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平穏
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朝食後、美實とフィアリスは氷華に呼ばれ、荷物整理を手伝っていた。
「凄いですね。これ全部エンド博士の?」
「そう、膨大でしょ?全部データ化されているから、本当はいらないんだけど、思い出が詰まっていて、捨てられないの」
「分かります。私も祖母から貰った三輪車、乗れなくなったけど、捨てられませんもの」
「フィアリスとお祖母様は、仲良かったのね」
「ええ、私が8歳の時に亡くなりましたけど。実は私の名前は、祖母が付けてくれたんです。御先祖様に、魔法聖女の称号を神から頂いた方がいたんですけど、その方の名前だって」
「ああ、数百年前まで存在した称号ね。フィアリスは12代目。15代まで続いたけど、魔法が補助的なものに移行して以後は無くなったみたいね」
「流石ですね。ただ、魔法聖女の中では知名度が低いみたいですけど」
「それは仕方ないわよ。例えば、この国の名前の由来となった初代魔法聖女セリアや、6代目から8代目まで母娘で聖女になった、美瑠、美舞、美瑪に比べると、他の聖女は陰が薄くなりがちよね。でも、3代目のカリアスもゲネティラに初めて総合病院をつくった事で大人気だし、フィアリスも攻撃魔法と動物言語を神レベルに極めた人物だからね。21歳で亡くなってしまったのが惜しまれるけど」
「本当に」
フィアリスは笑った。やっと緊張が解れたような、そんな笑顔だった。
「唐突だけど、美實さんは好きな人いるの?」
本当に唐突な氷華からの質問に、美實は耳まで真っ赤になった。
「あ~いるんだ。誰?誰?」
フィアリスが食いつく。
「かっ片思い…ですけど」
指をもじもじさせながら、美實は口籠もった。で、言い返す。
「そっそう言う氷華さんはいらっしゃるんですか?」
「私?そうねえ、ずっと助手生活だったから、あまり色恋には馴染み無くて。でも、もし告白されたら即OKしちゃう人はいるって感じかな」
「フィアリスは?」
二人にいきなり振られ、フィアリスはたじろいだ。
「わっ私は、いないです。いないけど、恋はしてみたいなぁ」
「話は変わるけど、フィアリスは今幾つだっけ」
美實が、女同士でも地雷を踏みそうな話題を振り込んできた。
「6780年生まれの20歳です」
「私が21歳で、氷華さんが26歳。フィアリスが最年少か。栞さんと勇一さんが、タメの23歳…」
「みんな若いわねえ」
クランプが入ってきた。
「因みに私は35、所長が56、ギルザーク本部長が59」
言葉にどこか棘があるのを察し、美實が突然、
「みんなでピクニックに出かけません?」
場が一瞬で別次元に包まれたような雰囲気になった。それはそうだろう。唐突にも程がある。沈黙が暫し流れる。やっちまったかと引き攣り笑いまま、美實の額には冷汗が流れる。しかし次の瞬間、
「いいわね、ピクニック。私大好きなのよ!」
と、意外にも一番ノリノリになったのがクランプだった。私もいいですか?とフィアリス。
「じゃあ、お弁当は私と美實が作るわね」
今度は栞が入ってきた。
「栞さん。なんで私も弁当を?」
「まさか一人に任せっきりにするつもりじゃないでしょう?」
「それはそうですけど、他にもいるのに」
「たまたま目が合ったからよ。さあキッチンに行くわよ」
「そっそんなぁ~」
美實は引き摺られるように、容赦無く問答無用でキッチンに向かわせられた。
「あっ、私も手伝います」
フィアリスも二人の後を追った。
セリア国立公園の一部であるロア・ナイア高原。プラングから車で十分で到着する近場だが、自然が豊かで開放感があり、近くには湖もある、ピクニックには最高の場所だった。一行はエラスティス湖近くにマットを広げ、料理を並べた。そして適当にパクつきながら、氷華が、エラスティス…恋人…か、と呟いた。
「そう言えばさっき、告白されたらOKな人がいるって言ってましたけど」
「うん、というより、私はずっと博士のラボにいたから、殆ど男性と会った事ないのよ。だから私の事を小さい時から世話してくれてる人が、いつしか好きになって」
「年の差と言えば、私もそうなんだ」
と栞。
「私、所長と結婚してるのよ」
「え~っ」とクランプ以外が驚いた。
「そうね。栞さんと所長は23と56で33差。で、氷華さんの好きな人って幾つなの?」
「41歳です。私が4歳くらいの時に、セリア国立軍の新兵ながら、博士と私の世話係として配属されて来たんです」
「へぇ~」
「そう言うクランプさんは?」
「私は特別いないかな。昔はいたけどね。今は仕事の方が楽しいから。因みに美實の好きな人は大甕君でしょ?」
ズバリ言われ、美實はこれ以上無いくらい真っ赤になって俯いた。
「分かりやすいよね。目がいつも勇ちゃん追ってるもの。他の女性と喋ってたりするとションボリしてるし、話しかけられると笑顔全開になるし」
「確かに。あれ?大甕さん、確かフリーなんじゃないですか?」
「うん、フィアリスちゃんの推察通りだと思う。勇ちゃんって、浮いた噂が全く無いからね、不思議と」
「そう言えばそうねえ…私も聞いたこと無いわ。特定の人はいないんじゃないかしら?」
三人からの希望的観測に勇気が湧いてきた美實だった。
一方、プラングで受注兵器の最終確認をしていた勇一は嚔をした。
「誰かが噂してるんじゃないか」
後ろからアスラングが茶々を入れる。
「まさか。それより、こっちは終わりました」
「早いな。こっちはあと少しだ」
「手伝いますよ」
「おお、助かる」
勇一は箱に入った銃を確認し始めた。傷の有無、照準器の精度など、多くの項目をチェックしていく。魔法力を貯留器に溜めて使用するタイプの銃で、バードニックフォース一般兵の基本装備の一つだ。魔法は体力を消耗する為、機械や物品を介するようになって行った。また、魔力を溜めておける貯留器も開発され、最初はワイン樽くらい大型だったのが、最近では3㎝✕1㎝にまで小型化された。それに伴い、こういった兵器にも組み込むことが可能となった。最早、攻撃魔法を直接腕や身体から放つのは過去の物となり、その方法も忘れられている。
最後の一挺を確認し終わり、二人は一息入れる事にした。
「ふう。ひとまず終わったな」
「そうですね。結構ありましたもんね」
「またヴィームカイザーみたいな大物を造ってみたいな」
「所長。あんまり大きな声でそんな事言わない方がいいですよ。誰が聞いているか分からないですし、僕だってかなりショックなんですから」
「そうか…そうだな。いやすまん。取り消す!」
このノリは栞とそっくりだ。歳は離れていても、似たもの夫婦だと熟々思う。と、その時、エレベーターからギルザークが降りてきた。そして、勇一に二人にしてくれ、と言って、その場を後にした。ギルザークは歩きながら、アスラングにデータカードを渡した。
「?何です?これ?」
「勇一、美實、氷華の両親に関する最新データだ。詳しい事はこの中に全部入っているから、確認しておいてくれ」
「何か問題でも?」
「そうだな。法的な手続き上は何の問題は無い。ただ、引っかかるのが美實だな」
「美實が?」
「ああ」
ギルザークが足を止め、振り返った。
「書類上は両親が死亡という事になっているが、調べた結果、どこにもそういう事実がないのだ。お上は何か知っているようだが、私には解せん」
「氷華は?」
「彼女に関しては、両親の所在地が掴めたという事だな。会うかどうかは本人と話し合ってくれ。勇一は…父親の詳細だが、これが或る意味で衝撃的だな、まあ後で見てくれ。腰抜かしてしまうかも知れないぞ。ただ、三人とも除隊とか処分の話は、今のところ上がって来ていないから、一先ず個別に話をしておくだけでいいだろう」
「分かった」
すると、今度は菱田茜が真正面から向かって来るのが見えた。
「やれやれ、随分来客の多い日だな」
アスラングは頭を掻いた。
「どうされたんです?」
ギルザークの質問には答えず、茜はデータカードを渡すよう促した。
「何故です?」
「美實の部分だけ消去させて頂きます」
「何故です?」
「将軍からの命令ですので答えられませんわ」
反論を一切認めない、と言う色を含んだ言い方だった。
だが、そんな中途半端な状態で自分に渡すだろうか、とギルザークは思った。渡した後から消し忘れに気がついた場合も考えられるが、それなら細かい部分ぐらいだろう。丸々となると、裏に何かある、と考えて当然だ。だがここは深く踏み込むべきでは無い。
「分りました」
ギルザークはデータカードを茜に渡した。茜は黙って受け取り、右手から光を発して該当部分のみを消去し、ギルザークにデータカードを返し、そのまま立ち去った。
残された二人の周囲には、何とも言えない澱んだ空気が漂っていた。
その晩、氷華を含めた全員がミーティングルームに集まった。
「扨、どうしたものかな。一応本部には今後もイヴボーズのような怪物が出現する確率が高いと連絡しておいたが」
「所長、本部は何と?」
「栞、聞いてくれよ。笑いを堪えながら、上司に連絡しておきますだとさ」
「まるっきり信用していないわね」
栞はお手上げポーズをして溜息をついた。
「私は今すぐ対処すべきだと思います」
口火を切ったのは美實だった。
「今なんとかしなきゃ、最悪のケースになる事は火を見るより明らかです」
「しかしなぁ…我々の独断で動くのは…」
確かにプラングは一兵器工場に過ぎない。一応出撃も可能だが、それは緊急事態が発生した場合のみだ。
「所長、そんな事を言ってる場合じゃないですよ。一刻の猶予も無いと思いますし」
フィアリスが畳み掛けた。
「まぁ確かにな。氷華博士、レイドールの方は?」
「一応、父が遺して下さったレイドールは大量にあるので、それを改造すれば。取り敢えず本来は回復・修理用のレイドールであるルナレイを、戦闘も可能なように改造しておきました。また、戦闘特化型のクロノレイも。マスター登録さえ終われば、いつでも出撃させられます。あ、因みにギースレイにもちょっと手を入れておきました。まあ見た目には分かりませんけどね。」
「流石。仕事が早いな」
アスラングが笑った。
「それにしても、何故プラング配属を受けて下さったんですか?レイドールを兵器に使われるのは反対の御立場だと御聞きましたが」
テーブルの上を片付けている氷華に、アスラングが訊ねた。
「…それは今でも変わっていません。でも姉のような悲劇を繰り返さない為には、それに立ち向かう力が必要だと思うのです。その力にレイドールがなれるなら、私の拙い技術でそれが出来るのなら、それに賭けてみようと思ったのです」
「拙いとは御謙遜ですな。しかし、成程」
「正直な所、姉の顔も憶えていませんし、接点もありません。寧ろ勇ちゃん、あっ失礼、大甕さんの方が馴染み深いですよ。良くお母様と一緒に、父の元に来ていましたから。私は勉強が忙しかったので、殆ど話していませんけどね」
「へぇ~世間は狭いものですね」
