魍魎倶楽部

煌矢

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エピローグ

ラン

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 学校を出た時に降っていた雪は、文官街に差し掛かったころには雨になっていた。たまたま乗った辻馬車の御者が、陽気な声で「これは積もりませんなあ」と言っていたのを思い出し、ランはそっと目を伏せた。何故だかとても、もの寂しい気持ちになったからだ。
 十年前、初めてマアサたちに会った時のことを思い出していた。
 この十年の間に、色々なことが変わった。街は富み、人々に笑顔が増えた。天子と呼ばれていた男は王となり、彼らの上に立っている。マアサは昨年、正式に彼の妻となった。五年ほど前に正妃が病死していたため、実質は正妻だ。エキ大臣がほくそ笑む顔が見えるようだった。
 トネリとギルバートは、揃って諸国漫遊の旅へと出かけた。ギルバートからは時々便りが届くので、元気なのだろうと思う。エルザは、貧民街で医者をする友人の手伝いをして暮らしている。国で一二を争う名医であるその友人は、怪我人の多い軍学校にしょっちゅう出張してくる。ランも、何度も世話になった。
 もう一人、世話になっているのがカズサだ。軍学校を卒業してすぐ、カズサは母校で教師の職を得た。将軍の位を約束されていたにも関わらず、だ。惜しむ声も多く聞かれたが、本人も家族も、それでいいと言ったのだという。特にケイ大将は、いつの間にやら逞しくなった息子に、一入の愛情を注いでいるらしい。

「皮肉なものだ」

 まさか自分が,敵であるランの性を名乗ることになろうとは.かつてアキと呼ばれた少年は成長し,妻を迎えた.かつて文官だったラン家は文官街だった場所に居を構えるが,近年はその境も曖昧になっていた.

「お帰りなさい」

 家の前で,身重の妻が手を振っていた.

「なんだ,出てこなくても良かったのに」

 彼女を気遣って馬車を降りるなり上着を着せ掛けるランに,御者が意味ありげな笑みを浮かべる.茶髪に紺色の瞳を持つラン家の末娘は「だって」と我慢できないように夫に抱き着いた.

「クロの赤ちゃんが生まれたの.とってもかわいいのよ.アキにも早く見せたくって」

 そういう妻も,出産を明日に控えた身だ.ランは優しく彼女を抱き寄せ,寄り添い合って玄関をくぐった.
 こんな結末が待っていたのなら,あの時すべてを失ったことも無意味じゃない.ようやく,そう思えた.
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