両翼少年協奏曲~WINGS Concerto~【腐女子のためのうすい本】

さくら怜音/黒桜

文字の大きさ
30 / 106
四冊目 りんごあめと白雪王子 ~絶対恋愛関係にならない二人の最後の夏休み

プロローグ……① 光side

しおりを挟む
 じりじり肌を焦がすような太陽が、ぶあつい雲から姿を出して、汗ばんだ白い布団をガンガン照らしてくる。
 燃えるように暑い夏がもう、すぐそこまできていた。


 入院患者用の綿の寝間着が、じわっと染み出る汗を吸い込んでいく。病院のベッドでしばし窓の外を眺めていた今西光は、戸棚の上に放置された携帯電話に手を伸ばした。
 今何時なのかもよく見ないまま、折り畳み式携帯電話の一番上のボタンを押す。このボタンさえ押せば、SOSの如く簡単に相方につながるよう設定してもらっている。
 何度かの呼び出し音のあとに聴こえる声は、いつも通りの穏やかで聞き取りやすい中高音域。


「もしもし?」

 聴きたかったその声に思わず顔を綻ばせて、しばし余韻に浸っていた光は、慌てて声を発した。

「も、もしもし。なあ、暇なんだけど」
『光……おはよう? ……つってももう昼だな』

 受話器の向こうからは、挨拶をすっ飛ばした光に呆れた相羽勝行の声が漏れて耳元に響く。

『どうした、熱はもう下がったのか』
「う……わ、わかんねえけど……今は平気。電話できっし。あ、さっき飯くった」

 ふと気づけば妙に暑くて、汗だくで目が覚めた。なんとか身体も自力で起こせたし、「腹へった」と看護師に言えば、ほんのり暖かいご飯をもらえたから、梅干しをのせてかっこんだのがついさっき。おかずも出されたものの、起き抜けにそこまでは無理だった。

『ごはん、食べられるようになった?』
「ああ、米だけ食った。なあ、ピアノ弾きたい」
『なんだそれ……。起きられるようになった途端早速だな。でもまだ学校の時間だよ。今から五時間目。授業が終わったらなるべく急いでそっち向かうから』
「あ、そっか……。まだ学校か……」

 言われてみれば、受話器の向こうからは遠巻きに雑踏音が交じって聴こえる。
 昼休みだから通話できたのか。校内での携帯電話使用禁止のはずだ。どこか隅っこの方で隠れてこっそり話しているのかもしれない。まあ、見つかっても適当な言い訳を言って逃げるのは得意な勝行だから、心配はいらないだろう。

『そう。だからあともうちょっと我慢して』

 その一言に思わずカチンときて、光は「はあ!?」と携帯電話を睨みつけた。

「あともうちょっと? それってどんくらいだよ。一時間以上とかかかるくせに……そんなん、ちょっとって言わねえよ。まてねえ」

 あと一時間以上、下手をすれば二・三時間、ひとりぼっちで病室軟禁か。と思ったこの何とも言えない気持ちが、相手にはちっとも伝わらなかったらしい。
 そうは言っても、どうしようもない。授業をサボれとは言えないし、我慢するしかないのだ。頭の中では分かっているけれど、言いたいことは思わず口にしてしまう光にそれは難しいことだった。

『相変わらずだなあもう……あ、そうだ。ピアノだけなら片岡さんに頼もうか。そしたら一時間もかからないよ』

 思わぬ返答が返ってきて、光は一瞬目をぱちくりとさせた。

「え……片岡のおっさんが持ってくんの? お前じゃ、ないの」
『何言ってんだ、当たり前だろ。俺はまだ授業中なんだし、あとで行くから。お前はどうせ、なんでもいいから暇つぶしがほしいんだろ』
「ああ……まあ……そっか……」

 別にピアノさえ先に手元にあれば。
 勝行が来てくれなくても、遊び道具さえ届けてもらえれば、どうにか寂しさも暇も紛れるわけで。勝行の言わんとしていることは、光の望んでいることとは若干違う気がしたけれど、でもあながち間違っているわけでもなくて、光はもごもごと口の中で言いたい言葉を飲み込んだ。
 何と言えばいいか、わからなくなった。
 でもまあ、何時間も一人で待つよりはマシだ。

「そう……だな……じゃあ……それでいい……待ってる」
『わかった、片岡さんに言っておく。でもお前はもうちょっとちゃんと休んで、体力つけて。熱下がってもまたすぐ上がるかもしれないし、当分は退院できないよ……わかってるよな? 無理しすぎて倒れたとか、自業自得なんだからな、自粛しろ』
「うっ……わかってっし……」

 わがままを我慢したのに、むしろ畳みかけるように説教されて、思わずしゅんとなってしまう。確かに昨日までのことは記憶がないから、相当酷い寝込み方をしたのだろう。高熱にうなされ、ご飯を数日食べてないとだけ看護師から聞かされた。繋がった点滴の管を外すことはまだ許可してもらえない。おかげでまた体重が減ってしまった。

 という程度にしか思っていなかったのだが、学校に通いながら看病してくれていた勝行には、結構な迷惑をかけたのかもしれない。

『ああそうだ。昨日できた新曲の譜面も片岡さんに預けとくよ。お前が寝込んでる間にたまりまくった、英語と数学のプリントもな。暇だったら、それやっときな』
「うえ……めんどくせ……ねるわ……」

 最後の台詞は、どう聞いても意地悪な嫌味にしか聞こえなかった。ため息交じりに聴こえたその声は、本気で怒っている時のものだ。聞けばわかる。
 しかもそのあと、電話はブツッと無情にも切れた。
 切れる寸前、授業開始のチャイムが聞こえた気がする。タイムリミットだったのかもしれない。
 ツーツーと鳴る通話終了の音は、言いたいことも聴きたかった言葉も全部シャットダウンしてくれる、無情な響きだった。
 携帯電話を閉じて放り投げようとして、かろうじてその手を止めた光は、固い敷布団の上にどさっと倒れ込んだ。

「くっそぅ……かつゆきのバカやろう……ケチ……いじわる……」

 手に持ったままの携帯を睨みつけ、もう何も聞こえなくなったその音を思い出しながら、吐き捨てるように独り言を呟いた。横になったまま、力尽きたかのように目を閉じる。

「むかつく……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

マネージャー~お前を甲子園に連れて行ったら……野球部のエース♥マネージャー

夏目碧央
BL
 強豪校の野球部に入った相沢瀬那は、ベンチ入りを目指し、とにかくガッツを認めてもらおうと、グランド整備やボール磨きを頑張った。しかし、その結果は「マネージャーにならないか?」という監督からの言葉。瀬那は葛藤の末、マネージャーに転身する。  一方、才能溢れるピッチャーの戸田遼悠。瀬那は遼悠の才能を羨ましく思っていたが、マネージャーとして関わる内に、遼悠が文字通り血のにじむような努力をしている事を知る。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

処理中です...