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第十章 Trust me,Trust you
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「いってえな、反抗なんかしねえからもっと扱いに気遣えよ」
「どの口が言ってんだ、ああ?」
自分で歩いて監禁部屋に行く。そう宣言しても眼鏡男には信用してもらえるはずがなく、光の背中にはずっと銃口を突きつけられている。男の鼻の辺りには見覚えのない新しい傷痕が出来ていた。もしかすると、光が殴って眼鏡を粉砕した時にできた傷かもしれない。
ちらっとそれを横目で眺めつつ、光は言われるがままゆっくり歩みを進める。
「そーゆーテメエこそ、なんで俺の親父裏切って一人逃げ残ってんだ」
「いつ誰が裏切ったって? あの日以来、トーゴと接触できなくさせたのは相羽だろうが。俺はずっと恨んでんだぜ……この顔に傷をつけたお前も、相羽って名前の一族もよ」
「はっ、どうせ捕まるのが嫌でただ隠れてただけだろ」
「……これ以上無駄口叩くなら殺してもいいか?」
眼鏡男がどんなに凄んでも、自分の首を絞めかけてきても、光は負けじと食い下がった。この男がいると分かっていて、現場まで単身飛び込んできたのだ。勝行に会わせてもらうまでは、何が何でもしがみ付く。
ビルの入り口から堂々と入り、ライブの客が出入りする受付で「誘拐犯に会いたいんだけど!」と叫んだ光は、当然ながら警備員室に連行され、厳つい黒服に拘束された。カマをかけるつもりで「トーゴの代理人」で「交渉しに来た」と言えば、一人の警備員が訝しがって眼鏡男に連絡をとった。――と、ここまで順調すぎて逆に悲しくなる。
(親父の悪名が通じるってなんか複雑……)
桐吾は芸能業界に流通する脱法ドラッグの売人だった。この渋谷のライブビルを所有するセクハラ社長と横つながりがあっても何らおかしくはない。『枕営業』ネタで脅しをかけてきたことからも察しがつく。
「なぜここだと分かった。逆探知か」
「さあ、それは秘密。でも警察はまだこの場所に気づいてない。俺は一人で来た」
「どうやって?」
「勝行の車、運転して」
「……いつの間にそんなことできるようになったんだ、てめえ」
「アンタこそ、いつまで俺を子どもだと思ってんだ」
本当は免許なんて持ってないし、運転はできても違法行為だ。念のため鍵を見せ、なんなら車も見ていいぞとアピールして、丸腰であることを敵に知らしめる。
無免許運転、しかも本当に単身で乗り込んできたと分かるや否や、眼鏡男は「さすがトーゴの息子。何しでかすかわからねえな」と肩を震わせた。
「目的はなんだ」
「人質交換」
「……お前が相羽勝行の代わりに捕まりたいってことか?」
「ああ。それを周りの大人に言ったら反対されたから、一人で来た。理由としては十分だろ」
「そういやてめえは、あの坊ちゃんをトーゴから守るっていう大義名分で、のこのこ捕まりにくる馬鹿な男だったなぁ?」
「わかってんなら話は早い。チェンジしたらなんでもヤってやるよ」
わざとらしく口元に手を添え、舌を出して誘うような仕草を見せた。眼鏡男はセックスより殺人の方が好きな戦闘狂だが、人が犯されているのを鑑賞するのは好きだったはず。
眼鏡男は「相変わらず淫乱な野郎だな」と舌なめずりしつつも、自分の一存ではできないとはっきり述べた。
「俺はお前でもいいが、依頼主が許可するかどうかわからねえからな」
「依頼主……?」
「お前は馬鹿すぎて気づいてないだろうが、俺は今回はただの雇われ誘拐犯だ。ここでお縄についても別に構わねえ。適当にムショで過ごして、トーゴと同じタイミングでシャバに出れたらそれでいいからな」
「……っ」
相羽家の誰かに雇われているということを裏付けるような発言だった。予想はついていたが、この男にはっきり宣言されると思わず冷や汗が零れ落ちる。
「信じらんねえ。地に落ちたな、親父の手下がそんなに雑魚だとは思わなかった」
「なんだと……お前はトーゴがいなくなった途端、怖いもの知らずの生意気なクソガキに戻ったなあ?」
癪に障ったのか、眼鏡男は光の胸倉を掴むとそのまま重い防音扉を開き、光を室内に投げ入れた。
「ネズミ一匹、捕まえて来ましたよ」
「光……っ」
そこはまさに光の望んだ場所だった。所狭しと撮影機材がひしめき合うスタジオ部屋。真ん中に置かれたセンスのない木製椅子。手を縛られ、椅子に括りつけられているのは勝行で、その周りには四、五人の男女が立っている。
たった二日、三日姿を見なかっただけで、驚くほどやつれてしまった気がする。光は後ろに眼鏡男がいることも忘れ、急いで勝行の元に駆け寄った。
「勝行っ」
「馬鹿、くるな、危ない!」
光の手が勝行の身体に触れた途端、パシュンと小気味いい銃声が鳴り響いた。
「勝手に動くな、クソが」
「……か、勝行」
「大丈夫、見るな」
今のは絶対、わざと外して撃ったけん制だ。光には全く当たらず、代わりに勝行の右腕に弾が掠った。スーツの袖が破れ、火傷のような痕からじわり血が滲んでくる。光は勝行の前に仁王立ちし、眼鏡男を睨みつけた。
「なんで俺を狙わねえんだよ!」
「当たり前だろ。ソッチの方がてめえには効果抜群だからだよ」
「くそっ……」
「一歩でも怪しい行動をとってみろ。俺はそっちの小僧を撃ち続けるぜ」
