67 / 106
五冊目 恋愛相談には危険がいっぱい!? ~えっちな先生いかがですか
……⑦
しおりを挟む
**
病院で処方箋を出し、いつも通りの席で会計呼び出しを待つ。普段なら、なんだかんだで付き添ってくる勝行がここで缶コーヒーをさりげなく出してくれるのだが、今日は一人だ。
隣に誰もいない寂しさを音楽鑑賞で紛らわそうと、絡まったイヤホンのコードを解いている時だった。
「おやあ、そこの美少年は『光くん』だね?」
聞き覚えのあるような、ないような声に呼びかけられて振り返る。
「あっお前……保の」
「おお、俺のこと覚えてくれてた? 今日は君も病院なのかー薬待ち?」
「名乗った覚えないのに……なんで名前知ってんの、あんた」
「えー、君たちWINGSを溺愛してるタモツにいっぱい話聞かされたからねえ! 見ただけでわかったよ」
先日の病院騒ぎの元凶だった保の元カレこと村上晴樹は、屈託のない笑顔で話しながら光の隣に遠慮なく座った。骨折した腕はまだ戻らないようだが、腰はほどなく治ったのか、物々しいコルセットだけ外れていた。
「……あんた、あれからずっと保のとこにいるのかよ」
「そうだよ。他に行くとこないしねー」
「……荷物と財布は?」
「元々ほぼ無一文で帰ってきたから別にいいんだ。タモツはすっかり有名人でお金持ちにもなってて、さすが優等生って感じ。超高級なマンションに住んでてさ、まるでリゾートホテルみたいなとこだぜ」
「……はあ」
「飯も頼めばなんか届く宅配サービスがマンションについてて、食いっぱぐれる心配もなし」
人の家に裸一丁で上がり込んで寛いでるなどと、とんでもない話だ。とはいえ光も、親が消息不明になったせいで生活資金に困り果てた身。金持ちの勝行におんぶに抱っこの状態なのであまり偉そうなことは言えないが――。この男は一体保のなんだというのだろうか。
「でもお前、元カレって紹介されてたじゃねえか。今は恋人でもなんでもねえんだろ」
「それはツンデレ保の捻くれた愛情表現ってやつだよ」
「?」
「照れてるんだよ。十年ぶりに再会できた恋人に出会えてさ!」
「……そうは見えなかったけど……」
「実際に今は毎日毎晩、恋人らしく濃厚で甘い夜を過ごしているよ。いやあ、幸せだなあ、片手骨折してるからちょっと抱きにくいんだけど、保が上に乗ってリードしてくれるから、もう天国だよ天国」
「そ……それって、セックスの話?」
ああもちろん、と笑顔で返してから「おっとごめん、健全な高校生だっけ」と悪びれずに舌を出す。晴樹はえっちな話になると狼狽えるウブな勝行とは違うし、大人の遊びに子どもは首突っ込んで来るなと追い払う冷たい保ともまるで違う。それに女と付き合いたがる同級生とも違う。男同士の恋愛や性行為のネタをさらりと普通に話してくる人間になど、生まれて初めて出会った気がする。
「保は遊び人で、毎晩誰かと寝てるって。それ、あんたは知ってるの」
「だろうねえ。あいつをセックス依存症にしちゃったのは俺だからしょうがない」
「依存症……?」
「ゲイセックスの楽しみとか、良さを教えたのは人生初恋人の俺なのに、一人でアメリカ行くって言ったから、あいつ怒っちゃってさあ。だから、俺が日本にいない間は恋人フリーってことにして、セックスフレンド作って遊ぶこと、許したんだ」
だからライブハウスでも毎週のように遊びに来ては、いい寄る男を値踏みしていたのか。遊び人プロデューサーの秘密を垣間見た気がして、光はただただ驚きながら、話を大人しく聞いていた。
饒舌に語る晴樹はどうやら話し相手が欲しかったようだ。ろくな返事をしなくても、彼一人で勝手にどんどん話が進んでいく。薬を処方された後も、もう少し時間いいかと誘われ、断る理由も思いつかなかった光は、縦に首を振った。
お互いの所持金でどうにかなる菓子パンひとつと缶コーヒーだけ買ってロビーのソファに座り込むと、晴樹は延々と過去を語り出す。
親とは早くに死別し、ゲイバーのママに育ててもらったこと。
そのため周囲はゲイばかりで、男同士のセックスも恋愛も当たり前の世界で大人になったこと。
