才能なしのアート 町の落し物は僕のもの?

カムイイムカ(神威異夢華)

文字の大きさ
16 / 40
第一章 落とされたもの

第16話 性能

しおりを挟む
「も~、忘れてたでしょ?」

 僕の心を読んだかのようなことを言ってくるスティナさん。ニッコリと微笑んで首を横に振って答えた。

「スティナさんはどうしたんですか? まだ開店時間じゃないですよ?」

「あ~ごめんね。ルルスさんが入るって言うから入らせてもらっちゃったんだ~」

 そう言うことだったのか。ってことは開店してからは出来ないような話なのかな?

「それで来た理由なんだけどね。おとといの戦いを見て」

「へ? おととい?」

「あれ? ああ、そうか。一日寝てたんだっけ?」

 あ~、そうか。朝日が昇ってくるのが見えたから、今は更に次の日なのか。シエルさんが心配そうにしていたのはそう言うことだったのか。

「心配してたけど、大丈夫だった?」

「はい、この通り、元気です」

「ふふ、シエルさんに感謝しないとね」

「あっ、はい。感謝してもしきれないですよ。孤児院の子供もシエルのおかげでしたし」

 スティナさん達も心配してたみたいだ。ほんとにシエルさんがいてよかったよ。

「ぬふふ、やっぱり二人はそう言う……」

「え? どうしたんですか?」

「ううん、なんでもないよ。そんなことよりも本題」

 なぜかいやらしい顔になるスティナさん。疑問に思って首を傾げて聞くとはぐらかしてきた。話があってきたのは本当みたいだな。

「実はね、アート君達とパーティーを組めないかな~とおもって」

「ええ!? 僕が冒険者のスティナさん達と?」

 スティナさんの提案に驚愕の声をあげる。僕なんかがパーティーに入ったら迷惑にしかならないでしょ。

「ダメです! アート様をそんな危険な冒険者になんて」

 シエルさんが聞いていたみたいで少し離れた所から声をあげた。彼女は優しいからな~。

「やっぱりそうだよね。はぁ~、どうしよう……」

「何かあったんですか? 僕達を誘うなんて」

 お店を持っている人を誘うなんてやっぱりおかしいよね。僕なんかまだ子供だしね。

「ん~。実はね。ダンジョンって言われるお宝がもらえる場所が生まれて~。それが原因でゴブリンが群れになったんじゃないかって言われてて~」

「お宝がもらえる場所なのに魔物なんですか?」

 色々とおかしい話をスティナさんがすると思わず疑問が口を通る。

「ん~。やっぱり美味しい話には危険が付きものって話なんだろうね。そこに行こうってユラ達に言ったんだけど、反対されちゃって」

 なるほど、戦力が足りないって話なのか。でもなんで僕らなんだ?

「そう言うことですか。確かにスティナさんだけの前衛では危険ですね。ですがなんで私達なんですか?」

「あのトロールとの戦闘見た人はみんな誘いたいと思ってるよ! 凄かったな~。月明かりに照らされるシエルさんとアート君。油断のないアート君がシエルさんを最後守るように放ったファイアボルト。かっこよかったな~」

 シエルさんの疑問にキラキラした瞳で遠くを見つめるスティナさん。バッチリと記憶してるみたいだ。確かにあの時のシエルさんはカッコよかったな~。フェンリルと言われるだけはある。

「なるほど、ではアート様の凄さがみんなに知れ渡ったというわけですね」

「……僕よりもシエルの方が知れ渡ってると思うけどな」

 シエルさんが自慢げに話す。少し嬉しく思ったけど、シエルさんのほうがカッコよかったからな~。

「ん~。じゃあ、他の冒険者に任せればいいか……。私達は少しずつ稼ぐことにするよ。ごめんね」

 残念そうに出ていくスティナさん。なんだか申し訳ないな~。とはいえ、お店を留守にするのもダメだしな~。

「アート様。私は反対ですからね。何よりもあなたの命が一番大事ですから」

「あ、うん。ありがとシエル」

 あんなことがあった後だから、過保護になってるな~。でも、エマさん以外に心配されたことがないから嬉しい。

「じゃ、お店の準備をしよう」

「はい! 私もやる~」

 気を取り直して二人に声をあげる。イーマちゃんが声をあげてポーションを一本一本商品棚に飾っていく。

「アート様、このポーションはルルスさんにあげたものですよね。どこにしますか?」

「えっとAランクのポーションだから窓から見える商品棚に置いておいて」

 シエルさんがポーションを見せて聞いてきた。ルルスさんにあげたポーションは落とし物バッグの中にあったAランクのポーション。タダで手に入れたアイテム、ルルスさんみたいな人の力になりたいと思ってあげちゃったんだよな。

