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七冊目 恋の悩みもラジオにのせて
……⑥
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いよいよ、収録本番の夜を迎えた。
昨夜の暴挙も、今朝視た夢も最悪だったが、光は何事もなかったかのようにいつも通り勝行の隣を歩いている。
夜の一件は怖くて何も聞けなかったし、何も言い出せないままだ。
あの後光の身体を急いで拭き上げ、服を始末してベッドに寝かせたが、朝まで一度も目を覚ますことはなかった。謝る勇気さえ出ないまま、駆け足で一日が過ぎていく。
黙ってギターの練習に没頭していたら、光は仕事前で緊張していると思ったのか、リラックス効果があるというカモミールティーを淹れたり、腹の具合を気にかけてくれる。そのさりげない優しさが沁みるたび、勝行は罪悪感に苛まれて顔を合わせられなかった。
「まもなく本番でーす。スタジオの扉、閉めますね」
「は、はい!」
ラジオ局の収録現場に入り、一通りの説明を兼ねた打ち合わせを終える。
本番は進行表をなぞりつつ、時折メッセージを読んでフリートーク。ほぼリハーサルもない、一発勝負の世界だ。勿論、失敗したらリテイクはできるが、ライブ同様編集スタッフの手を煩わせてしまうので極力避けたい。
対角に広がるマイクの前に座り、ポップガードを調整していると、ガラス越しに自分の姿が映った。子どもの頃に憧れていた、ラジオ収録ブースの中にいる自分。
(ああ……本当にラジオ、やるんだな……)
そう思った途端、再び緊張の波が襲い掛かってくる。勝行は無意識に親指の爪を噛んだ。
すると隣から、甘えたような可愛い視線を送ってくる光がその手を掴んできた。それはまるで、今朝の夢で見たような――色気溢れる悩ましい表情。
「勝行」
「な、何……」
既視感のあるシチュエーションに、勝行の心臓がドクンと高鳴った。
(まさか……正夢にならないよな。本当はラジオ局でえっちしてしまった方が『現実』で、朝起きたらそれは夢だったオチの方が『夢』、とかならないよな……⁉)
時間軸がぶっ飛びすぎて、勝行の脳内はパニック寸前だ。記憶が曖昧で、どれが自分の本物の時間なのかわからない。
パニックを起こしかけていた勝行の爪代わりに、自分の唇をふにと当ててきた光は、「どうせならファンサで最初っからキスしてやろうか」などと囁いてきた。
「ラジオなんだから、見られないだろ?」
「ばっ……まずは声を出さなきゃ、ラジオにすらならないよ!」
「えー。だってほら、『WINGSキスして』ってメッセージに書いてある」
「その無茶ぶりには応えない! さっき打ち合わせで言っただろ」
「俺このメッセージ、気に入ってたのに」
防音扉の向こう側――ガラス越しに見える置鮎保やマネージャーの高倉からは、いいぞもっとやれと言わんばかりのボディサインが送られてくる。
これじゃ勝行が遠い、などと言って光は対面にあるマイクの位置をずらし、勝行の真横に席移動した。ハウリングしないかとヒヤヒヤするも、大人たちは光の希望通りにセッティングを進めてくれる。これだけ近いと、本当にキスしかねない状況だ。
どれだけ無茶ぶりを煽るんだあの大人たちは――と呆れていたら、カウントダウンが入った。
『それでは本番十秒前。九、八、……』
「くっくっくっ……ははははっ」
突然、肩を震わせて光が笑った。
「何。どうかしたの、光」
「いーや、なんでもない。元に戻ってよかった、いつもの勝行だな。戻らなかったらラジオどうしようってヒヤヒヤした」
「えっ……」
「俺だってたまには緊張するんだよ」
『四、三、二……』
光は最後にもう一度だけ、頬にキスを落して笑った。
「大丈夫、勝行なら絶対できる。逃げんなよ」
カウントがゼロになり、オープニングが流れる――。
勝行の夢が一つずつ叶っていく瞬間を隣で見届けながら、光は首についた噛み跡を撫で、意味深に微笑んだ。
