あのエピローグのつづきから 〜勇者殺しの勇者は如何に勇者を殺すのか〜

shirose

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序章 きみが灰になったとしても

第46話 夜の底はただ白に

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 そうして、ノウトは白銀の世界で生存生活を続けた。
 日が経つにつれて、ノウトの探索範囲も広がり、生存技術も高くなったが、それと同時に気温も低くなっていった。真冬に近づいているのだ。我ながらよく生きていたと思う。
 八日目に鹿を仕留められた。ノウトにとって、これは本当に大きかった。少しの音でもしたら彼らは逃げてしまうし、夜目も利く。身体が大きいから罠にも掛けにくい。
 ノウトは閃光弾と睡眠針を駆使してなんとか鹿を捕らえることが出来た。これで何日かは余裕を持てた。
 十三日目辺りで南西方向に川を発見し、それからそこで魚を採ったり水を汲んだりした。水浴びは自殺行為なので出来なかったが、濡らした布で毎日のように身体を拭っていた。体調には気を配っていたので衛生面には特に気を付けていた。
 食生活は川を見つけたあとはある程度安定したけど、十七日目はその日何の取り分もなく、貯蓄はあるものの野草と苔だけで我慢した。この地から抜け出すには妥協は許されない。一刻も早く帝都に向かう為にも食糧を貯めつつも毎日を生きなくてはいけない。意外なことに、苔は風味も悪くなく腹持ちもそれなりに良かった。苔なしにノウトは生き続けることは出来なかっただろう。
 一人だから、出来ることは限られている。
 狩猟と採集、火の番を同時に行うことは出来ない。だからこそ、自分一人でできる最低限のことを為す。それだけだ。
 動物の胃袋や膀胱を使用して簡単な水筒を作った。いつまでも缶に頼れなかったからだ。内臓をよく洗って揉んで柔らかくし、膨らませて乾燥させる、といったそれなりに複雑な工程を経てかろうじて水筒が出来上がった。
 臓器よりも皮を有効活用したかったところだが、これが思ったより簡単ではなかった。ノウトが持っている不殺道具の中に針はあったが、糸がない。丈夫な糸がないと縫うことが出来ないのでここのところ、皮はそのまま掛けたり敷いたりして使っている。
 三十三日目、拠点が雪狼に襲われた。なんとか残りの睡眠針を使って仕留めることは出来たが、食料のストックの三分の一ほどを奪われてしまった。そして、左腕に軽く傷を負ってしまった。小さい傷だが、浅くはない。早くここを立たねば、死んでしまう。そこから今日までは療養しながらも食料を溜めている。

 そうして一ヶ月半の月日が経ち、ノウトは拠点を立とうとしていた。

 保存食もだいぶ貯まってきた。これならば拠点を離れても何日かは生きていけるだろう。
 散策をしている間、誰かを常に探していたけれど、結局誰とも会えなかった。泣いた夜もあった。
 ノウトはここ二ヶ月近く、誰とも口を聞いていない。人が恋しい。誰かと話をしたい。ノウトはノウトである前に、一人の人間だ。寂しさも当然感じる。ただ、胸を引き裂くような寂しさも長続きはしない。次第、次第に募っていき、ピークに達するとだんだんと平気になっていく。空腹や眠気と違って、限界を超えたら死んでしまうというものでもない。
 
 荷物をまとめて、拠点のある洞窟から一歩踏み出す。
 何日もこの地に滞在して、なんとなくの地理が頭に入っている。北に向かうと山があり、東には広大な雪原が広がっている。
 目指すは南だ。
 南西方向にある川を沿っていくと大きな湖がある。湖面は完璧に凍っていて、巨大な鏡のようだった。湖の周辺にも人の気配はしない。誰もいない。くじけるな。きっと、この先に何かがある。南に進みさえすれば何かが。
 ひたすらに南に向かって歩いていく。
 目を瞑ると、ラウラやレン、ダーシュ、フウカの顔が思い浮かぶ。彼らは無事なのだろうか。今ノウトが出来るのは祈ることだけだ。彼らならきっと無事だ。大丈夫、きっと。
 足取りは重くない。誰か人と会いたいという原動力だけで足が動いていた。喉が乾いた。水を飲もう。喉が乾いたからと言って雪を食べてはいけない。これはノウトの家訓だ。

