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二冊目 腐女子泣かせのアイドル ~WINGSのライブ潜入レポ
……②
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「いらっしゃいませ」
彼がすれ違う客に笑顔を向けるたび、この場所には幾分似つかわしくない落ち着いた御曹司の品格が漂う。本当はフロアで接客する方が向いているのだろうが、残念ながら相羽勝行は普段バックヤードでの仕事が忙しく、滅多と表に出ることはない。
表で彼に遭遇することはまさにレア。
入店するなり白スーツ王子の華やかな笑顔に出迎えられた女性客たちから、黄色い悲鳴が次々飛びあがった。
「おい勝行、あんま女子陣に話しかけんな。そろそろ死人が出る」
「でも、お客様を無視するわけには……」
「白スーツなんぞ着てホストっぽくならねえ王子様はな、下々から離れたところで、手振って笑顔でいりゃいいんだよ」
――俺は一体どういうキャラ設定なんですか。
スタッフの文句に苦笑を浮かべる勝行の背後には、ファンを近づけまいと言わんばかりに、ガタイのいい黒スーツ男が1人貼りついて、サングラス越しに身辺を見張っている。どれだけの大物ミュージシャンであっても、こんな私設SPがついて回ることなんて滅多にない。だからこそ、勝行のその存在感が異常すぎて、店のオーナーもあまり彼を表に出したくないらしい。
まあ、これが御曹司が親に言いつけられたルールでもあるし、単にバンドマンとしてのステージ衣装を着ているだけなのだから仕方ない。このようなコンセプトを打ち出したのは彼らのプロデューサーらしいが、ブランド物の白スーツに黒カッターシャツを着こなす彼のそれは、私物だと言うからそれも頭の痛い話だ。
「王子って言われても、実際よくわからないんですよね」
「いやもう高校生のくせしてブランドスーツ着こなしてる時点で普通じゃねえし」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ!」
常識から逸脱してるのはそっちだ!
つっかかる先輩スタッフと軽口を交わしながら、勝行はステージ奥に向かってどんどんと遠ざかっていく。
【相羽】といえば、国内では有名な大金持ちの政治家一族だ。そんないいところのお坊ちゃんが、さびれた小さなライブハウスでギターを抱えて歌っているだなんて、誰が思うだろうか。本人は出自を隠しているが、漂う浮世離れした華族の風格は全く隠せていなかった。
高レアな勝行の接客をわずか数十センチの距離で受けて放心状態だった女子客の一人が、遠ざかる勝行に慌てて一言投げかける。
「カッ、カツユキ、今日ライブやる!?」
「やるよ。何の曲が聴きたい?」
「うっ、う……WINGSのならなんでもいいー!」
最高の返事をもらって腰が砕けたらしい女子の元に、連れ合いの女子たちがわらわらと集まってくる。
「やったね、今日ライブやるって!」
「来た甲斐があったあ!」
「うちら超ラッキーじゃん、今の内にドリンク取りに行こう!」
「場所取りしなきゃ!」
予告なしのWINGSゲリラライブ。
それはランダムな金曜夜に突如行われる、このライブハウスで今一番人気のイベントだ。
慣れた手つきで白のストラトキャスターを肩にかけ、きちんと絞められたネクタイを少し緩めて着崩しながら、優等生御曹司の相羽勝行はJロックバンド「WINGS」のボーカリスト・カツユキの顔へと変わっていく。
「じゃあ、今日のセトリはヒカルの気分次第ってことで」
既に店の最奥で遊び始めているピアノ奏者に向き直ると、彼は楽し気な笑みを浮かべた。
彼がすれ違う客に笑顔を向けるたび、この場所には幾分似つかわしくない落ち着いた御曹司の品格が漂う。本当はフロアで接客する方が向いているのだろうが、残念ながら相羽勝行は普段バックヤードでの仕事が忙しく、滅多と表に出ることはない。
表で彼に遭遇することはまさにレア。
入店するなり白スーツ王子の華やかな笑顔に出迎えられた女性客たちから、黄色い悲鳴が次々飛びあがった。
「おい勝行、あんま女子陣に話しかけんな。そろそろ死人が出る」
「でも、お客様を無視するわけには……」
「白スーツなんぞ着てホストっぽくならねえ王子様はな、下々から離れたところで、手振って笑顔でいりゃいいんだよ」
――俺は一体どういうキャラ設定なんですか。
スタッフの文句に苦笑を浮かべる勝行の背後には、ファンを近づけまいと言わんばかりに、ガタイのいい黒スーツ男が1人貼りついて、サングラス越しに身辺を見張っている。どれだけの大物ミュージシャンであっても、こんな私設SPがついて回ることなんて滅多にない。だからこそ、勝行のその存在感が異常すぎて、店のオーナーもあまり彼を表に出したくないらしい。
まあ、これが御曹司が親に言いつけられたルールでもあるし、単にバンドマンとしてのステージ衣装を着ているだけなのだから仕方ない。このようなコンセプトを打ち出したのは彼らのプロデューサーらしいが、ブランド物の白スーツに黒カッターシャツを着こなす彼のそれは、私物だと言うからそれも頭の痛い話だ。
「王子って言われても、実際よくわからないんですよね」
「いやもう高校生のくせしてブランドスーツ着こなしてる時点で普通じゃねえし」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ!」
常識から逸脱してるのはそっちだ!
つっかかる先輩スタッフと軽口を交わしながら、勝行はステージ奥に向かってどんどんと遠ざかっていく。
【相羽】といえば、国内では有名な大金持ちの政治家一族だ。そんないいところのお坊ちゃんが、さびれた小さなライブハウスでギターを抱えて歌っているだなんて、誰が思うだろうか。本人は出自を隠しているが、漂う浮世離れした華族の風格は全く隠せていなかった。
高レアな勝行の接客をわずか数十センチの距離で受けて放心状態だった女子客の一人が、遠ざかる勝行に慌てて一言投げかける。
「カッ、カツユキ、今日ライブやる!?」
「やるよ。何の曲が聴きたい?」
「うっ、う……WINGSのならなんでもいいー!」
最高の返事をもらって腰が砕けたらしい女子の元に、連れ合いの女子たちがわらわらと集まってくる。
「やったね、今日ライブやるって!」
「来た甲斐があったあ!」
「うちら超ラッキーじゃん、今の内にドリンク取りに行こう!」
「場所取りしなきゃ!」
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それはランダムな金曜夜に突如行われる、このライブハウスで今一番人気のイベントだ。
慣れた手つきで白のストラトキャスターを肩にかけ、きちんと絞められたネクタイを少し緩めて着崩しながら、優等生御曹司の相羽勝行はJロックバンド「WINGS」のボーカリスト・カツユキの顔へと変わっていく。
「じゃあ、今日のセトリはヒカルの気分次第ってことで」
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