王子様はΩのうさぎに恋をする

さくら怜音/黒桜

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白うさぎと黒うさぎの物語

オメガの黒うさぎ

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黒うさぎの少年の名は「ヒカル」だと教えてもらった。
でもそれ以外のことは、何もわからないんだって。

「今までずっと、どこにいたの?」

と聞いたら、

「人間の大人がたまにくる、誰もいない部屋」

って返ってきた。じいやに聞いたら、それはもしかしたら、牢屋とか……悪い奴に捕まっていたのかもしれない、と教えてもらった。許せないことをする連中がいたもんだ。でも彼が悪いことをしていたかも、なんて発想はぼくには全く思いつかなかった。
だって、ヒカルの目がいつもきれいで、嘘をついているようには見えないんだ。
それになぜだろう。とっても甘くていい匂いがする。

「ヒカルって、いい匂いするね」
「は? お前の鼻、おかしいんじゃね?」
「そうなのかな。でもすごい甘くて美味しそうで、思わずかじりたくなったよ」

りんごみたいに。
そう言うと、彼は「りんごって何……?」と首を傾げた。
知らないんだ。そう、彼はホントにびっくりするぐらい、何も知らない赤ん坊みたいな子だった。
この年になるまでずっと牢屋に閉じ込められて、ボロボロになるまで苛められていたんだろうか。



じいやに頼み込んで城にヒカルを連れ帰ったぼくは、彼をお風呂に入れ、綺麗な服を貸してあげて、それから傷だらけの羽を手入れしてあげた。ちぎられた黒い羽はそのうち再生するらしい。耳が垂れているのは遺伝らしく、ぼくみたいにピンと空高く伸びたりはしない。
ぼくのことを警戒してたみたいで、ヒカルはずっとぼくを睨みつけてくる。その間ぼくはずっと、笑顔を返しながら一生懸命傷薬を塗った。

「大丈夫だよ。ぼくはこの国の王子だから、ここにいれば悪い奴になんかもう捕まらない」
「王子って偉い奴?」
「うん、王様の次の次の次くらいに」
「なんだ、したっぱか」
「そういう言葉は知ってるんだ……?」
「人間がよく言ってた。偉い奴は嫌なことするからきらいだ」
「ぼくの手も、嫌い?」

怖くなって思わずそう尋ねると、ヒカルはしばし無言で考えこんで――それからゆっくり、口を開いた。

「嫌いじゃない」

よかった。嬉しくて思わずそう零したら、ヒカルは照れたようにそっぽを向いた。

「ねえヒカル、君はオメガなの?」
「そうだよ」
「運命の番って知ってる?」
「うんめいのつがい? なにそれ、知らない」

そっか。知らないのか。じゃあぼくがたくさん教えてあげよう。
勉強も、遊びも、おいしいご飯も、あったかいベッドも。そして、アルファとオメガの、運命の番の伝説も。
全部ぼくがヒカルに教えて、ヒカルの綺麗な目の中に、ぼくの姿をたくさん映したい。

だってきっとヒカルは、ぼくの運命の番だから!

そういうと、ヒカルはちょっとだけ笑って、へんなの、と呟いた。

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