「家……」

 今のノウトの家は魔皇城だ。
 遠征期間を含めば、もう二ヶ月は魔皇城に戻っていないことになる。メフィにも、シファナにもミャーナにも、そして魔皇にも久しく会っていない。
 半ば、魔皇に養って貰っていた。魔皇がいなければ今こうしているように孤独の中で日々を過ごすか、野垂れ死ぬしかなかっただろう。改めて、魔皇への感謝が募る。

「……会いたい」

 会いたいよ、魔皇。いや──

「…………ヴェロア」

 背徳的な感覚が背筋を這う。でも、この名前を口にすると、安心する。
 ヴェロアは魔皇の名前、ゼノヴェロア・マギカ=ジーガナウトから来ている。ラウラやロストガンたちの前では魔皇様と敬って呼ぶが、二人きりのときはヴェロアと呼んでいる。早く、帰りたい。ノウトの家に。
 早朝に出立したのに、もう日が暮れてきた。太陽が地平線の彼方に沈んでいる。どれくらいの距離を歩いたのか。まだ人には会えない。街も見当たらない。
 夜になると、気温がぐっと低くなる。少しだけ開けたところでその日は夜を過ごすことにした。凍死しないように火を灯す。死んでしまったら元も子もない。
 灯された炎に手をかざす。暖かい。生き返る思いだ。寒さにもだいぶ慣れてきたが、暖かいに越したことはない。
 明日、いや今を生きることを常に念頭に置いて、その日は横になった。三時間ほど眠ると、目が覚めた。篝火は依然として灯っていたけれど、今にも消えてしまいそうだ。火から立ちのぼる狼煙で誰かが見つけてくれたらそれが一番いいのだが、そう上手くもいかない。ノウトは燈火を足でかき消してから、その場を発った。
 南へ。ひたすらに南へと歩いた。相変わらず雪は足取りを邪魔してくるし、日差しは暖かくもないくせにやけに眩しくて少しだけ癇に障る。
 三日間、歩き続けた。
 その日も暗くなったので、休もうと腰を下ろしたところだった。
 ふと、強烈な獣の臭いを感じた。立ち上がり、あたりを見回した。音がする。草木を掻き分ける音だ。心臓が、ずんっ……と、重く痛むほど驚いた。向かって右。三時の方角だ。
 逃げるにせよ、迎え撃つにせよ、間に合わない──そう思った。
 相手が何ものか。すぐに分かった。
 ──熊だ。
 ぶつかられる前に手で顔を庇った。熊ならば顔面を狙ってくる。これもロストガンに聞いた話だ。案の定、熊は顔を守っている左手に噛み付いた。それと同時にノウトの身体は押し倒された。

「づぁっ…!」

 ああ。左手はもうだめだ。
 即座に諦めをかけて、ちぎれかけている左手をやつの口の中に手を突っ込んだ。異物を口の中に押し付けられて、熊は「ごほぉぁっ、ごばっ」と大きく呻いた。
 やつは、ノウトの背丈の二倍はある。三メートルか、それ以上。縄張りに入ってしまったのか。やつの爪で一撃でも受けたら、その時は終わりだ。肉も骨も呆気なく裂け潰されるだろう。死にたくない。生きたい。生きたい。だから、ノウトは死にものぐるいで熊にしがみついた。
 獣臭い毛が顔を埋めて、左手を食わせつつ、右手をやつの首に回して力を入れて引き寄せた。回して密着する。熊の両手の爪が、左の脇腹に、それから右肩に食いこんだ。このまま押し剥がされたら、その時は終わりだ。
 ポシェットから不殺道具を出す隙は一切ない。
 右手の人差し指と中指をやつの右眼に突き入れた。

