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第三節 友だちのエチュード
#26 修学旅行に行こう 出発編
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修学旅行当日。行先は九州北部。
全国津々浦々と転校してきた勝行でも、まだ行ったことがない地域だ。父親へのお土産はきちんと買いたいので、好みそうな名産品を検索しておいた。
だが――なんとなくの予感は的中する。今西光が集合時間に姿を見せなかったのだ。新幹線乗車時間にさえ間に合えば駅集合でもいいと担任から聞いていた勝行は、単身今西家に乗り込むことにした。
いたって普通の閑静な住宅街の一軒家。
たしか、ここだったか……と思案しながら家の前に立った途端、バン、と勢いよく玄関の扉が開く。
中からは同い年くらいの少年が飛び出してきた。
健康的に日焼けた肌色以外、どことなく光に似た顔つきの少年だ。目の前でチャイムを押そうとしている勝行を見るなり
「あれ、佐山中の子……もしかして光のこと、呼びに来てくれた?」
と屈託のない笑顔で話しかけてくる。
彼は水色基調のブレザーに紺無地のスラックスを着ている。深緑ブレザーとチェック柄スラックスの佐山中とは違う制服だ。
「おはようございます。光くん、いますか」
にこりと穏やかな笑みを浮かべて訊ねると、少年は運動靴の踵をトントンと蹴って履きながら、ちょっと待ってと言って、玄関の向こう側に向かい大声で叫ぶ。
「ひかるー! お前、迎えがきてるぞぉ!」
そう言いつつも彼は自分の腕時計を見るなり、やべーやべーと慌てた様子でパンパンの大型ボストンを持ち上げ、勝行をもう一度振り返った。
「ねえ! そっち、今日から修学旅行なんでしょ⁉ 光の奴、全然教えてくれないから昨日こっち帰ってきて知ったんだけどさ」
「ああ、はい。そうです」
「俺も一緒! 今日から長崎。しかも泊まるホテルも一緒! あっちで会った時ゆっくり話そうな。あとうちの兄貴をよろしくぅ」
「え……」
「じゃ! ごめんカギ閉めよろしくー!」
言うよりも先にその足は駅に向かって駆け出していた。見知らぬ相手に対し、なぜか施錠よろしくまで言い残して立ち去って行った少年を茫然と見送りながら、勝行は「……光って弟いたんだ」と思わず呟いた。
随分と足の速い弟があっという間に勝行の視界から消え去った頃、ぼうっとした顔で玄関に出てきた光は、まだ寝巻姿のままだった。
「……あれ? ……何で、お前」
「ちょっと……今朝は六時集合だって昨日連絡したよね?」
「……ああ、そうだっけ。今何時?」
「そこからスタートかよ」
むしろこれ位手間がかかることは日ごろの行動を見ていれば何となく予想もつくというものだ。勝行は盛大な溜息をわざとらしくつくと、ブレザーのポケットから自分の携帯電話を取り出し、片手でダイヤルした。ワンコールで相手が出る。
「……ああ、悪いけどさっき教えた家の玄関前に車つけてくれる?」
名乗りもせずに相手にそう告げると携帯電話を閉じ、勝行はまだ寝ぼけ眼の光がいる家の中に「お邪魔します」とあがり込んだ。朝ご飯は食べ終わっていたようだが、食卓はまだ若干散らかったままだ。
光はずんずん室内まで上り込んできた勝行に対して、おいてめえ、と不審そうな顔を見せる。
「勝手に入んな」
「今から五分で着替えて支度して。荷物は?」
「……は?」
「まさかとは思うけど、荷物も用意できてないの? 学校で持ち物リスト渡して一緒に確認したよね。あれはどうした?」
「ああ……カバンに入らねーから。あきらめた」
「なんで途中でやめるかな。ああこのへんのやつか?」
ものすごい迫力で急にあれこれと指示されて面食らっている光を無視し、部屋を散策しながらそれらしき小さめのボストンバッグを見つけて部屋から引きずり出す。周りには畳んだままの服が数着転がっている。
「荷造りしてやるから、お前はさっさと制服着る! あと三分で準備完了しろ」
「お、おう……」
その可愛らしい顔からは想像もつかぬほど強い命令口調。只ならぬ空気を感じたのか、光はしおしおと制服を取りに行った。その間に勝行は持ち物リストの内容を思い出しながらボストンの中に必要なものを詰め込んでいく。着替えなどはだいたい表に出ていたもので事足りそうだ。水筒はその辺で適当にペットボトルでも買えばいい。ジッパーをさっと閉じて玄関の外に放り出す。ちょうど雑に着替え終わった光が二階から降りてきたところだった。
強引にそのまま外へ連れ出し、玄関を施錠させたところで、見計らったかのように黒塗りの外車がやってきて目の前に停まった。車内助手席からはガタイのいい黒いスーツ姿の男が降りてきて二人に近づいてくる。光はぎょっとして思わず身構えたが、勝行は悠然と外に放り出したボストンバッグを持ち上げ、その男に手渡す。
「これ、よろしく」
「承知しました。どうぞお乗りください」
「ああ。……行くよ? 光」
「え。あ、ちょっ、待てよおいっ」
黒スーツの男を顎でこき使い、反論もガン無視した勝行は、光を車の後部座席に無理やり押し込んだ。その隣に自分も颯爽と乗り込む。
あっという間に発車したその送迎車両は、父親の使用人が運転する相羽家の専用送迎車だ。通学時はさすがに目立つので普段は徒歩通学だが、いざとなればこうやって電話一本で駆けつけてくれる。
光は綺麗に飾られた車内を見てタクシーと勘違いしたのか、「おい、俺金持ってねーぞ」と耳打ちしてきた。
