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第一章 新たな地で

第2話 冒険者として

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「おい! しっかり運べ!」

「ったく、なんでガキなんか雇ったんだよ!」

 初めての冒険者としての仕事はポーターと言われる荷物運び。力が必要な仕事とは思っていたけど、まさかこんなに大変だとは思わなかった。

「はぁ~。5人分の荷物運ぶのにこんなに時間かかる?」

「やってられな~い。仕事にならないから賠償金よこしなさいよ」

 男性二人に続いて女性二人が声をあげる。12歳の僕が大人5人分の荷物を持てるはずもない。背負うのも大変な荷物だ。

「すまないけど、契約はなかったことにする。荷物は置いていきなさい」

「……は、はい」

 リーダーのロジールさんが契約を断ってきた。僕はうなだれながら荷物を置いて冒険者ギルドに帰ってきた。

「すみません。ダメでした」

 受付に失敗の報告をする。大きなため息をつく受付の女性、名前はヴィラさんだったかな。

「やっぱりそうですか」

 さも当たり前のように声をもらすヴィラさん。急に手を振り上げると僕の頭にポンと優しくふれる。

「あのパーティーはあまり良い噂をきかなかったので。決してシン君がダメだと分かっていたからではないですから安心してください」

「あ、ありがとうございます」

 ヴィラさんは優しく慰めてくれる。だけど、ポーターの仕事も出来ないなんて……僕はダメな冒険者だ。

「まだパーティーに入るのは早かったかもしれないですね。どうですか? 薬草採取の依頼などをされてみては?」

 ヴィラさんはそう言って依頼書を見せてくる。薬草を10個納品で銅貨20枚。銅貨1枚でリンゴが一個買えるから、僕は百円と考えている。薬草が1個二百円ってことだな。

「レベルも上げないと荷物を持つためのSTRも上がりませんし。下積みは必要だよ。どう?」

「ん~」

 荷物持ちの仕事は銀貨10枚だった。銅貨が百枚で大銅貨1枚、更に100枚で銀貨。銀貨の上が大銀貨で金貨、大金貨と上がって行く。
 荷物持ちはそれだけ大きなお金になったんだよな~。孤児院にお金もおろせたし、本当の両親を探すこともできたはずだった。
 下積みは必要なのは前世の記憶を持っているから知ってはいるんだけど、急いでしまったな。

「わかりました! やってみます!」

「うん。いい返事。じゃあ、あの木剣を持っていくといいわ。武器は持っていないでしょ? あれならタダでいいから」

 ヴィラさんは壁に立てかけられていた訓練用の木剣を指さす。
 そうか、外には魔物がいるのか。この町の周りにいる魔物はゴブリンやスライム。最弱の魔物だから初めての相手としては申し分ない。僕は木剣を握りしめる。

「ははは、子供の玩具だな」

「ぎゃはは。死ぬなよ坊主~」

 握りしめていると併設されている酒場で昼間っからお酒を飲んでいる人達にからかわれる。
 あんな大人にならないようにしないとな。

「気にしないの。あなた達は昼間っから飲みすぎよ! まったく」

「大丈夫です。じゃあ行ってきます。薬草は近くの森ですよね」

「うん、そうよ。行ってらっしゃい」

 ヴィラさんに手を振って冒険者ギルドを後にする。いつか、あのおじさん達もぎゃふんと言わせてやる。
 港町シーレイクラインを囲う城壁を出てすぐに近くの森。緑が生い茂る森は薬草も沢山なっていて魔物もそこそこ存在してる。
 魔物は空気中の魔素と言われるものが集まると生まれる。魔法もその魔素、マナとも言われているそれを使って行使することが出来る。

「【ファイアシーク】」

 ゴブリンを見つけたから魔法を放つ。【ファイアシーク】は針の形にした炎を放つ魔法。初級と言われる属性魔法だ。魔法には強さで初級、中級、上級と分かれている。更に上の極級というものがあるけど、使うには複数の人で行使しないと使えないらしい、僕には無縁だから知らなくてもいいだろう。
【ファイアシーク】を受けたゴブリンは頭が燃えていって絶命していく。
 魔物は死ぬと魔素に還る。ドロップアイテムである魔石を残してくれるのでこれを冒険者ギルドに卸せばお金に変わる。