「そうですね」
二人は笑い合った。そして笑い終わったタイミングで、美實とフィアリスが話に割って入ってきた。
「あの、すみません」
「あら二人とも、どうしたの?」
「ルナレイとクロノレイってどんなのか気になって」
「ああ、アレね。此処にあるわよ」
「ここに?しかし、見たところ何も…」
氷華はフフッと小さく笑い、脇に置いてあるショルダーバッグから10㎝くらいの小さな人形2体を取り出した。黒をベースに、黄色と金色のラインの入ったそれは、顔のデザインが明らかにギースレイとは異なっている。もう一体は青みのかかった黒色で、その名の通り土星をイメージしたデザインであり、背中、頭部、両腕、腰部に大小様々な四つのリングが光っているのが印象的だ。
「元々ルナレイは、さっきも言った通り、修理・回復用として作られたレイドールに、私が改造・改修を施したの。ギースレイがギリシャ語で地球を表すギーからきているから、その相棒なら月だろうと。でもギリシャ語で月はフェガリで語感が私好みじゃないし、女性的なイメージも欲しかったからルナレイにしたの。ギースレイはサイズ変更の幅が凄く限定的だけど、ルナレイは10㎝から180㎝まで自在にサイズが変えられるわ。あっそうだ。この子のマスター登録、貴女にしておくわね」
えっ?と美實は驚き、思わず蹌踉けそうになった。そんな重大な事を、前振り無しで言わないで欲しいと、喉まで出そうになった。
「私がルナレイの?」
「ええ、ルナレイには母性のイメージが欲しいからね。デザイン的には全然女性的じゃないけど。それに、制作者はマスターにはなれない。で、この場にいる貴女しか女性はいない。でしょ?」
「それはそうですけど…」
制作者はマスターになれない。これは勿論、美實たちを納得・説得させる為の嘘に過ぎない。
「ソレと、クロノレイのマスターはフィアリスね。他に適任者が今のところいないし、あなた攻撃魔法の神様とまで呼ばれる、魔法聖女フィアリスの血筋でしょう?クロノレイには相性ぴったりなの」
「分りました」
「じゃあ決まり。宜しくお願いね。じゃあ登録するわよ」
そう言うと氷華は、ルナレイとクロノレイの胸に美實とフィアリスの右手人差し指、中指の先をそれぞれ押し当てさせ、右手から登録情報を吸収させる青い光、左からそれを定着させる赤い光を放出し、それを重ね、美實の右手に添えた。すると、全身にエネルギーが数秒間駆け巡るのが分かった。光が消えた。
「はい、終了。これで、この子たちのマスターは死ぬまで貴女たちよ。あ、マスター情報が届くのは半径四㎞以内だから、外出時は、なるべく行動を共にしてね。その範囲を越えると、ただの人形に戻ってしまうから」
「はい!ありがとうございます」
美實は、勇一がマスターであるギースレイの、サポートレイドール・ルナレイのマスターに自分がなれた。現実ではまだ違うが、まるで彼女か妻になったような気持ちと同時に、責任感のようなものが生まれるのを感じた。
一方フィアリスは、これでプラングのメンバーに、正式に認められた気がした。
フィアリスは夜の街を散歩していた。フィアリスの家はプラングから約十㎞離れた場所にある為、クロノレイと一緒だ。家族を説得するのに難儀したが、何とか分ってもらえた。
「…ん?」
突如、赤い小さな光が三つ現れた。そしてそれはゆっくりと本部へ向かっている。
「クロノレイ、あなた飛べる?」
「飛ぶ事は出来ないが、最高時速700㎞の高速移動なら」
「私を負ぶってあそこまでお願い!」
「お安い事だ」
クロノレイはフィアリスを背負い、一気に走り出し始めた。凄まじい勢いで景色が過ぎて行く。あっという間に現場に到着した。
怪物を見上げる。60mは有ろうかという体躯、銀の仮面に三つの丸い光、太い毛に覆われた体に蝙蝠のような羽根が一対。首元からは、色違いの長い毛が複数本垂れ下がっている。夜闇に浮かび上がるその姿は、まさに悍ましいの一語に尽きる。
「ヴァドラス…」
フィアリスが呟いた。
「そうよ、ゲネティラ神話の絵本に出てくる怪物そっくりだわ」
ゲネティラ生まれの者なら誰でも一度は耳にする伝承神話集の中でも、特に人気の高い章、シャルラの章は、知らない者がいないくらいの物語として数多くの絵本や伝記が出版されている。
「だとすると、これを生み操っているのは…いや、そんな事より、被害が出る前にバドラスを何とかしなきゃ。クロノレイ、お願い!」
「任せろ!」
クロノレイの体が燦めき始め、五つのリングが光のリングを作り出し、それをクロノレイは高速度で投げ放った。リングは一見バラバラに飛んでいるように見えて、実は確実な動きで、相手に反撃の隙を与えず、細かくバラバラに切り刻んだ。
「凄い…」
フィアリスは驚嘆した。
「あれ?でも待って、神話の通りならヴァドラスは…」
フィアリスの嫌な予感は的中した。肉塊と化したヴァドラスは、みるみる内に再生し、元の姿に戻った。
「ヴァドラスはコアを破壊しないと再生し続けるのよ」
「レイドールと同じようなもんか」
「そうね。ん?何であんな所に民間人が?」
いつの間にかヴァドラスの足下に、カメラを構えた一人の男性が立っていた。
「何て事を…」
暗くて気付かなかったのだろう。恐らく新聞社かマニアと思われるが、被害者を出すわけにはいかない。だが救出と撃退を同時進行は、現状では難しい。
「平気さ」
男はカメラを下ろした。
「ギルザークのおっさんから頼まれて、明日からプラング所属になる眞岡笙だ。宜しく…」
振り返った笙は目を見開いたまま、数秒動かなくなり、カメラを落とした。
「綺麗だ…」
「は?」
「プラングは開設当初から美人揃いと有名だったが、本当だな」
「そんな事を言っている場合じゃ…」
ヴァドラスが三つの目のような部分からビームを発射してきた。フィアリス達は何とかこれを躱した。
「ひゅう~危ねぇ」
「眞岡さん!大丈夫ですか?」
「大丈夫だが、俺の事なら笙でいい」
「クロノレイ、ここからプラングまでは何㎞?」
「測定の能力は無いから正確な距離は分らないが、恐らく三・五㎞くらいだと…」
(ギリギリね。仕方ない。体力消耗は避けたかったけど、そんなこと言っている場合じゃないし、念話を使おう)
念話とは所謂テレパシーの事。念話に限らず、魔法は体力を消費する。勿論魔法によって消費量は異なるし、念話はそれほど体力を消耗する訳ではない。しかしこの後の事を考え、万全で居たかったが、状況がそれを許さなかった。フィアリスは眉間に人差し指を当て、美實に念話を送り始めた。
(美實、プラングの4㎞くらい手前に怪物出現、救援求む)
(分かった。すぐ行くわ)
「クロノレイ!もう一度ヴァドラスを!」
「分った」
クロノレイは、先程より光のリングを小さくして数を増やし、ヴァドラス目掛けて放った。 ヴァドラスは細かく切り刻まれたが、やはりすぐ復活し始める。
その時、ギースレイとルナレイに乗った勇一と美實が到着した。
「間に合ったな。こいつは…ヴァドラス」
既に半分以上復活した姿を見て、勇一が呟く。
「神話では、コアを破壊すれば消滅するんじゃなかったっけ?」
「美實、確かに神話通りならば、そうなるが。問題はそのコアが何処に在るかだ」
「そうね。神話は多数の解釈やアレンジで描かれているからアテにはなら…待って、原典では、あの仮面の下にある額中央にコアが埋め込まれていた筈よ」
「そうか。原典なんて読んだ事が無かったからな。よし、先ずはアイツの仮面をひっぺがそう。それからだ」
「分りました。クロノレイ、お願い」
「ギースレイ、頼んだぞ」
ギースレイとクロノレイは同時に承知したと叫び、クロノレイが右腕のリングのみを光らせ始めた。
「ミマスリング!行けっ!」
ミマスリングが、高速度で放たれ、瞬間、ギースレイが垂直に飛翔し、リングが仮面を剥いだ直後、光の剣を腕から放出させ、一刀両断した。
「これでどうだ?」
ギースレイは着地し、ヴァドラスを見上げた。すると、先程のような肉塊ではなく、黒いガスのように霧散した。
「やった!」
思わず美實は勇一に抱きついた。そしてすぐにそれに気付き、耳まで真っ赤にして離れ、後ろを向いた。フィアリスは、笙に両手を握られていた。
「助かったぜ、フィアリス。これから宜しく。未来の妻♫」
「は?最後の余計な一言と音符は何ですか?」
「一目惚れしたんだ。君にね」
あまりにもストレートな言い方に、思わずフィアリスは笑ってしまった。
「ふふふ。ありがとう。笙さん、未来の妻かどうかは判らないけど、これから同僚として宜しくお願いしますね」
「同僚か。あれ?でも否定しないって事は、可能性はあるって事だよな。宜しく」
とことん前向きな笙に、フィアリスは引き攣り笑いしか出来なかった。こんな風に男性に迫られるのは初めてで、どう言った表情が正解なのか解らなかった。
美實は、ふと気付いた。よく考えてみれば、イヴボーズは兎も角、神話では定番のヴァドラスが出てきたと言うことは、それを生み出す存在もいるという事だ。
(ゴラス)
その名が頭を過った。
邪神ザグロスの蛹(さなぎ)のような存在で、一ツ目に黄金の仮面、緑の髪の毛が生え、宙に浮かんだ姿が特徴的と、神話には書かれている。
「神話通りなら、ゴラスは復活、若しくは復活しつつあるって事かしら、勇一さん」
美實の問いに、勇一は頷いた。
「かも知れない。急いで対策を考えなくてはな」
新たな脅威が差し迫るのを、四人は感じた。
美實と勇一の提案で、作戦会議が開かれる事になった。
「よし、今から緊急作戦会議だ。そして終わり次第、即行動開始だ」
というアスラングの声に、全員大きな声で「はい!」と答えた。
先ずはチーム分け。美實とアスラングをリーダー格に、前線チームには勇一、美實、フィアリス、笙、ギースレイ、ルナレイ、クロノレイ、ズィアスレイ。後方支援チームにアスラング、栞、氷華と割り振られた。
木星を名前に冠されたズィアスレイは、目の無い頭部デザインが特徴的な、探査、調査、索敵、斥候等を中心としたレイドールだが、ギースレイと同等の戦闘能力を有している。笙が急遽配属が決まり、氷華が急いで調整した。なので、当然マスターは笙だ。
「イヴボーズの一件で、本部も本腰を入れ始めた。そこで、プラングも人員増強の為に、2名増員する事になった」
「2名?笙さんと、もう一人は?」
美實が率直な疑問を投げかける。
「確かにこの場には居ない。正式な配属は明日だからな。名前は男衾久英、先日本部に転籍してきたが、博士のいいアシスタントになるだろうと言う事でプラング配属となった」
「成程。それなら本部の方も増強していると」
「笙、当たり前だろう。兵の増員、防衛ライン拡大、実装兵器拡充、色々と増強が決まっている。では、今回は特に被害は出ていない。フィアリスと美實、勇一の連携の賜物だ。三人ともよくやったな。そしてレイドール諸君のお陰で、イヴボーズもヴァドラスも倒せた。有り難う。感謝する」
ギースレイたちは頭を横に振った。
「彼女らの指示が的確だったからですよ」
「謙遜するな。扨、今後あのような怪物が再び現れると仮定して動かなくてはならない」
