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第9話 

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 赤の宿屋での最後の夜を終えて、朝食をいただく。
 前の日のようにフリンちゃんに朝食が出来たことを告げられて食堂でいただいた。
 食べ終わるとエルザさんがやってきて、一緒に屋敷に帰ることになった。
 
 屋敷に帰ってきてミラさんに迎えられる。そこで僕はルミナさんを迎える準備が出来たので一度ルミナさんの所に帰ることを伝えると二人は困惑してた。

「アクアス様に婚約者が……」

『私はお傍にいられれば構いませんがさすがはアクアス様です』

 エルザさんは残念そう、ミラさんは少し頬を高揚させてる。
 流石といわれると照れてしまう。
 はぁ~早くルミナさんに会いたいな~。

「では家までお供いたします」

「え? 大丈夫ですよ。一日の距離ですし」

「そういうわけにはいきません。アクアス様は私の恩人。命に代えてもあなたを守ります」

 エルザさんは頑なについてくるみたい。刻印が血で作られたものだったから助けられたけど火で作られていたら助けられなかった。運がよかっただけなんだけどね。
 
『私も行きたいのですが……』

「その気持ちだけで嬉しいよ」

『残念ですがエルザに任せます……』

 ミラさんは残念そうにしてる。
 ゴーストであるミラさんは日の光に弱い。
 死にはしないけど、まともに動くことは出来ないんだ。
 建物とか、影の中にいれば普通にしていられるけど、外は厳しいんだよな~。
 彼女も僕に恩を感じてしまってるから守ってくれる。僕の強さを知っているミラさんだけど、何か出来ることがないかと頑張ってくれるんだよね。
 ミラさんも運よく屋敷に来たから助けられたんだけどな。

「ふふふ、こういう時は私の方が有利だな」

『ふんっ。無様な姿をさらすダークエルフが見えるわ』

「な、何を!」

 ぐぬぬとにらみ合う二人。なんでこんなに仲が悪くなっちゃったんだろうか?
 エルザさんがミラさんのことを魔物だと思ったせいかな? そのくらいの勘違いなら優しいミラさんならすぐに許してくれそうだけどな。

「ふふ、じゃあルミナさんを迎えに行ってくるねミラさん」

『行ってらっしゃいませアクアス様。お帰りをお待ちしております』

 深くお辞儀をして見送ってくれるミラさん。屋敷から出てレッドオットの門へと向かった。

「おお坊主。旅立つのか?」

「あ、あの時の。えっと?」

 レッドオットにやってきたときに迎えてくれた緑髪のおじさんが声をかけてくれた。名前を聞いてなかったから口ごもると、

「ああ、そういえば名前を言ってなかったな。俺はこのレッドオットの警備隊長をしてるザックだ」

「警備隊長さんだったんですね。通りで」

 強そうな槍を持っていたから気にはなっていたけど、やっぱり強い人みたいだね。

「ははは、ただの飲んだくれだよ。それよりもこの間の忠告は守るようにな。死体で帰ってきてもあいさつしてやらねえからな」

「はい。日が落ちてくる前に野営の準備をするでしたよね」

「ああ、そうだ。夜を舐めちゃいかん。むやみに危険に飛び込むのと同じで無謀なことだ。まあ、今回は一人ではないようだがな。それも冒険者ギルドのダークエルフの姉ちゃんとはな。こんなに心強い相棒はいないってもんだ」

 ザックさんはエルザさんを見て微笑む。
 エルザさんはその視線に気づいて照れ臭そうに頬を赤く染めてる。

「呪いが解けたんだってな。それもアクアス君に治してもらったんだろ。聞いてるぜ」

「はい! アクアス様にその恩を返すために従者となりました」

 ザックさんに嬉しそうに話すエルザさん。
 従者って言うのは聞いてなかったけど、やっぱりそういうつもり出来てくれてたんだね。嬉しいけど、エルザさん自身のことを考えてほしいな。
 呪いのせいで魔法が使えなかったんだから、それなりにやりたいことも出来たでしょうに、もったいないよ。

「そうか、でも、気をつけろよアクアス君」

「気をつけろとは?」

「希少な能力って言うのは誰でも欲しい、わかるな?」

「狙われるってことですか?」

「ああ、街の中なら守ってやれるが外ではそんなこともできない。だから忠告させてもらってるわけだ。まあ、噂ではかなり強いみたいだからそんな心配もいらないと思うが」

 照れ臭そうに頬を掻くザックさん。心配してくれるなんて本当に優しいな。

「ありがとうございます。野営のことと合わせて気をつけますね」

「おう」

 ニッコリと笑うザックさん。
 
「じゃあ、行ってきます」

「気をつけていって来いよ。姉ちゃんも気をつけてな」

「はい」

 ザックさんに見送られてレッドオットを旅立つ。
 短い間だったけど、優しい人がいっぱいの街だった。まあ、中には変な人もいたけどね。

 しばらく街道を歩いていると魔物と遭遇した。
 エルザさんが前に出て魔法で作った盾で身を守りながら弓を射ってる。剣も持っているけど、主体は弓矢みたいだね。
 盾も風魔法の【ウィンドシールド】ってやつだ。初級魔法だからそんなに難しい魔法じゃないはず。
 
「アクアス様。すべて倒しました!」

「うん。ありがとうエルザさん。でも、無理はしないでね」

「はい!」

 複数の敵と接敵した時に僕を見て助けを求めようか悩んだ時があったんだ。そんな時は素直に共闘を選んでほしい。恩を返すために無理をするのは馬鹿らしいよ。けがは出来るだけしてほしくないしね。

「あっ。エルザさん。怪我してますよ」

「あっ本当だ」

 無傷だと思っていたエルザさんだったけど、やっぱり少しだけ傷を負ってた。手の甲に切り傷が見える。

「このくらいの傷このままで」

「ダメですよエルザさん。化膿するかもしれないんですから。すぐに治します」

「えっ! 水で回復!?」

 エルザさんの手に聖なる水をかける。傷はすぐにふさがっていってエルザさんはびっくりしてるよ。
 オットーさんにあげた水はただの水って言ってあったからわからなかったんだろうな。

 聖なる水は少しだけ回復効果をもってるんだよな。もっと大きな怪我だったらもっと強いものを作り出したんだけど、そんなことにならないのが一番なので出番はないかな。

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