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第四章 カミングアウト
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『なあヒカル、気持ちいいことしようぜ』
『お前そういうの好きだろ、ド変態の奴隷だから』
『はははっ、そうだよな、淫乱ちゃん!』
無数の手。逃げられない部屋。嫌だと言っても、嗤われるだけの自分。何でもいいから気持ちいい一瞬の快楽を味わおうと、勝手に動く身体。
『この淫乱が。俺以外にその姿を晒すな。お前は俺のものだ』
耳元で甘く囁くように命令してきた桐吾のバリトンボイス。今も思い出すたび、じくじくと腹の奥が疼く。現実逃避したくて目を閉じただけで、リアルに蘇る声。
夏の終わり、あの声によく似た……けれど大好きな甘い音を混ぜた低音で『勝行』に同じ科白を言われた時、支配される恐怖と同時になぜか安堵の涙が勝手に零れた。
その言葉を思い出すだけで、光の動悸はうんと加速する。
散々桐吾に最奥を突かれ、泣き叫び、欲望を弾き飛ばしながら「もっと、もっと」と女声でしがみつく。そんな自分が何度も夢に出てきては、下半身を淫らに濡らす日々が続いた。風呂場でセックス。ベッドでセックス。廊下で、冷たい倉庫で、知らないホテルで、他人が見ている場所で。もう何回あの男とヤッたか覚えていない。けれどどのシチュエーションもありありと蘇ってくる。
同時に勝行とやった兜合わせの記憶も夢に視た。そうして勝行の声が夢の中で桐吾とクロスオーバーしていく。
だが慰めるように前だけを握っていても、疼く身体は一向に収まらない。これが病気のせいなのか、自分の持つ酷い性行為依存のせいなのかはわからない。暗闇の中で光は迷走していた。
そんな時に、ゲイだと公言する男・晴樹に出会った。
『僕はタチ専門だから。抱いてほしい時にシてあげるよ、天国見せてあげる』
出会っていきなり、こいつ馬鹿なのかと最初は呆れた。隣にいた保も怒っていた。でも本人は全く隠すこともなく、笑っていた。
誰かに抱かれて即物的に楽になりたいという感情に憑りつかれていたせいか、目の前に信頼できる上司・置鮎保が一緒だったせいか——わからないが、気づけば二人に「セックスを教えて」と口走ってしまった。
本当は知ってるくせに。知らないふりをして。彼らの愛し合い方と自分が好きだった桐吾とのそれが同じものかどうか、試してみたかったのだ。
結果として、二人は目の前で甘い行為をしつつ、傍にいる光の身体にも沢山の快感を与えてくれた。あんなに優しい愛撫は初めてで、不覚にも気持ちよすぎて、我を忘れるほどだったのだ。そこで自分は確かに口走った。
——抱いてほしいと。
桐吾以外の男に対して。まだ勝行にも言ったことのない言葉を。
(知らない奴に抱かれるの、死ぬほど嫌いだったのに……)
考えれば考えるほど、自分の浅はかな行為を愚鈍に思い、うしろめたさばかりが残っていく。勝行にはどうしてもバレたくない。こんな自分が嫌いだ。本当に。
(セックスなんて……嫌いだ……嫌いだ……!)
……
…………
「まだ本調子じゃないし、無理したらだめだよ。確かに撮影も仕事のうちだけど、ドキュメンタリーってのは普段の生活を撮るのが目的なんだから……」
「ん……」
結局あれから冷や汗が引かず、軽く風邪を拗らせてしまった。無理が祟ったのだと過剰に反応した勝行は、カメラマンたちに残りの撮影を断ると、早速晴樹と保に抗議してスケジュール調整をするよう要求していた。電話口で「絶対無理です。もう少し余裕のある段取りを」と断言する勝行の姿をぼんやり眺めながら、光はフローリングに座り込んでいた。
毛布に包まるにはまだ少し暑いが気持ちいい。薄手のマシュマロ素材に頬を摺り寄せ、目を閉じる。
(せっかくもらった仕事なのにな……)
ようやくセカンドシングルを作っていた時くらいの体調に戻ってきたかなと思っていたのだが、体力的な衰えは否めない。どこかで体力づくりの運動でもしたいところだ。とはいえ、ストレッチと散歩以外にできることが思いつかない。
(運動か……ハルキとタモツならセックスしよって言ってそうだ)
そんな発言、勝行が聞いたら汚いものをみるような目で蔑むだろう。けれど自分だったら——。
(……)
「大丈夫か光。もうベッドで寝たらどうだ」
優しく触れられたはずなのに、光の身体は大げさなくらい身体はビクンと慄き飛び跳ねた。卑猥な考え事をしている時、ふいにおでこを撫でられると困る。しかも顔が近い。意識していた光の頬は、持っている体熱以上に火照っている気がした。
「どうした……?」
「い、いや。まだメシ食ってないし、ちょっと休んだら作るから……」
「いいからもう今日は寝てろって。こんなに顔赤くして何言ってんだ。片岡さんにケータリングでも頼んどくし」
「でも……」
「いいから。俺のためにもきちんと休んで」
そう言われてしまうと、反論ができなくなる。またいつものようにお姫様を抱き上げる王子様のようなスタイルで、勝行はベッドルームへと軽々運んで行く。
