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第12話 

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 僕はお父様の屋敷からルミナさんに抱きかかえられてあの森にやってきた。
 赤ん坊だった僕がそれを覚えているのはおかしなことだけど、転生していたので記憶もばっちり残ってる。
 ここから三日程、馬で走ったところにある大きな街に屋敷はあるんだ。今から三日たってしまうとルミナさんが危ないかもしれない。急いでエルザさんと共に向かう。

「アクアス様……この馬は?」

「うん。アクアホースだよ」

 エルザさんが唖然として水で出来た馬を見つめる。水を操る僕はこういった動物型にすることも可能なんだ。もちろん、乗れるのでエルザさんに乗ってもらう。

「アクアス様は?」

「ああ、僕はこのままの方が早いから」

 足の裏を水で覆う。まるで氷の上を走るように滑る滑る。ステータスも相まって速度はみるみる上がっていく。
 エルザさんを乗せたアクアホースもついてくる。少し遅いからそれに合わせて速度を落としていく。

「アクアス様。馬には乗ったことがなくて、これでいいんでしょうか?」

「うん。背筋を伸ばしたほうがいいって言うけど、その子は早いからあんまり伸ばすと後ろにのけぞっちゃうから首に捕まるくらいが丁度いいかも」

 エルザさんは顔を青くしてアクアホースの首に抱き着いてる。ダークエルフのエルザさんは馬に乗ったことがないみたいだ。もっと別の生き物の方がよかったかな?
 まあ、急いでいたから致し方ない。

「ん! 前方に魔物の群れ」

「あ! 本当! ここは私が」

「エルザさん。急いでいるから僕が片付けるよ。【アクアランス】」

 複数の水の槍を作り出して魔物の群れに放つ。魔物はゴブリンの群れ。少し大きなホブゴブリンも多くみられる。
 なんか既視感が強いな。初めて森を出た時に出会った魔物の群れを思い出しちゃう。
 群れがいるってことはコボルトの時と同じようにキングやロードもいるはず。しっかりと仕留めておこう。
 魔物は仲間を増やしてこういった群れで狩りを行いだすからね。
 たまたま街道を通った人が襲われてしまうから始末しておかないとね。
 獲物も得られて人の役にも立てるってわけだな~。

「アクアス様はやはり規格外ですね……」

「そう?」

「はい。通常、アクアランスは爆発しませんし。キングに突き刺さって地面を穿いたりしません。キングやロードって言うのは皮膚が硬くてアクアランス、中級程度の魔法なら受け止められるはずなんですよ」

 思っていた通り、群れの中にはキングとロードが一体ずつ存在していた。キングは余裕な顔でアクアランスを受け止めようと盾を構えたんだけど、アクアランスが思ったよりも強くて貫いたんだよね。
 ロードも同じく、素手で受け止めようとして体にアクアランスが突き刺さって爆発してたよ。爆発するかしないかは僕の意思次第。仕留められたんだったら爆発させる意味ないからね。
 自然を壊すのも気が引けるからね。元精霊だし。

「これで全部ですね……。これだけの獲物を換金したら城でも建てられそうですね」

「そんなに?」

「はい。普通は街単位で倒すものですから」

 町に城壁があるのはそういうことなんだよな~。
 町に冒険者を集めて城壁戦を魔物と行う。
 遠隔攻撃を得意とする冒険者や兵士で数を減らして近接攻撃の強い人を突入させる。
 僕には無縁な闘いっぽいな。なんせ無限に魔法みたいな攻撃が出来るんだからね。
 今回のゴブリンの群れも秒殺だし。

「よし。急ごう」

「は、はい!」

 これ以上時間を無駄にするのは良くない。
 魔物も始末したし、リリースレイクへ走り出す。

 しばらく走っているとリリースレイクが見えてきた。
 大きな湖の中央にそびえる街。
 大きな橋が街を支えるように四方向から湖を渡っていく。
 僕らもその橋を渡ると物珍しそうに周りの人たちが見てきた。
 流石に水の馬は珍しいみたいだ。

「アクアス様。目立つのはあまりよくないかもしれません」

「そうだね」

 アクアホースをしまう。
 しまうのも目立ってしまって驚いた表情が多くみられる。
 特にダークエルフのエルザさんは可憐だからか多くの視線を集めてるね。
 
「流石はアクアス様」

「え? 何が?」

「多くの女性があなたを見ています」

 僕と同じことを思っていたエルザさんが褒めてきた。いやいや、僕はそんなに集めてないよ。ってよく見たら、女性は僕を、男性はエルザさんを見つめてる。
 僕は身長がないからカッコよくはないんだけどな。というか、ルミナさん以外にモテてもしょうがないので無視して早くしなくちゃ。

