あのエピローグのつづきから 〜勇者殺しの勇者は如何に勇者を殺すのか〜

shirose

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序章 きみが灰になったとしても

第25話 つづきから

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『それで、ここからどうするの。ダーリン』

 頭の中にアヤメの声が響く。自然と受け入れていたが、頭の中に声がするなんて、冷静に考えたら……というか冷静に考えなくともおかしな話だ。でも、どうしてだろう。ずっと前からこうだったような気がしてならない。これはノウトの記憶なのか、それとも別の誰かの───。いや、今はそのことを気にしてる場合じゃない。
 ノワ=ドロワを名乗った女は帝都へ帰るように催促した。深読みすれば罠とも考えられる。ただ、嫌な予感がする。胸騒ぎがするんだ。
 今は、早く帝都に戻らないといけない。

『帝都? でも足がないよね。瞬間転移するやつもメフィちゃんとかがいないと使えないし』

「アヤメの翼があるだろ?」

『あー、それなんだけどさ。昨晩出力最大で力送りすぎたから今は翼を顕現出来ないみたいで』

「マジか……」

 翼があればすぐに帝都に戻れると思っていたが、その作戦は無効のようだ。であるならば、どうするべきか。……あれ、というか──

『どうしたの?』

「いや、アヤメ……。さっきから俺所々声に出してないよな?」

『うん』

 アヤメは首を縦に振った……と思う。アヤメの姿は見えないから想像の範疇だ。

「もしかして、心の声が聞こえる的な?」

『的な』

「……いや、便利だけどな……」

『恥ずかしい?』

「……そうとは言ってない」

『そっか』

 アヤメは小さく笑った。なんか、こいつとは凄い話しやすい。波長が合うのだろうか。初対面なのにこんなにも話しやすいのは初めてだ。
 ノウトは周りを見渡した。宿はエヴァに壊されてところどころボロボロだ。幸い、宿の主は生きていたが、さすがにこのまま去るのは気が引ける。

「みんな……」

 ノウトは胸に手を当てた。フィーユ達の入った遺体は今、布に包まれている。みんなを帝都まで連れて帰らないと。
 足取りが重い。ノウトはエヴァに対して怒りを覚えていないわけではない。みんながいなくなったのはエヴァがいたからだと断言出来る。でも、ここでノウトが感情に身を任せて憤るのは違う。
 皆、復讐に囚われている。
 どこかで復讐の連鎖を止めないといけない。
 それを成すのがノウトの役目であり使命だ。

「……ひとつ、当てがある」

 ノウトが呟いた。

『その当てってやつ、行ってみようよ』

 アヤメが言って、ノウトは歩き出した。日が出る前の街は静かだ。強い雨も降っていたし、エヴァが起こした騒動に気づいている者は誰も居ない。

「ワティラ……」

 ノウトがワティラに声をかけた。大虎マナガルは宿から離れた大虎専用の虎舎にいた。
 大虎は本来危険な生物だ。体長は平均して四メートルはある、文字通り大きい虎のような生き物。牙は錐のように鋭く、爪は剣を思わせるように鋭利だ。山の中で野生の大虎に出くわしたら死を覚悟しなければいけない。
 シャーファの家族であるワティラがノウトのことをどう思っているかは分からない。襲われる可能性だってある。ワティラは顔を上げて、ノウトを見る。ノウトは以前、ワティラを撫でようと手を伸ばしたら噛まれかけたことがある。殺陣シールドで事なきを得たが、殺陣シールドがなければ今頃片腕の一本はなくなっていただろう。

『ダーリン、大丈夫?』

 アヤメが言った。心配そうな声音ではなかった。アヤメはそう言いつつもノウトを信じているのだ。ノウトは答えずにワティラに一歩、また一歩と近付く。ワティラが身体を起こす。そうするとより大虎の恐ろしさが伝わってくる。
 ノウトは目を逸らさずにワティラに距離を詰める。もう、目と鼻の先だ。ワティラの鼻息がノウトにかかる。生暖かい。

「ワティラ、ごめん。きみの主人を守れなかった。謝っても、シャーファは帰ってこないのは分かってる。俺は無力だった。救うと口では言っていたのに、みんなを守れなかった」

 ノウトがワティラの目を見据える。ワティラはじっとノウトの顔を見ている。

「でも、ここで立ち止まったらあいつらに顔向けできないんだ」

 ノウトが胸に手を当てて、告げる。

「俺に、力を貸してくれないか?」

 ワティラは言葉を解しているのか、それは分からない。でも、伝わってくれと心で願って、言葉にした。ワティラは愚かではない。なぜなら、ワティラはシャーファの家族だ。ここで、ワティラがノウトを恨んで攻撃してくることも予想していた。いや、確実に襲ってくると思っていた。だからこそ、こうなるのは予想外だった。