「はい」
フィアリスが手を挙げた。
「なんだ?」
「前回は別にして、今回は神話上の怪物が具現化してきました。なので、神話に沿って対策を練った方が良いと思われます」
「確かに。弱点さえ神話通りだったもんな」
と、笙。美實がフィアリスの話の補足をする。
「神話に基づけば、怪物は人間の邪念、怨念などを利用して、ゴラスが復活するまでの時間稼ぎで作り出した存在です。怪物の対処も大切ですが、ゴラスを主対象にすべきではないでしょうか」
アスラングは頷く。氷華が続く。
「実際戦力も揃いつつありますし、それが一番では?」
「うむ。それも一理あるな」
アスラングは立ち上がり、顎に手を当てて、何かを考えている。一同黙って、アスラングの発言を待つ。アスラングは暫時考えた後、頷きながら席に戻った。
「分った。ゴラスが主目標だ。だがどうやってゴラスの元へ?」
「神話だと地底神シャルラと地上神ザネットという夫婦神が戦いに赴くんだけど、まあここは現実的に、ゴラスの場所を特定して乗り込むしかなさそうね」
「美實、ありがとう。そう言う事らしい。博士、どうにかならんか?」
氷華は首を横に振る。それはそうだろう。地底世界まで届くほどの索敵能力はズィアスレイだって持っていない。五十㎞が限度だ。
「地上生まれの人なら地底世界に行き来は自由だ。その特権を使おう。調査部隊を日替わりでメンバーを変えて…」
その言葉を聞き、美實の表情が曇った。
「どうした?美實?」
アスラングが不思議そうに見つめる。隣の勇一は心配そうだ。
(来た。この時が。いつかは来るだろうと思ったけど)
プラングでの生活に慣れ、忘れかけていた。自分が純粋な地上人ではない事を。混血ですらない事を。事実を告げれば、もしかしたらスパイ容疑が掛けられ、死刑になるかも知れない。でも黙っていてバレるより、自分から切り出した方が良いのは火を見るより明らかだ。だが、このままこの会議を停滞させるのも違う気がする。
「いえ。大丈夫です」
「そうか、それならいいんだが。取り敢えず明日は俺と笙とズィアスレイで行く」
「ええ?男しかいねぇじゃんか」
「何か文句でもあるのか」
「いえ、何でもないです」
笙は引き攣り笑いを浮かべながら両手を振って、必死に誤魔化す。
「では決定だ。今日はもう遅いから明日から始めよう」
全員の「はい」と共に解散となった。
美實が部屋に戻ろうとした時、勇一に呼び止められた。
「どうしたんだ?何かあったのか?」
美實は話そうか一瞬躊躇った。だが、いつかは話さなければならないし、アスラングに話す前にワンクッション置く事も必要かも知れない。
「立ち話でも何だから僕の部屋に来いよ」
「はい」
と言って美實は勇一の部屋に入るなり、切り出した。
「実はね、私、本当は地上人じゃないの」
「えっ?」
「父はリナン国王立軍兵士・アラン・リノウィなの」
勇一は、黙ったまま美實を見つめる。
「もっと言えば、彼は養父で、本当の父は…」
美實は、出立前に両親に聞かされた事も交えて、自分の過去を話し始めた。
高貴なる捨て子
ゲネティラの地底国の一つリナン王国の冬は雪深い。3m以上積もる事も珍しくない。リナン王国北東の小さな町、ディアスには今日も雪が舞う中、一人の男が路地裏に大きな編み籠を見つけた。
男は・アラン・ロイ・リノウィ、この国の軍所属、昇進コースとは無縁の、梲の上がらない最下級の兵士。
編み籠は普段から通る人が殆ど居ない、日も当たらない細い路地の隅にひっそり置かれていたので、誰も気付かなかったのだろう。アランは籠に近付いた。黄緑のシルク地に金縁と、やけに豪華な布で何かが包まれている。アランは、一瞬躊躇したが、恐る恐る包みを解いた。すると中にはぐっすり眠っている赤ん坊が入っていた。こんな寒空で元気なのは、この布のおかげだろう。良く見れば、リナンの王族を表す紋章が刺繍されていたのだが、アランはそれには全く気が付かなかった。
(かわいそうに。こんな寒い中に捨てられて…泣けば誰かが気付いただろうに)
アランは籠を両手で持ち上げ、コートの中に入れ、落とさぬようコートの上から籠を押さえつつ帰宅した。
帰ったアランは、驚く妻・カレンに事情を説明した。布の刺繍から全てを察した妻は、自分たちの子供として育てる事にした。妻は噂で聞いていた。国王が浮気で作った子供を、発覚を恐れて捨てた事を。この子を生んだ女性は高貴な王族の子孫である事をさりげなく伝える為、更に防寒用に、特殊加工した王族仕様のこの布で包んだのだろう。まるで十戒のような筋書きの噂だが、真実を衝いている気がした。二人はこの子にキュイゼ・ダヴァ・リノウィと名付けた。キュイゼ・ダヴァは、女神ラトゥイスの、この地方での呼び名。献身、奉仕、博愛を司り、治癒魔法を管理する女神。高貴な生まれを暗に込めた名前だった。淑やかに育って欲しいと言う願いを込めた名前だった。
一方、リナン国王は、棄てられた自分の娘を探していた。実は棄てたのは余計な気を回した配下の者で、国王本人には棄てる気など更々無かった。勿論スキャンダルになる事は必至だが、それも厭わぬ覚悟があった。王立軍の密偵をフル活用し、捜索に当たらせた。
産んだ母親は逃亡したらしいという一報が入った。当然一人でではない。子供を棄てた配下の者と一緒に。つまり、愛してもいない男の子供を棄て、愛する男と駆け落ちしたと。なんと残酷な運命だろうか。だが、二日経っても、三日経っても、娘の行方は杳として知れなかった。入ってくる情報は不確かな噂レベルのものばかりで、王は本気で密偵部隊の総入れ替えを検討し始めていた。その時だった。娘がリノウィ家で育てられている事、そしてそのリノウィとは、王立軍の最下層の末端兵士だという事が判明した。
「見つかったか、良かった」
王は心底安堵した、溜息を漏らした。
「早速引き取りに行こう。場所は何処だ」
「北東に位置するディアスという小さな町です。しかしお止めになった方が宜しいかと」
側近は王を制止した。
「何故だ」
「御息女様は陛下の御子である事を知らないのですぞ。それに棄てられた身だと知ったらどんなに悲しみ、どんなに陛下を怨むか。それならば温かく見守り、あの子の手助けを裏からしてあげた方が角は立ちません。情報は逐一上げさせますので」
国王は不本意ながらも、一応納得した。
「判った。だが一つだけ直ぐにやるべき事がある」
「なんでしょう?」
「密偵部隊は総入れ替えだ!もっと優秀な人材を入れろ!」
国王は内密にアランを呼び、事の次第を全て話した。そして、養育費と、キュイゼが進みたい道に進むための積立金を毎月支払うこと、様々な手続き関係を処理するプロの用意を約束した。但し、これは妻ルイザにも内密である事、漏らしたら処刑する事、更に、キュイゼが自分で選んだ道を否定しないで受け入れる事を伝えた。
今日は年に一度の地底人と地上人の交流会。地上人と地底人が出会える数少ないイベントだ。ただし此処で出会い、恋に落ちても、地底人と地上人の結婚は御法度となっている。
閑話休題。
会場はかなり広く、五千平方メートルの敷地に、様々なブースが設けられている。飲食コーナーもあり、美實は地底では滅多に食べられない、チマースの香草焼きの舌鼓を打ちながら、辺りを見回した。地域物産、セミナー、ワークショップなど、多種多様な中で美實の目に止まったのは、バードニックフォースブースの男、大甕勇一だった。もの凄いイケメンでも男前でもないが、何故か目が彼を追っていた。そして、まるで地に足が付かぬまま、吸い寄せられるようにブースに向かおうとして、石に気付かず躓き、派手にスッ転んだ。周囲の人間はコントでも見たかのような大笑いだった。美實は擦り剥いた顎と膝の痛みより、恥ずかしさで真っ赤になり、泣きそうになった。だが、勇一がすぐさま駆けつけ助け起こし、綺麗な水で浸した脱脂綿で傷口を拭き、絆創膏を貼ってくれた。
「大丈夫か?」
「あっ有り難うございます」
「うん。気をつけなよ。ここらへんは石があるから」
「はい。あのっ」
「なんだい?」
「このブースは何ですか?」
「ああ、此処はバードニックフォースブースのプラングエリアだ。尤も、こんな狭い場所しか与えられなかったけどね」
「何をするところなのですか?」
勇一はパンフレットを差し出した。そして、ページを捲りながら、ゆっくり判りやすく説明し始めた。
「言ってしまえば兵器工場さ。戦艦や銃器、火器、爆弾を作っているんだ。飽くまで平和利用の為にね。僕がいるのがプラング総本部で、他の支部から上がってきたヤツの総仕上げや最終組立、設計、資材の手配等を請け負っている。まあここだけの話、バードニックフォース本部からの無茶な依頼もこなさなきゃいけなくて涙目になる事も…」
美實は思わずクスッと笑ってしまった。
「あ、食堂もあるのですね」
「ああ、主に住み込みの人用だけどね。軍籍のある者なら誰でも利用できる。寮にも工場にある住み込みスペースにもキッチンもあるから、そこで自炊する場合もあるね。あ、因みに片親でも親がいる場合は、住み込めない」
「住み込みの方ってどれぐらいいらっしゃるのですか?」
「三人。僕や所長は自宅から通いだ」
二人は暫く話し込んだ。特に美實は時間も忘れて、根掘り葉掘り訊いてはメモを繰り返していた。メモ帳全ページ隙間無くビッシリ埋めたところで、美實は我に返った。
「あぁっごめんなさい、こんなに長く…本当に申し訳ございません!」
美實は何度も頭を下げた。だが勇一は笑ったままだった。
「いいって。寧ろそんなに熱心に訊いてくれて嬉しかったよ。あ、最後にアドバイス。御辞儀する時は相手に旋毛を見せないように。通常は十五度、最敬礼で三十度だ」
勇一はウインクした。これで、美實の心は完全に奪われてしまった。そして決意した。必ずプラングに入隊する事を。
その日以来、美實は猛勉強を始めた。言語学、マナー、サバイバル術、建築学、物理学、細菌学、量子学、医学、看護学、兵器工学、戦術論、電子工学、魔術訓練、世界情勢把握など、思いつく限りの勉強をした。
リナン国王の耳に、それは伝わった。
「バードニックフォースにか。出来れば我が王立軍に入って欲しいくらいだが、しかたがない。よかろう。もしキュイゼが受験するようなら、無条件満点合格させるよう、ヴェスンに働きかけておこう」
リナン国王とヴェスンは旧知の仲だった。地上人と地底人の交流イベントが出来るのも、その為であった。但し平和の祭典を装ってはいるが実際は、そのイベントを通じての互いの調査だ。薄々勘付いている者もいるが、大抵は知らない事で、また来年も行われる予定だ。
そして数年が経った。
「お母さん、ただいま!話があるの」
帰るなり、興奮した様子でキュイゼがルイザに駆け寄った。
「何ですかキュイゼ、そんなに慌てて」
「これ!見て!」
美實が鞄から冊子を取り出した。それはバードニックフォースの志願書だった。霞は顔を顰(しか)めた。
「あのね、キュイゼ。どう言うつもり?」
「どういうつもりもこういうつもりも無いわ。臨時募集、プラング技術職。未経験可」
