あのエピローグのつづきから 〜勇者殺しの勇者は如何に勇者を殺すのか〜

shirose

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第二章 蹉跌の涙と君の体温

第39話 勇者殺しの勇者は如何に勇者を殺すのか

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 ─────ナナセぇぇぇぇええええぇぇええええぇぇぇッッッッッッッッッッ!!!!!!






 喉が掻き切れるくらい叫びたかった。声を大にして呼びたかった。鼓膜が破れるくらいの声を出したかった。
 でも、それは出来なかった。
 ノウトがここで姿をバラしたら事態はさらに混乱に陥ってしまう。それに、ナナセとミカエルの死を無下にすることになってしまう。
 どうして。どうしてこんなことになったのか。
 ナナセは時を戻すことが出来たのではなかったのか。ミカエルが死んだと分かった時点で時を戻すはずではなかったのか。そもそも、ナナセ自身の死が近づけば、必然的に時を戻すはずなのに。ナナセはどうして時を戻さなかったんだ。分からない。わからない。
 高を括っていた。何かあればナナセが時を戻してくれると。心のどこかで安心していたんだ。
 でも、そのナナセももういない。
 ナナセが苦しみだしてからたった数秒。二桁にも満たないような秒数でナナセは、………動かなくなってしまった。もしかしたら止められたのかもしれない。
 でも、もしかしたらなんて、もう、有り得ないんだ。過ぎたものは戻らないから。ナナセはもう、戻ってこないから。


 ───これは、俺の落ち度だ。ナナセの時戻しの〈神技スキル〉の発動条件を聞いていなかった、俺の。


 あいつは、自分から語ろうとしなかった。だから、ノウトもそれに従って、聞いてはいけない線引きみたいなものを感じて、遂には聞かなかった。
 ノウトがナナセからその発動条件を聞いていれば、ノウトは否応なしにそれに従っただろう。
 しかし、もう、遅い。ナナセは、死んでしまった。今も、リアが懸命に生き返らせようとしているけど、無理みたいだ。心臓が、握り潰される気分がする。
 でも、不思議と頭は冴えていて、殺意に身を任すこともない。
 ナナセ、それにミカエル。お前らのおかげだ。犯人が、ようやく分かったよ。こんなに単純なことだったのに。どうして分からなかったのだろう。

「そんな、………………」「こんな……こと、って………」「ああ……───ああ…………」

 その場にいた勇者達は口を揃えて絶望の声を発して、その顔はまるで時間が止まったような、悲哀に満ち満ちたものとなっていた。

 どうすれば───

 どうすればいい───

 ノウトは今、《暗殺ソロリサイド》で息を殺しながら、家の屋上に身を隠していた。
 犯人は分かった。しかし、そいつを告発する方法が分からない。ノウトが言ったところで今までと同じようにそいつはしらばっくれることだろう。それに、他の勇者がノウトを総出で襲ってくるかもしれない。
 今ここでノウトが犯人を殺すことは容易い。
 《暗殺ソロリサイド》で近付いて《弑逆スレイ》で殺せばいいだけだ。
 でも、殺すなんて、無理だ。傷付けるのが恐ろしい。殺すなんて、それ以上だ。
 くそ、…………どうすれば、どうすれば、……誰も傷付けずに…………────

