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四冊目 りんごあめと白雪王子 ~絶対恋愛関係にならない二人の最後の夏休み
眠り姫と白雪王子 ……②
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物理的に鼻血が出てきそうな気がして、思わず勝行は顔に手をやり、深くため息をついた。
(だめだ……俺、なんでこんなに好きなのかな……最近の俺、ダサすぎないか)
何よりも、この自分に懐ききった無防備な義弟が可愛すぎて仕方ない。
こいつ男なのに、とか、そういう観念すら最近気にならなくなってきたのか、自重しない自分の性欲に驚くくらいだ。自分はもしかして本当は同性愛者なんだろうか、と真剣に悩んでしまう。
――でも……きっとそうじゃなくて。
本当は、不謹慎かもしれない。けれど。
一日中ずっと二人きり、いつもと違う特別な時間を過ごせたことが、純粋に嬉しくて。願わくば永遠に、この時間の中に引き篭っていたかった。
――今日だけ、独り占めしたかったとか……バカだな。
光の意識を全部ぜんぶ、自分に向けて、その笑顔をいつまでも自分だけが見つめていたかった。二人だけの、秘密の時間。
「気づいてるかな……お前、今日ピアノ弾いてないんだぜ」
いつもライブやピアノに夢中な光を、自分だけがいる世界に閉じ込めてしまいたくて計画したのが、裏の動機だ。無機物にすら嫉妬を抱いていた自分がダサくて、正直呆れる。
神社の祭りで人混みに晒した以外、この可愛い相方を誰の目にも、手にも触れさせていない。終日自分だけに縋って、ずっと傍についてきてくれた。
そんなことだけで、なぜか自分勝手な欲望を満たせた気がして、勝行は思わず笑みをこぼした。
眠りに落ちていく光の腕から、徐々に力が抜けていくのがわかる。
そっと抜け出し、一旦起き上がると、勝行は光の隣に座り込みその姿を改めて見つめた。
疲れきって完全に電池が切れたであろう光の閉じた瞼をそっと撫で、その柔らかい頬と耳へとするする指を動かした。
――今は……今日は、俺だけの、『光』……。
頬に近づき、躊躇いなく口づけを落とすと、勝行はたまらず独り言のように愛の言葉を零した。
「……好きだよ」
「ん……かつゆきぃ……」
「えっ」
突然、寝ていると思った光から名前を呼ばれてどきっとする。心の声をうっかり漏らしたのが、聞こえたか。
「なぁ……いっ、しょに……ねよ……」
光はものすごく間延びした声で、寝言のように小さく囁いた。
「ね……寝言、かな」
「たのし……かった……」
「……ほんとか?」
自分の計画通りにうまく運ばず、大変な目に遭わせてばかりだったのに、そう言ってもらえるとホッとする。
「もっと……いっしょにいて……独り、いや……」
ぼそぼそと呟きながら、再び勝行の身体を探すかのように手を伸ばしてくる。その手を握りながら、勝行はもう一度光の頬に唇を寄せ、耳元で優しく囁いた。
「うん、一緒に寝るよ。今日は仕事しない。勉強もしない」
お前がピアノを弾かなかったから、俺も今日は、お前のことしか考えない。――かんがえたくない。
魔法の呪文のように、その言葉はわずか数センチしか隙間のない二人の間をふわふわ流れていく。
「おいて……ぃか、ないで……」
寝言なのはわかっているけれど、そんなことを言われて悪い気はしない。寂しがり屋のその手を、勝行はそっと握りしめた。
「――大丈夫、もうどこにもいかないよ」
「あめ……おいしかった……」
「そう、よかった。だったら来年、また食べたらいいよ。連れてきてあげる」
「ん……えろいの……きらい……?」
「えっ?」
いきなり話題がころころと変わる光の間延びした質問に、勝行は思わず赤面した。りんごあめの話のはずが、なぜエロ……もしかして、さっきの行為を怒っているとでも思い込んでいるのだろうか。
「あ、いや、えっと……き、きらいじゃない……す、好き」
記憶にないが、さっきは理不尽に怒ってしまったのだろう。抵抗できなかったのは、単に己の欲望に抗えなかっただけなのに。自分の愚行を反省しつつ、勝行は包み隠さず正直に回答した。
すると光は唐突に勝行の浴衣をきゅっと握りしめる。
「へへ……うたって……」
「な……なんだよ……さっきから言ってることが支離滅裂」
ほんとにただの寝言か、と勝行は光の顔を何度も覗き込んだ。甘えた願い事ばかりぽろぽろと零す光は、病室での孤独な夜が怖くて、勝行におやすみのキスをねだる時の、寂しそうな声に似ていた。
「うた……て……」
