魍魎倶楽部

煌矢

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化け猫騒動

6.化け猫の正体

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 それから数日、化け猫はあっという間に見つかった。
 なんと、ギルバートと出会った日に、マアサを車道へと突き飛ばした少年。彼が化け猫騒ぎの犯人だったのだ。
 彼は、マアサを突き飛ばしたのは、あからさまに貴族の娘だと分かる格好をしていたからだと言った。

「だって……貴族のヤツが、クロを殺したんだ。そのせいで、母さんも、いもーとも、死んじゃった……」

 ぼろぼろと涙を零しながら必死に言いつのる彼の背中を優しく叩いて、エルザは困り顔でマアサを見た。許してやってほしいとその顔には書かれている。

「どういうことだ?」

 許す許さない以前の問題だ。何が起きたのかくらいは知る権利はあるだろう。
 問い掛けたマアサに、少年は言葉に詰まりながら話してくれた。


 曰く、見知らぬ貴族に攫われた少年の飼い猫は、今年の初めに流行病で他界した父親が母親に贈ったものだったのだそうだ。
 母親はクロと名付けたこの猫を殊の外大切にしており、妊娠が分かって思うように動けなくなってからは、少年――アキという名らしい――が、彼女に代わって大切に、大切に世話をしていた。そのクロの妊娠が分かってからは、尚更だ。
 これから生まれてくる妹とほぼ同じ時期に生まれてくるであろう仔猫を、親子はとても楽しみにしていた。
 ところがある日、クロがアキの目の前で貴族の車に攫われたのだ。

「不吉な猫だ」

 そう言いながら、その貴族はクロを連れて行ってしまった。
 貴族に飼われるのなら、クロも幸せになれるだろうと、親子は必死でクロを諦めようとした。
 ところがそれからしばらくして、貴族がクロを連れて行った場所に、無残な姿となったクロが転がっていたという。
 目は抉られ、腸ははみ出し……。間の悪いことに、それを発見したのは、朝一番、診療所がまだ込み合わぬうちに出産の時期を相談に行こうとしていたアキの母親だった。
 彼女は変わり果てたクロの姿に驚き、その場で倒れてしまった。そして、そのまま我が子と共に帰らぬ人となったのだ。


 こうして、アキは家族を失ってしまった。
 幼いとはいえ、常民街の子供だ。さほど裕福な家庭に育ったわけではないし、基本の読み書きができる程度でしかない。一人で生きていくのは何かと大変だろう。
 だが、それまで通いで働いていた店の店主が彼の境遇に同情し、住み込みで働かせてもらえることが決まっている。
 不満などない。ただ、許せなかったのだと言う。自分から家族を奪ったくせに、何も知らずにのうのうと生きている奴らが。
 マアサを突き飛ばしたのも、そう言った気持ちがあふれ出してしまってのことだったらしい。
 素直に頭を下げる少年に首を振り、マアサは気にしていないと伝えた。

「とにかく、その貴族とやらがどこの誰なのかを突き止めなければ始まらんな」

 溜息交じりに呟いたマアサに、四人が驚いた顔をした。彼女がそんなことを言い出すだなどとは思っていなかったのだろう。
 ただ一人、トネリだけはニヤリと人の悪い笑みを浮かべ、少女に囁く。

「そう言えば、この間ウチに肉切り包丁の注文が入りましたよ。何でも、ラン家のお坊ちゃんが旦那様から送られた黒猫を突き殺すのに料理人が自慢にしていた包丁を使ってしまったとかで」

 目を見開いて振り返るマアサを、落ち着いた笑みが迎える。心底から意地の悪い顔をして、トネリは続けた。

「料理人が零していました。一生大切にするようにと言われて父親から譲り受けたものだったのに、もう料理には使えないと。それだけじゃない、あの親子の考えることが分からないとも言っていましたね。何でも、最近四集の方では、黒猫の胎児を食べると長生き出来ると言う伝説…というか、噂が広がっているらしいのです。それにあやかって、黒猫を拾ってきた日の夕食は、わざわざ死んだ猫の腹を捌いて胎児の煮込みを作らせたとか」

 そんな噂を信じるだなどと莫迦らしいと一蹴するトネリだが、どうやら彼の話は少年たちには少々刺激が強すぎたらしい。
 アキは真っ青な顔をして膝から崩れ落ち、その隣でエルザも唇を噛み締めている。ギルバートやカズサも悲痛な顔で黙り込み、マアサに至っては掌で目元を覆って首を振っていた。

「許せない……」

 必死で涙を堪えるアキは、心底からの言葉をようやく吐き出した。

「……来週、ラン家で天子様を招いての晩餐会が開かれる。一か八かだが、試してみるか?」

 アキの声に、マアサは一つ、提案をする。彼女の頭の中にあるのは計画の概要だけだが、細かいところはそれぞれが考えてくれるだろう。マアサは全員の顔を見回し、口を開いた。
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