「ナナセ……。へんじしてよ………。ねえ、冗談、だよね………なな、せ………」

 アイナがぼろぼろと涙を零して、見る影も無くなったナナセをその涙で濡らしていく。

「笑って、なんて、……むりだよ………。ナナセがいなくちゃ………笑う意味なんて………」

 アイナの横顔。あれは、大切な人を失くしたの時の顔だ。大切な、……人を。そう、大切な────












『離れて、火が当たっちゃ…う……。わたし、……ぁっ。……もう、……だめ、みたい………』

 目の前の少女は焔に包まれていた。決して消えない業火に焼かれている。彼女は焼き爛れていく中で頬を緩ませて俺の方を見た。

『………どうせ、なら、君の手で……いきたいな』

 彼女はそっと笑う。

『ごめん、ね。最期に、こんなお願いして』

 だめだ。そんなの、俺にはできない。俺には。

『そんな顔、しないで。最期に君を、感じていたいの』

 ああ。そんな、そんな。

 ノウト、と名を呼ばれた俺はすぐに聞き返す。

 すると、彼女は俺を優しく抱きしめて言った。


『───生きて』










 ほんの微かな、灰の一粒にも満たないような今にも消え入りそうな儚い記憶を、今思い出した。そうだ。俺も、大切な人を失ったんだ。


 ───俺もいつかは、あんな顔をしていた。


 彼女を失った時。
 消えない炎で彼女が灰になった時。
 俺が彼女を、この手で………殺してしまった時。
 いつかの自分とアイナの姿が重なる。
 重なり、混ざり合い、溶け合って───


 ────消滅した。


 ノウトの中で、何かが消え去った。
 それは枷か理性か、もしくは────

 いやそんなことは糞程どうでもいい。

 殺すだけだ。

 いつかと同じように、頭の中に浮かぶ〈ステイタス〉がジジジッ───とノイズを奏でて変化するのが分かった。




────────────────────────
《殺戮》の勇者

名前:ノウト・キルシュタイン
年齢:▟█歳
【〈神技スキル〉一覧】
殺戮エピローグ》:殺戮を操る基盤ベーシックスキル。
弑逆スレイ》:触れたものを殺す派生ブランチスキル。
殺陣シールド》:触れたものの勢いを殺す派生ブランチスキル。
暗殺ソロリサイド》:息を殺して気配を断つ派生ブランチスキル。
神殺しディサイド》:《異扉オスティア》を閉じる特殊エクストラスキル。
────────────────────────




 嗚呼。
 俺は、中途半端だった。なにもかも。
 何が殺すのが怖くなった、だ。
 何がゴブリンも殺せないだ。
 そんなのは偽善者が責任から逃げるためのただの詭弁じゃないか。
 あの時、俺はリアに血を流させた。
 目の前で、ナナセを見殺しにした。
 ああ。今わかったよ。
 マシロ。
 君の言っていたことが。
 俺が殺したいと思ったなら、殺せばいいんだ。
 大切な人を護るには、殺すしかないんだ。
 マシロ、聞いてるか。

 俺は今から偽善者をやめて───



 ────悪魔になるよ。



 誰の為でもない。ただ自分のエゴの為に。
 俺は人を殺す。



 こいつの命は奪わない。
 死なんて生易しいものは与えない。
 本当の意味で、殺してやる。



 ゆらり、と黒い何かが空から舞い降りた。
 しんしんと舞い落ちる真っ白な雪とは対照的なそれは、黒い翼の生えた、言うなればだった。

 皆が彼の方へと視線を注いだ。
 目を瞠って、ひゅっ、と息を呑む。

 初めに動いたのはダーシュだった。ダーシュは腕を前に突き出して《鐡刃ソード》で幾百もの刃を展開する。そして、その鋒鋩ほうぼうをノウトへと向けた。寸分の狂いなく浮かび並ぶ刃は、さながら敬虔な信徒のようだった。
 ダーシュが手を振り下ろすと敬虔な鉄刃が一斉にノウトに向かって飛んでいく。鉄の刃はそれぞれがぶつかり合い、絹を引き裂くような音と共に風を切る。ノウトは翻って、それを避けようとする。しかし、避けるべき相手は幾百もの刃だ。それらが全て、ノウトに集約しているのに、避けられるはずもない。しかし、。《殺陣シールド》を身に纏い、刃を地面へと叩き落としていく。その様子はあたかも刃と共に踊っているようだった。
 ずしん、と静かに揺れて、そして鈍い音とともに、が地面から現れた。それは、大樹だ。
 カミルの神技スキル、《榊樹ユグドラシル》。
 大樹はその枝ひとつひとつがまとまるように凝縮して、ひとつの巨大な槍となった。
 槍はまばたきをする瞬間もなく、ノウトに向かって飛んで距離を詰めていく。ノウトは《弑逆スレイ》で大樹を殺して、《殺陣シールド》で慣性が未だ生きている巨大な槍を受け流そうとするが、手のひらで弾いた巨大な槍はそのまま左に流されて、ノウトの左肩を貫通した。