「わかった、いいよ」
ふと脳内によぎったファーストシングルのサビをワンフレーズ、小さな声で歌うと、寝ているはずの光が嬉しそうに笑った気がした。
(だめだ……俺、なんでこんなに好きなのかな……最近の俺、ダサすぎないか)
何よりも、この自分に懐ききった無防備な義弟が可愛すぎて仕方ない。
こいつ男なのに、とか、そういう観念すら最近気にならなくなってきたのか、自重しない自分の性欲に驚くくらいだ。自分はもしかして本当は同性愛者なんだろうか、と真剣に悩んでしまう。
――でも……きっとそうじゃなくて。
本当は、不謹慎かもしれない。けれど。
一日中ずっと二人きり、いつもと違う特別な時間を過ごせたことが、純粋に嬉しくて。願わくば永遠に、この時間の中に引き篭っていたかった。
――今日だけ、独り占めしたかったとか……バカだな。
光の意識を全部ぜんぶ、自分に向けて、その笑顔をいつまでも自分だけが見つめていたかった。二人だけの、秘密の時間。
「気づいてるかな……お前、今日ピアノ弾いてないんだぜ」
いつもライブやピアノに夢中な光を、自分だけがいる世界に閉じ込めてしまいたくて計画したのが、裏の動機だ。無機物にすら嫉妬を抱いていた自分がダサくて、正直呆れる。
神社の祭りで人混みに晒した以外、この可愛い相方を誰の目にも、手にも触れさせていない。終日自分だけに縋って、ずっと傍についてきてくれた。
そんなことだけで、なぜか自分勝手な欲望を満たせた気がして、勝行は思わず笑みをこぼした。
眠りに落ちていく光の腕から、徐々に力が抜けていくのがわかる。
そっと抜け出し、一旦起き上がると、勝行は光の隣に座り込みその姿を改めて見つめた。
疲れきって完全に電池が切れたであろう光の閉じた瞼をそっと撫で、その柔らかい頬と耳へとするする指を動かした。
――今は……今日は、俺だけの、『光』……。
頬に近づき、躊躇いなく口づけを落とすと、勝行はたまらず独り言のように愛の言葉を零した。
「……好きだよ」
「ん……かつゆきぃ……」
「えっ」
突然、寝ていると思った光から名前を呼ばれてどきっとする。心の声をうっかり漏らしたのが、聞こえたか。
「なぁ……いっ、しょに……ねよ……」
光はものすごく間延びした声で、寝言のように小さく囁いた。
「ね……寝言、かな」
「たのし……かった……」
「……ほんとか?」
自分の計画通りにうまく運ばず、大変な目に遭わせてばかりだったのに、そう言ってもらえるとホッとする。
「もっと……いっしょにいて……独り、いや……」
ぼそぼそと呟きながら、再び勝行の身体を探すかのように手を伸ばしてくる。その手を握りながら、勝行はもう一度光の頬に唇を寄せ、耳元で優しく囁いた。
「うん、一緒に寝るよ。今日は仕事しない。勉強もしない」
お前がピアノを弾かなかったから、俺も今日は、お前のことしか考えない。――かんがえたくない。
魔法の呪文のように、その言葉はわずか数センチしか隙間のない二人の間をふわふわ流れていく。
「おいて……ぃか、ないで……」
寝言なのはわかっているけれど、そんなことを言われて悪い気はしない。寂しがり屋のその手を、勝行はそっと握りしめた。
「――大丈夫、もうどこにもいかないよ」
「あめ……おいしかった……」
「そう、よかった。だったら来年、また食べたらいいよ。連れてきてあげる」
「ん……えろいの……きらい……?」
「えっ?」
いきなり話題がころころと変わる光の間延びした質問に、勝行は思わず赤面した。りんごあめの話のはずが、なぜエロ……もしかして、さっきの行為を怒っているとでも思い込んでいるのだろうか。
「あ、いや、えっと……き、きらいじゃない……す、好き」
記憶にないが、さっきは理不尽に怒ってしまったのだろう。抵抗できなかったのは、単に己の欲望に抗えなかっただけなのに。自分の愚行を反省しつつ、勝行は包み隠さず正直に回答した。
すると光は唐突に勝行の浴衣をきゅっと握りしめる。
「へへ……うたって……」
「な……なんだよ……さっきから言ってることが支離滅裂」
ほんとにただの寝言か、と勝行は光の顔を何度も覗き込んだ。甘えた願い事ばかりぽろぽろと零す光は、病室での孤独な夜が怖くて、勝行におやすみのキスをねだる時の、寂しそうな声に似ていた。
「うた……て……」
「わかった、いいよ」
ふと脳内によぎったファーストシングルのサビをワンフレーズ、小さな声で歌うと、寝ているはずの光が嬉しそうに笑った気がした。
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