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第1章 村スキル
第6話 教訓
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「試し切りに来たけど、僕にできるのだろうか」
森に再度やってきて呟く。銅の剣を試してみようと思ってきたけど、動物を傷つけたことのない僕にやれるだろうか……。
「……いや、この後も薬草がずっとあるわけでもない。なくなったらおしまいだ。魔物ならゴブリンがいなくなっても別のがいる。戦えるようにならないと生きていけない。この世界はそんな世界なんだ、たぶん」
何とか自分を奮い立たせて銅の剣を鞘から抜く。抜き身になった剣の輝きに気圧される。命を狩れる輝きに怖気づいてしまう。
「ギャギャギャ!」
「わ!? ごごご、ゴブリン!?」
決意が定まっていないのにゴブリンが現れる。攻撃的ですぐに襲い掛かってくる。抜き身の剣で木のこん棒を受け止める。
「ぐぎぎ……。軽い、子供と大人くらいの違いがあるからか?」
身長の低いゴブリンの攻撃は片手でいなせるほどの威力。ステータスも低くて体重も軽い。負ける要素はどこにもないな。
「スキルが反応しない。脅威としてもみなされていないってことだ。ジャネットとジャンの力を借りなくても僕だけで解決できる事ってことだ」
ゴブリンを弾き飛ばして呟く。命を殺める恐怖で勝手に口が動く。何度も何度も自分に言い聞かせて、輝く剣の刀身を見据える。
「ギャ!」
刀身の輝きに目を奪われているとゴブリンが大きく跳躍して襲い掛かってくる。
ゴブリンの動きが遅く感じる。大きな跳躍が隙だらけに見える。僕はゴクリと生唾を飲み込み、銅の剣を横に滑らせる。
振り下ろされる木のこん棒を避けて、銅の剣が隙だらけの彼の胴に食い込んでいく。彼の自重も手伝って剣が彼を切っていく。
僕が横を通り過ぎると、後ろに命を狩られたばかりの彼が二つになり存在しているのが分かる。振り返ることもせずに僕はその場で嗚咽する。
「手に残る感触……。仕方ないんだ。やらないとやられてるんだから」
言い訳を述べる口から逆流した胃液を吐き出す。命を狩ることに慣れないといけないんだ。いつまでも日本にいるような気持じゃやっていけないんだ。
「僕がやったんだよな……。まだ終わりじゃない。魔石を取らないと」
命のなくなったゴブリンを見下ろして呟く。ジャネットがやってくれたことを僕もやらないといけない。僕の心臓の位置、左胸に魔石がある。
ナイフを持っていない僕は銅の剣で解剖していく。嗚咽して涙を流しながらやっとの思いで魔石を摘出する。ジャネットはもっとうまく解剖していた。彼女にしっかりと教えてもらえばよかった。
「はぁはぁ……。ずずず、涙と一緒に鼻水も凄い」
鼻と目から水がとめどなく流れてくる。手鼻をかんでその場に投げ捨てる。僕は今日、この世界の住人になった。命を狩るのが当たり前の世界、改めて僕は異世界に来たことを実感する。
「ん? 新人君じゃないか」
「え? えっとルーザーさんでしたっけ?」
涙と鼻水を拭い終わると声がかけられる。冒険者ギルドでお金をせびってきたルーザーさんだ。僕は嫌な予感がしてそそくさと町へと振り返る。
「おいおいおい。死骸をそのままにして言っちゃいかんだろ。ちゃんと埋めないと動き出すぞ」
「え? そうなんですか?」
「そんなことも知らないのか。まったく、最近の若い奴らは」
ルーザーさんの声に振り返ると彼は穴を掘ってくれていた。すぐにゴブリンが埋まるほどの穴が出来上がり、ゴブリンを埋めてくれる。
「よし! これでおしまいだ。ほれ、代金」
「え!? お金を取るんですか?」
「当たり前だろ? 教えてやったんだぞ。情報量だ。他にも狩ったならやっておいてやる。1匹につき100ラリな」
ルーザーさんは親切でやってくれたわけじゃないみたい。僕は怪訝な表情で言われた通りにお金を差し出す。
「く、ははは。面白いなお前。本当に金を出すなんて」
「え? 冗談ですか?」
「いいや、本気だ。それと、指導をしてやるよ」
「え!?」
ルーザーさんが差し出されたお金を笑いながら手に取る。そして、ナイフを僕の首に突き付ける。
「動くな。死にたくなかったら有り金全部出しな」
「な、なにをするんですか!」
「なにって指導だよ。人目のないところで冒険者にあったら警戒しないといけないのさ。お優しい性格のお前じゃすぐに命を狩られるってわけだ。覚えときな。100ラリでいいぜ」
ルーザーさんの声に両手を上げて抗議の声を上げる。すると彼はナイフをしまって手を差し出してくる。
怖い人だ……だけど、優しい人とも感じた。僕は驚きながらもお金を差し出す。いい勉強になったと本当に感じたからだ。そのお金の価値はある指導だった。
