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二度目の恋に、さようなら 3
しおりを挟む「たかゆき……!」
「……」
わずかに彼の眉間が皺よる。
「なんで……なんで俺のこと、護れって願ったりするんだよ。しかもよりにもよって、意味の分からん天使なんかに! 俺……守ってほしいなんて言ってない。お前の何かを犠牲にしてまで欲しいことなんて何もない。あの時もそういいたかったのに……」
「……こ……こういち……?」
「ほんっと心底呆れるわこのお人好し野郎! お前が傍にいなきゃ、意味ないんだよ――!」
幸一の姿をしたまま、【良一】は衰弱しきった享幸にしがみついて嗚咽を漏らした。そうなることを予知していたかのように、スーツ天使はくつくつと肩を震わせ静かに嗤う。
「あーあ、だから言ったじゃないですか享幸。自己犠牲は美しい倫理だけど、相手の感情には寄り添わない、自己満足なのだと」
「……」
「そして同様に、ヒトの肉体時間に永遠は存在しない。輪廻に寄り添うことを望む良一の願いもまた、ただの自己満足なのです」
「あともう少し長生きしてほしいって願いも……?」
「ええ。何人たりとも寿命を操作することはできない。だから輪廻転生の成功事例は限りなく低いのだと。――そうお伝えしましたよね?」
「わかってる……そんなことわかってるよ、俺がわがままだから享幸の隣の場所を譲りたくなかった。別に恋人じゃなくてもよかったけど、でも本当はずっと抱き合っていたかったし、愛されたかった……!」
饒舌かつ辛辣に理を告げる天使の声。だが享幸には聴こえていないようで、バツの悪そうな顔をしたまま、泣きじゃくる幸一の髪をゆっくり撫で続けていた。
「やっぱりお前……本当は良一だったんだ、な……」
「……ご……ごめん……騙すみたいなこと、して」
「いや……いいんだ。こんな考え、病的な妄想だって否定されたくなくて……お前だったらいいのにって思う気持ち、隠して生きてきた。怖いぐらい自分に似た顔をして、良一と同じことを言う息子に……叶わない恋までして……。どうしようもない自分を抑えきれなくなって、お前と母さんから逃げ出したんだ。離婚したのは……それが理由で……」
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「良一を泣かせて、とんでもない天罰が下って。俺はもう二度と恋をしないと決めたのに、今度またお前を泣かせた……本当にごめん。だからこの病気も自業自得なんだ……。お前ともう一度、こうして抱き合えただけで、贅沢すぎるほど幸せだよ」
話したかったんだ。
幸せそうな笑顔を零しながら、享幸は幸一に頬を摺り寄せた。
「良一……良一、愛してる」
「ば……ばか……っ、今そんなこと言われても。お別れの言葉みたいで嫌だ。聞きたくない……っ」
「……ごめん良一。わがまま聞いてあげられなくて」
「やだ……いやだ……もっと生きて。キスして。どっか行かないで……っ」
めいっぱい首を横に振り、まるで小さい子どものように駄々を捏ねながら、良一はベッドに這い上がった。点滴やモニターの線を退け、天使が傍で見ていることも忘れて父の唇に何度も自分を重ねる。享幸は弱々しくも良一の背中に腕を回し、シャツを掴んだ。
「どうすれば……どうすればお前と一緒に生きていけるんだよ……もう別れたくないよ……我慢するのもいやだ……っ」
「俺も……もう、目の前で置いて行かれるのはごめんだ」
「……っ」
見れば享幸の目元から、大粒の涙がぼろぼろと零れていた。
「良一……いや、幸一にはこれから俺なんかよりもずっと、素敵な人との出会いが待ってるから……俺の分まで、たくさん、生きて。――無残に消えたりしないで。これは俺の勝手なわがままだから、怒ってくれていい」
何度も良一の顔を撫で、その体温を少しでも肌で感じ取ろうとしているのだろうか。享幸も目を閉じたまま、昔のようにキスを貪り続ける。時間をも忘れ、叶わない永遠を望みながら。
「置いていく側の気持ちも辛いな……これも天罰、かな……」
「……享幸ぃ……っ……」
どうせ天罰が下されるのなら、生前の記憶と正体を明かしてしまった自分が受けるべきだというのに。
「絶対恋人になれないって……そういうことなのかよ……」
やがて生命維持装置から、モニターの音がうっすらと消えていく。
「享幸の最後の願い、確かに叶えましたよ」
入れ替わりのようにばさりと大きな音を立てて、天使の翼が暖かい風を起こした。
陽が沈むオレンジ色の空が窓から零れ落ち、まるで大空の中をふわり飛んでいるかのような優しい風が吹いている。舞い散るは一本の白い羽根。
「……ありがとう」
ただただ静かに。穏やかに。
その男の「時」は、終わりを告げた。
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