「ぐぼ、ぐば、ぐぼおおおおおぉぉぉ!!」

 やつは苦悶の声を叫びながらも、もがき、吼える。激しく動く。やつの爪が身体中を傷付ける。反撃だ。反撃をしろ。

「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉおお!!」

 こっちも負けじと叫ぶ。大声を張り上げながら、どうなっているのか分からない左手をやつの口の中に思いっきりねじ込む。右手でやつの顔を無我夢中で叩きまくる。
 突然、身体が宙に浮いた。
 どうやら、にわかにやつが全身をひねり、その勢いでノウトは飛ばされたらしい。
 空中で体勢を整えて、ポシェットのある腰辺りに手を伸ばした。しかし、手は虚空を掠めた。そこには何もなかったんだ。今の衝撃でどこかに吹き飛ばされたのか。周囲は真っ暗だ。睡眠針も。閃光弾も。暗幕弾も。撒菱まきびしも。探せるわけが無い。もう使えない。
 息を整えて、折れたアヤメの剣を引き抜く。ナイフはこの一ヶ月で刃こぼれして使い物にならなくなってしまった。まだこちらの方が幾らかマシだ。アヤメ、スクード。俺に力を分けてくれ。

「がっ……!?」

 落下した直後だ。熊は獲物を右手か左手のどちらかで殴りつけたようだ。身体がひどく壊れた。どこが壊されたのか。もう分からない。衝撃で一瞬、意識がぶっ飛んだ。だが、一瞬だけだ。

「いッ………」

 重い。とてつもなく。やつが上に乗っている。組み敷かれたのだ。原型を留めていない左手で顔と胸付近を死守しながら刃の折れた剣をめちゃくちゃに振った。足を上げて腹も守りたかったけれど、なぜかそれはうまく出来なかった。
 やつは策謀がその頭に浮かんだのか忽然と上体を起こした。やばい。やつの鋭く恐ろしい爪が降り掛かってくる。とっさに左に転がって避けたが、避けきれずに、後ろ向きになったところでやつの一撃が左肩を跡形もなく打ち砕いた。
 息が。息ができない。
 這って逃げようと一瞬だけ頭に思い浮かんだけれど、無理だ。逃げられない。ああ。やつに捕まった。苦しい。やつがかぶりついてきた。

「ぎゃあああああああああああぁぁっっ!」

 右の脇っ腹だった。
 服を着ているのに、お構い無しだ。やつの牙がノウトの腹に突き刺さる。食っている。今、まさに食い尽くさんとしている。
 叫びながらも、食い尽くそうと必死になっているやつに反撃の機会を逃さなかった。
 全身をよじって、右手に握った折れた剣でやつの左眼に突き刺そうとした。否、突き刺すことは出来なかったけれど、傷付けることは出来た。

「ぐぅぼぁ、ごぼぁ」

 やつはすでに右眼を怪我していたから、これで両目はもう見えていないだろう。
 こうなった時の野生動物の判断能力は凄まじい。無駄に逡巡したりしない。やつは情けない声を発して飛び離れ、暗闇の中へと消えていく。逃げる。逃げていく。

