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第二章 不思議な洞窟
第31話 光の女神
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「ふぅ、それにしても大変だったね」
洞窟に入って声をもらす。マールちゃんに不思議な力があるからって人柱にしようとしてきたり、直接手を下してきたり、酷いところだった。
まだまだ差別の激しい国なのかな。
「魔族である私もいたしな。仕方のないことだ。王国はすぐに私を受け入れてくれた。おもえば王国はいい国なのかもしれないな。シーレイクラインが特別なのかもしれんが」
シャドウさんがシーレイクラインの町を褒めてくれる。なんだか嬉しいな。僕もシーレイクラインは好きだから。
「こんな洞窟、昔はなかった。いつの間に?」
「そうなんですか? ルーブナさん」
「はい、私はあの村、ムザイクで育ったのですが私の若い頃はなかったと思います」
やっぱり、この不思議洞窟は最近生まれたものってことか。
「マールちゃん、ルーブナさん。オルデーナ王国に住むことになるんですけど、大丈夫ですか?」
「え? オルデーナ王国ですか? この先にはオルデーナ王国があるんですか?」
僕の言葉を聞いてマールちゃんが驚いて声をあげる。そういえば、マールちゃんは外には出てないんだよな。日が傾くくらい遠い地域、驚くのも無理はない。
「信じられないと思うけどね」
「シン様はやはり、神のいとし子なのですね」
「そう言うわけじゃないと思うけど」
ルーブナさんがキラキラした瞳で僕に祈りを捧げてくる。神様か……もしかしたらこの洞窟は神様が作ったのかもしれないな。
「では行くか」
シャドウさんが声をあげてオルデーナ王国への通路を進む。二又に分かれている通路、真っすぐ行くと魔族領。左の通路に入る。
『聞こえますか?』
「え? シャドウさん何か言いました?」
「む? 私は何も。いや、シンにも聞こえたか?」
二又の通路を曲がると声が聞こえてきた。綺麗な女性の声、僕はマールちゃんとルーブナさんに視線を向けるけど、二人は首を横に振った。
「私も聞こえました。『聞こえますか?』って」
マールちゃんがそう言って辺りを見回す。
「そうか。では幻聴ではないんだな……」
「前にもこんなことありましたね。やっぱりこの不思議洞窟は何かありますね」
今回みたいにハッキリと聞こえなかった言葉だったけど、今回聞こえた言葉と同じ内容に感じる。
「聞こえますか? か。聞こえているぞ! 誰だ?」
シャドウさんが声をあげる。すると光が円形を描き、光の中に女性が現れた。
「あなたは?」
『私は光の女神ティアラ』
僕の問いかけに答えるティアラさん。本当に神様がやってきた?
「……その女神が何の用だ?」
『警戒するのも分かりますよシャドウさん。ですがあなた方をこの洞窟に導いたのは私なのです。ご理解ください』
シャドウさんが怪訝な表情で聞くとティアラさんが微笑んで答えた。
「導いた? それならなぜすぐに説明しなかった?」
『神界から声を届けるにはあなた方の力が弱すぎたのです。前回、声をかけたのですが聞こえていなかったですよね。姿を映すにも私だけの力ではできなかったのです』
「……私達の力が足りなかったということか? 嫌みか?」
シャドウさんの疑問に答えるティアラさん。なんだか棘がある言い方をしてくる女神様だな。
『すみません。シャドウさんが怒るものだからつい』
「はぁ?」
『コホンッ! 冗談はさておき』
ティアラさんは少しおかしな女神様みたいだ。
『”シュン”様、シャドウ様、マール様。三人が揃ったことで神界とのつながりが強くなったのです』
「な、なんで僕の本当の名前を?」
『私は女神です。レアリティーの高いあなた方のことは見ることが出来るのです。見ることしかできないのがとても歯がゆかったですが』
ティアラさんは悲しそうに僕の疑問に答えた。
「シン様。本当の名って?」
「……みんなには言うよ。僕はシュブラナ帝国で生まれたんだ。そこで僕のレアリティが【レッド】と認定されると人攫いが僕を攫った。そして、海を越えて僕は、オルデーナ王国のシーレイクラインの町に……」
本当のことを伝えるとみんな考え込んで俯いてしまう。マールちゃんは泣き出してしまった。
「シン様はそんな過去があるのにこんなに優しくしてくれる。本当にシン様は」
マールちゃんがそう言って抱き着いてくる。泣きすぎて言葉が出なくなっちゃってる。
「生きていればまた会える。敵としてと言うのが何とも言えないがな」
「シュブラナ帝国は人族至上主義だものね」
シャドウさんの声にルーブナさんが付け加えた。はぁ、本当に困っちゃうよね。
「で? なんで姿を見せたんだティアラ」
『あら? もう呼び捨て? 流石は”魔王”ね』
「「魔王!?」」
怪訝な表情でティアラさんに声をかけるシャドウさん。それに答えるように彼女が強調して話すとマールちゃんとルーブナさんが驚いて目をパチクリさせる。
「血筋なだけだ。魔王は兄だ」
『あらあら、嘘はいけないわ。本当の魔王はあなたでしょシャドウ』
「……」
シャドウさんの話を否定するティアラさん。無言は肯定。彼が本当の継承者だったのか。どおりで魔物を作るなんてとんでも能力だと思った。僕はひとのこといえないけど。
「その話はどうでもいい。本題に入れ!」
シャドウさんは腕を組んで話を逸らす。その様子を見てティアラさんはため息をつくと話し始めた。
『シュブラナ帝国がある実験を始めています。それはすでにシュン君とシャドウが見たものです』
「それってお父さん?」
『はい、人に魔物の因子を結合させる実験です』
人と魔物の結合? なんか危ない雰囲気だな。
「キメラと言われる魔物同士の合成と変わらないじゃないか? そのくらいなら私達魔族も」
『いいえ、キメラは合体させて一つの命に変えて新たに生む行為。帝国がやっているのは複数の命を一つの器に入れているの。ステータスを二つ持っているってこと』
「ん? 危険とは思えないが?」
シャドウさんが説明されても首を傾げる。僕らは全然わからない。頭が痛くなってくる。
『あなた達もステータスをもっているでしょ? ステータスはその人の存在する証明書になっているの。それを複数持つ存在を作っている。とても危険な行為。すぐに辞めさせないと、この星の存続に関わる。もしかしたらその人が特異点となり、次元の狭間が生まれてブラックホールが』
「ええ!? ブラックホール!?」
ティアラさんの説明で僕だけが声をあげる。今度は僕以外が分からない状態。そんなことになったらこの星やそれ以外もなくなっちゃうんじゃ?
『心配しないでそうなるのにも時間が必要だから。私の予想では一年以上の猶予があるわ。まずはあなたのお父様を説得してこちらに引き入れましょう。そうすれば、百人力よ』
「はい!」
『うん、いい返事。あっ!? もう時間だわ。また力が安定したら話したいから通路に三人で来てね。その通路じゃないと私と交信できないから。お願いね』
ティアラさんはガッツポーズで話す。僕も元気に答えると彼女の姿が途切れ途切れになって消えていった。
洞窟に入って声をもらす。マールちゃんに不思議な力があるからって人柱にしようとしてきたり、直接手を下してきたり、酷いところだった。
まだまだ差別の激しい国なのかな。
「魔族である私もいたしな。仕方のないことだ。王国はすぐに私を受け入れてくれた。おもえば王国はいい国なのかもしれないな。シーレイクラインが特別なのかもしれんが」
シャドウさんがシーレイクラインの町を褒めてくれる。なんだか嬉しいな。僕もシーレイクラインは好きだから。
「こんな洞窟、昔はなかった。いつの間に?」
「そうなんですか? ルーブナさん」
「はい、私はあの村、ムザイクで育ったのですが私の若い頃はなかったと思います」
やっぱり、この不思議洞窟は最近生まれたものってことか。
「マールちゃん、ルーブナさん。オルデーナ王国に住むことになるんですけど、大丈夫ですか?」
「え? オルデーナ王国ですか? この先にはオルデーナ王国があるんですか?」
僕の言葉を聞いてマールちゃんが驚いて声をあげる。そういえば、マールちゃんは外には出てないんだよな。日が傾くくらい遠い地域、驚くのも無理はない。
「信じられないと思うけどね」
「シン様はやはり、神のいとし子なのですね」
「そう言うわけじゃないと思うけど」
ルーブナさんがキラキラした瞳で僕に祈りを捧げてくる。神様か……もしかしたらこの洞窟は神様が作ったのかもしれないな。
「では行くか」
シャドウさんが声をあげてオルデーナ王国への通路を進む。二又に分かれている通路、真っすぐ行くと魔族領。左の通路に入る。
『聞こえますか?』
「え? シャドウさん何か言いました?」
「む? 私は何も。いや、シンにも聞こえたか?」
二又の通路を曲がると声が聞こえてきた。綺麗な女性の声、僕はマールちゃんとルーブナさんに視線を向けるけど、二人は首を横に振った。
「私も聞こえました。『聞こえますか?』って」
マールちゃんがそう言って辺りを見回す。
「そうか。では幻聴ではないんだな……」
「前にもこんなことありましたね。やっぱりこの不思議洞窟は何かありますね」
今回みたいにハッキリと聞こえなかった言葉だったけど、今回聞こえた言葉と同じ内容に感じる。
「聞こえますか? か。聞こえているぞ! 誰だ?」
シャドウさんが声をあげる。すると光が円形を描き、光の中に女性が現れた。
「あなたは?」
『私は光の女神ティアラ』
僕の問いかけに答えるティアラさん。本当に神様がやってきた?
