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第8話 

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「お帰りなさいませアクアス様……。そちらのお姉さんは?」

 赤の宿屋につくと、フリンちゃんがペコリと迎えてくれた。子供らしくないしっかりとしたお迎えでエルザさんは目を輝かせてる。

「アクアス様。この子を抱いてもいいですか!」

「フリンちゃんがいいなら」

 エルザさんにそう答えるとフリンちゃんに詰め寄るエルザさん、顔が怖い。

「ふ、フリンちゃん!」

「!? 怖い! お母様~」

「あ、ああ……」

 流石のフリンちゃんも凄い形相のエルザさんに恐怖を感じたみたいだ。お母さんの助けを求めに厨房に逃げていった。
 エルザさんも折角綺麗な顔してるんだから微笑めばいいのにな。

「あら? アクアスじゃない。フリンをいじめちゃダメよ」

「はは、すみません。スリンさん」

 仕方ないので僕が謝っておこう。フリンちゃんが可愛すぎるからいけないわけだけどね。まあそのまえにエルザさんにはしっかりと言っておかないと。

「やあ、アクアス君。ご飯にするかい?」

「お父様。まだ休んでていいです。私達でやります」

「フリンに任せておけば大丈夫だろうけどね。私も食事にしようと思ってね」

 フリンちゃんを抱き上げてオットーさんが起きてきた。いつもは起きない時間みたいでフリンちゃんが心配してる。
 いつもよりも早く起きると疲れちゃうんだろうな。
 そうだ!

「フリンちゃん。これをお父さんに」

「お水?」

 コップに魔法で作った水を注ぐ。フリンちゃんに渡すとすぐにオットーさんに手渡した。

「これは?」

「疲れが取れる水です。試してみてください」

 精霊だったころに人々に作り出したことがあったんだ。
 聖なる水ってやつで体の疲れを取ってくれる。作物なんかも元気になるからみんなに喜ばれたのはいい思い出です。
 オットーさんは水をごくごくと飲み干す。

「ぷはっ! うまい! それに体が光って」

「あなた……」

「お父様、大丈夫?」

「ああ、スリン、フリン。私は大丈夫だよ。大丈夫どころか体がすっきりとして軽くなったよ」

 輝きが治まるとオットーさんは二人と抱き合って喜んでる。顔色はもともと悪くなかったけど、あった時よりもよくなってるように見える。

「ありがとう、アクアス君。それで? ご飯は?」

「はい、いただきます。それと、今日が最後になると思いますがお金は返さないで大丈夫です」

「ん? 一日だけでいいのかい?」

「はい」

 首を傾げるオットーさん達に事情を話す。
 とりあえず、家が手に入ったとだけ説明したら更に首を傾げてる。流石に理解不能だよね。
 だって、昨日の夜に来た僕が家を買ったなんて信じられないでしょ、普通は。

「じゃあ、アクアス様は今日だけなのですか?」

「うん。そうなるね」

「そうですか。残念です」

 フリンちゃんが残念そうに言って来た。そんなに残念そうだと少し嬉しく思ってしまう。
 
「今度家に招待するよ」

「本当です?」

「はい。もちろん、オットーさんとスリンさんも」

「それは嬉しいね」

「ぜひ、呼んでください」

 フリンちゃんが残念そうにするもんだから家に誘うとオットーさん達が凄い喜んでくれた。
 家としか言っていないからあの屋敷を見たら驚くだろうな~。その時のことを考えるだけで面白いな~。

「では今日はそちらの彼女と一緒に泊まるのかな?」

「え?」

「か、彼女だなんて……」

 オットーさんがエルザさんを見て話す。
 こんな綺麗な人が僕の彼女だなんてあり得ないでしょ、それに僕にはルミナさんがいるからね。

「違いますよ。エルザさんは心配して僕についてきただけで、自分の家があるはずです」

「そうなのかい? それにしては近しいような気がしたんだが?」

「近しい!?」

 説明するとオットーさんがまたもやおかしなことを言って来た。
 その言葉にエルザさんはなぜか嬉しそうに顔を抑えてる。
 誤解されてるのにそれでいいのかな?

「お父様、そろそろ皆さんの夕食を準備しましょ」

「ああ、そうだねフリン。スリンもすぐに済ませて皆さんと一緒に食事にしよう」

「はい、あなた」

 とても幸せそうなオットーさん達。僕もルミナさんとこんな家庭を築きたいな~。

 オットーさん達と食事を楽しんで赤の宿屋での最後の夜と過ごした。
 エルザさんは帰りたくなさそうにしていたけど、フリンちゃんと一緒に説得したら何とか帰ってくれた。
 フリンちゃんを抱きしめることを許すということで片が付いたのだ。
 フリンちゃんには申し訳なかったが、聖なる水をあげたのでどっこいどっこいということで納得してもらった。
 なんだかもうしわけないので、今度お土産を持ってきてあげよう。
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