「ゴブリンの魔石は銅貨1枚……。薬草より安くてかさばるからみんな捨てるんだよな……」

 ゴブリンの魔石でも拳程の大きさになる魔石。魔物の強さで魔石の使用方法にも変化がある、だからゴブリンの魔石じゃ燃やすくらいしか使用方法がないんだよな。鍛冶に使うような魔石になると銀貨がもらえるようになる。主に魔石は火に使うのが主流ってことかな。

「とにかく薬草を探そう」

 魔石は置いておいて薬草を探すことにした。パッと見ても2、3個薬草が見える。簡単に終わりそうだな。

「またゴブリンだ。まったく、この世界のGは……【ファイアシーク】」

 ため息をつきながらゴブリンにファイアシークを撃ち込む。魔法が使えると簡単に魔物を狩れるんだな。初めての狩りだから少し不安だったけど、こんなに簡単ならもっと早く外に来ればよかった。シスターエリナに止められていただろうけど。

「レベルが上がりました」

「え? ああ、レベルが上がると天の声が聞こえるのか!」

 ゴブリンを倒すとシステム音声のような声が聞こえてくる。脳内に直接流れてくる声。初めてのことだから驚いていると目の前にステータスが現れる。パソコンのウィンドウみたいだな。


 シュン 12歳

 レベル 2

 HP 20
 MP 15
 
 STR 5
 VIT 4 
 DEX 6 
 AGI 7
 INT 7
 MND 7 

 スキル 【グミ】

 ファイアシークを使うのにMPを3使っていたから5発使えるようになったな。レベルがすべての世界だから魔法を使っていても訓練にならなかったけど、レベルが上がってしまえば出来ることは増えてく。これはもっと早く外に出るべきだったな。

「スキル【グミ】を行使できるようになりました。使用しますか?」

「え? ああ、そう言えば僕のスキルはグミだったんだっけ」

 レアリティレッドのスキル【グミ】そのせいで人攫いにあって両親から離れて暮らしていたんだよな。12年も経っていたから忘れてた。でも、グミって何が出来るんだ?

「グミの意味も知りたいしやってみるか。スキル【グミ】を使用」

 グミのスキルを使ってみる。行使するには声に出さないといけない。これは魔法と一緒だな。

「MP10を使ってヒールグミ五つ作る? さっき魔法で使った分は回復してるから大丈夫か。ヒールってことは回復魔法のヒールのことかな? ってことはHPが回復するグミが出来るってことかな?」

 MP10は結構使うけど、5分もしたら回復する量だ。作ってみるべきだな。

「ヒールグミを生成。うっ、結構クラッとするな」

 MPを1使う火をつけるだけの魔法【ファイア】や3使うファイアシークしか使ったことがないから10減ると凄く体がだるくなる。MPが枯渇すると気を失っちゃうって言うし、気をつけないとな。

「これは僕のMPかな。光の粒が体から出てきた」

 光の粒が五つの塊になって行く。典型的なフルーツグミの形状になって行く。リンゴ味かな? 赤くて美味しそうだ。

「美味しそう。この世界に来てからお菓子なんてハチミツ菓子くらいだったからな。五つもあるし、食べちゃお」

 一粒口に放り込む。思った通り、リンゴの味のするフルーツグミだ。前世以来の味に感動。はぁ~またこれがたべられるのか~、嬉しいな~。

「はぁ~美味し~。え!? な、なんだこれ……」

 美味しさに驚いていると体が軽くなってくる。

「オーバーヒールってやつかな? 筋肉が盛り上がってきた」

 回復魔法を見た時に僧侶の人が言っていた。HPが減っていないときに回復魔法を多用するとHPの上限が増える現象が起きる。あまりやり過ぎると体に悪いから推奨されていないっていってたっけ。

「ってことは? ステータス」

 ステータスを確認しようと開くと驚きの結果が目の前に広がった。


 シュン 12歳

 レベル 2

 HP 220
 MP 15
 
 STR 5
 VIT 4 
 DEX 6 
 AGI 7
 INT 7
 MND 7 

 スキル 【グミ】

 流石に上がりすぎだよ! と心の中で呟いて目を閉じた。ちゃんと回復をするときはダメージを受けた時に、僕はこれを胸に刻んで薬草を採取していく。グミはあと四個か。シスターエリナにもあげたいけど、手軽に食べられるものじゃないからな……。
 はぁ~もっと手軽に食べたい……。
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