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第一章 新たな地で

第17話 新しい力

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 シャドウさんのところに行く口実の為に冒険者ギルドでゴブリンの依頼を受けに行くことにした。冒険者ギルドに入るとなぜが人垣ができていて
、僕が来るとみんなが視線を向けてきた。

「シン! 待っていたぞ!」

「ロジールさん? どうしたんですか?」

 人垣からロジールさんが出てきて声をかけてきた。何があったのかわからずに声をあげるとエッジさんも出てきた。

「近くの森で魔物が変異しているようなんだ」

「昨日、シンが倒したオークのように腕が黒くなっている個体だよ」

 エッジさんとロジールさんが説明してくれた。黒い個体はシャドウさんの魔物のはず。だけど、彼の魔物はゴブリンだけのはずだ。あれ以外に確認されているとしたらシャドウさんに相談しないと。

「恥ずかしい話だが、私達では勝てない個体が多い。シンにも同行してほしいんだが」

「ええ!? いや、ちょっと待ってください。プラチナのロジールさんとエッジさん達で勝てないんですか?」

 ロジールさんが恥ずかしそうに頭を掻きながら話す。確かに昨日のオークとの戦いは僕がいなかったら危なかったかもしれない。だけど、倒せない程じゃなかったはずだ。
 魔法を使える人が二人もいるパーティーだしね。【ファイアドゥーク】を使えるエッジさんは勝てるはずだ。僕の手を借りなくてもロジールさんとエッジさんが組めば勝てると思うけどな。
 シャドウさんのことがバレると騒ぎになりそうだ。ここは僕が解決するって言って一人で行くか。

「僕が解決します。なので報告を待ってもらっていいですか?」

「一人でかい?」

「はい」

 僕の提案を聞いてみんな唖然としてる。みんな静かになると静寂が冒険者ギルドを支配した。

「……がはは、こりゃ面白い!」

 静寂を破ったのはゲハルドだった。ズカズカと近づいてきて僕の両肩を掴んできた。

「気に入ったぜ! シン。その男気、そうそう持てるもんじゃねえ!」

「げ、ゲハルドさん?」

 興奮した様子のゲハルドさん。昨日までの下衆な表情とは違う、まるでお酒を飲んでいるように楽しそうに話してる。

「よし! 俺も一緒に行くぜ。もちろん、お前を金づるにする話はなしだ!」

「……金づるにしようとしてたんだ」

「ガハハハ」

 豪快に笑ってごまかすゲハルドさん。悪い人だけど、悪い人じゃないのかもしれない。……僕はなにを言ってるんだ?
 でも、シャドウさんのところに行かないといけないから一人でやらないとな。

「ゲハルドさん。僕は一人で大丈夫です。心遣いありがたいんですけど」

「本当に一人で行くつもりなのかよ。本当にすげぇな。プラチナのパーティーが拒否するような魔物達なのによ」

「はい」

 真っすぐゲハルドさんの目を見つめて話す。すると諦めてくれたみたいで併設されている酒場に戻って行く。

「じゃあ、早速行ってきます」

「ほ、本当に大丈夫なのか?」

「はい。大丈夫です。では」

 心配するロジールさん。僕はそそくさと冒険者ギルドを後にした。

「ん? あ~シン君!」

「え? イチリさん。どうしたんですか」

 冒険者ギルドを出るとイチリさんが外で待っていた。そういえば、紫炎のお礼を言えてなかったな。

「グスコーが死んだって聞いてね。それで刀のことを思い出して」

「すみません。少し忙しくて、イチリさんの元に行けなくて」

 グスコーが死んだから、刀の宣伝も出来なくなってしまったんだよな。

「いやいや、それはいいんだよ。刀のことを聞きに来た人は結構いたからね。宣伝にはなっていると思うから。そんなことよりも紫炎だっけ? その刀を見たいんだけどいいかな? 店はすぐそこなんだが」

「はい。少し酷使してしまったので丁度いいです」

 結構無茶な使い方をしていたから調整してもらえるとありがたい。

「ようこそ、イチリの鍛冶屋へ」

「わぁ~」

 イチリさんの鍛冶屋に入ると壁いっぱいに刀が飾られている。いくらか売れている様子で値札だけが置かれている棚が見える。
 三つ又の槍もあるのを見ると思わず感動してしまう。やっぱりカッコいいな~。買おうかな。

「気に入ったかい? 買ってもらえると嬉しいが」

「カッコいいです。買いたいですけど、僕は身長が低いから……」

 背中に背負ったら石突きが地面についちゃうよ。

「ははは、残念だ。さて、紫炎を見せてくれるかい?」

「はい」

 イチリさんに言われて紫炎を手渡す。鞘から紫炎を引き抜くと打ち子を布で一度ふき取って打粉をポンポンと打ち付ける。

「20体くらいの魔物を倒しているね。それなのに刃こぼれ一つしていない。ん? 硬いものも切ったかい?」

「そんなことまでわかるんですか? 確かにこの間地面を切りつけました」

「ははは、見かけによらず乱暴な戦い方をするんだね」

「すみません……」

「いやいや、怒ってるんじゃないんだよ。でも嬉しいな」

 イチリさんはそう言って紫炎を鞘にしまう。

「そんな使い方をしても刃こぼれしない程凄い武器になってる。やっぱり間違いじゃなかったんだな」

 イチリさんは感慨深げに壁に飾られている武器を眺めながら呟く。どれも業物と言える美麗な武器達。彼は間違いなく一流の鍛冶屋だろうな。

「ありがとうシン君。これからも紫炎をよろしく。あっ! そうだ」

「イチリさん?」

 お礼を言うイチリさん。奥の部屋に入って行くとすぐに帰ってきて、布包みを手渡してきた。

「これは?」

「オリジナルの刀だよ。これを元に紫炎を作ったんだ。えっと、名前は確か【水龍】だったかな」

「【水龍】……」

 布包みをほどいて刀を取り出す。紫炎と同じくらいの刃渡りの刀。鞘から取り出すと青い光を身に纏った波が切っ先まで昇っているのが見えた。
 素人の僕が見てもわかる、これは間違いなく【大業物】だ。

「シン君に使ってほしい」

「ええ!? こ、こんな高価な物を?」

「ああ」

「で、でも、イチリさんに得がないじゃないですか?」

 タダでもらうなんてイチリさんに悪い。

「そうだね。じゃあ、金貨でどうだい?」

「じゃ、じゃあ。それで」

 金貨を1枚手渡す。こんな凄い刀を金貨1枚でもらえるなんて思わなかった。

「シン君には感謝してるんだ。君が使ってくれてから少しずつ周知されるようになってね。いくつか刀が売れたんだよ」

 嬉しそうに話すイチリさんの目には涙が浮かんでいた。それほど嬉しかったってことか。なんか僕も嬉しいな。

「引き止めて悪かったねシン君。用事はこれで終わりだ。更に凄い刀を打つよ!」

「はい! 頑張ってください!」

 力こぶを見せるイチリさんを応援して彼の鍛冶屋を後にした。紫炎も十分凄い刀だ。それを超える刀を作るのは至難の業だろ思う。水龍はどれほどの切れ味があるんだろう。早く試したいな。
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