58 / 106
四冊目 りんごあめと白雪王子 ~絶対恋愛関係にならない二人の最後の夏休み
眠り姫と白雪王子 ……③
しおりを挟む
「……光?」
歌声に微睡んですっかり寝入ってしまった光はもう何も言わないけれど、代わりにすうすうと気持ちよさげな寝息がすぐ耳元に聴こえてくる。
「お前……ほんとに歌好きだな」
呆れて思わずため息をつくも、勝行はほっと安堵の笑みを零した。
「でも、今日はありがとう。俺も楽しかったよ。おやすみ、光」
前にこうやって抱きしめあった時よりも、痩せて細くなった。
その病弱な身体は丈夫になるどころか、前よりも体調が悪くなったような気すらする。
隣でいつも、笑っていてくれないとなぜか不安がよぎって仕方ない。 そんな自分のばかげた恐怖心を、言わずともわかっていたかのように、光は何度も偽らない笑顔を見せてくれる。どんなに辛い思いをしても、自分が落ち込みそうになったら……必ず。
そして少しの間だけでも、その笑顔を独り占めしたかった。
ただし、あくまでも、彼の「親友」として、「義兄」として。
――俺たちは、本当は、恋愛関係になんてなれないんだ。家族である以上、それは絶対に。
なぜならそれは、彼の隣にいつまでも立っていたいと願った自分が、自ら計画してここまで積み重ねてきた、今西光という男を手に入れるための【罠】だったからだ。それはいなくなった家族を欲しがっていた彼の弱みに付け込み、甘い蜜と優しい言葉で気を引かせ、何年もかけて強固な関係を築き上げてきた。
今更それを、まさか芽生えるとは思わなかった恋慕の感情ひとつで壊してしまうことの方が、よほど怖い。
ただずっと、この先何十年も彼のそばにいることができさえすれば。
――これ以上の贅沢は言いたくない。
だからもう、現状維持でいい。
計画通り自分に懐いて、臆面もなく「好きだ」と言ってくれる光のその感情が、自分のそれとは違っていても。
これは甘んじて受けなければいけない、自分の贖罪だ。
おやすみ。
耳元で囁くと、勝行は大人しく光の腕の中に潜り込んだ。
その誘惑だらけの首筋は、自分のつけた赤い飴色のキスマークを規則正しく動かしている。吸い付けば、気持ちよさそうに蕩けきった顔を見せる、淫らな眠り姫の姿が再び脳裏によぎった。
(あー……だめだキスしたい。あと……ちょっとだけ!)
もう一度その首筋に何度も何度もキスを落としながら、勝行は言い訳がましいことを情けなく独り言ちた。
「俺の下半身に休日って……なさそうだな……」
そんなことなどつゆも知らず、すとんと深い眠りに落ちた光。
彼が真夏の夜に山奥でみた素敵な夢は、夜空で弾けた花火から舞い散る白い雪灯をまとった少年二人の、楽し気な笑顔だった。
【END】
歌声に微睡んですっかり寝入ってしまった光はもう何も言わないけれど、代わりにすうすうと気持ちよさげな寝息がすぐ耳元に聴こえてくる。
「お前……ほんとに歌好きだな」
呆れて思わずため息をつくも、勝行はほっと安堵の笑みを零した。
「でも、今日はありがとう。俺も楽しかったよ。おやすみ、光」
前にこうやって抱きしめあった時よりも、痩せて細くなった。
その病弱な身体は丈夫になるどころか、前よりも体調が悪くなったような気すらする。
隣でいつも、笑っていてくれないとなぜか不安がよぎって仕方ない。 そんな自分のばかげた恐怖心を、言わずともわかっていたかのように、光は何度も偽らない笑顔を見せてくれる。どんなに辛い思いをしても、自分が落ち込みそうになったら……必ず。
そして少しの間だけでも、その笑顔を独り占めしたかった。
ただし、あくまでも、彼の「親友」として、「義兄」として。
――俺たちは、本当は、恋愛関係になんてなれないんだ。家族である以上、それは絶対に。
なぜならそれは、彼の隣にいつまでも立っていたいと願った自分が、自ら計画してここまで積み重ねてきた、今西光という男を手に入れるための【罠】だったからだ。それはいなくなった家族を欲しがっていた彼の弱みに付け込み、甘い蜜と優しい言葉で気を引かせ、何年もかけて強固な関係を築き上げてきた。
今更それを、まさか芽生えるとは思わなかった恋慕の感情ひとつで壊してしまうことの方が、よほど怖い。
ただずっと、この先何十年も彼のそばにいることができさえすれば。
――これ以上の贅沢は言いたくない。
だからもう、現状維持でいい。
計画通り自分に懐いて、臆面もなく「好きだ」と言ってくれる光のその感情が、自分のそれとは違っていても。
これは甘んじて受けなければいけない、自分の贖罪だ。
おやすみ。
耳元で囁くと、勝行は大人しく光の腕の中に潜り込んだ。
その誘惑だらけの首筋は、自分のつけた赤い飴色のキスマークを規則正しく動かしている。吸い付けば、気持ちよさそうに蕩けきった顔を見せる、淫らな眠り姫の姿が再び脳裏によぎった。
(あー……だめだキスしたい。あと……ちょっとだけ!)
もう一度その首筋に何度も何度もキスを落としながら、勝行は言い訳がましいことを情けなく独り言ちた。
「俺の下半身に休日って……なさそうだな……」
そんなことなどつゆも知らず、すとんと深い眠りに落ちた光。
彼が真夏の夜に山奥でみた素敵な夢は、夜空で弾けた花火から舞い散る白い雪灯をまとった少年二人の、楽し気な笑顔だった。
【END】
0
あなたにおすすめの小説
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
悪の策士のうまくいかなかった計画
迷路を跳ぶ狐
BL
いつか必ず返り咲く。それだけを目標に、俺はこの学園に戻ってきた。過去に、破壊と使役の魔法を研究したとして、退学になったこの学園に。
今こそ、復活の時だ。俺を切り捨てた者たちに目に物見せ、研究所を再興する。
そのために、王子と伯爵の息子を利用することを考えた俺は、長く温めた策を決行し、学園に潜り込んだ。
これから俺を陥れた連中を、騙して嵌めて蹂躙するっ! ……はず、だった……のに??
王子は跪き、俺に向かって言った。
「あなたの破壊の魔法をどうか教えてください。教えるまでこの部屋から出しません」と。
そして、伯爵の息子は俺の手をとって言った。
「ずっと好きだった」と。
…………どうなってるんだ?
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
ヤリチン伯爵令息は年下わんこに囚われ首輪をつけられる
桃瀬さら
BL
「僕のモノになってください」
首輪を持った少年はレオンに首輪をつけた。
レオンは人に誇れるような人生を送ってはこなかった。だからといって、誰かに狙われるようないわれもない。
ストーカーに悩まされていたレある日、ローブを着た不審な人物に出会う。
逃げるローブの人物を追いかけていると、レオンは気絶させられ誘拐されてしまう。
マルセルと名乗った少年はレオンを閉じ込め、痛めつけるでもなくただ日々を過ごすだけ。
そんな毎日にいつしかレオンは安らぎを覚え、純粋なマルセルに毒されていく。
近づいては離れる猫のようなマルセル×囚われるレオン
転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