 次に何が起こったか。ダーシュとカミルは自らの目を疑った。ノウトはその場から姿を消したのだ。そして、ゆらりとまた何もない場所から現れる。見ると、ノウトの腕は完全に治癒されていた。

 ノウトはダーシュに向かって、距離を詰めた。10メートルはある巨大な鉄の剣が瞬時に出現した。《鋼剣ブレイド》の切っ先がノウトに向けられて、空を切った。ノウトは身体を横に向けて、《殺陣シールド》で巨大な剣の勢いを殺した。《鋼剣ブレイド》は大きな音を奏でながら地面へと落下する。
 ノウトは《鋼剣ブレイド》に身を隠しながら、《暗殺ソロリサイド》で息を殺して、ダーシュに向かって飛翔する。《鐡刃ソード》は絶え間なくノウトを襲う。《殺陣シールド》で耐えきれないのか、ノウトの肌には幾つもの切り傷が生まれた。構わない。今は、殺るだけだ。ノウトの拳がダーシュに届く───その瞬間だった。黄金の壁が、ダーシュの前に生まれた。これは、フェイがあの時使っていたものと同じだ。

「……ノウト、俺はあんたを許さない」

 スクードがゆっくりと立ち上がる。ということは、この壁はスクードの〈神技スキル〉か。

「奇遇だな。俺も許せないやつがいる」

「喋ってる場合っすかねぇぇ!!!」

 スクードがノウトに向かって丸腰で走り出す。
 ノウトは《暗殺ソロリサイド》で息を殺して、距離を取った。何か、嫌な予感がする。ノウトがまばたきをする。瞼を開いたその直後、スクードが目の前にいた。その腕には小ぶりの、小さな盾バックラーが。
 そして、拳だ。拳が目の前に────

「シッ……………っ!!」

 なんとか《殺陣シールド》で防げた。続くスクードの殴る蹴るの強襲アサルト。速い。熟達の拳法家のような猛攻だ。何十年と修行したのちに得られるような、そんな完成度の攻撃。しかし、物理攻撃がノウトに効くはずもない。
 ノウトは機会を伺ってクロスカウンターを仕掛けた。ノウトの右拳がスクードの頬にぶち当たる───その寸前だ。スクードとノウトの拳の間に黄金の、半透明な壁が生まれる。

「俺には効かねぇっすよ!!」

 スクードはしたり顔で、声を上げて叫んだ。だが、ノウトの拳はスクードのを貫通して、

「んがっッッ!?」

 そのままスクードの頬へと当たり、ノウトはただ淡々と、その自信気な表情をブチ殺した。しかし、スクードはよろよろとよろめくだけだ。当然、〈盾〉の勇者スクードには、効かない。しかし、その精神を殺すことには成功していた。

「な、んで………」

 絶対的な自信をその盾に持っていたのだろう。それをノウトが破壊したのだ。呆然とするのは当たり前な話だ。

「今、俺は何回お前を殺せただろうな」

 ノウトは呟く。《弑逆スレイ》を使えば、スクードが最初に殴りかかった時点でノウトの勝利は決まっていた。しかし、そんなことはしない。ノウトはただ犯人を、ナナセとミカエルを殺したやつを、殺したいだけなのだ。
 スクードはノウトに適わないと分かったのか、その場に立ち尽くした。そんな時、横槍がノウトに突き刺さる。比喩でもなんでもない。本物の槍がノウトの首元に突き立てられた。当然、ノウトは《殺陣シールド》でそれを払い除けた。ダーシュだ。幾度と刃を叩き落とされても未だ戦意を失っていないらしい。
 ノウトは翼をはためかせて、ダーシュへ向かって飛翔した。ノウトは一瞬だけ狼狽した。《鐡刃ソード》がさっきの何倍もの数で宙に浮いているのだ。空を埋め尽くさんばかりの鉄刃が全て、ノウトに向けられる。ダーシュがタクトを執るように、刃を操る。