「大丈夫だよ、俺の親戚の車だから」
息をつくようにでたらめを語る勝行と不安げな光を乗せた車は一気に駅まで走り、新幹線にて学友と合流したのであった。
全国津々浦々と転校してきた勝行でも、まだ行ったことがない地域だ。父親へのお土産はきちんと買いたいので、好みそうな名産品を検索しておいた。
だが――なんとなくの予感は的中する。今西光が集合時間に姿を見せなかったのだ。新幹線乗車時間にさえ間に合えば駅集合でもいいと担任から聞いていた勝行は、単身今西家に乗り込むことにした。
いたって普通の閑静な住宅街の一軒家。
たしか、ここだったか……と思案しながら家の前に立った途端、バン、と勢いよく玄関の扉が開く。
中からは同い年くらいの少年が飛び出してきた。
健康的に日焼けた肌色以外、どことなく光に似た顔つきの少年だ。目の前でチャイムを押そうとしている勝行を見るなり
「あれ、佐山中の子……もしかして光のこと、呼びに来てくれた?」
と屈託のない笑顔で話しかけてくる。
彼は水色基調のブレザーに紺無地のスラックスを着ている。深緑ブレザーとチェック柄スラックスの佐山中とは違う制服だ。
「おはようございます。光くん、いますか」
にこりと穏やかな笑みを浮かべて訊ねると、少年は運動靴の踵をトントンと蹴って履きながら、ちょっと待ってと言って、玄関の向こう側に向かい大声で叫ぶ。
「ひかるー! お前、迎えがきてるぞぉ!」
そう言いつつも彼は自分の腕時計を見るなり、やべーやべーと慌てた様子でパンパンの大型ボストンを持ち上げ、勝行をもう一度振り返った。
「ねえ! そっち、今日から修学旅行なんでしょ⁉ 光の奴、全然教えてくれないから昨日こっち帰ってきて知ったんだけどさ」
「ああ、はい。そうです」
「俺も一緒! 今日から長崎。しかも泊まるホテルも一緒! あっちで会った時ゆっくり話そうな。あとうちの兄貴をよろしくぅ」
「え……」
「じゃ! ごめんカギ閉めよろしくー!」
言うよりも先にその足は駅に向かって駆け出していた。見知らぬ相手に対し、なぜか施錠よろしくまで言い残して立ち去って行った少年を茫然と見送りながら、勝行は「……光って弟いたんだ」と思わず呟いた。
随分と足の速い弟があっという間に勝行の視界から消え去った頃、ぼうっとした顔で玄関に出てきた光は、まだ寝巻姿のままだった。
「……あれ? ……何で、お前」
「ちょっと……今朝は六時集合だって昨日連絡したよね?」
「……ああ、そうだっけ。今何時?」
「そこからスタートかよ」
むしろこれ位手間がかかることは日ごろの行動を見ていれば何となく予想もつくというものだ。勝行は盛大な溜息をわざとらしくつくと、ブレザーのポケットから自分の携帯電話を取り出し、片手でダイヤルした。ワンコールで相手が出る。
「……ああ、悪いけどさっき教えた家の玄関前に車つけてくれる?」
名乗りもせずに相手にそう告げると携帯電話を閉じ、勝行はまだ寝ぼけ眼の光がいる家の中に「お邪魔します」とあがり込んだ。朝ご飯は食べ終わっていたようだが、食卓はまだ若干散らかったままだ。
光はずんずん室内まで上り込んできた勝行に対して、おいてめえ、と不審そうな顔を見せる。
「勝手に入んな」
「今から五分で着替えて支度して。荷物は?」
「……は?」
「まさかとは思うけど、荷物も用意できてないの? 学校で持ち物リスト渡して一緒に確認したよね。あれはどうした?」
「ああ……カバンに入らねーから。あきらめた」
「なんで途中でやめるかな。ああこのへんのやつか?」
ものすごい迫力で急にあれこれと指示されて面食らっている光を無視し、部屋を散策しながらそれらしき小さめのボストンバッグを見つけて部屋から引きずり出す。周りには畳んだままの服が数着転がっている。
「荷造りしてやるから、お前はさっさと制服着る! あと三分で準備完了しろ」
「お、おう……」
その可愛らしい顔からは想像もつかぬほど強い命令口調。只ならぬ空気を感じたのか、光はしおしおと制服を取りに行った。その間に勝行は持ち物リストの内容を思い出しながらボストンの中に必要なものを詰め込んでいく。着替えなどはだいたい表に出ていたもので事足りそうだ。水筒はその辺で適当にペットボトルでも買えばいい。ジッパーをさっと閉じて玄関の外に放り出す。ちょうど雑に着替え終わった光が二階から降りてきたところだった。
強引にそのまま外へ連れ出し、玄関を施錠させたところで、見計らったかのように黒塗りの外車がやってきて目の前に停まった。車内助手席からはガタイのいい黒いスーツ姿の男が降りてきて二人に近づいてくる。光はぎょっとして思わず身構えたが、勝行は悠然と外に放り出したボストンバッグを持ち上げ、その男に手渡す。
「これ、よろしく」
「承知しました。どうぞお乗りください」
「ああ。……行くよ? 光」
「え。あ、ちょっ、待てよおいっ」
黒スーツの男を顎でこき使い、反論もガン無視した勝行は、光を車の後部座席に無理やり押し込んだ。その隣に自分も颯爽と乗り込む。
あっという間に発車したその送迎車両は、父親の使用人が運転する相羽家の専用送迎車だ。通学時はさすがに目立つので普段は徒歩通学だが、いざとなればこうやって電話一本で駆けつけてくれる。
光は綺麗に飾られた車内を見てタクシーと勘違いしたのか、「おい、俺金持ってねーぞ」と耳打ちしてきた。
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