保とは高校生の時に出会った親友だったこと。
卒業と同時にスポーツ留学の道を選んで渡米したこと。保とは追いかける夢が違うからという理由で、十年の期限をつけて約束したことなど――。
『十年経っても俺は保のことを忘れてないし絶対愛してるから、日本に帰ってきたら真っ先に迎えに来てくれる?』
「それで……ほんとに迎えに来たんだ、あいつ」
「そう! 俺たちすごいロマンチックでラブラブな関係だと思わない?」
「……う、うーん……よくわかんねえけど……」
もし明日誰もいなくなっていたら、と考えただけで夜眠れなくなる光にしてみれば、十年もの気の遠くなる間、どうして別々の道で強く生きていけたのか、それすら理解しがたい。
けれどどこか、クズ男のくせに真っ直ぐ生きていてかっこいいなと思ってしまう。
(いいなあ、男同士で恋愛、かあ……)
何故か恋愛といえば、男と女がするものだと心のどこかで勝手に思い込んでいた。ゲイという言葉も保のような遊び人か、父親から受けた暴行のイメージしか湧かず、恋愛というカテゴリには直接つながらなかった。そのせいか「好きだ」と告白してくれた勝行に対しても、ずっとそばに居てくれる『家族』としての彼を求めてきた自分が今もここにいる。
(そういえば、勝行が言ってたな。俺の知ってるセックスは間違ってて、本当は恋人同士でするもんなんだって)
光は逸る鼓動を抑えながら、空になったカフェオレの缶をぎゅっと握りしめた。この男にならもしかしたら、聞いてもらえるかもしれない。もしかしたら……。
「――光くん?」
ぐるぐると考え事をしているせいか、隣に座る晴樹の腕が肩に回され、じわじわと距離を詰められていることに光は全く気付かなかった。
病院で処方箋を出し、いつも通りの席で会計呼び出しを待つ。普段なら、なんだかんだで付き添ってくる勝行がここで缶コーヒーをさりげなく出してくれるのだが、今日は一人だ。
隣に誰もいない寂しさを音楽鑑賞で紛らわそうと、絡まったイヤホンのコードを解いている時だった。
「おやあ、そこの美少年は『光くん』だね?」
聞き覚えのあるような、ないような声に呼びかけられて振り返る。
「あっお前……保の」
「おお、俺のこと覚えてくれてた? 今日は君も病院なのかー薬待ち?」
「名乗った覚えないのに……なんで名前知ってんの、あんた」
「えー、君たちWINGSを溺愛してるタモツにいっぱい話聞かされたからねえ! 見ただけでわかったよ」
先日の病院騒ぎの元凶だった保の元カレこと村上晴樹は、屈託のない笑顔で話しながら光の隣に遠慮なく座った。骨折した腕はまだ戻らないようだが、腰はほどなく治ったのか、物々しいコルセットだけ外れていた。
「……あんた、あれからずっと保のとこにいるのかよ」
「そうだよ。他に行くとこないしねー」
「……荷物と財布は?」
「元々ほぼ無一文で帰ってきたから別にいいんだ。タモツはすっかり有名人でお金持ちにもなってて、さすが優等生って感じ。超高級なマンションに住んでてさ、まるでリゾートホテルみたいなとこだぜ」
「……はあ」
「飯も頼めばなんか届く宅配サービスがマンションについてて、食いっぱぐれる心配もなし」
人の家に裸一丁で上がり込んで寛いでるなどと、とんでもない話だ。とはいえ光も、親が消息不明になったせいで生活資金に困り果てた身。金持ちの勝行におんぶに抱っこの状態なのであまり偉そうなことは言えないが――。この男は一体保のなんだというのだろうか。
「でもお前、元カレって紹介されてたじゃねえか。今は恋人でもなんでもねえんだろ」
「それはツンデレ保の捻くれた愛情表現ってやつだよ」
「?」
「照れてるんだよ。十年ぶりに再会できた恋人に出会えてさ!」
「……そうは見えなかったけど……」
「実際に今は毎日毎晩、恋人らしく濃厚で甘い夜を過ごしているよ。いやあ、幸せだなあ、片手骨折してるからちょっと抱きにくいんだけど、保が上に乗ってリードしてくれるから、もう天国だよ天国」
「そ……それって、セックスの話?」