「……その女神が何の用だ?」
『警戒するのも分かりますよシャドウさん。ですがあなた方をこの洞窟に導いたのは私なのです。ご理解ください』
シャドウさんが怪訝な表情で聞くとティアラさんが微笑んで答えた。
「導いた? それならなぜすぐに説明しなかった?」
『神界から声を届けるにはあなた方の力が弱すぎたのです。前回、声をかけたのですが聞こえていなかったですよね。姿を映すにも私だけの力ではできなかったのです』
「……私達の力が足りなかったということか? 嫌みか?」
シャドウさんの疑問に答えるティアラさん。なんだか棘がある言い方をしてくる女神様だな。
『すみません。シャドウさんが怒るものだからつい』
「はぁ?」
『コホンッ! 冗談はさておき』
ティアラさんは少しおかしな女神様みたいだ。
『”シュン”様、シャドウ様、マール様。三人が揃ったことで神界とのつながりが強くなったのです』
「な、なんで僕の本当の名前を?」
『私は女神です。レアリティーの高いあなた方のことは見ることが出来るのです。見ることしかできないのがとても歯がゆかったですが』
ティアラさんは悲しそうに僕の疑問に答えた。
「シン様。本当の名って?」
「……みんなには言うよ。僕はシュブラナ帝国で生まれたんだ。そこで僕のレアリティが【レッド】と認定されると人攫いが僕を攫った。そして、海を越えて僕は、オルデーナ王国のシーレイクラインの町に……」
本当のことを伝えるとみんな考え込んで俯いてしまう。マールちゃんは泣き出してしまった。
「シン様はそんな過去があるのにこんなに優しくしてくれる。本当にシン様は」
マールちゃんがそう言って抱き着いてくる。泣きすぎて言葉が出なくなっちゃってる。
「生きていればまた会える。敵としてと言うのが何とも言えないがな」
「シュブラナ帝国は人族至上主義だものね」
シャドウさんの声にルーブナさんが付け加えた。はぁ、本当に困っちゃうよね。
「で? なんで姿を見せたんだティアラ」
『あら? もう呼び捨て? 流石は”魔王”ね』
「「魔王!?」」
怪訝な表情でティアラさんに声をかけるシャドウさん。それに答えるように彼女が強調して話すとマールちゃんとルーブナさんが驚いて目をパチクリさせる。
「血筋なだけだ。魔王は兄だ」
『あらあら、嘘はいけないわ。本当の魔王はあなたでしょシャドウ』
「……」
シャドウさんの話を否定するティアラさん。無言は肯定。彼が本当の継承者だったのか。どおりで魔物を作るなんてとんでも能力だと思った。僕はひとのこといえないけど。
「その話はどうでもいい。本題に入れ!」
シャドウさんは腕を組んで話を逸らす。その様子を見てティアラさんはため息をつくと話し始めた。
『シュブラナ帝国がある実験を始めています。それはすでにシュン君とシャドウが見たものです』
「それってお父さん?」
『はい、人に魔物の因子を結合させる実験です』
人と魔物の結合? なんか危ない雰囲気だな。
「キメラと言われる魔物同士の合成と変わらないじゃないか? そのくらいなら私達魔族も」
『いいえ、キメラは合体させて一つの命に変えて新たに生む行為。帝国がやっているのは複数の命を一つの器に入れているの。ステータスを二つ持っているってこと』
「ん? 危険とは思えないが?」
シャドウさんが説明されても首を傾げる。僕らは全然わからない。頭が痛くなってくる。
『あなた達もステータスをもっているでしょ? ステータスはその人の存在する証明書になっているの。それを複数持つ存在を作っている。とても危険な行為。すぐに辞めさせないと、この星の存続に関わる。もしかしたらその人が特異点となり、次元の狭間が生まれてブラックホールが』
「ええ!? ブラックホール!?」
ティアラさんの説明で僕だけが声をあげる。今度は僕以外が分からない状態。そんなことになったらこの星やそれ以外もなくなっちゃうんじゃ?
『心配しないでそうなるのにも時間が必要だから。私の予想では一年以上の猶予があるわ。まずはあなたのお父様を説得してこちらに引き入れましょう。そうすれば、百人力よ』
「はい!」
『うん、いい返事。あっ!? もう時間だわ。また力が安定したら話したいから通路に三人で来てね。その通路じゃないと私と交信できないから。お願いね』
ティアラさんはガッツポーズで話す。僕も元気に答えると彼女の姿が途切れ途切れになって消えていった。
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