『~♪ らじこむういんぐす スタート!』
END
いよいよ、収録本番の夜を迎えた。
昨夜の暴挙も、今朝視た夢も最悪だったが、光は何事もなかったかのようにいつも通り勝行の隣を歩いている。
夜の一件は怖くて何も聞けなかったし、何も言い出せないままだ。
あの後光の身体を急いで拭き上げ、服を始末してベッドに寝かせたが、朝まで一度も目を覚ますことはなかった。謝る勇気さえ出ないまま、駆け足で一日が過ぎていく。
黙ってギターの練習に没頭していたら、光は仕事前で緊張していると思ったのか、リラックス効果があるというカモミールティーを淹れたり、腹の具合を気にかけてくれる。そのさりげない優しさが沁みるたび、勝行は罪悪感に苛まれて顔を合わせられなかった。
「まもなく本番でーす。スタジオの扉、閉めますね」
「は、はい!」
ラジオ局の収録現場に入り、一通りの説明を兼ねた打ち合わせを終える。
本番は進行表をなぞりつつ、時折メッセージを読んでフリートーク。ほぼリハーサルもない、一発勝負の世界だ。勿論、失敗したらリテイクはできるが、ライブ同様編集スタッフの手を煩わせてしまうので極力避けたい。
対角に広がるマイクの前に座り、ポップガードを調整していると、ガラス越しに自分の姿が映った。子どもの頃に憧れていた、ラジオ収録ブースの中にいる自分。
(ああ……本当にラジオ、やるんだな……)
そう思った途端、再び緊張の波が襲い掛かってくる。勝行は無意識に親指の爪を噛んだ。
すると隣から、甘えたような可愛い視線を送ってくる光がその手を掴んできた。それはまるで、今朝の夢で見たような――色気溢れる悩ましい表情。
「勝行」
「な、何……」
既視感のあるシチュエーションに、勝行の心臓がドクンと高鳴った。
(まさか……正夢にならないよな。本当はラジオ局でえっちしてしまった方が『現実』で、朝起きたらそれは夢だったオチの方が『夢』、とかならないよな……⁉)
時間軸がぶっ飛びすぎて、勝行の脳内はパニック寸前だ。記憶が曖昧で、どれが自分の本物の時間なのかわからない。
パニックを起こしかけていた勝行の爪代わりに、自分の唇をふにと当ててきた光は、「どうせならファンサで最初っからキスしてやろうか」などと囁いてきた。
「ラジオなんだから、見られないだろ?」
「ばっ……まずは声を出さなきゃ、ラジオにすらならないよ!」
「えー。だってほら、『WINGSキスして』ってメッセージに書いてある」
「その無茶ぶりには応えない! さっき打ち合わせで言っただろ」
「俺このメッセージ、気に入ってたのに」
防音扉の向こう側――ガラス越しに見える置鮎保やマネージャーの高倉からは、いいぞもっとやれと言わんばかりのボディサインが送られてくる。
これじゃ勝行が遠い、などと言って光は対面にあるマイクの位置をずらし、勝行の真横に席移動した。ハウリングしないかとヒヤヒヤするも、大人たちは光の希望通りにセッティングを進めてくれる。これだけ近いと、本当にキスしかねない状況だ。
どれだけ無茶ぶりを煽るんだあの大人たちは――と呆れていたら、カウントダウンが入った。
『それでは本番十秒前。九、八、……』
「くっくっくっ……ははははっ」
突然、肩を震わせて光が笑った。
「何。どうかしたの、光」
「いーや、なんでもない。元に戻ってよかった、いつもの勝行だな。戻らなかったらラジオどうしようってヒヤヒヤした」
「えっ……」
「俺だってたまには緊張するんだよ」
『四、三、二……』
光は最後にもう一度だけ、頬にキスを落して笑った。
「大丈夫、勝行なら絶対できる。逃げんなよ」
カウントがゼロになり、オープニングが流れる――。
勝行の夢が一つずつ叶っていく瞬間を隣で見届けながら、光は首についた噛み跡を撫で、意味深に微笑んだ。
『~♪ らじこむういんぐす スタート!』
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