『なあヒカル、気持ちいいことしようぜ』
『お前そういうの好きだろ、ド変態の奴隷だから』
『はははっ、そうだよな、淫乱ちゃん!』
無数の手。逃げられない部屋。嫌だと言っても、嗤われるだけの自分。何でもいいから気持ちいい一瞬の快楽を味わおうと、勝手に動く身体。
『この淫乱が。俺以外にその姿を晒すな。お前は俺のものだ』
耳元で甘く囁くように命令してきた桐吾のバリトンボイス。今も思い出すたび、じくじくと腹の奥が疼く。現実逃避したくて目を閉じただけで、リアルに蘇る声。
夏の終わり、あの声によく似た……けれど大好きな甘い音を混ぜた低音で『勝行』に同じ科白を言われた時、支配される恐怖と同時になぜか安堵の涙が勝手に零れた。
その言葉を思い出すだけで、光の動悸はうんと加速する。
散々桐吾に最奥を突かれ、泣き叫び、欲望を弾き飛ばしながら「もっと、もっと」と女声でしがみつく。そんな自分が何度も夢に出てきては、下半身を淫らに濡らす日々が続いた。風呂場でセックス。ベッドでセックス。廊下で、冷たい倉庫で、知らないホテルで、他人が見ている場所で。もう何回あの男とヤッたか覚えていない。けれどどのシチュエーションもありありと蘇ってくる。
同時に勝行とやった兜合わせの記憶も夢に視た。そうして勝行の声が夢の中で桐吾とクロスオーバーしていく。
だが慰めるように前だけを握っていても、疼く身体は一向に収まらない。これが病気のせいなのか、自分の持つ酷い性行為依存のせいなのかはわからない。暗闇の中で光は迷走していた。
そんな時に、ゲイだと公言する男・晴樹に出会った。
『僕はタチ専門だから。抱いてほしい時にシてあげるよ、天国見せてあげる』
出会っていきなり、こいつ馬鹿なのかと最初は呆れた。隣にいた保も怒っていた。でも本人は全く隠すこともなく、笑っていた。
誰かに抱かれて即物的に楽になりたいという感情に憑りつかれていたせいか、目の前に信頼できる上司・置鮎保が一緒だったせいか——わからないが、気づけば二人に「セックスを教えて」と口走ってしまった。
本当は知ってるくせに。知らないふりをして。彼らの愛し合い方と自分が好きだった桐吾とのそれが同じものかどうか、試してみたかったのだ。
結果として、二人は目の前で甘い行為をしつつ、傍にいる光の身体にも沢山の快感を与えてくれた。あんなに優しい愛撫は初めてで、不覚にも気持ちよすぎて、我を忘れるほどだったのだ。そこで自分は確かに口走った。
——抱いてほしいと。
桐吾以外の男に対して。まだ勝行にも言ったことのない言葉を。
(知らない奴に抱かれるの、死ぬほど嫌いだったのに……)
考えれば考えるほど、自分の浅はかな行為を愚鈍に思い、うしろめたさばかりが残っていく。勝行にはどうしてもバレたくない。こんな自分が嫌いだ。本当に。
(セックスなんて……嫌いだ……嫌いだ……!)
……
…………
「まだ本調子じゃないし、無理したらだめだよ。確かに撮影も仕事のうちだけど、ドキュメンタリーってのは普段の生活を撮るのが目的なんだから……」
「ん……」
結局あれから冷や汗が引かず、軽く風邪を拗らせてしまった。無理が祟ったのだと過剰に反応した勝行は、カメラマンたちに残りの撮影を断ると、早速晴樹と保に抗議してスケジュール調整をするよう要求していた。電話口で「絶対無理です。もう少し余裕のある段取りを」と断言する勝行の姿をぼんやり眺めながら、光はフローリングに座り込んでいた。
毛布に包まるにはまだ少し暑いが気持ちいい。薄手のマシュマロ素材に頬を摺り寄せ、目を閉じる。
(せっかくもらった仕事なのにな……)
ようやくセカンドシングルを作っていた時くらいの体調に戻ってきたかなと思っていたのだが、体力的な衰えは否めない。どこかで体力づくりの運動でもしたいところだ。とはいえ、ストレッチと散歩以外にできることが思いつかない。
(運動か……ハルキとタモツならセックスしよって言ってそうだ)
そんな発言、勝行が聞いたら汚いものをみるような目で蔑むだろう。けれど自分だったら——。
(……)
「大丈夫か光。もうベッドで寝たらどうだ」
優しく触れられたはずなのに、光の身体は大げさなくらい身体はビクンと慄き飛び跳ねた。卑猥な考え事をしている時、ふいにおでこを撫でられると困る。しかも顔が近い。意識していた光の頬は、持っている体熱以上に火照っている気がした。
「どうした……?」
「い、いや。まだメシ食ってないし、ちょっと休んだら作るから……」
「いいからもう今日は寝てろって。こんなに顔赤くして何言ってんだ。片岡さんにケータリングでも頼んどくし」
「でも……」
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そう言われてしまうと、反論ができなくなる。またいつものようにお姫様を抱き上げる王子様のようなスタイルで、勝行はベッドルームへと軽々運んで行く。
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