 竜だ。

 そう錯覚してしまった。幾千もの刃は鉄の竜へと姿を変えていく。あれを、受け止められるか。後ろには、騒ぎに駆け付けた民衆がいる。多くの被害が、死者が出るかもしれない。
 止めなければ、止めないと。
 しかし、ノウトに出来ることは触れたものの勢いを殺すことのみ。触れていない刃がどうなるのかは想像するまでもなかった。ノウトは瞬時に考え、声を張り上げた。

「アイナっっッッッッッ!!!」

 その直後だった。
 鉄の竜は姿を晦ます。
 否、晦ましたのではない。アイナが《空断フギト》でどこかへと飛ばしたのだ。
 ダーシュは何が起こったか分からずに呆気にとられてしまう。その隙が、その油断が、命取りとなった。ノウトはダーシュへと肉薄して、顔面を思いっ切りぶん殴る。

 飛翔で勢いのついたノウトのストレートはダーシュの戦意を奪うには充分だった───というわけもなく、ダーシュは鼻血を出しながらも立ち上がり、そして、刃をひとつ、ふたつと展開していき、振り上げた手をゆっくりと下げ、ゆらゆらと力無き《鐡刃ソード》二本をノウトに飛来させる。今にも息絶えそうな敬虔な刃を、ノウトは無慈悲にも《殺陣シールド》で地面へと叩き落とした。

「ダーシュ、お前じゃ俺には勝てない」

うるさい……!! うるさい五月蝿うるさ煩瑣うるさい煩い!!! 黙れ………ッ!!」

「───俺を殺しても、パトリツィアは帰って来ないぞ」

「………っ!! お前が、姫の、パティの名前を……口に、出すな!!」

 ダーシュは止まらない鼻血に溺れるように言った。

「───お前らは、ナナセの言葉が聞こえなかったのか?」

「何だと……?」

「ナナセとミカエルの死を無碍にするのか、って言ってるんだ」

「そいつらは、お前が殺ったんだろ! ノウトォ!!」

「俺が、さっきの死闘で一度として熱を使う攻撃をしたか?」

「それはお前が、そう思わせるための策略、……なんだろ?」

「───現実を見ろ、ダーシュ。お前はパトリツィアの死で、何も見えなくなってる。いい加減前を向けよ。お前は必死に生きようとしてるけどな。思考を放棄して、ヤケクソになるなんて、そんなの死んでるのと同じだ。お前はずっと、時が止まったままだ」