「お前ゴブリンの報酬をさっきもらってただろ? 初めてでもねえのに泣いてやることはねえぞ。おっと、さっきやった奴らも埋めてねえか?」
「あ……はい」
「場所を案内しな。埋めるぞ」
ルーザーさんの声で思い出す。ジャネットさんの倒してくれた魔物を一緒に埋めに行く。
「6匹っと。600ラリな」
「あ、はい……」
しっかりとお金を取るルーザーさん。ゴブリンの死骸の損傷を気にすることなく仕事をしてくれる。詮索もしないでくれる。いい人なのかお金が欲しいだけの人なのかわからない人だな。
森に再度やってきて呟く。銅の剣を試してみようと思ってきたけど、動物を傷つけたことのない僕にやれるだろうか……。
「……いや、この後も薬草がずっとあるわけでもない。なくなったらおしまいだ。魔物ならゴブリンがいなくなっても別のがいる。戦えるようにならないと生きていけない。この世界はそんな世界なんだ、たぶん」
何とか自分を奮い立たせて銅の剣を鞘から抜く。抜き身になった剣の輝きに気圧される。命を狩れる輝きに怖気づいてしまう。
「ギャギャギャ!」
「わ!? ごごご、ゴブリン!?」
決意が定まっていないのにゴブリンが現れる。攻撃的ですぐに襲い掛かってくる。抜き身の剣で木のこん棒を受け止める。
「ぐぎぎ……。軽い、子供と大人くらいの違いがあるからか?」
身長の低いゴブリンの攻撃は片手でいなせるほどの威力。ステータスも低くて体重も軽い。負ける要素はどこにもないな。
「スキルが反応しない。脅威としてもみなされていないってことだ。ジャネットとジャンの力を借りなくても僕だけで解決できる事ってことだ」
ゴブリンを弾き飛ばして呟く。命を殺める恐怖で勝手に口が動く。何度も何度も自分に言い聞かせて、輝く剣の刀身を見据える。
「ギャ!」
刀身の輝きに目を奪われているとゴブリンが大きく跳躍して襲い掛かってくる。
ゴブリンの動きが遅く感じる。大きな跳躍が隙だらけに見える。僕はゴクリと生唾を飲み込み、銅の剣を横に滑らせる。
振り下ろされる木のこん棒を避けて、銅の剣が隙だらけの彼の胴に食い込んでいく。彼の自重も手伝って剣が彼を切っていく。
僕が横を通り過ぎると、後ろに命を狩られたばかりの彼が二つになり存在しているのが分かる。振り返ることもせずに僕はその場で嗚咽する。
「手に残る感触……。仕方ないんだ。やらないとやられてるんだから」
言い訳を述べる口から逆流した胃液を吐き出す。命を狩ることに慣れないといけないんだ。いつまでも日本にいるような気持じゃやっていけないんだ。
「僕がやったんだよな……。まだ終わりじゃない。魔石を取らないと」
命のなくなったゴブリンを見下ろして呟く。ジャネットがやってくれたことを僕もやらないといけない。僕の心臓の位置、左胸に魔石がある。
ナイフを持っていない僕は銅の剣で解剖していく。嗚咽して涙を流しながらやっとの思いで魔石を摘出する。ジャネットはもっとうまく解剖していた。彼女にしっかりと教えてもらえばよかった。
「はぁはぁ……。ずずず、涙と一緒に鼻水も凄い」
鼻と目から水がとめどなく流れてくる。手鼻をかんでその場に投げ捨てる。僕は今日、この世界の住人になった。命を狩るのが当たり前の世界、改めて僕は異世界に来たことを実感する。
「ん? 新人君じゃないか」
「え? えっとルーザーさんでしたっけ?」
涙と鼻水を拭い終わると声がかけられる。冒険者ギルドでお金をせびってきたルーザーさんだ。僕は嫌な予感がしてそそくさと町へと振り返る。
「おいおいおい。死骸をそのままにして言っちゃいかんだろ。ちゃんと埋めないと動き出すぞ」
「え? そうなんですか?」
「そんなことも知らないのか。まったく、最近の若い奴らは」
ルーザーさんの声に振り返ると彼は穴を掘ってくれていた。すぐにゴブリンが埋まるほどの穴が出来上がり、ゴブリンを埋めてくれる。
「よし! これでおしまいだ。ほれ、代金」
「え!? お金を取るんですか?」
「当たり前だろ? 教えてやったんだぞ。情報量だ。他にも狩ったならやっておいてやる。1匹につき100ラリな」
ルーザーさんは親切でやってくれたわけじゃないみたい。僕は怪訝な表情で言われた通りにお金を差し出す。
「く、ははは。面白いなお前。本当に金を出すなんて」
「え? 冗談ですか?」
「いいや、本気だ。それと、指導をしてやるよ」
「え!?」
ルーザーさんが差し出されたお金を笑いながら手に取る。そして、ナイフを僕の首に突き付ける。
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怖い人だ……だけど、優しい人とも感じた。僕は驚きながらもお金を差し出す。いい勉強になったと本当に感じたからだ。そのお金の価値はある指導だった。
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