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第三章 恢復の旅路
第12話 独尊インサイドジェイル
しおりを挟むガランティア連邦王国。
その南端に位置する首都ファガラントには帝都グリムティアの魔皇城に負けずとも劣らない巨大な城が構えている。ただ、巨大と称したのは、少し皮肉が込められているかもしれない。
この地は千年前は監獄都市として構えていた土地だった。そこに篭城した当時のテオドール・フォン=ファガラウスがこの地を王都へと変貌させていったのだ。
城も、元が監獄だっただけに固く、重苦しい空気がそこら中に未だ漂っている。
彼は不死王と言うだけあって死ぬことを知らない。ここ、ガランティア連邦王国に暮らす民たちは不知死の英雄とも呼び、その英雄に対して皆が敬虔に従事し、また崇拝すらしている。
その実、誰も不死王のことを詳しくは知らない。
男なのか女なのか。
どのような容姿で、どんな種族なのかも、何もかも、民たちは知ることはない。
ただ、それを知ることが出来るのはこの城へと入ることを許された配下のみだ。
「今、帰ったぞ!! 皆の者よ!!」
不死王テオドール・フォン=ファガラウスの毅然たる声が王城に鳴り響いた。
「王よ。静粛に願います。鼓膜に傷が付いたらどうするのですか」
真っ黒なとんがり帽子を被った妖艶な魔人が不死王を叱責した。彼女は魔女ノワ=ドロワ。魔法を扱う者の中では一二を争い、帝国のメフィス・フラウトス以上とも言われる実力を持った魔人で、不死王を叱責出来る者はこの世界ではノワ=ドロワくらいだ。
「はっはっはっ!! すまないな!!」
不死王は頭の後ろに手をやって大声で笑った。その片手には〈時〉の勇者、ナナセの亡骸が入った棺桶があった。
「ところで王、この勇者らは如何致しますか?」
オークの英傑、ディウバルグが二人の勇者を担ぎながら言った。
「うむ。最上位に位置する女神を所有する大事な客だ。手厚く歓迎せねばな」
不死王は階段をかつかつと上りながら笑った。
「そうだ。ここまで助かったぞ」
不死王が語りかけたのは深々とフードを被った者だ。
「………今さら?」
「はっはっはっ!! 君は相変わらずだな!!」
不死王がその頭を撫でようと手を伸ばすとフード被りの者がパシンとその手を弾いた。
「アンタ」
魔女がフードを被った者に顔を近付けた。
「……ぶち滅ぼすわよ」
「………出来るものなら」
フード被りが言うと魔女がにやりと笑ってみせた。フードを被った者の胸ぐらを左手で掴んだ。魔女が右手を上にあげる。その手に光が煌めいた。青や、赤、緑の光が魔女ノワ=ドロワの右手で揺らめきひしめき合う。
「よせ、ノワ。オレの友人だぜ?」
「………申し訳ございません、王」
ノワ=ドロワは胸ぐらからパッ、と手を離して右手をぎゅっと結んだ。すると光が手の中に収束して、やがて消え去った。
「お前が〈熱〉の勇者を殺した時は流石の俺も焦ったがな」
「………」
フード被りは黙って踵を返した。
「もう行くのか」
「………」
「はっはっはっ!! いつでも帰ってこい。オレはどんな時でもお前の味方だぜ!!」
不死王が大声で言うとフード被りは不死王を鋭い眼で睨みつけて、その場からふっ、と消え去った。
「王、あの勇者を野放しにして良いのですか?」ディウバルグが不死王に問う。
「ああ。今はあいつの好きにさせるといい」
不死王が控えめに笑った。
そして、ノウトとの戦闘を思い出し、同時に血肉が沸き立つような興奮を覚えた。ノウトとの殺し合い。不死の退屈を彼は凌いでくれる。最高だ。最高の気分だ。
リアとエヴァ。
二人の勇者。
そして〈時〉の勇者ナナセの亡骸。
この三つを手に入れた我が国は、さらに次の段階へと上り詰めることが出来る。
「お前らは自室へ戻れ」
「「はっ」」
ディウバルドとノワ=ドロワは頭を垂れて、その場を去った。
〈焔〉の神機のレプリカに照らされた廊下を歩く。神機も、そして勇者も帝国に勝っている。容易い。この世界のなんと容易いことか。不死王は勇者を誘拐、強奪した直後にも関わらず、その内心は酷く安堵したものだった。不死王は力を手に入れた。この力を持ってすれば、目的を達することも他愛ないだろう。
不死王は自室の扉を開き、中へ入った。十人は横になれるほどの大きさのベッドに一人の女性が座っている。
「帰参したぞ!」
「………──」
後ろに束ねた黒髪のポニーテールが特徴的なその少女は憮然たる表情をしている。不死王はその少女の隣に座った。
「まだ、ここは慣れないか?」
「………何をしに行ってたんです?」
「正義の仕事だ」
「……血の匂いがします」
「はっはっはっ!! これは一本取られたな。さて、風呂に入るとするか。君も一緒にどうだ」
「……断固拒否します」
「冗談だ」
不死王は大きく笑って、立ち上がった。
「風呂に入ったら共に飯を食おう」
不死王が告げるとポニーテールの少女はそれを無視して、ベッドに横になった。不死王はそれを見届けてから扉を閉めて、歩を進めた。立ち止まっている時間などないのだ。進むしかない。象徴になるべくして、今はただ進撃するのみだ。
テオは──……不死王は階段を下へと降りていった。先に述べた通り、この王城は元は監獄である。城の地下には、当時と同じ巨大な牢が蟻の巣のように張り巡らされていた。
不死王は一つの牢屋の前で立ち止まった。
「待ちくたびれたぜ。全く」
その男は囚獄の石製の椅子に、まるで玉座のようにして座っていた。
「オレ様を待たせるとはいい度胸じゃねぇか。ああん?」
「はっはっはっ! 君は相も変わらずだな!」
「笑ってんじゃねぇよ。キングオブゾンビがよ」
その男──フョードルは牢獄の中でふんぞり返りながら大胆不敵に言った。
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