「知ったような口を………叩くな……」

 ダーシュは反抗するように声を張り上げようとしたが、それを最後に後ろに倒れるようにへたり込む。完全に戦う意志を失ったようだ。意識はあるようで、肩で息をしていた。

「───みんな、聞いてくれ」

 ノウトはそれぞれの目を見た。

 カミル、ジル、ニコ、ダーシュ、エヴァ、スクード、リア、アイナ。

 そして、ミカエルとナナセ。彼らは生前の原型もなく、黒く爛れ乾涸ひからびていた。アイナは今なお、そんなナナセを抱き寄せている。

「ミカエルとナナセを殺した犯人はこの中にいる」

「誰か、……分かったんだね」

 リアが涙でしとどに濡れた顔で鼻をすすりながら、ノウトに言った。

「ああ。単純な話だった。俺らは完全に騙されていたんだ」

「騙されて、いた……?」

 カミルがか細い小さな声で呟いた。

「そう、至極単純で、簡単な嘘だった。ずっと信じ込んでいた。ずっと、……信じ込まされていた」

「誰、なんすか?」

 スクードが震えた声を出した。その声に答えるように、ノウトは口を、ゆっくりと開いた。

「まず、………まずは、根拠を述べる。今はただ聞いていて欲しい」

 ノウトが神妙な面持ちで言うと、誰も口を挟む者はいなかった。その様子を見てから、ノウトは言葉を紡ぐ。

「ナナセとミカエルを殺した犯人は、用意周到だった。初めから俺らを全員殺すつもりだったんだ。じゃなけりゃあんな嘘はつかない」

「あんな、……嘘?」

 座ったままの姿勢でニコが呟く。

「ああ。そいつは最初の最初から真っ赤な嘘をつくような手の込んだ犯人だった。だが、犯人は用意周到であったにも関わらず、やっていることはかなり大雑把だった」

 ノウトは無理やり口角をあげて苦笑いした。

「まぁ、〈神技スキル〉を持っている勇者が勇者全員を殺すのに、そんなに考えることもないからな。大胆に、そして冷静に、そいつは計画を進めて行った」

 ノウトの中で、話は纏まっていなかった。でも、犯人は分かっている。ただ根拠を片っ端から述べる。それだけだ。

「犯人の敗因はナナセを侮ったことだ。恐らく犯人は他の勇者を殺したのちにナナセと俺を殺そうとしたんだ。でも、ナナセの〈神技スキル〉は人智を超えていた。それに気付いた犯人は焦ってナナセを殺そうとした。それが今の現状だ」

「あ、あのちょっと、水を差すようで悪いんすけど。何を言ってるのか分からなくて、ついていけないって言うか、……なんというか……」スクードが消え入るような声音で言った。

「とりあえず聞いていてくれ。俺と犯人だけが分かっていればいい話だ。みんなは頭に入れておくだけでいい」

「えっと、分からないなりに話を整理すると、もしかしてナナセをおびき出して殺す為にミカエルは殺された、ということですか?」

「その通りだ、カミル。そうじゃなけりゃミカエルが殺された理由が分からない」

 ノウトはナナセとミカエルを見た。
 ああ、もう死んでしまったんだよな。生きて、会えないんだよな。もう、話すこともできないんだよな。そう思うだけで胸が張り裂けそうになった。
 でも、今は犯人を止めることだけを考えろ。今は、今だけは、ただそれだけでいい。

「でも、……どうして犯人はナナセがここに来ることを知っていたの? それを知らなければミカエルは無駄死にってことになるわ」

 ジルがノウトの顔見ずにそう言った。

「犯人は自分がナナセに探られていることを知っていた。だから大胆にこんな行動に出てまでナナセを殺したんだ」

 ノウトは歯を食いしばった。

「それに、どのみち俺らは全員殺される予定だったんだ。殺す予定を少しだけ早めても、そいつにとっては、ナナセを殺せれば問題はないに等しいだろうな」

「どうして、ノウトは犯人が分かったんですか? ここには〈神技スキル〉を明かしていない勇者が何人もいるのに───」

 カミルは皆の顔を見渡してそう言った。

「それを今から言うよ。犯人は殺す際に対象に触れなくちゃいけなかった。だから必然的にこの場に現れた」

 これでいい。これで、いいはずだ。

「俺達の〈神技スキル〉にはひとつのルールがある。それは『対象を定めた〈神技スキル〉はその対象に触れる必要がある』ということだ」

 もちろんこれは、だ。でも、完全な嘘ではない。ほとんどの〈神技スキル〉がそうであると立証出来ている。
 現に、これを聞いている勇者全員は、自らの〈神技スキル〉を省みて、納得するように口をつぐんでいた。
 この嘘の使い方は、皮肉な話だが、フェイから学んだものだ。嘘を真実に織り交ぜることで、その嘘はよりを帯びる。

「ナナセがミカエルを確認してからナナセに触れた者。そいつが犯人だ」

「えっと、……つまり………」

 カミルが過去を思い起こすように首をひねった。

「それは、お前だ。カミル」

「うえぇっ!? ぼ、僕ですか!?」

「ミカエルのそばで立ち竦むナナセにいの一番に触れたのはお前だった」

「確かに、……そうだったかもしれないわね」

 ジルが神妙な面持ちで頷いた。

「いやいやいや!! 待って下さい!! 僕、ほら!! 〈樹〉の勇者ですから!! 
ね!?」

 カミルはそう言って手のひらから樹を生やして、それをうねうねと踊らせてみせた。

「ああ。そうだったな」

「そうだったな、じゃないですよ!? 本当に違いますからね!!」

「そう、カミルは犯人じゃない。もう一人、その後にナナセに触れたやつがいる」

 ノウトは瞼を閉じて、一瞬思いを巡らせる。そして、ゆっくりと目を開く。

「それは────」



















「───ニコ、きみだ」

 ノウトはそれが残酷な定めだと言うようにその眼差しをニコに向けて、憂いを帯びた、儚げな瞳で告発した。
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