「軍隊よ、これ」
「そんなの分っているわ。でも兵士としてではなく、技術職採用よ」
「だからって…あっお父さん帰ってきた。あなた!ちょっと来て!」
「何だよ帰って早々。あ、部屋片付けずに行った事怒ってんのか?」
「そんなの何時もの事でしょ。そうじゃなくて、キュイゼが」
ルイザが言い切る前に、美實が冊子を父に差し出した。
アランが真顔に変わった。
「見ての通りバードニックフォースの志願書。私、そこの技術職として入隊したいの」
さっきの興奮した様子とは変わり、真剣な表情で訴える。
「バードニックフォース…割と新しい地上の民間軍だな。何故入りたいんだ?」
「私、ずっと前から入りたかったの。入って皆を守りたいって。でも中々チャンスが無かった。でもそれが訪れたのよ。ねえ、お願い!」
「この国の王立軍や国立軍じゃ駄目なのか?」
キュイゼは首を横に強く振る。
「何で地上、それも軍なのよ、危険の無い仕事なら幾らでもあるのに」
「お母さん。それでも私は入隊したい。平和を享受する側では無く、作る側になりたいの。お父さんのように軍で働きたい。でもバードニックフォースがいいの」
父は暫く無言だったが、結局は許可した。リナン国王との極秘の約束があったからだ。
「あなた何考えているの?突然軍隊に入りたいだなんて」
「突然じゃないぞ」
「えっ?」
「君は何も気付いていなかったのか?キュイゼの本棚には軍事関係の本ばかりだったのを」
「でも、それは趣味だと思って…」
「そればかりじゃない暇さえ有れば一人部屋に籠もって勉強していた。軍事関係に留まらず、周辺学問もな。凄まじい熱量で狂気すら感じていたくらいだ。そのせいで学校の成績は、中より下だったが。他に何かあるか?」
「それはっ」
ルイザは言葉に詰まった。そして自分の負けを悟り、認めた。
「だがな。残念ながら、バードニックフォースは地底人を受け入れていない。どうするつもりだ?」
「勿論知っているわ。特殊出生児扱いにして、新しい戸籍を作れば可能よ」
特殊出生児。両親などが認知不可能、生死不明、或いは死亡し、引取先が皆無な場合に、後見人や司法書士などが新しく戸籍を作る制度。キュイゼがそれを言い出すということは、アルサス家を捨てる事を意味する。
「言っている意味が分かっているのか?」
一瞬、キュイゼの顔が曇った。だがすぐに真剣な表情に戻った。
本気だ、とランスは感じた。
「分かった。何とか手配しよう。知り合いに特殊手続きのプロがいる。数日中に何とかなる筈だ。だが、そうなったら、もう此処には帰ってこられないぞ。いいんだな」
キュイゼは無言で頷いた。決意を秘めた瞳だった。もう何を言っても無駄だろう。こんな形で巣立ちの時が来るとは。
「お父さん、ありがとう」
「礼には及ばん。親と子は別の人間だ。キュイゼの決めた道を行くがいい。でも、あと僅かだけ、親子でいさせてくれ」
キュイゼの目に涙が溢れた。ルイザは号泣した。
数日後、正式に特殊出生児申請が受諾され、新しい名前が通達された。最初の名前である、キュイゼ・ダヴァ・リノウィを捩り、恋瀬川美實。両親は死亡という扱いとなった。ただ、居住地が無ければ願書は受け取れない為、居候扱いとした。もし採用となった場合、寮に移る事になる。
願書は受理され、採用試験用の書類が届いた。バードニックフォースの場合、これが届いた時点で仮採用となり、候補生が名乗れる。なので、記入欄が多く、内容も細かい。試験に通れば正式採用となる。一部分、試験当日に担当官が記入する部分もある為、間違わないよう慎重に書き進めていった。
試験当日。遅れてはならないと、だいぶ早めに家を出た。試験会場は、本部から六十㎞、家からは八十三㎞離れたフィーネ支部にて行われる。本部が現在壊滅状態で、実施可能な支部がそこだけだったからだが、それでも美實は楽しみで仕方が無かった。専用の送迎バスで現地に向かう為、集合場所に向かう途中、目の前にプラングの制服姿の男が現れた。
「僕は大甕勇一。隣のレイドールはギースレイ。君、此処を早く離れるんだ」
これが勇一との再会であった。
美實は、溜まっていた物を吐き出すように、投げ捨てるかのように、ひたすら喋り続けた。そして途中から、堰を切ったように号泣した。完全防音の部屋で無ければ、誰かが心配して駆けつけてくるレベルの大号泣だった。勇一がしっかり抱き留めてくれるのが嬉しかった。
一頻り泣き終わると、美實は勇一から離れた。
「ごめんなさい、取り乱しちゃって。でも、スッキリした。ありがとう」
「それは良かった。僕で良ければいつでも話にのるよ。ずっと言えずにつらかっただろうな」
美實は「うん」とだけ言って頷き、深呼吸した。
「でもやっぱり、折りを見て、ちゃんと所長には伝えた方が良い。今はやめた方がいいけどね。この戦いが終わったらが、タイミングとしてはいいかも」
「そうね。でもどうせ調査隊に組まれた時点で分ってしまう事だから、今言った方がいいと思うの。それに、嫌な事と面倒くさい事は先にやるに限るし」
美實は笑った。その笑顔は晴れやかだった。ドアを閉め、アスラングの部屋に向かった。
ドアをノックし、中へ入る。アスラングは机に向かっていた。
「あの…」
「そろそろ言いに来る頃だと思って居たよ」
「え?」
「お前が地上人じゃないって事だろう?まあ、現在は地底人でもなく、法的には地上人な訳だが。ただ、プラング入隊の為に両親と縁を切ったのは感心せんが」
「何故そこまで」
「ギルザークと二人で調べたのさ。将軍は揉み消そうとしたが。いや、もしかしたら俺たちがそうするよう仕向ける為に、態と茜を使ったのかも知れない」
最後の方は小声で、自分を納得させるように呟き、アスラングは苦笑いを浮かべた。
「処分については保留だ。この件が片付くまでな。調査隊にも組み込まない。ルナレイの戦闘力では心配だしな」
「有り難うございます」
そう言って頭を下げた瞬間、美實の体が黒い光に覆われ、消滅した。いや、美實だけではない。レイドールとレイドールに紐付けされた美實、勇一、笙、フィアリス、ギースレイ、ルナレイ、クロノレイ、ズィアスレイの八人全員が、同時に黒い光と共に、その場から消滅し、異空間を経て、地面に叩きつけられた。
「ここは?」
尻を摩りながら美實が辺りを見回す。
「此処はもしかして地底世界じゃないか…?」
笙が呟く。
「もしかしなくても、多分そうだろう。あの国旗を見ろよ。ギガニウスだぞ」
ギガニウス国。人口一億六千万人を誇る、地底最古の国家。但し、日本三つ分と面積が広い為、人口密度はそれほどでもない。
突然、目の前に焱を象った鎧を身につけた男と、緑色の、生物的デザインの鎧を着込んだ男が現れた。
「誰?」
フィアリスが身構える。
「俺はフレイアン。こっちの緑色がエースだ。そろそろ来る頃だと思っていたぞ。まあそう警戒するな。戦う意思はない」
そう言って、フレイアンは両腕を広げた。確かに攻撃してくる様子は無さそうだ。美實とフィアリスは、不思議そうな顔をしている。
「案内役に徹するって事か?」
「そうだ。それにギガントに属しているからと言って、ギバースに心酔している者ばかりじゃないって事さ。俺やエースみたいにな」
じゃあ何故?と勇一が問うと、歩きながら話そうとフレイアンが言い、全員歩き始めた。
「利害が一致しているからさ。ギガント本来の目的は元地底人たちの地上国家建国。だが最近のギバースはバードニックフォース殲滅に舵を切っている。それは俺たちの本意では無い。幾ら大規模とは言え、バードニックフォースは国立軍ではないからな。それに互いの軍事力の潰し合いなど不毛の極みだ。それよりも互いに譲歩、歩み寄りが今の我々には必須の筈だ。しかしギバースは変わってしまった。あの日からな」
「あの日?」
美實が首を傾げる。
「ゴラスの結晶だよ」
エースが写真を見せてきた。上半分が金色、下半分が赤い、美しい結晶。
「これ、伝説のゴラスに似ている配色から、ゴラスと名付けられたとされている宝石ですね」
「美實さん、知っているの?」
「いやフィアリス、寧ろ何で知らないの?鉱物学的にも世間的にも、凄く有名な宝石よ」
フィアリスは苦笑いした。
「ああ、そのゴラスの結晶の本物の方を使って復活させようと御執心だ。しかもどうやら成功したらしい。ファヴラーの話だと九割近くだそうだ」
背筋に冷たい物が突き抜けていった。
「じゃあ僕たちが急に地底に飛ばされて来たのも、ゴラスの力だと考えれば納得できる」
「ゴラスが復活しつつあるって事は、同時にザグロスも復活しつつあるって事よね」
「美實さんの言う通りだと思います。ザグロスは邪神に変貌しましたが、元々は戦いの神です。自分と対等に渡り合える戦力を、転送させて来たのだと…」
フィアリスの考察に、一同頷く。
「しかし、ゴラスの結晶の本物なんて、何処で手に入れたんでしょう?」
「フィアリス、それは多分自ら選んだ人間の手に渡るよう仕組んだのよ」
「多分、美實の推察は当たりだと思う」
急にフレイアンとエースが立ち止まった。
「到着だ。此処がエクソリア館…」
言い終える前に、勇一は駆け出していた。残りのメンバーもそれに続く。すると目の前に、異なる色の鎧を身に纏った三人が現れた。勇一たちは身構えた。
「初めまして、だな。私はギバース。右がロアー、左がファヴラーだ。残念ながらこの先は関係者以外立入禁止だ。帰って頂こう」
「そう言われて帰るとでも?」
クロノレイがギバースを睨み付ける。しかしギバースは意に介さず、踵を返した。
「だろうな。分かってて言ったんだ。 …ついてこい。復活間近の邪獣の姿を見せてやろう」
ギバースを先頭に、最後尾にロアーとファヴラーに挟まれた状態で、一行は歩き始めた。恐らく最深部に、その部屋があるのだろうと思っていたが、そう離れていない部屋の入り口で、ギバースは止まった。そして鉄扉が開かれ、目に飛び込んで来たのは、想像よりも巨大な一ツ目の獣だった。いや、獣にしては手足が見当たらない、異形の姿をした何か。絵本に描かれていた姿そのままだった。
「めでたい事に、間も無く復活する。あの目が開いた時、ヤツは復活する」
「手遅れだった…って事?そんな…」
美實は戦慄し、言葉を失った。勇一は、マリーを圧殺した黒い怪物よりも、更に巨大なその姿に圧倒された。フィアリスに至っては頭の中が混乱状態だった。
「確かに私も驚いている。思ったより早かったからな。一年はかかると思っていたが、まさか三ヶ月くらいでここまで…」
ギバースは、まるで他人事のように呟いた。そして美實たちの方へ振り返った。その途端、ゴラスの目がゆっくりと開き始めた。ギバース、ロアー、ファヴラー以外の者たちは、青褪めた。ゴラスはカプセルの強化ガラスを静かに摺り抜けた。天井が突き破られ、崩落した。そしてギバースを睥睨するように一瞥した後、口から突風を吹き出し、その場の全員を壁に叩きつけた。僅か十数秒の出来事だった。ギバースは確信した。これは正真正銘のゴラスだと。
キョエオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッッ
ゴラスの、何とも文字にしがたい悍ましい咆哮が、辺りに谺した。
「凄いですね。これ全部エンド博士の?」
「そう、膨大でしょ?全部データ化されているから、本当はいらないんだけど、思い出が詰まっていて、捨てられないの」
「分かります。私も祖母から貰った三輪車、乗れなくなったけど、捨てられませんもの」
「フィアリスとお祖母様は、仲良かったのね」
「ええ、私が8歳の時に亡くなりましたけど。実は私の名前は、祖母が付けてくれたんです。御先祖様に、魔法聖女の称号を神から頂いた方がいたんですけど、その方の名前だって」
「ああ、数百年前まで存在した称号ね。フィアリスは12代目。15代まで続いたけど、魔法が補助的なものに移行して以後は無くなったみたいね」
「流石ですね。ただ、魔法聖女の中では知名度が低いみたいですけど」
「それは仕方ないわよ。例えば、この国の名前の由来となった初代魔法聖女セリアや、6代目から8代目まで母娘で聖女になった、美瑠、美舞、美瑪に比べると、他の聖女は陰が薄くなりがちよね。でも、3代目のカリアスもゲネティラに初めて総合病院をつくった事で大人気だし、フィアリスも攻撃魔法と動物言語を神レベルに極めた人物だからね。21歳で亡くなってしまったのが惜しまれるけど」
「本当に」
フィアリスは笑った。やっと緊張が解れたような、そんな笑顔だった。
「唐突だけど、美實さんは好きな人いるの?」
本当に唐突な氷華からの質問に、美實は耳まで真っ赤になった。
「あ~いるんだ。誰?誰?」
フィアリスが食いつく。
「かっ片思い…ですけど」
指をもじもじさせながら、美實は口籠もった。で、言い返す。
「そっそう言う氷華さんはいらっしゃるんですか?」
「私?そうねえ、ずっと助手生活だったから、あまり色恋には馴染み無くて。でも、もし告白されたら即OKしちゃう人はいるって感じかな」
「フィアリスは?」
二人にいきなり振られ、フィアリスはたじろいだ。
「わっ私は、いないです。いないけど、恋はしてみたいなぁ」
「話は変わるけど、フィアリスは今幾つだっけ」
美實が、女同士でも地雷を踏みそうな話題を振り込んできた。
「6780年生まれの20歳です」
「私が21歳で、氷華さんが26歳。フィアリスが最年少か。栞さんと勇一さんが、タメの23歳…」
「みんな若いわねえ」
クランプが入ってきた。
「因みに私は35、所長が56、ギルザーク本部長が59」
言葉にどこか棘があるのを察し、美實が突然、
「みんなでピクニックに出かけません?」
場が一瞬で別次元に包まれたような雰囲気になった。それはそうだろう。唐突にも程がある。沈黙が暫し流れる。やっちまったかと引き攣り笑いまま、美實の額には冷汗が流れる。しかし次の瞬間、
「いいわね、ピクニック。私大好きなのよ!」
と、意外にも一番ノリノリになったのがクランプだった。私もいいですか?とフィアリス。
「じゃあ、お弁当は私と美實が作るわね」
今度は栞が入ってきた。
「栞さん。なんで私も弁当を?」
「まさか一人に任せっきりにするつもりじゃないでしょう?」
「それはそうですけど、他にもいるのに」
「たまたま目が合ったからよ。さあキッチンに行くわよ」
「そっそんなぁ~」
美實は引き摺られるように、容赦無く問答無用でキッチンに向かわせられた。
「あっ、私も手伝います」
フィアリスも二人の後を追った。
セリア国立公園の一部であるロア・ナイア高原。プラングから車で十分で到着する近場だが、自然が豊かで開放感があり、近くには湖もある、ピクニックには最高の場所だった。一行はエラスティス湖近くにマットを広げ、料理を並べた。そして適当にパクつきながら、氷華が、エラスティス…恋人…か、と呟いた。
「そう言えばさっき、告白されたらOKな人がいるって言ってましたけど」
「うん、というより、私はずっと博士のラボにいたから、殆ど男性と会った事ないのよ。だから私の事を小さい時から世話してくれてる人が、いつしか好きになって」
「年の差と言えば、私もそうなんだ」
と栞。
「私、所長と結婚してるのよ」
「え~っ」とクランプ以外が驚いた。
「そうね。栞さんと所長は23と56で33差。で、氷華さんの好きな人って幾つなの?」
「41歳です。私が4歳くらいの時に、セリア国立軍の新兵ながら、博士と私の世話係として配属されて来たんです」
「へぇ~」
「そう言うクランプさんは?」
「私は特別いないかな。昔はいたけどね。今は仕事の方が楽しいから。因みに美實の好きな人は大甕君でしょ?」
ズバリ言われ、美實はこれ以上無いくらい真っ赤になって俯いた。
「分かりやすいよね。目がいつも勇ちゃん追ってるもの。他の女性と喋ってたりするとションボリしてるし、話しかけられると笑顔全開になるし」
「確かに。あれ?大甕さん、確かフリーなんじゃないですか?」
「うん、フィアリスちゃんの推察通りだと思う。勇ちゃんって、浮いた噂が全く無いからね、不思議と」
「そう言えばそうねえ…私も聞いたこと無いわ。特定の人はいないんじゃないかしら?」
三人からの希望的観測に勇気が湧いてきた美實だった。
一方、プラングで受注兵器の最終確認をしていた勇一は嚔をした。
「誰かが噂してるんじゃないか」
後ろからアスラングが茶々を入れる。
「まさか。それより、こっちは終わりました」
「早いな。こっちはあと少しだ」
「手伝いますよ」
「おお、助かる」
勇一は箱に入った銃を確認し始めた。傷の有無、照準器の精度など、多くの項目をチェックしていく。魔法力を貯留器に溜めて使用するタイプの銃で、バードニックフォース一般兵の基本装備の一つだ。魔法は体力を消耗する為、機械や物品を介するようになって行った。また、魔力を溜めておける貯留器も開発され、最初はワイン樽くらい大型だったのが、最近では3㎝✕1㎝にまで小型化された。それに伴い、こういった兵器にも組み込むことが可能となった。最早、攻撃魔法を直接腕や身体から放つのは過去の物となり、その方法も忘れられている。
最後の一挺を確認し終わり、二人は一息入れる事にした。
「ふう。ひとまず終わったな」
「そうですね。結構ありましたもんね」
「またヴィームカイザーみたいな大物を造ってみたいな」
「所長。あんまり大きな声でそんな事言わない方がいいですよ。誰が聞いているか分からないですし、僕だってかなりショックなんですから」
「そうか…そうだな。いやすまん。取り消す!」
このノリは栞とそっくりだ。歳は離れていても、似たもの夫婦だと熟々思う。と、その時、エレベーターからギルザークが降りてきた。そして、勇一に二人にしてくれ、と言って、その場を後にした。ギルザークは歩きながら、アスラングにデータカードを渡した。
「?何です?これ?」
「勇一、美實、氷華の両親に関する最新データだ。詳しい事はこの中に全部入っているから、確認しておいてくれ」
「何か問題でも?」
「そうだな。法的な手続き上は何の問題は無い。ただ、引っかかるのが美實だな」
「美實が?」
「ああ」
ギルザークが足を止め、振り返った。
「書類上は両親が死亡という事になっているが、調べた結果、どこにもそういう事実がないのだ。お上は何か知っているようだが、私には解せん」
「氷華は?」
「彼女に関しては、両親の所在地が掴めたという事だな。会うかどうかは本人と話し合ってくれ。勇一は…父親の詳細だが、これが或る意味で衝撃的だな、まあ後で見てくれ。腰抜かしてしまうかも知れないぞ。ただ、三人とも除隊とか処分の話は、今のところ上がって来ていないから、一先ず個別に話をしておくだけでいいだろう」
「分かった」
すると、今度は菱田茜が真正面から向かって来るのが見えた。
「やれやれ、随分来客の多い日だな」
アスラングは頭を掻いた。
「どうされたんです?」
ギルザークの質問には答えず、茜はデータカードを渡すよう促した。
「何故です?」
「美實の部分だけ消去させて頂きます」
「何故です?」
「将軍からの命令ですので答えられませんわ」
反論を一切認めない、と言う色を含んだ言い方だった。
だが、そんな中途半端な状態で自分に渡すだろうか、とギルザークは思った。渡した後から消し忘れに気がついた場合も考えられるが、それなら細かい部分ぐらいだろう。丸々となると、裏に何かある、と考えて当然だ。だがここは深く踏み込むべきでは無い。
「分りました」
ギルザークはデータカードを茜に渡した。茜は黙って受け取り、右手から光を発して該当部分のみを消去し、ギルザークにデータカードを返し、そのまま立ち去った。
残された二人の周囲には、何とも言えない澱んだ空気が漂っていた。
その晩、氷華を含めた全員がミーティングルームに集まった。
「扨、どうしたものかな。一応本部には今後もイヴボーズのような怪物が出現する確率が高いと連絡しておいたが」
「所長、本部は何と?」
「栞、聞いてくれよ。笑いを堪えながら、上司に連絡しておきますだとさ」
「まるっきり信用していないわね」
栞はお手上げポーズをして溜息をついた。
「私は今すぐ対処すべきだと思います」
口火を切ったのは美實だった。
「今なんとかしなきゃ、最悪のケースになる事は火を見るより明らかです」
「しかしなぁ…我々の独断で動くのは…」
確かにプラングは一兵器工場に過ぎない。一応出撃も可能だが、それは緊急事態が発生した場合のみだ。
「所長、そんな事を言ってる場合じゃないですよ。一刻の猶予も無いと思いますし」
フィアリスが畳み掛けた。
「まぁ確かにな。氷華博士、レイドールの方は?」
「一応、父が遺して下さったレイドールは大量にあるので、それを改造すれば。取り敢えず本来は回復・修理用のレイドールであるルナレイを、戦闘も可能なように改造しておきました。また、戦闘特化型のクロノレイも。マスター登録さえ終われば、いつでも出撃させられます。あ、因みにギースレイにもちょっと手を入れておきました。まあ見た目には分かりませんけどね。」
「流石。仕事が早いな」
アスラングが笑った。
「それにしても、何故プラング配属を受けて下さったんですか?レイドールを兵器に使われるのは反対の御立場だと御聞きましたが」
テーブルの上を片付けている氷華に、アスラングが訊ねた。
「…それは今でも変わっていません。でも姉のような悲劇を繰り返さない為には、それに立ち向かう力が必要だと思うのです。その力にレイドールがなれるなら、私の拙い技術でそれが出来るのなら、それに賭けてみようと思ったのです」
「拙いとは御謙遜ですな。しかし、成程」
「正直な所、姉の顔も憶えていませんし、接点もありません。寧ろ勇ちゃん、あっ失礼、大甕さんの方が馴染み深いですよ。良くお母様と一緒に、父の元に来ていましたから。私は勉強が忙しかったので、殆ど話していませんけどね」
「へぇ~世間は狭いものですね」
「そうですね」
二人は笑い合った。そして笑い終わったタイミングで、美實とフィアリスが話に割って入ってきた。
「あの、すみません」
「あら二人とも、どうしたの?」
「ルナレイとクロノレイってどんなのか気になって」
