王女、返品します。

煌矢

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プロローグ

頭痛の種

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聳え立ち連なる山々の深緑に、真っ赤な城壁が映える。城門から続く大通りの両側には様々な商店が軒を連ね、都でも一番の賑わいを見せていた。

 いくつもの山から成るパテラ山脈を背後に、朱色に塗られた石造りの王城と、小高い丘程度の高さの山に囲われた盆地である端片の都は、端境という国の首都である。清族シンゾクが治める端境国には、後宮制度が根強く残っている。とはいえ、清族は同族同士の交配でしか子を成せため、後宮はそれぞれの部族から差し出された娘たちが過ごすための場所なのだが。

 現在王位に就くキハ十四世には、三人の子供がいる。長男のザクは母親似の優し気な面立ちをした青年だ。今年で二十五になる。品行方正で頭脳明晰。人をまとめるのは少し苦手だが、相手の話をよく聞く優しい王子だ。一方次男のタオは、武芸に秀で、人の上に立つ才がある。十五歳のころから、大隊長として大きな戦で何度も武功を上げてきた。当然のように兄より体が大きく、柳のような皇太子と、小山のような第二王子と陰で揶揄する者もいる。しかし当のふたりは揃ってそのような些事を気に掛ける性格ではなく、顔を合わせれば楽し気に最近読んだ本や、戦での武勇伝を語り合っている。兄弟仲は大層良いのだ。

しかし、キハと正妃レイの頭痛の種となっているのは、立派に成長したふたりの王子ではない。兄たちと少し離れて生まれた、末娘である。父にも母にも、兄たちのどちらにも似なかった姫君は脱走の名人で、退屈な家庭教師の授業をサボってはどこかへ出かけていた節がある。時には王城の中にはない植物の葉を、ドレスの裾にくっつけて帰ってくることもあったお転婆姫は、つい先日、誰にも知られないまま城を出奔してしまった。


『そのうち帰ります。探さないでください。』


 とだけ書かれた書置きを残して……。
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