「とりあえず、お父様の屋敷を探そう」

「情報なら冒険者ギルドですね」

 いそいそと町に入って冒険者ギルドを探す。
 記憶があっても流石に屋敷の位置は分からない。大きな街だから大きな屋敷はいっぱいあるんだよね。
 区画で貴族と一般人が分けられているだろうからある程度はわかるんだけどね。

 リリースレイクは中央に貴族の住む区画が設けられてる。内壁に囲まれているので僕らみたいな冒険者は入れない。
 ルミナさんがいる屋敷がわかれば空から侵入することになるね。
 
 そんなことを考えながら冒険者ギルドへと足を運ぶ。
 ギルドに入るとレッドオットと同じ間取りで少し困惑する。既視感というかデジャヴみたいで変な感じだ。

「すみません。貴族さんの情報を知りたいんですが」

 情報を買うことも出来る冒険者ギルド。情報を生業としてる冒険者もいるからこういう時は助かる。
 
「畏まりました。貴族様の情報となるとお高くなりますがよろしいですか?」

 受付係の女性がそういって鍵のかかった本を取り出す。魔法の錠前というやつだ。あれを不当に壊すと呪いがかかって目がつぶれるって言われているんだっけ。ルミナさんの日記を見ようとしたらそんなことをいわれたんだよな~。懐かしいな。

「あの?」

「ああ、すみません」

 懐かしがっていると受付の女性に変な目で見られてしまった。気を取り直して、

「はい大丈夫です。足りなかったら獲物を卸します」

「獲物ですか? 持っていないように見えますが?」

「ああ、マジックバッグを持っていますのでその中に」

「マジックバッグですか……ああなるほど、ダークエルフのお姉さんが持っているんですね。それなら納得です」

 女性はそういって本の鍵を開け始めた。
 う~ん、やっぱり童顔の僕じゃ説得力ないみたいだな~。
 女性が本を開くと本が一枚一枚広がって女性の顔の前で浮いてる。

「貴族様のお名前は?」

「えっと、グレイスホーン様です」

「え!?」

 貴族の名前を言うと受付の女性が固まってしまった。

「決していかがわしいことに使うつもりはありません。グレイスホーン様の屋敷の場所と築年数を知りたくてね。レッドオットの大工に言われてきたんだ」

 受付の女性の様子を見ているとエルザさんが話した。
 僕は訳が分からなくて困惑。

「あ~、そうでしたか。私はてっきり暗殺目的だと思いましたよ」

 ああ~、そうか、そういう意図で情報を聞く人もいるのか。そんなこと微塵も思っていなかったから気づかなかった。
 エルザさんは流石だな~。かっこよさも相まって頼もしすぎるよ。

「その程度の情報でしたら情報量はお安くできますよ。こんな本に頼らなくても出来ますから」
 
 女性はそういって本を閉じた。あんなにかっこよく本を開いたのに出番がないなんてなんだか可哀そうな本さんだな~。
 今度ちゃんとした情報を聞いてみたいな。

「グレイスホーン様の屋敷は古くから建っています。先代、先々代からの屋敷ですし、治めてすぐに作りましたからね。あったあった」

 受付の奥の本棚を漁りながら話す。
 へ~ひいおじいちゃんから治めているのか。ってことは百年くらい経つのかな?

「はい、これが場所と築年数です」

 普通の本を開いて机に置く。指さされたところを見ると思った通り、百年と書かれていた。
 場所は町の中央の塔のある屋敷だった。
 ここら辺を治めているだけあって立派な屋敷だな。

「ありがとうございます」

「いえいえ、お役に立てて光栄です。可愛らしい冒険者さん」

 女性はそういって頭を撫でてきた。ん~、優しい人なんだろうけど、冒険者って言う時点で大人なんだぞ。子供扱いは困ります。

「おいおい。もう行くのか?」

「ダークエルフの姉ちゃんはまだいろよな~」

「そうだぜ!」

 むむむ、ここでも既視感が……冒険者が僕らを囲んできた。
 よそ者にちょっかいを出すのが冒険者なのかな?

「ほら、こっちにこいよ!」

「触ったな」

「うぎゃ!」

 エルザさんの肩に手を置いた男が投げつけられた。壁に叩きつけられた男はのびちゃったな。

「て、てめ~」

「皆さん。やめてください」

「黙ってられるか! 仲間がやられたんだぞ」

 受付の女性を手で制して男達が武器を手に取った。
 僕はハァ~とため息をついて水を生み出す。

「な! ごぼごぼ! ……」

「「「「ごぼっ。……」」」」

「まったく」

 ちょっかいを出してきた冒険者を全員溺れさせる。そのまま放置すると死んでしまうので胃の中の水を外に吐かせた。
 気持ち悪そうにすべてを吐いているよ。
 これで反省してくれればいいけどね。
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