「ああ、アレね。此処にあるわよ」
「ここに?しかし、見たところ何も…」
氷華はフフッと小さく笑い、脇に置いてあるショルダーバッグから10㎝くらいの小さな人形2体を取り出した。黒をベースに、黄色と金色のラインの入ったそれは、顔のデザインが明らかにギースレイとは異なっている。もう一体は青みのかかった黒色で、その名の通り土星をイメージしたデザインであり、背中、頭部、両腕、腰部に大小様々な四つのリングが光っているのが印象的だ。
「元々ルナレイは、さっきも言った通り、修理・回復用として作られたレイドールに、私が改造・改修を施したの。ギースレイがギリシャ語で地球を表すギーからきているから、その相棒なら月だろうと。でもギリシャ語で月はフェガリで語感が私好みじゃないし、女性的なイメージも欲しかったからルナレイにしたの。ギースレイはサイズ変更の幅が凄く限定的だけど、ルナレイは10㎝から180㎝まで自在にサイズが変えられるわ。あっそうだ。この子のマスター登録、貴女にしておくわね」
えっ?と美實は驚き、思わず蹌踉けそうになった。そんな重大な事を、前振り無しで言わないで欲しいと、喉まで出そうになった。
「私がルナレイの?」
「ええ、ルナレイには母性のイメージが欲しいからね。デザイン的には全然女性的じゃないけど。それに、制作者はマスターにはなれない。で、この場にいる貴女しか女性はいない。でしょ?」
「それはそうですけど…」
制作者はマスターになれない。これは勿論、美實たちを納得・説得させる為の嘘に過ぎない。
「ソレと、クロノレイのマスターはフィアリスね。他に適任者が今のところいないし、あなた攻撃魔法の神様とまで呼ばれる、魔法聖女フィアリスの血筋でしょう?クロノレイには相性ぴったりなの」
「分りました」
「じゃあ決まり。宜しくお願いね。じゃあ登録するわよ」
そう言うと氷華は、ルナレイとクロノレイの胸に美實とフィアリスの右手人差し指、中指の先をそれぞれ押し当てさせ、右手から登録情報を吸収させる青い光、左からそれを定着させる赤い光を放出し、それを重ね、美實の右手に添えた。すると、全身にエネルギーが数秒間駆け巡るのが分かった。光が消えた。
「はい、終了。これで、この子たちのマスターは死ぬまで貴女たちよ。あ、マスター情報が届くのは半径四㎞以内だから、外出時は、なるべく行動を共にしてね。その範囲を越えると、ただの人形に戻ってしまうから」
「はい!ありがとうございます」
美實は、勇一がマスターであるギースレイの、サポートレイドール・ルナレイのマスターに自分がなれた。現実ではまだ違うが、まるで彼女か妻になったような気持ちと同時に、責任感のようなものが生まれるのを感じた。
一方フィアリスは、これでプラングのメンバーに、正式に認められた気がした。
フィアリスは夜の街を散歩していた。フィアリスの家はプラングから約十㎞離れた場所にある為、クロノレイと一緒だ。家族を説得するのに難儀したが、何とか分ってもらえた。
「…ん?」
突如、赤い小さな光が三つ現れた。そしてそれはゆっくりと本部へ向かっている。
「クロノレイ、あなた飛べる?」
「飛ぶ事は出来ないが、最高時速700㎞の高速移動なら」
「私を負ぶってあそこまでお願い!」
「お安い事だ」
クロノレイはフィアリスを背負い、一気に走り出し始めた。凄まじい勢いで景色が過ぎて行く。あっという間に現場に到着した。
怪物を見上げる。60mは有ろうかという体躯、銀の仮面に三つの丸い光、太い毛に覆われた体に蝙蝠のような羽根が一対。首元からは、色違いの長い毛が複数本垂れ下がっている。夜闇に浮かび上がるその姿は、まさに悍ましいの一語に尽きる。
「ヴァドラス…」
フィアリスが呟いた。
「そうよ、ゲネティラ神話の絵本に出てくる怪物そっくりだわ」
ゲネティラ生まれの者なら誰でも一度は耳にする伝承神話集の中でも、特に人気の高い章、シャルラの章は、知らない者がいないくらいの物語として数多くの絵本や伝記が出版されている。
「だとすると、これを生み操っているのは…いや、そんな事より、被害が出る前にバドラスを何とかしなきゃ。クロノレイ、お願い!」
「任せろ!」
クロノレイの体が燦めき始め、五つのリングが光のリングを作り出し、それをクロノレイは高速度で投げ放った。リングは一見バラバラに飛んでいるように見えて、実は確実な動きで、相手に反撃の隙を与えず、細かくバラバラに切り刻んだ。
「凄い…」
フィアリスは驚嘆した。
「あれ?でも待って、神話の通りならヴァドラスは…」
フィアリスの嫌な予感は的中した。肉塊と化したヴァドラスは、みるみる内に再生し、元の姿に戻った。
「ヴァドラスはコアを破壊しないと再生し続けるのよ」
「レイドールと同じようなもんか」
「そうね。ん?何であんな所に民間人が?」
いつの間にかヴァドラスの足下に、カメラを構えた一人の男性が立っていた。
「何て事を…」
暗くて気付かなかったのだろう。恐らく新聞社かマニアと思われるが、被害者を出すわけにはいかない。だが救出と撃退を同時進行は、現状では難しい。
「平気さ」
男はカメラを下ろした。
「ギルザークのおっさんから頼まれて、明日からプラング所属になる眞岡笙だ。宜しく…」
振り返った笙は目を見開いたまま、数秒動かなくなり、カメラを落とした。
「綺麗だ…」
「は?」
「プラングは開設当初から美人揃いと有名だったが、本当だな」
「そんな事を言っている場合じゃ…」
ヴァドラスが三つの目のような部分からビームを発射してきた。フィアリス達は何とかこれを躱した。
「ひゅう~危ねぇ」
「眞岡さん!大丈夫ですか?」
「大丈夫だが、俺の事なら笙でいい」
「クロノレイ、ここからプラングまでは何㎞?」
「測定の能力は無いから正確な距離は分らないが、恐らく三・五㎞くらいだと…」
(ギリギリね。仕方ない。体力消耗は避けたかったけど、そんなこと言っている場合じゃないし、念話を使おう)
念話とは所謂テレパシーの事。念話に限らず、魔法は体力を消費する。勿論魔法によって消費量は異なるし、念話はそれほど体力を消耗する訳ではない。しかしこの後の事を考え、万全で居たかったが、状況がそれを許さなかった。フィアリスは眉間に人差し指を当て、美實に念話を送り始めた。
(美實、プラングの4㎞くらい手前に怪物出現、救援求む)
(分かった。すぐ行くわ)
「クロノレイ!もう一度ヴァドラスを!」
「分った」
クロノレイは、先程より光のリングを小さくして数を増やし、ヴァドラス目掛けて放った。 ヴァドラスは細かく切り刻まれたが、やはりすぐ復活し始める。
その時、ギースレイとルナレイに乗った勇一と美實が到着した。
「間に合ったな。こいつは…ヴァドラス」
既に半分以上復活した姿を見て、勇一が呟く。
「神話では、コアを破壊すれば消滅するんじゃなかったっけ?」
「美實、確かに神話通りならば、そうなるが。問題はそのコアが何処に在るかだ」
「そうね。神話は多数の解釈やアレンジで描かれているからアテにはなら…待って、原典では、あの仮面の下にある額中央にコアが埋め込まれていた筈よ」
「そうか。原典なんて読んだ事が無かったからな。よし、先ずはアイツの仮面をひっぺがそう。それからだ」
「分りました。クロノレイ、お願い」
「ギースレイ、頼んだぞ」
ギースレイとクロノレイは同時に承知したと叫び、クロノレイが右腕のリングのみを光らせ始めた。
「ミマスリング!行けっ!」
ミマスリングが、高速度で放たれ、瞬間、ギースレイが垂直に飛翔し、リングが仮面を剥いだ直後、光の剣を腕から放出させ、一刀両断した。
「これでどうだ?」
ギースレイは着地し、ヴァドラスを見上げた。すると、先程のような肉塊ではなく、黒いガスのように霧散した。
「やった!」
思わず美實は勇一に抱きついた。そしてすぐにそれに気付き、耳まで真っ赤にして離れ、後ろを向いた。フィアリスは、笙に両手を握られていた。
「助かったぜ、フィアリス。これから宜しく。未来の妻♫」
「は?最後の余計な一言と音符は何ですか?」
「一目惚れしたんだ。君にね」
あまりにもストレートな言い方に、思わずフィアリスは笑ってしまった。
「ふふふ。ありがとう。笙さん、未来の妻かどうかは判らないけど、これから同僚として宜しくお願いしますね」
「同僚か。あれ?でも否定しないって事は、可能性はあるって事だよな。宜しく」
とことん前向きな笙に、フィアリスは引き攣り笑いしか出来なかった。こんな風に男性に迫られるのは初めてで、どう言った表情が正解なのか解らなかった。
美實は、ふと気付いた。よく考えてみれば、イヴボーズは兎も角、神話では定番のヴァドラスが出てきたと言うことは、それを生み出す存在もいるという事だ。
(ゴラス)
その名が頭を過った。
邪神ザグロスの蛹(さなぎ)のような存在で、一ツ目に黄金の仮面、緑の髪の毛が生え、宙に浮かんだ姿が特徴的と、神話には書かれている。
「神話通りなら、ゴラスは復活、若しくは復活しつつあるって事かしら、勇一さん」
美實の問いに、勇一は頷いた。
「かも知れない。急いで対策を考えなくてはな」
新たな脅威が差し迫るのを、四人は感じた。
美實と勇一の提案で、作戦会議が開かれる事になった。
「よし、今から緊急作戦会議だ。そして終わり次第、即行動開始だ」
というアスラングの声に、全員大きな声で「はい!」と答えた。
先ずはチーム分け。美實とアスラングをリーダー格に、前線チームには勇一、美實、フィアリス、笙、ギースレイ、ルナレイ、クロノレイ、ズィアスレイ。後方支援チームにアスラング、栞、氷華と割り振られた。
木星を名前に冠されたズィアスレイは、目の無い頭部デザインが特徴的な、探査、調査、索敵、斥候等を中心としたレイドールだが、ギースレイと同等の戦闘能力を有している。笙が急遽配属が決まり、氷華が急いで調整した。なので、当然マスターは笙だ。
「イヴボーズの一件で、本部も本腰を入れ始めた。そこで、プラングも人員増強の為に、2名増員する事になった」
「2名?笙さんと、もう一人は?」
美實が率直な疑問を投げかける。
「確かにこの場には居ない。正式な配属は明日だからな。名前は男衾久英、先日本部に転籍してきたが、博士のいいアシスタントになるだろうと言う事でプラング配属となった」
「成程。それなら本部の方も増強していると」
「笙、当たり前だろう。兵の増員、防衛ライン拡大、実装兵器拡充、色々と増強が決まっている。では、今回は特に被害は出ていない。フィアリスと美實、勇一の連携の賜物だ。三人ともよくやったな。そしてレイドール諸君のお陰で、イヴボーズもヴァドラスも倒せた。有り難う。感謝する」
ギースレイたちは頭を横に振った。
「彼女らの指示が的確だったからですよ」
「謙遜するな。扨、今後あのような怪物が再び現れると仮定して動かなくてはならない」
「はい」
フィアリスが手を挙げた。
「なんだ?」
「前回は別にして、今回は神話上の怪物が具現化してきました。なので、神話に沿って対策を練った方が良いと思われます」