人質交換ができるかどうかわかるまで、接触はNGというわけだ。光はチッと舌打ちしつつ、「だったら早く交渉しろよ、トイレに行きたくなるだろうが」と悪態をついた。
「いってえな、反抗なんかしねえからもっと扱いに気遣えよ」
「どの口が言ってんだ、ああ?」
自分で歩いて監禁部屋に行く。そう宣言しても眼鏡男には信用してもらえるはずがなく、光の背中にはずっと銃口を突きつけられている。男の鼻の辺りには見覚えのない新しい傷痕が出来ていた。もしかすると、光が殴って眼鏡を粉砕した時にできた傷かもしれない。
ちらっとそれを横目で眺めつつ、光は言われるがままゆっくり歩みを進める。
「そーゆーテメエこそ、なんで俺の親父裏切って一人逃げ残ってんだ」
「いつ誰が裏切ったって? あの日以来、トーゴと接触できなくさせたのは相羽だろうが。俺はずっと恨んでんだぜ……この顔に傷をつけたお前も、相羽って名前の一族もよ」
「はっ、どうせ捕まるのが嫌でただ隠れてただけだろ」
「……これ以上無駄口叩くなら殺してもいいか?」
眼鏡男がどんなに凄んでも、自分の首を絞めかけてきても、光は負けじと食い下がった。この男がいると分かっていて、現場まで単身飛び込んできたのだ。勝行に会わせてもらうまでは、何が何でもしがみ付く。
ビルの入り口から堂々と入り、ライブの客が出入りする受付で「誘拐犯に会いたいんだけど!」と叫んだ光は、当然ながら警備員室に連行され、厳つい黒服に拘束された。カマをかけるつもりで「トーゴの代理人」で「交渉しに来た」と言えば、一人の警備員が訝しがって眼鏡男に連絡をとった。――と、ここまで順調すぎて逆に悲しくなる。
(親父の悪名が通じるってなんか複雑……)
桐吾は芸能業界に流通する脱法ドラッグの売人だった。この渋谷のライブビルを所有するセクハラ社長と横つながりがあっても何らおかしくはない。『枕営業』ネタで脅しをかけてきたことからも察しがつく。
「なぜここだと分かった。逆探知か」
「さあ、それは秘密。でも警察はまだこの場所に気づいてない。俺は一人で来た」
「どうやって?」
「勝行の車、運転して」
「……いつの間にそんなことできるようになったんだ、てめえ」
「アンタこそ、いつまで俺を子どもだと思ってんだ」
本当は免許なんて持ってないし、運転はできても違法行為だ。念のため鍵を見せ、なんなら車も見ていいぞとアピールして、丸腰であることを敵に知らしめる。
無免許運転、しかも本当に単身で乗り込んできたと分かるや否や、眼鏡男は「さすがトーゴの息子。何しでかすかわからねえな」と肩を震わせた。
「目的はなんだ」
「人質交換」
「……お前が相羽勝行の代わりに捕まりたいってことか?」
「ああ。それを周りの大人に言ったら反対されたから、一人で来た。理由としては十分だろ」
「そういやてめえは、あの坊ちゃんをトーゴから守るっていう大義名分で、のこのこ捕まりにくる馬鹿な男だったなぁ?」
「わかってんなら話は早い。チェンジしたらなんでもヤってやるよ」
わざとらしく口元に手を添え、舌を出して誘うような仕草を見せた。眼鏡男はセックスより殺人の方が好きな戦闘狂だが、人が犯されているのを鑑賞するのは好きだったはず。
眼鏡男は「相変わらず淫乱な野郎だな」と舌なめずりしつつも、自分の一存ではできないとはっきり述べた。
「俺はお前でもいいが、依頼主が許可するかどうかわからねえからな」
「依頼主……?」
「お前は馬鹿すぎて気づいてないだろうが、俺は今回はただの雇われ誘拐犯だ。ここでお縄についても別に構わねえ。適当にムショで過ごして、トーゴと同じタイミングでシャバに出れたらそれでいいからな」
「……っ」
相羽家の誰かに雇われているということを裏付けるような発言だった。予想はついていたが、この男にはっきり宣言されると思わず冷や汗が零れ落ちる。
「信じらんねえ。地に落ちたな、親父の手下がそんなに雑魚だとは思わなかった」
「なんだと……お前はトーゴがいなくなった途端、怖いもの知らずの生意気なクソガキに戻ったなあ?」
癪に障ったのか、眼鏡男は光の胸倉を掴むとそのまま重い防音扉を開き、光を室内に投げ入れた。
「ネズミ一匹、捕まえて来ましたよ」
「光……っ」
そこはまさに光の望んだ場所だった。所狭しと撮影機材がひしめき合うスタジオ部屋。真ん中に置かれたセンスのない木製椅子。手を縛られ、椅子に括りつけられているのは勝行で、その周りには四、五人の男女が立っている。
たった二日、三日姿を見なかっただけで、驚くほどやつれてしまった気がする。光は後ろに眼鏡男がいることも忘れ、急いで勝行の元に駆け寄った。
「勝行っ」
「馬鹿、くるな、危ない!」
光の手が勝行の身体に触れた途端、パシュンと小気味いい銃声が鳴り響いた。
「勝手に動くな、クソが」
「……か、勝行」
「大丈夫、見るな」
今のは絶対、わざと外して撃ったけん制だ。光には全く当たらず、代わりに勝行の右腕に弾が掠った。スーツの袖が破れ、火傷のような痕からじわり血が滲んでくる。光は勝行の前に仁王立ちし、眼鏡男を睨みつけた。
「なんで俺を狙わねえんだよ!」
「当たり前だろ。ソッチの方がてめえには効果抜群だからだよ」
「くそっ……」
「一歩でも怪しい行動をとってみろ。俺はそっちの小僧を撃ち続けるぜ」
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