あのエピローグのつづきから 〜勇者殺しの勇者は如何に勇者を殺すのか〜

shirose

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第一章 勇者殺しの勇者

第1.5話 おはよう、ソウルメイト

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 早く起きないと。

 そんな思いで目を開けた。
 どうして早く起きる必要があるのか、次に思考した時には分からなくなっていた。
 ここはどこだろう。真っ暗だ。周りを見渡して、どこまで行っても闇がある。闇がひたすら濃い。濃すぎる。向こう側が遠いのか、近いのか。壁があるのか、壁がないのかもわからなかった。床がひんやりと冷たい。なんだか、それが妙に落ち着いた。誰かの息遣いが聞こえる。

「えっと、誰かいますかー?」

 これは僕の声じゃなかった。女性の声だ。女の子の声と言った方が正しいか。

「い、いるけど」

 こっちは男の子の声だ。なんか、安心する声だ、なんて思ってしまった。
 僕は立ち上がって、二本の足で立った。──って、あれ? 何かおかしい。なんか、立った時の頭の位置がいつもより高い気がする。……ん? いつもより? 変だな。おかしい。いつもってなんだ? 僕は誰だ?

「なんだこれ」

 男の声が聞こえた。少しだけ低い、唸るような声だ。

「ここどこすか?」

 今度も男の声だ。さっきの人よりは少しだけ声が高い。

「誰か知らないの?」

 これは僕の声だった。僕、こんな声してるんだ。ふーん。なんか、ちょっと嬉しくなった。喋れることがなんでか嬉しい。

「知らん」

 ぶっきらぼうな声が聞こえた。女の人の声だ。少し怖い。

「集団誘拐事件、とか……?」

 女の子の声だ。怯えてるみたい。

「なにそれ」

 また女の子の声。少し気が強そうな感じ。

「私、誰………?」

 透き通るような声だ。これも女の子の声。

「てかいっぱいいるね」

 男の子の声だ。なんか、楽観的って感じ。
 うーん。次々と声が聞こえて、僕は頭を抱えた。思考する。考えるのは好きだ。でも、あまりにも意味不明な状況には戸惑いを隠せない。何がどうなってここにいるんだろう。記憶がぼんやりしてる。自分の名前も分からない。ここはどこだろう。僕は少し前に歩いた。

「おっと」

 誰かと正面からぶつかった。

「あれ」

「ごめんね、当たっちゃった」

「い、いや。俺の方こそ悪い」

「別に、謝んなくていいよ」

「なんか冷静だな、あんた」

「そうかな」

「うん、俺……なんかよくわかんなくて。どこだ、ここ」

 すると、突然の視界が明るくなった。目の前にいたのは男の子だ。僕より背が高い。男の子は気付いたら別の方を向いていて、女の子と喋っていた。
 改めて状況を確認しよう。見ると、掛かっている燭台に火がついたようだ。
 でも、思ったより人が多いなぁ。ずっしり、いや、みっしり? 違うか。とにかくいっぱい人がいる。
 視界の端に自らの髪の毛が過ぎった。手を伸ばして髪の毛に触れる。白い髪の毛だ。触っているとよく手に馴染む。

「やぁやぁ紳士淑女諸君。御機嫌ようこんにちは、おやすみおはようこんばんは~」

 部屋の片隅が明るくなっていて、そこに人が立っていた。赤と青という奇抜な色の服を着ていたけれど、なんだか妙に様になっていて、かっこいいとも思ってしまった。

「えーそうだねぇ、いや、そうですね、うん、自己紹介や私の生い立ちについて語るのは時間がないので中略させていただきますが」

 かっこいい人が話していると突然、髪の毛がくるくるした人がかっこいい人の胸ぐらを掴んだ。

「おいお前!! お前が犯人か!? 何してんのか分かってんのか! あ゛ぁ!?」

 なにあれ、怖い。場の雰囲気を乱さないでよ。今あの人が話してるじゃん。お話聞いてようよ。

「そりゃあね、もちろんわかってますとも。君たち勇者を召喚させて頂いたんですよ」

『………え?』

 僕も「え?」と言ってしまった。勇者? あれ? なんだか、これは聞き覚えがある。確か、僕の憧れの人がいつも言っていた気がする。『俺は真の勇者になる男だからな』なんて、言っていたような。
 ……いや、だめだ。思い出そうとすると、頭痛がする。思い出すのはやめよう。

「うんうん、いい反応だ。えーっと、静粛にお願いしますね。んっんー。それでは皆様、ご自身の左手の甲をご覧下さいませ。ふふっ」

 言われたまま左手の甲を見る。

 そこにはピカピカと光るそれがあった。
 ✬みたいなマークの周りを囲むように円がある。青くて、美しくて、煌めいていて、綺麗だ。

「それは勇者の証、〈紋章エムブレム〉です。それではその紋章を右手で二回タップしてみて下さい」

 『タップ』って、なんだろう。すぐには分からなかった僕は、周りを見て理解した。二回触るってことね。それに従って紋章を二回指で触ってみせた。
 すると、言われた通り青くて半透明な板が出てきた。