「確かに。弱点さえ神話通りだったもんな」
と、笙。美實がフィアリスの話の補足をする。
「神話に基づけば、怪物は人間の邪念、怨念などを利用して、ゴラスが復活するまでの時間稼ぎで作り出した存在です。怪物の対処も大切ですが、ゴラスを主対象にすべきではないでしょうか」
アスラングは頷く。氷華が続く。
「実際戦力も揃いつつありますし、それが一番では?」
「うむ。それも一理あるな」
アスラングは立ち上がり、顎に手を当てて、何かを考えている。一同黙って、アスラングの発言を待つ。アスラングは暫時考えた後、頷きながら席に戻った。
「分った。ゴラスが主目標だ。だがどうやってゴラスの元へ?」
「神話だと地底神シャルラと地上神ザネットという夫婦神が戦いに赴くんだけど、まあここは現実的に、ゴラスの場所を特定して乗り込むしかなさそうね」
「美實、ありがとう。そう言う事らしい。博士、どうにかならんか?」
氷華は首を横に振る。それはそうだろう。地底世界まで届くほどの索敵能力はズィアスレイだって持っていない。五十㎞が限度だ。
「地上生まれの人なら地底世界に行き来は自由だ。その特権を使おう。調査部隊を日替わりでメンバーを変えて…」
その言葉を聞き、美實の表情が曇った。
「どうした?美實?」
アスラングが不思議そうに見つめる。隣の勇一は心配そうだ。
(来た。この時が。いつかは来るだろうと思ったけど)
プラングでの生活に慣れ、忘れかけていた。自分が純粋な地上人ではない事を。混血ですらない事を。事実を告げれば、もしかしたらスパイ容疑が掛けられ、死刑になるかも知れない。でも黙っていてバレるより、自分から切り出した方が良いのは火を見るより明らかだ。だが、このままこの会議を停滞させるのも違う気がする。
「いえ。大丈夫です」
「そうか、それならいいんだが。取り敢えず明日は俺と笙とズィアスレイで行く」
「ええ?男しかいねぇじゃんか」
「何か文句でもあるのか」
「いえ、何でもないです」
笙は引き攣り笑いを浮かべながら両手を振って、必死に誤魔化す。
「では決定だ。今日はもう遅いから明日から始めよう」
全員の「はい」と共に解散となった。
美實が部屋に戻ろうとした時、勇一に呼び止められた。
「どうしたんだ?何かあったのか?」
美實は話そうか一瞬躊躇った。だが、いつかは話さなければならないし、アスラングに話す前にワンクッション置く事も必要かも知れない。
「立ち話でも何だから僕の部屋に来いよ」
「はい」
と言って美實は勇一の部屋に入るなり、切り出した。
「実はね、私、本当は地上人じゃないの」
「えっ?」
「父はリナン国王立軍兵士・アラン・リノウィなの」
勇一は、黙ったまま美實を見つめる。
「もっと言えば、彼は養父で、本当の父は…」
美實は、出立前に両親に聞かされた事も交えて、自分の過去を話し始めた。
高貴なる捨て子
ゲネティラの地底国の一つリナン王国の冬は雪深い。3m以上積もる事も珍しくない。リナン王国北東の小さな町、ディアスには今日も雪が舞う中、一人の男が路地裏に大きな編み籠を見つけた。
男は・アラン・ロイ・リノウィ、この国の軍所属、昇進コースとは無縁の、梲の上がらない最下級の兵士。
編み籠は普段から通る人が殆ど居ない、日も当たらない細い路地の隅にひっそり置かれていたので、誰も気付かなかったのだろう。アランは籠に近付いた。黄緑のシルク地に金縁と、やけに豪華な布で何かが包まれている。アランは、一瞬躊躇したが、恐る恐る包みを解いた。すると中にはぐっすり眠っている赤ん坊が入っていた。こんな寒空で元気なのは、この布のおかげだろう。良く見れば、リナンの王族を表す紋章が刺繍されていたのだが、アランはそれには全く気が付かなかった。
(かわいそうに。こんな寒い中に捨てられて…泣けば誰かが気付いただろうに)
アランは籠を両手で持ち上げ、コートの中に入れ、落とさぬようコートの上から籠を押さえつつ帰宅した。
帰ったアランは、驚く妻・カレンに事情を説明した。布の刺繍から全てを察した妻は、自分たちの子供として育てる事にした。妻は噂で聞いていた。国王が浮気で作った子供を、発覚を恐れて捨てた事を。この子を生んだ女性は高貴な王族の子孫である事をさりげなく伝える為、更に防寒用に、特殊加工した王族仕様のこの布で包んだのだろう。まるで十戒のような筋書きの噂だが、真実を衝いている気がした。二人はこの子にキュイゼ・ダヴァ・リノウィと名付けた。キュイゼ・ダヴァは、女神ラトゥイスの、この地方での呼び名。献身、奉仕、博愛を司り、治癒魔法を管理する女神。高貴な生まれを暗に込めた名前だった。淑やかに育って欲しいと言う願いを込めた名前だった。
一方、リナン国王は、棄てられた自分の娘を探していた。実は棄てたのは余計な気を回した配下の者で、国王本人には棄てる気など更々無かった。勿論スキャンダルになる事は必至だが、それも厭わぬ覚悟があった。王立軍の密偵をフル活用し、捜索に当たらせた。
産んだ母親は逃亡したらしいという一報が入った。当然一人でではない。子供を棄てた配下の者と一緒に。つまり、愛してもいない男の子供を棄て、愛する男と駆け落ちしたと。なんと残酷な運命だろうか。だが、二日経っても、三日経っても、娘の行方は杳として知れなかった。入ってくる情報は不確かな噂レベルのものばかりで、王は本気で密偵部隊の総入れ替えを検討し始めていた。その時だった。娘がリノウィ家で育てられている事、そしてそのリノウィとは、王立軍の最下層の末端兵士だという事が判明した。
「見つかったか、良かった」
王は心底安堵した、溜息を漏らした。
「早速引き取りに行こう。場所は何処だ」
「北東に位置するディアスという小さな町です。しかしお止めになった方が宜しいかと」
側近は王を制止した。
「何故だ」
「御息女様は陛下の御子である事を知らないのですぞ。それに棄てられた身だと知ったらどんなに悲しみ、どんなに陛下を怨むか。それならば温かく見守り、あの子の手助けを裏からしてあげた方が角は立ちません。情報は逐一上げさせますので」
国王は不本意ながらも、一応納得した。
「判った。だが一つだけ直ぐにやるべき事がある」
「なんでしょう?」
「密偵部隊は総入れ替えだ!もっと優秀な人材を入れろ!」
国王は内密にアランを呼び、事の次第を全て話した。そして、養育費と、キュイゼが進みたい道に進むための積立金を毎月支払うこと、様々な手続き関係を処理するプロの用意を約束した。但し、これは妻ルイザにも内密である事、漏らしたら処刑する事、更に、キュイゼが自分で選んだ道を否定しないで受け入れる事を伝えた。
今日は年に一度の地底人と地上人の交流会。地上人と地底人が出会える数少ないイベントだ。ただし此処で出会い、恋に落ちても、地底人と地上人の結婚は御法度となっている。
閑話休題。
会場はかなり広く、五千平方メートルの敷地に、様々なブースが設けられている。飲食コーナーもあり、美實は地底では滅多に食べられない、チマースの香草焼きの舌鼓を打ちながら、辺りを見回した。地域物産、セミナー、ワークショップなど、多種多様な中で美實の目に止まったのは、バードニックフォースブースの男、大甕勇一だった。もの凄いイケメンでも男前でもないが、何故か目が彼を追っていた。そして、まるで地に足が付かぬまま、吸い寄せられるようにブースに向かおうとして、石に気付かず躓き、派手にスッ転んだ。周囲の人間はコントでも見たかのような大笑いだった。美實は擦り剥いた顎と膝の痛みより、恥ずかしさで真っ赤になり、泣きそうになった。だが、勇一がすぐさま駆けつけ助け起こし、綺麗な水で浸した脱脂綿で傷口を拭き、絆創膏を貼ってくれた。
「大丈夫か?」
「あっ有り難うございます」
「うん。気をつけなよ。ここらへんは石があるから」
「はい。あのっ」
「なんだい?」
「このブースは何ですか?」
「ああ、此処はバードニックフォースブースのプラングエリアだ。尤も、こんな狭い場所しか与えられなかったけどね」
「何をするところなのですか?」
勇一はパンフレットを差し出した。そして、ページを捲りながら、ゆっくり判りやすく説明し始めた。
「言ってしまえば兵器工場さ。戦艦や銃器、火器、爆弾を作っているんだ。飽くまで平和利用の為にね。僕がいるのがプラング総本部で、他の支部から上がってきたヤツの総仕上げや最終組立、設計、資材の手配等を請け負っている。まあここだけの話、バードニックフォース本部からの無茶な依頼もこなさなきゃいけなくて涙目になる事も…」
美實は思わずクスッと笑ってしまった。
「あ、食堂もあるのですね」
「ああ、主に住み込みの人用だけどね。軍籍のある者なら誰でも利用できる。寮にも工場にある住み込みスペースにもキッチンもあるから、そこで自炊する場合もあるね。あ、因みに片親でも親がいる場合は、住み込めない」
「住み込みの方ってどれぐらいいらっしゃるのですか?」
「三人。僕や所長は自宅から通いだ」
二人は暫く話し込んだ。特に美實は時間も忘れて、根掘り葉掘り訊いてはメモを繰り返していた。メモ帳全ページ隙間無くビッシリ埋めたところで、美實は我に返った。
「あぁっごめんなさい、こんなに長く…本当に申し訳ございません!」
美實は何度も頭を下げた。だが勇一は笑ったままだった。
「いいって。寧ろそんなに熱心に訊いてくれて嬉しかったよ。あ、最後にアドバイス。御辞儀する時は相手に旋毛を見せないように。通常は十五度、最敬礼で三十度だ」
勇一はウインクした。これで、美實の心は完全に奪われてしまった。そして決意した。必ずプラングに入隊する事を。
その日以来、美實は猛勉強を始めた。言語学、マナー、サバイバル術、建築学、物理学、細菌学、量子学、医学、看護学、兵器工学、戦術論、電子工学、魔術訓練、世界情勢把握など、思いつく限りの勉強をした。
リナン国王の耳に、それは伝わった。
「バードニックフォースにか。出来れば我が王立軍に入って欲しいくらいだが、しかたがない。よかろう。もしキュイゼが受験するようなら、無条件満点合格させるよう、ヴェスンに働きかけておこう」
リナン国王とヴェスンは旧知の仲だった。地上人と地底人の交流イベントが出来るのも、その為であった。但し平和の祭典を装ってはいるが実際は、そのイベントを通じての互いの調査だ。薄々勘付いている者もいるが、大抵は知らない事で、また来年も行われる予定だ。
そして数年が経った。
「お母さん、ただいま!話があるの」
帰るなり、興奮した様子でキュイゼがルイザに駆け寄った。
「何ですかキュイゼ、そんなに慌てて」
「これ!見て!」
美實が鞄から冊子を取り出した。それはバードニックフォースの志願書だった。霞は顔を顰(しか)めた。
「あのね、キュイゼ。どう言うつもり?」
「どういうつもりもこういうつもりも無いわ。臨時募集、プラング技術職。未経験可」
「軍隊よ、これ」
「そんなの分っているわ。でも兵士としてではなく、技術職採用よ」
「だからって…あっお父さん帰ってきた。あなた!ちょっと来て!」
「何だよ帰って早々。あ、部屋片付けずに行った事怒ってんのか?」
