王子様はΩのうさぎに恋をする

さくら怜音/黒桜

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運命のつがいを探す物語

断罪の旅

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あれから五年の月日が経ち、僕は成人の儀を終えた。
王位継承権も、立場も何も変えられないまま、僕は見た目だけ大人になった。そう、見た目だけは。
おめでとうございますと上っ面のいい言葉ばかりが飛び交うパーティー会場を抜け出し、詰められる限りの荷物をサックに押し込むと、僕は正々堂々と旅立った。

――運命のつがいを、探す旅に。


「そこの綺麗なお兄ちゃん、りんご美味しいよ。どうだい」

親切そうな売店のおばさんからりんごを一つもらい、ぽいと空へ放り投げた。
あてもなく広い空。どこまでも続く雲。
騒がしい周囲の雑音を聴きながら、空中から舞い降りる赤い果実を片手で受け止めた。

「お兄ちゃんは大道芸人かい?」
「いーや、ただの旅人。おばさんありがとう。行き先が決まったよ」
「どこへ行くんだい?」
「りんごのヘタが示した町へ」

そんな行き当たりばったりな選択肢を笑って告げると、おばさんは楽し気に青いりんごもオマケしてくれる。

「運命のつがいを探しにいく旅だね。よき相手が見つかりますように」
「……じゃあこれは、その時までとっておくね」



城にいる間には知らなかったことを沢山見聞きして学んだ。たった五年、されど五年。
子どもだった僕にはまだ理解もできなかった、どす黒いオメガとアルファの因縁の物語。そして僕が信じてやまなかったあれは、きれいごとだけを残して口伝されてきた夢伝説だったことも。

『オメガは禁忌と紙一重の絶滅危惧種。その姿は希少なれど、身体が持つ花の香りはアルファの嗅覚を惑わし、思考回路を奪う闇兵器。且つて敵対していた人間の手に多数のオメガが囚われ、アルファうさぎを脅かす最終兵器として繁殖実験されていた――』

じいやと教師の説明が納得できなった当時の僕は、一人で王室の書庫に閉じこもってありとあらゆる文献を読み漁った。それでも、人間に囚われたオメガがその後どうなったのか、それを記す書物は存在しなかった。

ヒカルがたとえ運命のつがいではなかったとして。悪人扱いされ、城から追い出されたあの日、彼は僕を恨みながら逃げるように立ち去っただろう。僕の胸はずっとその傷を抱え込んだまま。

……否。誰が傷ついたって?
――まるで被害者のような顔をしている自分が通りすがった店のガラスに映る。叩き割りたくなる衝動を必死に抑えながら、僕はちっと舌打ちした。

あの日、僕が過ちを犯さなければよかった。
終わったことをどんなに後悔しても、あの子はもう二度と戻って来ない。
ただただもう一度、ヒカルに会うことができるのならば。……もう運命のつがいなんて、正直どうでもいいんだ。つがい探しの旅に出たのはただの口実。

僕はオメガの黒うさぎの行方に繋がる手掛かりを探しながら、断罪の時が来るまでただ歩き続けた。


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