「ごほっ………ごほっ……」

 咳が出た。咳と同時に血反吐を吐いた。
 とてつもなく、苦しい。右手には剣を握ったままにした。またやつが来るかもしれない。いや、当分は来ないか。
 ひどくだるい。だるくて、だるくて仕方がない。倦怠感。奥の方が、沈む夜のように重い。
 目をつむる。少しでも呼吸が楽になるように口を開く。身体を動かそうとする勇気すら湧いてこない。どこがどれくらい損傷しているのか知りたくなかった。
 ああ、でも、これはだめだろうな。正直、今生きているのも不思議なくらいだと思う。あえて把握したくなかった。知るのが恐ろしかった。
 分かっている。
 言われなくても、分かってしまっているんだ。
 もう、ノウトはこれで終わり。自然の中で死んでいく。
 ノウトは、もうすぐ死ぬ。
 熊からしても、人間を狩ろうとは思っていなかったはずだ。彼らの主食は鹿やロイップ、大きめのウキスート、魚、それから果実だ。
 出会い頭であの熊も驚き、反射的に襲ってきたのだろう。
 生きるとは、殺すことだ。
 熊は生きるためにノウトを殺そうとし、またノウトも生きるために熊を殺さんとした。
 おかげでこっちはこのざまだし、熊の方も浅からぬ傷を負った。お互いにとって、不幸な事故だったのだ。
 最期。
 これで、最後だ。
 なんとも。あっけない最期。ノウト自身、いつまでも明日があるとは思っていなかった。終わりがいつか来るのを覚悟していた。それが、今になった。ただそれだけの話だ。

「…………ひゅぅ………ひゅぅ………」

 肩で息をする。
 肺が痛い。
 腕が痛い。
 頭が、痛い。
 痛みが身体全身を包む。
 暗い。暗くなってきた。冷たい。
 どうしてだろう。雪が暖かいような。毛布に包まれているようだ。
 死にたくない。けど、少しだけ諦観はある。
 神技スキルも使えなかったし、ずっと気を詰めていたから体力もなかった。
 ああ。こんなに、あっさり。
 シファナ、ミャーナ。ごめん。きみたちに謝りたかった。ミファナとフィーユを。守れなくて。ごめんって。
 死んでしまったら、どこに行くのか。
 来世があるなら、楽園に行きたい。
 本当に楽園に行けたら。
 そして、──またきみに会えたなら。



































 目をつぶると、いつもきみのことを思い出す。
 戦地の中心で、目の前の少女は焔に包まれていた。焼き爛れて、その容姿は彼女の原型を留めていなかった。未だ決して消えない業火に焼かれている。きみは精一杯に、力を使って俺の方を見た。
 きみはそっと笑う。
 それから、きみは自らを殺すように頼む。
 だめだ。そんなの、俺にはできない。俺には。
 ノウト、と名を呼ばれた俺はすぐに聞き返す。
 すると、きみは俺の方を見つめて、ゆっくりと口を開いた。























『──生きて』










































 早く目を覚まさなくては。
 そんな思いで覚醒した。
 妙に暖かい。温度は冬のそれではない。
 身体を少し動かして、ここが土の上じゃないことに気が付いた。
 ノウトはベッドの上にいた。少しだけ頭痛がする。それでも、全身の傷が癒えていることは分かった。原型のなくなった左手も元に戻っている。身体を起こして、周りを見渡す。木の香りがする。無垢材で出来た部屋みたいだ。

「あっ、起きたー?」

 少年の声──いや、少女の声にも聞こえる。曖昧だ。その子は床に座っていて、片手にリンゴ、もう片方の手に果物ナイフを持っていた。
 頭には角はなく、猫耳も犬の耳もない。まるで、ノウトと同じ徒人族ヒュームのようだ。水色の髪で、Tシャツに短パンといったシンプルな服を着ている。

「はい、これ」

 その子が切り分けたリンゴの欠片をひとつ、ノウトに渡す。
 ノウトはそれを黙ったまま受け取った。手許にあるリンゴに視線を落として、再考する。
 思考が上手くまとまらない。
 ノウトは熊に襲われて、殺されて死んだのではないか。ここはどこだ。あれから何があった。何もかもが分からない。