「そんなの何時もの事でしょ。そうじゃなくて、キュイゼが」
ルイザが言い切る前に、美實が冊子を父に差し出した。
アランが真顔に変わった。
「見ての通りバードニックフォースの志願書。私、そこの技術職として入隊したいの」
さっきの興奮した様子とは変わり、真剣な表情で訴える。
「バードニックフォース…割と新しい地上の民間軍だな。何故入りたいんだ?」
「私、ずっと前から入りたかったの。入って皆を守りたいって。でも中々チャンスが無かった。でもそれが訪れたのよ。ねえ、お願い!」
「この国の王立軍や国立軍じゃ駄目なのか?」
キュイゼは首を横に強く振る。
「何で地上、それも軍なのよ、危険の無い仕事なら幾らでもあるのに」
「お母さん。それでも私は入隊したい。平和を享受する側では無く、作る側になりたいの。お父さんのように軍で働きたい。でもバードニックフォースがいいの」
父は暫く無言だったが、結局は許可した。リナン国王との極秘の約束があったからだ。
「あなた何考えているの?突然軍隊に入りたいだなんて」
「突然じゃないぞ」
「えっ?」
「君は何も気付いていなかったのか?キュイゼの本棚には軍事関係の本ばかりだったのを」
「でも、それは趣味だと思って…」
「そればかりじゃない暇さえ有れば一人部屋に籠もって勉強していた。軍事関係に留まらず、周辺学問もな。凄まじい熱量で狂気すら感じていたくらいだ。そのせいで学校の成績は、中より下だったが。他に何かあるか?」
「それはっ」
ルイザは言葉に詰まった。そして自分の負けを悟り、認めた。
「だがな。残念ながら、バードニックフォースは地底人を受け入れていない。どうするつもりだ?」
「勿論知っているわ。特殊出生児扱いにして、新しい戸籍を作れば可能よ」
特殊出生児。両親などが認知不可能、生死不明、或いは死亡し、引取先が皆無な場合に、後見人や司法書士などが新しく戸籍を作る制度。キュイゼがそれを言い出すということは、アルサス家を捨てる事を意味する。
「言っている意味が分かっているのか?」
一瞬、キュイゼの顔が曇った。だがすぐに真剣な表情に戻った。
本気だ、とランスは感じた。
「分かった。何とか手配しよう。知り合いに特殊手続きのプロがいる。数日中に何とかなる筈だ。だが、そうなったら、もう此処には帰ってこられないぞ。いいんだな」
キュイゼは無言で頷いた。決意を秘めた瞳だった。もう何を言っても無駄だろう。こんな形で巣立ちの時が来るとは。
「お父さん、ありがとう」
「礼には及ばん。親と子は別の人間だ。キュイゼの決めた道を行くがいい。でも、あと僅かだけ、親子でいさせてくれ」
キュイゼの目に涙が溢れた。ルイザは号泣した。
数日後、正式に特殊出生児申請が受諾され、新しい名前が通達された。最初の名前である、キュイゼ・ダヴァ・リノウィを捩り、恋瀬川美實。両親は死亡という扱いとなった。ただ、居住地が無ければ願書は受け取れない為、居候扱いとした。もし採用となった場合、寮に移る事になる。
願書は受理され、採用試験用の書類が届いた。バードニックフォースの場合、これが届いた時点で仮採用となり、候補生が名乗れる。なので、記入欄が多く、内容も細かい。試験に通れば正式採用となる。一部分、試験当日に担当官が記入する部分もある為、間違わないよう慎重に書き進めていった。
試験当日。遅れてはならないと、だいぶ早めに家を出た。試験会場は、本部から六十㎞、家からは八十三㎞離れたフィーネ支部にて行われる。本部が現在壊滅状態で、実施可能な支部がそこだけだったからだが、それでも美實は楽しみで仕方が無かった。専用の送迎バスで現地に向かう為、集合場所に向かう途中、目の前にプラングの制服姿の男が現れた。
「僕は大甕勇一。隣のレイドールはギースレイ。君、此処を早く離れるんだ」
これが勇一との再会であった。
美實は、溜まっていた物を吐き出すように、投げ捨てるかのように、ひたすら喋り続けた。そして途中から、堰を切ったように号泣した。完全防音の部屋で無ければ、誰かが心配して駆けつけてくるレベルの大号泣だった。勇一がしっかり抱き留めてくれるのが嬉しかった。
一頻り泣き終わると、美實は勇一から離れた。
「ごめんなさい、取り乱しちゃって。でも、スッキリした。ありがとう」
「それは良かった。僕で良ければいつでも話にのるよ。ずっと言えずにつらかっただろうな」
美實は「うん」とだけ言って頷き、深呼吸した。
「でもやっぱり、折りを見て、ちゃんと所長には伝えた方が良い。今はやめた方がいいけどね。この戦いが終わったらが、タイミングとしてはいいかも」
「そうね。でもどうせ調査隊に組まれた時点で分ってしまう事だから、今言った方がいいと思うの。それに、嫌な事と面倒くさい事は先にやるに限るし」
美實は笑った。その笑顔は晴れやかだった。ドアを閉め、アスラングの部屋に向かった。
ドアをノックし、中へ入る。アスラングは机に向かっていた。
「あの…」
「そろそろ言いに来る頃だと思って居たよ」
「え?」
「お前が地上人じゃないって事だろう?まあ、現在は地底人でもなく、法的には地上人な訳だが。ただ、プラング入隊の為に両親と縁を切ったのは感心せんが」
「何故そこまで」
「ギルザークと二人で調べたのさ。将軍は揉み消そうとしたが。いや、もしかしたら俺たちがそうするよう仕向ける為に、態と茜を使ったのかも知れない」
最後の方は小声で、自分を納得させるように呟き、アスラングは苦笑いを浮かべた。
「処分については保留だ。この件が片付くまでな。調査隊にも組み込まない。ルナレイの戦闘力では心配だしな」
「有り難うございます」
そう言って頭を下げた瞬間、美實の体が黒い光に覆われ、消滅した。いや、美實だけではない。レイドールとレイドールに紐付けされた美實、勇一、笙、フィアリス、ギースレイ、ルナレイ、クロノレイ、ズィアスレイの八人全員が、同時に黒い光と共に、その場から消滅し、異空間を経て、地面に叩きつけられた。
「ここは?」
尻を摩りながら美實が辺りを見回す。
「此処はもしかして地底世界じゃないか…?」
笙が呟く。
「もしかしなくても、多分そうだろう。あの国旗を見ろよ。ギガニウスだぞ」
ギガニウス国。人口一億六千万人を誇る、地底最古の国家。但し、日本三つ分と面積が広い為、人口密度はそれほどでもない。
突然、目の前に焱を象った鎧を身につけた男と、緑色の、生物的デザインの鎧を着込んだ男が現れた。
「誰?」
フィアリスが身構える。
「俺はフレイアン。こっちの緑色がエースだ。そろそろ来る頃だと思っていたぞ。まあそう警戒するな。戦う意思はない」
そう言って、フレイアンは両腕を広げた。確かに攻撃してくる様子は無さそうだ。美實とフィアリスは、不思議そうな顔をしている。
「案内役に徹するって事か?」
「そうだ。それにギガントに属しているからと言って、ギバースに心酔している者ばかりじゃないって事さ。俺やエースみたいにな」
じゃあ何故?と勇一が問うと、歩きながら話そうとフレイアンが言い、全員歩き始めた。
「利害が一致しているからさ。ギガント本来の目的は元地底人たちの地上国家建国。だが最近のギバースはバードニックフォース殲滅に舵を切っている。それは俺たちの本意では無い。幾ら大規模とは言え、バードニックフォースは国立軍ではないからな。それに互いの軍事力の潰し合いなど不毛の極みだ。それよりも互いに譲歩、歩み寄りが今の我々には必須の筈だ。しかしギバースは変わってしまった。あの日からな」
「あの日?」
美實が首を傾げる。
「ゴラスの結晶だよ」
エースが写真を見せてきた。上半分が金色、下半分が赤い、美しい結晶。
「これ、伝説のゴラスに似ている配色から、ゴラスと名付けられたとされている宝石ですね」
「美實さん、知っているの?」
「いやフィアリス、寧ろ何で知らないの?鉱物学的にも世間的にも、凄く有名な宝石よ」
フィアリスは苦笑いした。
「ああ、そのゴラスの結晶の本物の方を使って復活させようと御執心だ。しかもどうやら成功したらしい。ファヴラーの話だと九割近くだそうだ」
背筋に冷たい物が突き抜けていった。
「じゃあ僕たちが急に地底に飛ばされて来たのも、ゴラスの力だと考えれば納得できる」
「ゴラスが復活しつつあるって事は、同時にザグロスも復活しつつあるって事よね」
「美實さんの言う通りだと思います。ザグロスは邪神に変貌しましたが、元々は戦いの神です。自分と対等に渡り合える戦力を、転送させて来たのだと…」
フィアリスの考察に、一同頷く。
「しかし、ゴラスの結晶の本物なんて、何処で手に入れたんでしょう?」
「フィアリス、それは多分自ら選んだ人間の手に渡るよう仕組んだのよ」
「多分、美實の推察は当たりだと思う」
急にフレイアンとエースが立ち止まった。
「到着だ。此処がエクソリア館…」
言い終える前に、勇一は駆け出していた。残りのメンバーもそれに続く。すると目の前に、異なる色の鎧を身に纏った三人が現れた。勇一たちは身構えた。
「初めまして、だな。私はギバース。右がロアー、左がファヴラーだ。残念ながらこの先は関係者以外立入禁止だ。帰って頂こう」
「そう言われて帰るとでも?」
クロノレイがギバースを睨み付ける。しかしギバースは意に介さず、踵を返した。
「だろうな。分かってて言ったんだ。 …ついてこい。復活間近の邪獣の姿を見せてやろう」
ギバースを先頭に、最後尾にロアーとファヴラーに挟まれた状態で、一行は歩き始めた。恐らく最深部に、その部屋があるのだろうと思っていたが、そう離れていない部屋の入り口で、ギバースは止まった。そして鉄扉が開かれ、目に飛び込んで来たのは、想像よりも巨大な一ツ目の獣だった。いや、獣にしては手足が見当たらない、異形の姿をした何か。絵本に描かれていた姿そのままだった。
「めでたい事に、間も無く復活する。あの目が開いた時、ヤツは復活する」
「手遅れだった…って事?そんな…」
美實は戦慄し、言葉を失った。勇一は、マリーを圧殺した黒い怪物よりも、更に巨大なその姿に圧倒された。フィアリスに至っては頭の中が混乱状態だった。
「確かに私も驚いている。思ったより早かったからな。一年はかかると思っていたが、まさか三ヶ月くらいでここまで…」
ギバースは、まるで他人事のように呟いた。そして美實たちの方へ振り返った。その途端、ゴラスの目がゆっくりと開き始めた。ギバース、ロアー、ファヴラー以外の者たちは、青褪めた。ゴラスはカプセルの強化ガラスを静かに摺り抜けた。天井が突き破られ、崩落した。そしてギバースを睥睨するように一瞥した後、口から突風を吹き出し、その場の全員を壁に叩きつけた。僅か十数秒の出来事だった。ギバースは確信した。これは正真正銘のゴラスだと。
キョエオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッッ
ゴラスの、何とも文字にしがたい悍ましい咆哮が、辺りに谺した。
0
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