「ふふ、アート様は本当に優しいですね」

「え? そんなことないよ」

「Aランクのポーションは金貨1枚はすると思いますよ」

 金貨1枚……トロールやゴブリンをあれだけ倒して得られるお金か~。それがこんなポーションで、それもただで得られたものだ。……なんと言うか、それを落としてる人ってどんな人なんだろうな~。そういえば、”落とし物″の定義ってなんなんだろう。少し実験してみようかな。

「ちょっとイーマちゃん。一緒に来てくれる?」

「どうしたのアート様~」

 イーマちゃんと共にお店の外に、キッチンにある裏口から出てきた。

「グランドさんが置いていったAランクポーション」

 落とし物バッグから取り出していないポーション。これを地面に置く。

「……数は増えてない。離れてもダメか」

 落とし物バッグの中を見ても数に変化なし。僕が置いたものじゃダメか、アイテムの所有者が近くにいるとだめ?
 後は落とし物バッグを持っている僕じゃダメかだ。
 そこでイーマちゃん。

「イーマちゃん。このポーションを地面に置いてみてくれるかな?」

「置くの? これでいい?」

「うん。ありがと」

「えへへ」

 頭を撫でてあげると嬉しそうにするイーマちゃん。落とし物バッグの中を見ると数が増えている。ということは町の地面にものが接触すると落とし物として数えられるってことか。
 落とし物バッグの所有者以外が地面にものを置くと落とし物として数えられる。改めて、凄いアイテムだな。

「じゃあ、そろそろお店の開店時間だ。戻ろう」

「? うん! 今日もお客さんいっぱいだといいね!」

「そうだね」

 イーマちゃんと共にお店に戻る。謎が解けてスッキリした。今日も一日頑張るぞ~。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

縫剣のセネカ

藤花スイ
ファンタジー
「ぬいけんのせねか」と読みます。 -- コルドバ村のセネカは英雄に憧れるお転婆娘だ。 幼馴染のルキウスと共に穏やかな日々を過ごしていた。 ある日、セネカとルキウスの両親は村を守るために戦いに向かった。 訳も分からず見送ったその後、二人は孤児となった。 その経験から、大切なものを守るためには強さが必要だとセネカは思い知った。 二人は力をつけて英雄になるのだと誓った。 しかし、セネカが十歳の時に授かったのは【縫う】という非戦闘系のスキルだった。 一方、ルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会へと旅立ってゆく。 二人の道は分かれてしまった。 残されたセネカは、ルキウスとの約束を胸に問い続ける。 どうやって戦っていくのか。希望はどこにあるのか⋯⋯。 セネカは剣士で、膨大な魔力を持っている。 でも【縫う】と剣をどう合わせたら良いのか分からなかった。 答えは簡単に出ないけれど、セネカは諦めなかった。 創意を続ければいつしか全ての力が繋がる時が来ると信じていた。 セネカは誰よりも早く冒険者の道を駆け上がる。 天才剣士のルキウスに置いていかれないようにとひた向きに力を磨いていく。 遠い地でルキウスもまた自分の道を歩み始めた。 セネカとの大切な約束を守るために。 そして二人は巻き込まれていく。 あの日、月が瞬いた理由を知ることもなく⋯⋯。 これは、一人の少女が針と糸を使って世界と繋がる物語 (旧題:スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜)

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

のほほん素材日和 ~草原と森のんびり生活~

みなと劉
ファンタジー
あらすじ 異世界の片隅にある小さな村「エルム村」。この村には魔物もほとんど現れず、平和な時間が流れている。主人公のフィオは、都会から引っ越してきた若い女性で、村ののどかな雰囲気に魅了され、素材採取を日々の楽しみとして暮らしている。 草原で野草を摘んだり、森で珍しいキノコを見つけたり、時には村人たちと素材を交換したりと、のんびりとした日常を過ごすフィオ。彼女の目標は、「世界一癒されるハーブティー」を作ること。そのため、村の知恵袋であるおばあさんや、遊び相手の動物たちに教わりながら、試行錯誤を重ねていく。 しかし、ただの素材採取だけではない。森の奥で珍しい植物を見つけたと思ったら、それが村の伝承に関わる貴重な薬草だったり、植物に隠れた精霊が現れたりと、小さな冒険がフィオを待ち受けている。そして、そんな日々を通じて、フィオは少しずつ村の人々と心を通わせていく――。 --- 主な登場人物 フィオ 主人公。都会から移住してきた若い女性。明るく前向きで、自然が大好き。素材を集めては料理やお茶を作るのが得意。 ミナ 村の知恵袋のおばあさん。薬草の知識に詳しく、フィオに様々な素材の使い方を教える。口は少し厳しいが、本当は優しい。 リュウ 村に住む心優しい青年。木工職人で、フィオの素材探しを手伝うこともある。 ポポ フィオについてくる小動物の仲間。小さなリスのような姿で、実は森の精霊。好物は甘い果実。 ※異世界ではあるが インターネット、汽車などは存在する世界

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

処理中です...