永劫アイオーン

 時を止めた。ああ。死にたく、ないよ。明日が。そう。明日が、あると思ってた。当然のように。俺は明日も。アイナと。いっしょに。いられるって。そう思ってた。それを。ぜんぜん。疑って、なくて。こんなに、あっさり。いきなり、かよ。こんな。こんな。あっけないなんて。しぬのって。こんなにも。ああ。みんな。いるの。そこに。いるのかな。わからない。声を。出したいけど。出せない。そりゃ、そうだ。永劫アイオーンで。時を、とめてるんだから。これで。終わりだ。正真正銘。この永劫アイオーンを、解除、したら。俺は。死ぬ。絶対に。痛みも。何も、かも。限界だ。ああ。アイナ。アイナ。俺は、もっと、きみと────…………、























『───はい。こちらこそ』

 逢奈の手はあったくて、やわらくて。
 そして、───…………

 ────っ!?

 唇を、何かやわらかいものでふさがれた。甘い味がした。ホイップクリームみたいに、甘くて、そしてやわらかい。どれくらい俺らはそうしていたのか。
 夕焼けを背に。俺らは少しだけひとつになって。
 そして、ゆっくりと逢奈が口を離した。

『出会った時から、ってことは………一目惚れだったってこと?』

 逢奈が俺の顔を覗きながらいたずらっぽい顔でそう言った。うん、と俺は狼狽えながらつぶやく。

『ふふ、嬉しい』

 逢奈は小さく笑って頬を緩めた。可愛い。ほんとうに可愛い。笑顔がすごく可愛いんだ、逢奈は。俺、ほんとにこんな子に告白したのか。無謀過ぎるだろ。マジで。勇者かよ。
 逢奈は手を後ろで組んで、

『私もね、実はそうなの』

 え……? と俺は間抜けな、本当にカッコ悪い声を漏らした。

『私を受け止めてくれたあの時、私も南々瀬にきゅん、ってきちゃったから』そう言ってから逢奈は我に帰るように頬に両手を置いて、顔を赤らめてみせた。

『あっ……あ、やばい……。ノリで変なこと言っちゃったかも……』

 逢奈はかぶりを振って、今自分が言ったことを精算してる。かわいいな。本当に。彼女、って言っていいのかな。うわあ。マジか。ヤバくね。ヤバい。

『じゃっ、じゃあ、たわし、……っじゃない。私、先帰るねっ』

 逢奈は早口でそう言って鞄を肩にかけて、駆けて行った。俺は追いかけようとしたけど、でも。駄目だった。唇に残った甘い香りが俺をその場に釘付けにしていて、足が全然動かない。だから俺は、大きな声で───

「また明日な!!!」

 そう叫んだ。その声に気づいた逢奈は振り返って、

『また明日ぁ!!!』

 ちゃんと、返してくれた。そうだ。俺には明日がある。
 いつもの日常が。いつもの明日が。
 明日、また学校で逢奈に会えるんだよな。明日からが楽しみだ。逢奈と俺は何をするんだろう。
 いや、同じなのかもな。
 いつもみたいに過ごして、いつもみたいに話して、いつもみたいに、笑って─────






















 そうか。ああ──………やっと、気付けた。やっと、……思い出せた。きみだ。きみだったんだ。
 逢奈。逢奈。ああ。そうだ。俺は、きみをずっと探していて。でも、一番近くにいたんだ。気付けなかった。こんなにも近くにいたのに。馬鹿みたいだ。大切なものは、いつも近くにあって。どの世界にいても。何回人生を繰り返しても。俺は君に、一目惚れするんだろうな。俺は、君が好きだから。でも。また。まもれなかった。きみを。護らなくちゃいけないのに。これは、罪だ。あいつを、あの時、止められなかった。それに、きみを、何度も。死に囚え続けた。罪なんだ。当然、って言えば。当然、なのかな。俺に、ふさわしい。最期だ。俺には、もう、明日はない。また明日会おうなんて、もう。言えない。あったかいな。逢奈が、抱きしめてくれてるのがわかる。君の体温が、伝わってくる。あたたかい。

「逢、奈……………」

「な、に……? ナナセ、どうしたの……ねえ」

 逢奈、顔が涙でずぶ濡れでびしょ濡れだ。

「…………はは」

「なに、笑ってんの、ナナセ、……ねえ、大丈夫、だよね……? 死なない、よね……?」

 どんな顔でも、かわいいよな。逢奈は。ああ。くそ。言葉が。出ない。永劫アイオーンも使えてるのか、わからない。もう少し、もう少しだけ。あと、すこしだけ。

「ナナセ……ナナセ………っ! だめだよ……だめ………いやだ………そんな……っ!! いっちゃ、だめ………!!」

 俺だって。いやだよ。
 いきたくないよ。
 まだ、きみと、みんなといたい。
 テオ、フェイ。
 もうすぐ。
 もうすぐ、なのかもしれない。

「ナナセ!! だめ!! だめだよ!! そんなの………っ!! お願い、……おねがい、だから………ぁ……」

 ああ。
 もう少し。
 もうすこしだけ。
 あと、ひとことだけでいい。
 さいごに。
 なにもわからなくなってしまうまえに───、






「───笑って。逢奈」




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