────────────────────────
〈暴食〉の勇者

名前:ミカエル・ニヒセフィル
年齢:7歳
【〈神技スキル〉一覧】
論喰クラウズ》:触れたものを食べる能力。
────────────────────────



「へ?」

 ちょっと…………え?
 僕はステイタスを思わず二度見した。でも、内容は変わっていなかった。
 なんだろう。いろいろおかしいはずなのに、記憶がないせいでおかしいと断言出来ない。触れたものを食べる? この人は何を言ってるの? それに、7歳? なんか凄い幼いような。暴食って。いっぱい食べる勇者ってこと? それって勇者なの?

「すると、紋章から〈ステイタス〉が映し出されたと思います。うんうん。それは他の人から見ることは出来ないので盗み見ると言った行為は不可能です。そしてそこには勇者として必要な情報がざっくりと載っております、えぇ。して、そのステイタスに記載されている中で一番大事なのが何を司る勇者であるか、という点ですね。はい結構真面目にやってるね私」

 例のかっこいい人が話を続ける。なるほど、わからない。神技スキルってやつ、試しに使ってみようかな。

「なぁなぁ」

 さっき暗闇に立っていた男の子が話しかけてきた。その隣には女の子がいた。

「なんて書いてあった? あっ悪い。俺、ナナセ・トキムネって言うんだけど」

「僕は、ミカエル。ミカエル・ニヒセフィルだよ」

「ミカエル、か。なんか、かっけぇなおい」

 ナナセは目を細めた。

「キミは?」

「私はクガ・アイナ」

「クガちゃん?」

 僕が言うとクガちゃんは眉をひそめた。

「それはやめて。なんか、ダサいし。アイナでよろしく」

「分かった。じゃあアイナちゃん」

「うん、よろしく」

 アイナちゃんが手を出してきたから、僕はそれを握った。

「にしてもさー。勇者ってなに、って感じだよな?」

 ナナセは頭の後ろで手を組んで言った。

「勇者は優しい人のことだよ」

「優しい人?」

「うん、僕のともだちが勇者だったんだ」

「えっ、お前、記憶あるの?」

「えっ……──あれ? ごめん、違うんだ。そんな気がするってだけ」

「わかる。『そんな気がする』ばっかだよ、私なんて」

「それなー」ナナセは短絡な返事を返した。

「あんたいろいろ楽観的過ぎない?」

「アイナに言われたくないな」

「あんたにこそ言われたくない」

「あんたじゃない、ナナセ・トキムネって名前がある」

「じゃあ、トキムネ?」

「あ~………」

 ナナセは頭の後ろをかいた。

「ナナセでたのむ」

「まぁ、トキムネってなんか……」

「みなまで言わないでくれ……。なんかダサいよな、イマドキ感ないし──……イマドキ感?」ナナセは首を傾げた。

「二人は仲がいいね。ほんとに初対面?」

「うん」アイナは即答した。「別に仲は良くないけどね」

「そう、だな」

 でも、ナナセは少しだけ口ごもった。もしかしたら『そんな気がする』があるのかもしれない。

「えぇ、それでは皆様。これから幾星霜の旅へとご出立しますがご準備は宜しいでしょうか? いや~楽しくなりそうだ」

 件のかっこいい人が準備を促す。部屋にいる全員はもちろん準備なんて出来ていない。

「それではよき旅路を」

 そう言い放った直後、かっこいい人の姿はぱっと消えて、また直ぐに燭台の火も消える。
 またしても部屋に闇が訪れた。
 一瞬の静寂が訪れて少し経つと部屋の壁のひとつがゴゴゴ、と音を立てながら動き出し、その先に出口らしき光が見えた。
 出口までの道は横幅50センチ程しかなく人ひとりが通るのが精一杯だ。

「……よし、行くか」

 何人か行ったあとにナナセが口にした。僕とアイナは頷いて、一列になって部屋から出ていった。その時だった。何かを踏んだ気がした。柔らかくて、でも少し固くて。

「なんか踏んだんだが……?」

 ナナセが言った。僕とアイナは背中を押すように部屋から飛び出た。うわぁ、明るい。明る過ぎる。後ろで部屋の扉が閉まる。さっき踏んだのはなんだったんだろう。分からない。
 どうしてか、みんな振り向いて顔を上に向けている。それに従って、僕も上を見た。

「うへぇ……」

 高い、高過ぎる城がそこにはあった。
 記憶がなくて、僕は勇者───しかも〈暴食〉の勇者で。何もかも意味不明だけど。でも、どこかわくわくする自分がいた。

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