「……って」

 ワティラがノウトの顔をざらざらとした舌で舐めた。それから頭を下げて、ノウトを上目遣いで見る。

『乗ってもいいってことかな』

 アヤメが言った。ノウトはしゃがんで、ワティラと視線を合わせた。

「いいのか?」

 聞くと、急かすように鼻先をノウトのひざにくっつけた。ノウトは頷いて、ワティラの背に乗った。毛が思ったより柔らかい。もっと堅いものかと思った。ワティラが立ち上がる。すると、思ったより視界が高くなったから驚いた。

「ワティラ、帝都まで頼む」

 その言葉が通じたのかは分からなかった。だが、ワティラは虎舎から出て勢いよく駆けた。そこには確かな意志があった。




           ◇◇◇




 未だ眠っているチナチナを前にして、ワティラの背にしがみつきながら、前方へと見やった。まだ先は長そうだ。客車を引いていないで、ワティラの上に直接乗っているから、ここに来た時よりは早く帝都に戻ることが出来るはずだ。シャーファやフィーユ達はあの街に残してしまった。さすがに揺れるワティラの背には乗せられない。ある人に預けたから一応は大丈夫なはずだ。
 風を感じながらも深呼吸をする。速すぎて気を抜くと手を離して飛ばされてしまいそうだ。それに、昨晩のことを思い出して、力が抜けてしまいそうになるのもある。駄目だな。どうしても彼らのことが頭にちらつく。ああ、フィーユ。彼女がノウトに最後に言った言葉が脳裏に焼き付いている。あの時別れて、再会を臨んでいたのに、また会うことは出来なかった。くそ。エヴァだ。いや、違う。エヴァが来ることを、敵が狙ってくることを予想出来なかったノウトが全て悪いんだ。
 エヴァの戦闘技術は度を越していた。エヴァを止めることが出来たのはアヤメのおかげだ。アヤメの力なくしてエヴァを止めることは出来なかっただろう。

「全部、偶然……なんだよな」

『そうだよ、ダーリン』

「エヴァが〈殺戮〉の女神であるアヤメを封じた剣を持ってて、それに俺が触れたから力を解放出来た。……これで、合ってるか?」

『うん、だいたいのところはね』

「この剣は、何なんだ?」

『武装型神機殺戮剣アイリス、または濫觴の揺籃ゲシュタルト・アプリオリ〈code:iRis〉』

「コード……アイリス…?」

『それはわたしのコード。実はもともとは二つだったんだけど別れちゃって……。あと、アイリスが今の本当の名前なんだけど、わたしのことはアヤメって呼んで欲しい』

「どうして?」

『アイリスの日本語が菖蒲あやめ。それに、ダーリンとお揃いにしたかったから。アヤメとアヤトでお似合いって感じでしょ?』

「ニホン語……それに、アヤト……?」

『思い出せそう?』

「いや……」

『まぁ、そうだよね』

 アヤメが小さく笑った。
 全く、これと言って分からない。『アヤト』というのは名前か? もしかして、……俺の? でも、俺の名前は今ノウトだ。それなら、この名前はなんだ。何を指しているんだ。

『さっきの話に戻すけど、濫觴の揺籃ゲシュタルト・アプリオリは過去の遺産だね。オリジン・オスティアのひとつのアクセスポイントでもある』

「……ごめん、アヤメ。言ってることのなにひとつ分からない」

『知る必要はないから大丈夫』

「そんなこと言わずに、教えてくれないか?」

『それは、できない』

「できない……って」

 ノウトは頭の後ろを掻いた。

「さっき言ったのはなんだったんだよ」

『断片的な解答。伝えることは伝えておきたいと思って。完璧な答えは検閲が入って言えないの』

「完璧な答えって?」

『このせ─────────────………………』

「……アヤメ……?」

 突然、頭に響くアヤメの声がブツっと途切れるように聞こえなくなった。

「……アヤメ」

 ノウトがもう一度呼ぶと、

『───まぁ、こんな感じで伝えられなくなるってわけ』

「痛いほど分かった。力は貸してくれるんだよな?」

『うん』

「それならいいよ。アヤメの言う通り、それはきっと俺が知ってもどうにもならないことだ」

 ノウトが言うと、アヤメは控えめに笑ったような、そんな気がした。顔は見えないから、そんな気がしただけだ。


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