生まれ変わったら、彼氏の息子でした

さくら怜音/黒桜

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サラリーマン天使と転生希望調査 2

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「制限条件があります」
「おう」

 揺るがない良一の相槌を聞いて、天使はパンフレットのようなものを取り出し、業務的に説明を続ける。

「胎児に直接魂を宿らせる手法を使えば、元いた世界にすぐ転生できます。ただし以前の記憶が一部残ってしまう副作用が確認されています。ですが別の人間として生きる以上、【小池良一】であったことを他人に口外してはいけません」
「大丈夫だ、俺は口は堅い」
「それと、お連れ様と無事再会はできますが、絶対に恋人にはなれません」
「え……?」

 その言葉に一瞬怯んだ姿を天使は見逃さなかった。天使は羽ペンとパンフレットを分厚いファイルに挟んでパタンと閉じ、シルバーの美しい瞳を伏せた。

「まだお相手を深く愛していらっしゃるのなら、あなたは相当傷つくでしょう。愛すればするほど、悲しみが増します。生まれ変わっても、その恋は最初から絶対に実らない。いずれ新しい身体が気に入らなくなって生き辛くなるかもしれません」
「……う……」
「――やはりおやめになりますか」
「……」
「なお、万が一自殺されてしまいましたら、寿命操作罪として地獄での強制労働百年のペナルティを別途科されます」
「ひっ、百年労働」

 自ら命を絶つことへの恐怖心は、生前にここで警告を食らうからなのかもしれない。気楽に選べるものではないと、魂が覚えているのだろう。

(それにしても……事務的っぽい割には意外と気遣ってくれるんだな、この天使)

 気づけば良一の目の前には、契約書らしき石板書類が二枚、空中に浮かび上がっていた。

「恋人になれなくても元恋人の近くに生まれ変わるか。何もかも忘れリセットした上で新世界(おまかせコース)に旅立つか。貴方の場合はどちらか二択ですね。どうされますか」
「……悩むわけない」

 少し前まで、あの甲斐性なしで性欲旺盛な享幸を支えて生きていくのは自分しかいないと自惚れていた。傍にさえいられるならば、恋人でなくてもいい。

「いいんだ。どうせ恋人になれないことは、死ぬ前からわかっていたことだから」
「……もしやそれが原因で、あなたわざと車道に飛び出し……」
「違うよ、違う! 完全なもらい事故だぜ、俺のは。そりゃ確かにぼんやりしてたかもしれないけど……コンビニ出てすぐ、猛スピードで店に突っ込んできた車にぶっ潰されたんだ。俺以外にも店にいた人とか、ヤバかったんじゃないのかなあ。全然覚えてないから、俺はきっと即死だったんだろうな」
「そうですかー、じゃあ元の身体は木っ端微塵で見れたもんじゃないでしょうね」
「て、テメエ……他人事だと思って」
「でもそういうのも、見てしまうかもしれませんよ」

 天使が言いたいことは、その時の良一にはまだよくわからなかった。

「ボロい綿布団でさ、あいつに抱かれて眠るのが好きだったんだ。普通の時間だったけど、寝心地よくて幸せだった。あいつだけはいつでも俺を受け入れてくれて……心の拠り所だった」

 次の生でもう一度彼に会えるのならば、今度は自分なりの恩返しがしたいと良一は願った。

「享幸って奴は、ほんとはふわふわのベッドで寝たかったくせに、俺に付き合ってずっと我慢してたお人よしの大馬鹿野郎だからさ。できれば今度は、ベッドでも文句言わない身体になりたいなあ」
「……では腰と姿勢に注意して過ごされては。目が覚めたらまずはベビーベッドからですよ」
「そっか。俺、赤ちゃんからやり直しか」
「ええ。あなたの次の人生に幸あらんことを」


 こうして記憶をわずかに握りしめたまま、かつて《良一》だった魂は産声をあげた。
 ようしよし、と抱き上げる男の顔は、ぼやけていても誰よりも見覚えがあるものだった。

「うわあ滝沢さんのパパさん、赤ちゃんをだっこするのすごく上手」
「小さい子のお世話とか、慣れてらっしゃるの?」
「いいえ、赤ちゃんを抱くのも世話するのも初めてです」

 泣きやんだ赤子に頬を摺り寄せ、看護師にそう答えながら男は戸惑いがちに答えた。その隣では、母親と思しき女性が寝間着姿で二人を見守っている。

「赤ちゃんってすごいな、こんなに小さいのに、命の強さを感じる。身体も温かい」
「そうね、これから疲れた貴方に生きる力をくれる、可愛い天使よ」
「うん、そうだといいなあ。男の子だよね、名前は……」

 コウイチ。
 幸せ一番とかいて、コウイチだよ。
 元恋人・良一の魂がここにいることなど知りもしない彼は、赤子に向けて嬉しそうにそう告げる。

(タカユキとオレの名前がくっついてる……!)

 その名を聴いただけで嬉しくなった幸一は、一生懸命笑おうとした。が、赤子の身体はどうにもうまく動かず、ふにゃと泣き声をあげてしまう。
 男は腕の中でぐずる幸一のもみじの手に指を添え、頬にキスをした。

「大丈夫。必ず君を幸せにしてあげるからね」
「享幸さん、それは奥さんの私に言うべき言葉じゃ?」
「あ……あれ、そうかな。間違ってた?」
「うふふ、親ばかさん確定ねー」
「素敵な親子の誕生、おめでとうございます」

 まだよく見えない世界。うまく動かない身体。かつて良一だった時の記憶は明瞭に残っている。リーマン天使に引率されて、転生の門をくぐったことも忘れていない。
 大人たちのにぎやかな声を聴きながら、幸一はゆっくりと生まれ落ちた世界の状況を理解した。

(そうか……俺は……結婚した享幸の子どもに生まれ変わったんだな)

 大好きだったあたたかな笑顔。愛する人を癒す慈愛の言葉。それを受け取る相手は自分ではなく、別の女。

 ――あなたの恋は絶対に実らない。

(ああ……知ってたよ。それでも……)
 天使にそう告げられた言葉を噛みしめながら、幸一は彼の腕の中で目を閉じた。
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