ああもちろん、と笑顔で返してから「おっとごめん、健全な高校生だっけ」と悪びれずに舌を出す。晴樹はえっちな話になると狼狽えるウブな勝行とは違うし、大人の遊びに子どもは首突っ込んで来るなと追い払う冷たい保ともまるで違う。それに女と付き合いたがる同級生とも違う。男同士の恋愛や性行為のネタをさらりと普通に話してくる人間になど、生まれて初めて出会った気がする。
「保は遊び人で、毎晩誰かと寝てるって。それ、あんたは知ってるの」
「だろうねえ。あいつをセックス依存症にしちゃったのは俺だからしょうがない」
「依存症……?」
「ゲイセックスの楽しみとか、良さを教えたのは人生初恋人の俺なのに、一人でアメリカ行くって言ったから、あいつ怒っちゃってさあ。だから、俺が日本にいない間は恋人フリーってことにして、セックスフレンド作って遊ぶこと、許したんだ」
だからライブハウスでも毎週のように遊びに来ては、いい寄る男を値踏みしていたのか。遊び人プロデューサーの秘密を垣間見た気がして、光はただただ驚きながら、話を大人しく聞いていた。
饒舌に語る晴樹はどうやら話し相手が欲しかったようだ。ろくな返事をしなくても、彼一人で勝手にどんどん話が進んでいく。薬を処方された後も、もう少し時間いいかと誘われ、断る理由も思いつかなかった光は、縦に首を振った。
お互いの所持金でどうにかなる菓子パンひとつと缶コーヒーだけ買ってロビーのソファに座り込むと、晴樹は延々と過去を語り出す。
親とは早くに死別し、ゲイバーのママに育ててもらったこと。
そのため周囲はゲイばかりで、男同士のセックスも恋愛も当たり前の世界で大人になったこと。
保とは高校生の時に出会った親友だったこと。
卒業と同時にスポーツ留学の道を選んで渡米したこと。保とは追いかける夢が違うからという理由で、十年の期限をつけて約束したことなど――。
『十年経っても俺は保のことを忘れてないし絶対愛してるから、日本に帰ってきたら真っ先に迎えに来てくれる?』
「それで……ほんとに迎えに来たんだ、あいつ」
「そう! 俺たちすごいロマンチックでラブラブな関係だと思わない?」
「……う、うーん……よくわかんねえけど……」
もし明日誰もいなくなっていたら、と考えただけで夜眠れなくなる光にしてみれば、十年もの気の遠くなる間、どうして別々の道で強く生きていけたのか、それすら理解しがたい。
けれどどこか、クズ男のくせに真っ直ぐ生きていてかっこいいなと思ってしまう。
(いいなあ、男同士で恋愛、かあ……)
何故か恋愛といえば、男と女がするものだと心のどこかで勝手に思い込んでいた。ゲイという言葉も保のような遊び人か、父親から受けた暴行のイメージしか湧かず、恋愛というカテゴリには直接つながらなかった。そのせいか「好きだ」と告白してくれた勝行に対しても、ずっとそばに居てくれる『家族』としての彼を求めてきた自分が今もここにいる。
(そういえば、勝行が言ってたな。俺の知ってるセックスは間違ってて、本当は恋人同士でするもんなんだって)
光は逸る鼓動を抑えながら、空になったカフェオレの缶をぎゅっと握りしめた。この男にならもしかしたら、聞いてもらえるかもしれない。もしかしたら……。
「――光くん?」
ぐるぐると考え事をしているせいか、隣に座る晴樹の腕が肩に回され、じわじわと距離を詰められていることに光は全く気付かなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
マネージャー~お前を甲子園に連れて行ったら……野球部のエース♥マネージャー
夏目碧央
BL
強豪校の野球部に入った相沢瀬那は、ベンチ入りを目指し、とにかくガッツを認めてもらおうと、グランド整備やボール磨きを頑張った。しかし、その結果は「マネージャーにならないか?」という監督からの言葉。瀬那は葛藤の末、マネージャーに転身する。
一方、才能溢れるピッチャーの戸田遼悠。瀬那は遼悠の才能を羨ましく思っていたが、マネージャーとして関わる内に、遼悠が文字通り血のにじむような努力をしている事を知る。
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる