【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!

カムイイムカ(神威異夢華)

文字の大きさ
6 / 31
第1章 村スキル

第6話 教訓

しおりを挟む
「試し切りに来たけど、僕にできるのだろうか」

 森に再度やってきて呟く。銅の剣を試してみようと思ってきたけど、動物を傷つけたことのない僕にやれるだろうか……。

「……いや、この後も薬草がずっとあるわけでもない。なくなったらおしまいだ。魔物ならゴブリンがいなくなっても別のがいる。戦えるようにならないと生きていけない。この世界はそんな世界なんだ、たぶん」

 何とか自分を奮い立たせて銅の剣を鞘から抜く。抜き身になった剣の輝きに気圧される。命を狩れる輝きに怖気づいてしまう。

「ギャギャギャ!」

「わ!? ごごご、ゴブリン!?」

 決意が定まっていないのにゴブリンが現れる。攻撃的ですぐに襲い掛かってくる。抜き身の剣で木のこん棒を受け止める。

「ぐぎぎ……。軽い、子供と大人くらいの違いがあるからか?」

 身長の低いゴブリンの攻撃は片手でいなせるほどの威力。ステータスも低くて体重も軽い。負ける要素はどこにもないな。

「スキルが反応しない。脅威としてもみなされていないってことだ。ジャネットとジャンの力を借りなくても僕だけで解決できる事ってことだ」

 ゴブリンを弾き飛ばして呟く。命を殺める恐怖で勝手に口が動く。何度も何度も自分に言い聞かせて、輝く剣の刀身を見据える。

「ギャ!」

 刀身の輝きに目を奪われているとゴブリンが大きく跳躍して襲い掛かってくる。
 ゴブリンの動きが遅く感じる。大きな跳躍が隙だらけに見える。僕はゴクリと生唾を飲み込み、銅の剣を横に滑らせる。
 振り下ろされる木のこん棒を避けて、銅の剣が隙だらけの彼の胴に食い込んでいく。彼の自重も手伝って剣が彼を切っていく。
 僕が横を通り過ぎると、後ろに命を狩られたばかりの彼が二つになり存在しているのが分かる。振り返ることもせずに僕はその場で嗚咽する。

「手に残る感触……。仕方ないんだ。やらないとやられてるんだから」

 言い訳を述べる口から逆流した胃液を吐き出す。命を狩ることに慣れないといけないんだ。いつまでも日本にいるような気持じゃやっていけないんだ。

「僕がやったんだよな……。まだ終わりじゃない。魔石を取らないと」

 命のなくなったゴブリンを見下ろして呟く。ジャネットがやってくれたことを僕もやらないといけない。僕の心臓の位置、左胸に魔石がある。
 ナイフを持っていない僕は銅の剣で解剖していく。嗚咽して涙を流しながらやっとの思いで魔石を摘出する。ジャネットはもっとうまく解剖していた。彼女にしっかりと教えてもらえばよかった。

「はぁはぁ……。ずずず、涙と一緒に鼻水も凄い」

 鼻と目から水がとめどなく流れてくる。手鼻をかんでその場に投げ捨てる。僕は今日、この世界の住人になった。命を狩るのが当たり前の世界、改めて僕は異世界に来たことを実感する。

「ん? 新人君じゃないか」

「え? えっとルーザーさんでしたっけ?」

 涙と鼻水を拭い終わると声がかけられる。冒険者ギルドでお金をせびってきたルーザーさんだ。僕は嫌な予感がしてそそくさと町へと振り返る。

「おいおいおい。死骸をそのままにして言っちゃいかんだろ。ちゃんと埋めないと動き出すぞ」

「え? そうなんですか?」

「そんなことも知らないのか。まったく、最近の若い奴らは」

 ルーザーさんの声に振り返ると彼は穴を掘ってくれていた。すぐにゴブリンが埋まるほどの穴が出来上がり、ゴブリンを埋めてくれる。

「よし! これでおしまいだ。ほれ、代金」

「え!? お金を取るんですか?」

「当たり前だろ? 教えてやったんだぞ。情報量だ。他にも狩ったならやっておいてやる。1匹につき100ラリな」

 ルーザーさんは親切でやってくれたわけじゃないみたい。僕は怪訝な表情で言われた通りにお金を差し出す。

「く、ははは。面白いなお前。本当に金を出すなんて」

「え? 冗談ですか?」

「いいや、本気だ。それと、指導をしてやるよ」

「え!?」

 ルーザーさんが差し出されたお金を笑いながら手に取る。そして、ナイフを僕の首に突き付ける。

「動くな。死にたくなかったら有り金全部出しな」

「な、なにをするんですか!」

「なにって指導だよ。人目のないところで冒険者にあったら警戒しないといけないのさ。お優しい性格のお前じゃすぐに命を狩られるってわけだ。覚えときな。100ラリでいいぜ」

 ルーザーさんの声に両手を上げて抗議の声を上げる。すると彼はナイフをしまって手を差し出してくる。
 怖い人だ……だけど、優しい人とも感じた。僕は驚きながらもお金を差し出す。いい勉強になったと本当に感じたからだ。そのお金の価値はある指導だった。

「お前ゴブリンの報酬をさっきもらってただろ? 初めてでもねえのに泣いてやることはねえぞ。おっと、さっきやった奴らも埋めてねえか?」

「あ……はい」

「場所を案内しな。埋めるぞ」

 ルーザーさんの声で思い出す。ジャネットさんの倒してくれた魔物を一緒に埋めに行く。

「6匹っと。600ラリな」

「あ、はい……」

 しっかりとお金を取るルーザーさん。ゴブリンの死骸の損傷を気にすることなく仕事をしてくれる。詮索もしないでくれる。いい人なのかお金が欲しいだけの人なのかわからない人だな。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!

風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。 185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク! ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。 そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、 チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、 さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて―― 「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」 オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、 †黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。 旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...