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未来を生きる 1
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一瞬にして人の首が飛び、血しぶきが上がり、絶叫、破壊音と共にその場は阿鼻叫喚の地獄に堕ちた。
名を呼びながら走って、走って、必死に手を伸ばした先に掴んだものは、さっきまで一緒にいた男の袖ひとつ。
飛び散ったガラス片や、怪我を負って痛いと泣き叫ぶ者、救急車を呼んでと叫びながら一歩も動かない女、燃え上がる車体。崩れた店内の裏口から避難する店員と客たち。恐ろしいと呟き携帯電話のカメラで動画を撮り始める見物人。
絶望という名の世界。膝をつき、燃え広がる駐車場で必死に肉片を拾い集めながら、黒縁眼鏡をかけた青年が「良一を返せ」と腹の底から泣き叫んでいる。周りにいた大人の何人かが、危ないから離れろと彼を救い出していた。
――悍ましく悲惨な光景。目を背けても、脳に直接映る映像は消えない。
『でもそういうのも、見てしまうかもしれませんよ』
これは黒い髪と黒い羽根の天使が持つ、深い悲しみの傷跡だった。
あれから一年の時を経た。
滝沢幸一は今日も冷たい風に身を委ねながら自転車のサドルに跨った。途端、スマホのバイブレーションが空気を震わせる。
「もしもし……母さん? おー元気だよ、大丈夫だって。正月には帰れるから。ん、父さんの墓参りの日もバイト休みにしてるって。え、事故……? ああ大丈夫、俺には強ーい護衛がいるからさ。そう簡単には死なないって。母さんこそ気を付けて。俺がヘルパーの資格とるまでは倒れないでくれよ」
ほんっと、心配性だよな。あとかまってちゃんすぎて困る。
独り言で愚痴をこぼしながら通話を切ると、幸一の後ろで大きな黒色の羽根を広げながら、天使が「墓参りに行くんですか?」と意地悪な笑顔を見せた。
「タカユキはここにいるのに」
「非現実的すぎてそんなもん言えるわけないだろ」
くすくすと笑うスーツの黒天使をちらりと見やり、幸一もふふんと鼻を鳴らした。
「ま、仮に言うとしても、もう俺専属の彼氏だからあの女(ひと)に見せてやる気ないし。見た目若すぎるから気づかねえかもな」
「そういえば先日、クリスマスの買い出し中に二人で歩いてたら双子かと訊かれましたね」
「……ちょっと調子にのって外見いじりすぎじゃね? お前ら」
「でもこの顔、幸一も好きなんだろう?」
「ぐっ……」
普段は自己肯定感の低いメンヘラ男のくせに、調子にのったらすぐ惚れた弱みに付け入ってくる。そんな面倒くさい相方に「いいから早く姿隠せよ、移動するぞ。あと家帰ったらその顔でセックスさせろ」と偉そうに命令した。
「はいはい。若いマスターは性欲旺盛でお付き合いが大変だ」
「うっせ。こちとら十数年我慢してきたんだ。毎日やっても全然足りねー」
「その分しっかり働いてくださいよ」
「正月ちゃんと親孝行する約束しただろ」
うるさい外野をシャットアウトするようにネックウォーマーをかぶると、今度は「滝っちーまだかー」と名前を呼ぶ声が聴こえてきた。前を行く友人たちが、振り返って待ってくれている。
幸一はスラックスの後ろポケットにスマホをしまうと、「今行くー」と返事した。ペダルを踏みこみ、軽く風に乗って走り出す。その後ろの荷台には、誰にも見えない天使がちゃっかりと座り込んで、幸一の背中に手を伸ばしていた。
一瞬にして人の首が飛び、血しぶきが上がり、絶叫、破壊音と共にその場は阿鼻叫喚の地獄に堕ちた。
名を呼びながら走って、走って、必死に手を伸ばした先に掴んだものは、さっきまで一緒にいた男の袖ひとつ。
飛び散ったガラス片や、怪我を負って痛いと泣き叫ぶ者、救急車を呼んでと叫びながら一歩も動かない女、燃え上がる車体。崩れた店内の裏口から避難する店員と客たち。恐ろしいと呟き携帯電話のカメラで動画を撮り始める見物人。
絶望という名の世界。膝をつき、燃え広がる駐車場で必死に肉片を拾い集めながら、黒縁眼鏡をかけた青年が「良一を返せ」と腹の底から泣き叫んでいる。周りにいた大人の何人かが、危ないから離れろと彼を救い出していた。
――悍ましく悲惨な光景。目を背けても、脳に直接映る映像は消えない。
『でもそういうのも、見てしまうかもしれませんよ』
これは黒い髪と黒い羽根の天使が持つ、深い悲しみの傷跡だった。
あれから一年の時を経た。
滝沢幸一は今日も冷たい風に身を委ねながら自転車のサドルに跨った。途端、スマホのバイブレーションが空気を震わせる。
「もしもし……母さん? おー元気だよ、大丈夫だって。正月には帰れるから。ん、父さんの墓参りの日もバイト休みにしてるって。え、事故……? ああ大丈夫、俺には強ーい護衛がいるからさ。そう簡単には死なないって。母さんこそ気を付けて。俺がヘルパーの資格とるまでは倒れないでくれよ」
ほんっと、心配性だよな。あとかまってちゃんすぎて困る。
独り言で愚痴をこぼしながら通話を切ると、幸一の後ろで大きな黒色の羽根を広げながら、天使が「墓参りに行くんですか?」と意地悪な笑顔を見せた。
「タカユキはここにいるのに」
「非現実的すぎてそんなもん言えるわけないだろ」
くすくすと笑うスーツの黒天使をちらりと見やり、幸一もふふんと鼻を鳴らした。
「ま、仮に言うとしても、もう俺専属の彼氏だからあの女(ひと)に見せてやる気ないし。見た目若すぎるから気づかねえかもな」
「そういえば先日、クリスマスの買い出し中に二人で歩いてたら双子かと訊かれましたね」
「……ちょっと調子にのって外見いじりすぎじゃね? お前ら」
「でもこの顔、幸一も好きなんだろう?」
「ぐっ……」
普段は自己肯定感の低いメンヘラ男のくせに、調子にのったらすぐ惚れた弱みに付け入ってくる。そんな面倒くさい相方に「いいから早く姿隠せよ、移動するぞ。あと家帰ったらその顔でセックスさせろ」と偉そうに命令した。
「はいはい。若いマスターは性欲旺盛でお付き合いが大変だ」
「うっせ。こちとら十数年我慢してきたんだ。毎日やっても全然足りねー」
「その分しっかり働いてくださいよ」
「正月ちゃんと親孝行する約束しただろ」
うるさい外野をシャットアウトするようにネックウォーマーをかぶると、今度は「滝っちーまだかー」と名前を呼ぶ声が聴こえてきた。前を行く友人たちが、振り返って待ってくれている。
幸一はスラックスの後ろポケットにスマホをしまうと、「今行くー」と返事した。ペダルを踏みこみ、軽く風に乗って走り出す。その後ろの荷台には、誰にも見えない天使がちゃっかりと座り込んで、幸一の背中に手を伸ばしていた。
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