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第一章 新たな地で

第25話 見覚えのある男

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「シャドウさん。シュブラナ帝国を知っていますか?」

「ん? 人族の国だろ? 急になんだ?」

 シャドウさんにエッジさんに聞いた話を説明する。

「ほ~、そんな話になっているのか」

 僕の話を聞いて顎に手を当てて考え込むシャドウさん。少し悩むと奥の魔族領への道に入って行く。

「シン、ついてきてくれ」

「はい」

 シャドウさんは一度僕に振り返って声をあげる。魔族領で戦争なんてさせるわけにいかないもんな。

「帝国からの嫌がらせは確かに増えていたな。王国からの嫌がらせもあったが、比にならないほどだ。兄も頭を悩ませていたな」

「兄って?」

「私の兄は優秀でな。父の跡を継いで魔王をやっているんだ」

「そ、そういえば、王族でしたね」

 魔族領への通路を通りながらシャドウさんの話を聞く。すると、なんだか声が聞こえてくる。

『き……ま…か』

「え? シャドウさん何か言いました?」

「いや、私の声じゃない」

 聞こえてきた声に足を止める。再度、耳をすませてみるけど、新たに声は聞こえてこない。

「気のせい?」

「いや、確かに聞こえたが……まあいい、今は帝国だ」

 確かに声は聞こえたよな~。
 そう思いながら歩き出したシャドウさんについていく。

「何度通っても不思議な通路ですね」

「ああ、そうだな。海を渡っているとは思えない距離だ」

 湿り気の強い通路を渡るだけで海を渡った先につく。この洞窟は本当にどうなってるんだろう?

「シーグリアの港町は何事もないか? ん? 軍艦が来ている?」

「あっ! 本当だ! あの旗は帝国?」

 少し小高い丘から港町を見たシャドウさんが声をあげる。一緒に海を見ると軍艦が一隻近づいてくるのが見えた。

「攻撃ではないみたいだが、貿易船ではないな。行くか」

「はい」

 シャドウさんに促されて港町に向かう。
 人族の町と一緒で城壁に囲まれている港町シーグリア。城門から入る時、冒険者の腕章で簡単に入れた。冒険者って便利だな。シャドウさんと一緒に居たって言うのもあると思うけど。

「わ~、魔族って言っても色んな人がいるんですね」

 港町シーグリアに入ると色んな魔族の人がいた。角を生やしている人や、肌の色が紫やピンクの人。目が沢山ある人もいて、なんか楽しい。

「ははは、砦を直した村に行ったのにまだ珍しいのか?」

「はい、あの村の人達は僕とあんまり変わらなかったので」

 レッド達が直した村に住んでいた人達は人族に近い人たちだった。角もないし、肌の色は褐色や白かった。この港町の人達はかなり違うから楽しい。

「海の方へ行くぞ」

「あっ、はい」

 興味津々で働く人たちを見ているとシャドウさんが歩き出す。市場を通って倉庫街を通る。すると目の前に大きな船着き場が現れた。

「あれか、マルグリアの兵は来ていないな。不用心だな」

 軍艦が船着き場に停泊している。シャドウさんのいう通り兵士達がいない。普通に帝国の兵士達が上陸してる。

「ふむ、ここが魔族領のシーグリアか。臭いな」

 帝国の先頭を歩く人が声をあげる。周りに魔族の人達もいるのにわざわざ聞こえる声で言ってるな。

「なるほど、戦争の種を作りに来たか」

「え?」

「あの馬鹿を誰かが襲うと戦争になるというわけだよ」

 一瞬で意図をくみ取るシャドウさん。そう言っている間にも兵士達は前進していく。そして、一つの道に広がっていた別の船の積み荷を足蹴にし始める。

「エラルドン男爵様のお通りだ! 道を開けろ!」

「!? な! 何しやがる!」

 別の船の船員と言い合いになる帝国兵。狙い通りといった様子で男爵が笑みを浮かべた。

「流石は魔族だ。その汚らしい肌の通り、荒々しい性格よの~。道に積み荷を広げるのが悪いのだろう」

「あ? 十分人が通れる幅は取ってるだろ! それにこれは商品なんだ。足蹴にするんじゃねえ!」

 エラルドンの声に声を荒らげる船員。その声で野次馬が集まってくる。野次馬はもちろん魔族、全員男爵を睨み始める。

「魔族の本性がでたな! 私に何かあると戦争だぞ! いいのか~?」

 エラルドンはそう言って積み荷のリンゴのような果実に口をつける。もちろん、お金を払わない。

「金は払え!」

「ん~? 魔族が金勘定など出来るのか?」

 リンゴの持ち主が声をあげるけれど、エラルドンはシャリシャリと音を立てて果実を食べるだけ。どうしようもない人だ。

「ちょっと通してくれ」

「シャドウさん!」

 野次馬をかき分けてシャドウさんがエラルドンの前に立った。僕もついていくとやつが睨みつけてくる。

「ん~、そこの魔族。何のようだ? 普通の魔族とは違う様子だな」

「いや、普通の魔族さ。ただ王族の血を引いているだけのね」

「なに!? 王族~!?」

 シャドウさんを睨みつけていたエラルドン。彼の言葉を聞くとエラルドンはたじろいでいく。

「男爵と王族、どちらが上かはご存じだろ?」

「ぐぬぬ。……王族がわざわざ前線に出てくるとはな。これは僥倖! 者ども! この者を捉えよ。そして、ほりょにするのだ」

「ふん、本性を出したのはどちらだか!」

 エラルドンの声で兵士達が武器を構えた。野次馬達もいるって言うのに戦闘をするつもりなのか。なんて馬鹿なんだ。

「やらせるか!」

 僕は紫炎と水龍を逆刃に持ち兵士達の胴を叩き気絶させていく。シャドウさんも影の魔法を使って動きを封じて行く。

「手加減も大変なんですよ」

「なっ!? ど、どういうことだ! 私の兵士達はプラチナランクの冒険者よりも強いはずだというのに!」

 兵士達を戦闘不能にして声をあげるとエラルドンが驚愕して腰を抜かした。
 これでプラチナ? エッジさん達の方が全然強いけどな。もしかして僕は強くなってた? 思ってみれば、黒い魔物との戦闘でレベルアップしていたかもしれない。無我夢中で気づかなかった。

「終わりだ。尻尾撒いて帰るがいい」

「ぐぬぬ、これでおしまいだと思うな! 先生! 先生お願いします!」

 シャドウさんの声に悔しそうに声をもらしたエラルドン。やつが自分の軍艦に向かって声をあげると黒い全身鎧の兵士が飛び降りてきた。フルフェイスの兜で性別は分からないけれど、あの高さから降りてくるってことは相当強いだろう。

『俺はどっちとやればいいんだ?』

 フルフェイスで籠る声をあげて、エラルドンに顔を向ける。声からして男か。

「魔族は殺すな。小僧を見せしめにしてやれ!」

『わかった』

「!?」

 エラルドンの指示に従ってすぐに僕へと大剣を振り下ろしてきた。紙一重で躱すと僕よりも大きな大剣が引き抜かれていく。

『悪く思うな。これも俺の仕事なんでな』

「やな仕事だね」

『まったくだ!』

「!?」

 引き抜いた大剣を肩に担ぐ全身鎧の男。いやいややっている割には声が弾んでいる。この人は戦闘が好きな人なんだな。
 声と同時に大剣を再度振り落としてくる。あんな大きな大剣を振り回せる膂力。凄いな。
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