「死んじゃってたのかと思ったよ。でも生きてて良かった。あれで起きなかったらボクの寝覚め悪いしさ」

 言って、肩をすくませる。

「北地区の人? あそこがツキログマのテリトリーだってことは常識でしょ? バカなの? ボクがいなかったら『住人』にむしゃむしゃ食べられてたよ」

「ツキログマ……」

 本で読んだことがある。北の方に生息する野生動物だ。成体は体長五メートル以上になる、巨大な熊。あれは幼体だったのだろう。

「きみが……助けてくれたのか」

「まぁね」

 その子は言って、手許の果物ナイフを円形の皿の上に乗せる。それから、突然、目を丸くして口を開いた。

「って君、大丈夫?」

「……え?」

「泣いてるよ」

 言われて、初めて気が付いた。涙が頬を伝っている。
 そうだ。俺、今生きてるんだ。

「……ここ最近人とずっと会ってなくて、……なんて言うべきか……分からないんだ」

 ノウトが言うと、目の前のその子はなんだかばつが悪そうに目を逸らした。

「……名前、聞いてもいいか?」

 生きている感動に息が詰まる感覚を覚えつつもノウトが問うと、女の子はノウトの方を向き直って、口を開いた。

「ニコ」

「ニコ?」

 その短い音が名前だとは思わず、反射的に聞き返してしまった。

「うん」

 ニコは頷く。ノウトはベッドの上で向き直って、ニコの方をきちんと見た。

「ニコ、ありがとう。本当に……本当に助かった」

 その言葉を聞くと、ニコはノウトの方を改めて見て、誇らしげに笑った。

「まぁ、君のこと見殺しにするのはボクとしても気持ち悪いからね」

 容姿に比べてその精神はどこか達観しているようにも見えるが、彼、もしくは彼女はノウトの命の恩人だ。少なくとも悪い人ではない。

「それでそれで、何日も人と会ってないってどういうこと? 家出してたの? 服、やけに汚かったけど」

「家出……。まぁ、そうとも言えるかもしれない」

「抽象的な答えだね」

「言っても、信じてもらえるかどうか」

「ま、とりあえず言ってみてよ。ボクが分かるかどうかはボクが決めるし」

 ノウトは首に手をやった。「仲間とはぐれて、遭難してたんだ」

「ふぅん」ニコはノウトに背中を見せて、リンゴをもう一度切り始めた。「それで?」

「仲間にもう一度会いたいんだ」ノウトはベッドから下りて、ニコの隣に座った。「だからここがどこか、教えてくれないか」

 ニコは手を止めて、ノウトを見た。

「教えたら、何してくれる?」

「えっ?」

「命の恩人に、何もしてくれないってわけ?」

「いや、何でもするよ。約束する」

「言ったね?」

 ニコがノウトに詰め寄った。どちらの性別なのか、見た目じゃ分からないけど、お風呂上がりのような石鹸のいい匂いが髪から漂い、ノウトの鼻をかすめた。

「ここはセンドキア第三地区」

「センド、キア……」

 聞き覚えのある単語が出てきたのでノウトは思わずガッツポーズをしてしまった。
 でも、良かった。もしここが《紅の大陸》や他の島々だったらどうしようかと思っていたが、その心配をする必要はなさそうだ。
 そんなノウトの様子を見て、ニコはふっ、と鼻で笑った。

「なんだか嬉しそうだね」

「まぁ、ね。ここを南下すれば帰れるって分かったから」

「ほー、それはよかった」

「早くもここを発ちたいけど。ニコ、君に恩返しをするのが先だな」

「お、乗り気だね」

「ニコは命の恩人だからな。それで、俺に何して欲しいんだ?」

「名前、教えて」

「そんなことでいいのか?」

「んーん。お願いはその先にあるけど、とりあえずお名前教えてちょうらい」

「ノウトだ」

「ノウト……」ニコが顎に手を触れた。「いい名前だね、うんうん」

「ありがとう、……でいいのかな。それで、頼みっていうのは?」

 言うと、ニコはノウトの方を向き直って、その群青色の瞳を向けて告げる。

「ノウト、ボクをこの国から連れ出して欲しいんだ」



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