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四冊目 りんごあめと白雪王子 ~絶対恋愛関係にならない二人の最後の夏休み
君の顔に「花火」……②
しおりを挟む呆然とキスを受け入れた勝行をみて、光は満足げに笑顔を零す。
「ここ、誰もいないから、キスしたい放題だな」
「……ちょっ、まっ……どういうことだよ、花火はあっちだ! これ、俺の顔なんだけど?」
「花火だよ」
「は……?」
「もっかい」
言うや否や、もう一度その頬をれろんっと舐めまわして、顔じゅうのあちこちにキスしまくる。どちらかというと、興奮して盛った犬のような仕草だ。
「ちょっ、……んっ、くすぐった……」
「……かーわいい」
「光、やめっ」
「なんで?」
「は、花火っ! 終わっちゃうぞ!」
「みえてるからいいもん」
そう言いながらも、花火がドドンと数発打ち上げられるたびに、光は勝行の顔ばかり舐めてはちゅっと音を立てて啄む。
「み、観てないじゃないか。さっきからキスばっか」
「えー、だって」
完全に花火に背を向けた状態で、光は不思議そうに勝行を見つめた。それからしばし考えた後、――あ、と思い出したかのように呟く。
「そっか、自分の顔は見えねえのか」
「だから……何の話?」
「ほら……」
ドン、ドドン。パリパリパリ。
煌めく轟音と閃光の中、勝行の顔が明るく照らし出された瞬間、光は嬉しそうにその頬を撫でた。
「お前の顔に、花火うつってる」
「なんか、鏡みたい」
「赤とか、オレンジとか……ライブハウスの照明みたいで、きれいだ」
うっとり女の子でも口説くような甘い声でそう言って、もう一度キスをしてくる光の金色の髪が、花火の灯りに照らされて星のように煌めいている。
「え……そういう、こと……?」
光の奇想天外な発想には毎回驚かされてばかりだ。
呆れ顔の勝行が途方に暮れたまま呟くと、光は楽しそうにもう一度頬に顔を寄せ、その耳元で囁いた。
「あとお前、キスしたそうだったから」
「――え、えええっ?」
「お前こそ、全然花火観ないで俺のことばっか見てたくせに」
「うっ……」
さっきまでの自分の行動が、まさか全部バレているなんて。思わず顔から火が出そうになる。花火に夢中で、こちらのことなんてまるで見ていないと思っていたのに、いろんなものを見透かされた気がして勝行の鼓動は一気に跳ね上がった。
「な……何言ってんの……しょうがない奴だな……もう」
精一杯ごまかしの言葉を述べてみたものの、動揺で声が上ずっていた。どう聴いてもおかしいのはバレバレだっただろう。
勝行の頬に手を添え、何度も舐めたそこを指で撫でながら、光はその澄んだ陽光のような瞳を向ける。花火が打ちあがった途端、まるでカラーコンタクトでもつけていたかのように、幻想的な色が映り込んでカラフルに染められていく。
――ああ……そっか。
こういう世界を視ているのか、お前。
光の顔にちらちらと揺れる、淡い黄金の反射光をぼんやりと眺めて、勝行はようやく光の言いたいことを理解した。なんてことない景色も、自然も、何気ない音も。光にとっては、全部が世界を彩る不思議な音の素材。人ならざるものが視え、誰にも聞こえない音を歌に変える彼の、不思議な……自分には到底わからない、感覚だ。
わかったと同時に、心底違うことばかり考えていた自分が嫌になって呆れてくる。
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