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第一章 新たな地で

第10話 変わりつつある日常

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「おはようシン」

「おはようエリナさん」

 黒い魔物と戦った次の日。孤児院で目を覚ますとエリナさんが朝食を用意してくれていた。

「シスターエリナ~。今日の朝食豪華~」

「昨日の夕食も豪華だったけど、何かいいことあったの~?」

 朝食が並べられていると机を見て子供達が声をあげる。昨日の夜もお肉が並んでいて豪華な夕食だったな~。

「ふふふ、シンお兄ちゃんのおかげよみんな。お礼を言ってね」

「そうなの~? シンお兄ちゃんありがと~」

 エリナさんが僕を見て話すと子供達が抱き着いてくる。お金に余裕が出来たからエリナさんにお金を渡したんだよな~。

「はは、作ってくれたエリナさんにもお礼を言うんだよ」

「うん! シスターエリナ。いつも美味しい料理を作ってくれてありがと!」

「ふふ、どういたしまして。じゃあ、食べましょ」

 僕が答えると子供達がエリナさんに抱き着いていく。彼女の料理は本当に美味しい。ジャガイモとミルクしかなかったのに美味しいシチューが出てきた時はびっくりしたものだ。

「お肉美味し~」

「そうね~。オークさんのお肉よ。奮発しちゃった」

 子供の声に答えるエリナさん。オークの肉は確か銀貨一枚程のものだったかな。前世の世界だと100万円のお肉ってことだ。……そう思うとフォークが止まる。

「どうしたのシン? 美味しくなかった?」

「あ、いや。ちょっと考え事をしてて」

 止まっているとエリナさんが心配してくれる。

「……グスコーさんのこと?」

「え? グスコー?」

 グスコーのことはエリナさんにも言っておいたけど。

「グスコーさんがシンを狙ってきたんでしょ? それで命を失った。優しいシンはそんな人でも死んでしまったら悲しんでると思って」

 エリナさんは悲しい表情になって話す。僕はそんなに優しくないけど、彼女は心を痛めているみたいだ。
 僕のことを優しいというけど、彼女ほどじゃない。
 エリナさんの方がグスコーと話すことが多かったはずだ。綺麗なエリナさんにグスコー達が求めることはだいたい決まっている。そんな奴らの心配もしてしまう。本当にいい人だな。
 
「僕はそんなに優しくないよ、エリナさん。そんなことよりも料理美味しいですよ」

「シン。ありがとう」

「はは、おかしなエリナさんだな。お礼を言うのは僕の方ですよ」

 ここまで育ててくれたエリナさんには感謝しかない。

「じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい、シン」

「シンお兄ちゃん行ってらっしゃ~い」

 朝食を終えて冒険者ギルドへ向かう。お金の心配はなくなったから冒険者で有名になって、本当の両親と再会する。
 冒険者ギルドは大きな町に必ずある施設。商人ギルドもそうだからセインさんにも調べてもらう予定だ。

「おはようございますヴィラさん」

「おはようシン君」

 冒険者ギルドについてヴィラさんの受付に座って挨拶をする。すると彼女はにこやかな笑顔で、報告をしたわけでもないのに革袋を受付に出し始める。

「はい、ブラックゴブリンの報酬」

「え?」

「【魔剣】の人達が持ってきてくれたのよ」

 そうか、僕が拾ってこなかったからあの人達がもって来てくれたのか。結構良い人たちなのかな。

「【魔剣】はプラチナの冒険者の【クラン】よ。シン君を仲間に迎えたいって言われたわ。何があったの?」

「え? えっと、ははは、まあ色々」

 ブラックゴブリンを4体倒したなんて言ったら大変なことになっちゃうな。魔剣の人達がグスコーの依頼で僕を狙ったことも言わない方がいいかな?

「やあ! シン君。昨日はすまなかったな」

「あ、えっと? エッジさんでしたっけ」

「覚えてくれたか! よかった」

 エッジさんが声をかけてくる。魔法使いなのに体育会系の接し方をしてくる。凄い嬉しそうに肩に手を置いてきた。距離の詰め方がエグイ。

「ヴィラ君。あまり昨日のことは聞かないでくれよ。グスコーの件もあるのだから」

「分かっていますが。ですが大丈夫なのですか? 依頼中に依頼主が死んでしまうなんて、魔剣に批判が集まるんじゃ?」

 エッジさんの言葉にヴィラさんが指摘する。彼女はエッジさんのことも心配してるのかな。

「そうだな。だが、奴は依頼料を後払いにしていた。冒険者の世界じゃ、後払いなど言語道断。貴族達からは批判されるだろうが、冒険者の世界じゃ批判はこないわけだ」

 ニカっと笑って僕の顔を覗いてくるエッジさん。心配させないように強がっているように見えるな。

「まあ、ギルドからすると指名依頼でも普通の依頼でも後払いにしてほしいんだけどね。指名依頼の場合は命がかかる依頼が多いのはわかるけれど」

 ヴィラさんが頬杖をついて話す。指名依頼だと前払いが普通なのか。それをしなかったグスコーは守る対象にならないっていうのが普通の冒険者の考えなのか。お金ってどこでも命くらい大事なものなんだな。それだけで命運が決まっちゃう。

「それにしてもシン君は凄いね。ブラックゴブリンを1体倒しちゃうなんて」

「え? 1体?」

 ヴィラさんが褒めてくれたんだけど、数があってない。僕はエッジさんに視線を向けた。

「シン君。いいかい?」

「はぁ?」

 視線を向けると耳元で話していいかと合図を見せる。僕は怪訝な表情で頷いた。

「誤解しないでくれシン君。さっきの革袋に入っていた銀貨は4体の魔石の金額だ。あのブラックゴブリンは強すぎた。君が全部倒したとなったら大変なことになるんだよ」

「そうなんですか?」

「ああ、信用できないのは分かるよ。だが信じてくれ」

 エッジさんは話し終わると頭を下げてきた。その行動を見て併設されている酒場が騒がしくなった。

「え、エッジさん分かりました。頭をあげてください」

「ありがとうシン君」

 これ以上目立つのは良くない。早く話を終わらせないと。でも、時すでに遅し。僕を最初に雇ったロジールのパーティーが近づいてきた。

「どういうことだこれは? なぜ魔剣がシン君に謝っているんだ?」

 ロジールさん達は信じられないものを見るかのような表情で話してくる。

「ん? シン君を知っているのかロジール?」

「ああ、荷物持ちで雇って足並みが揃えられなくてクビにしたんだ」

「荷物持ち? ははは、見る目がないなロジール」

 ピキッという音がするほど空気が変わる。二人の会話は普通だと思う。二人は笑って話しているけど、時々言葉の棘が目立つ。

「見る目がない? それは俺に言っているのか?」

「ああ、そうだが? 目だけじゃなくて耳も悪いのか?」

 さっきまで隠していた嫌みな会話がどんどん表に出てきている。これはこの場にいるととばっちりをうけそうだ。

「ヴィラさん。ゴブリン退治の依頼を受けます」

「え? もう行くの? 二人の決着を見なくていいの?」

「はい。このままいるととばっちりをうけそうなので」

 依頼を受けて逃げる。そう思ってヴィラさんに声をかける。彼女は二人の言い合いの決着が楽しみみたいでワクワクしている様子。僕はそれを気にせずに依頼書を受け取ると席を立つ。

「よし分かった! シン君の凄さをお前達に見せてやる」

「え? エッジさん何言ってるの?」

 僕は中腰の姿勢のまま思考が止まる。
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